「年下の彼」〜番外編〜 『ずっと傍にいて』
リョーマ君が渡米して数ヶ月がたち、世の中はクリスマス一色になっていた。
私は小雪が舞う夜の街を一人で歩いている。
さっきまで桃城君や海堂君たちと一緒だった。
陽気な彼らとイブの夜を過ごせた事は幸いだった。
やっぱり大好きな人のいないイブは寂しいから。
誰でもいいから、そばにいて欲しかった。
お誕生日おめでとう。
アメリカは朝方ね、寝坊のリョーマ君も起きたかな?
あなたは誰と誕生日を過ごすのかしらね。
私の誕生日プレゼント、ちゃんと届けばいいんだけど。
空に輝く星を見上げて願いをかける。
また一年、リョーマ君にいい事がいっぱいありますようにと。
冷たくなった指を擦りながらリョーマ君のことばかり考えて歩く。
会えなくても忘れてない、声、笑顔、髪の手触り。
熱くて大きな手、広い胸も全て。
こんなにも私を束縛してるリョーマ君。
リョーマ君の中に、私の居場所って確保されてるのかな。
見慣れた通りに入り、我が家の明かりが見えてきたところでメールの着信音がなった。
携帯を取り出して歩きながらメールを開くと、さっき別れたばかりの桃城君からだった。
『送らなくていいっていうから帰したけど気になってよ。ちゃんとたどり着いたか?
なんかさ。お前・・・無理してはしゃいでたみたいだったけど大丈夫か?
あんま考え込むなよ。
越前は、ホラ。なんていうか気遣いってのが足りない奴なんだよな、昔からよ。
お前のこと忘れてるわけじゃないと思う。
もし忘れてんなら俺がアメリカ行ってブン殴ってきてやるからよ。
ツライ時は俺を頼ってもいいし。俺は、まっ受け入れ態勢は整ってるからな。ウン。』
話し言葉そのままの温かいメールに笑みが零れた時、
突然背後から手が伸びてきて携帯が目の前から消えた。
恐怖心と共に思わず振り返った先には、信じられない人が立っていた。
「なに、このメール。思いっきり口説いてんじゃん。」
「リョーマ・・・君?」
信じられなくて、それ以上言葉も出ない私の前で携帯のディスプレイを見つめている彼。
私になど目もくれず、黙々と携帯を操作し始める。
「勝手に人の恋人を口説かないで下さい。
それじゃ。メリークリスマス・・・と、送信。」
パタンと携帯を閉じると私の前に差し出し、やっとリョーマ君と視線が合った。
「ね、桃先輩たちと遊んできたの?
なんかそれ、気にいらないんだけど。待つの寒かったし。」
「だって・・いつ・・帰ってきたの?」
「夕方。真っ直ぐのとこ来たのにさ、留守。」
「何の連絡もなかったし・・・」
「そんなの。帰るって知らせたら、サプライズにならないじゃない?」
「え・・?」
「をビックリさせたかったから。」
唖然とする私の前に一歩、二歩と近づいてきたリョーマ君が覗き込むようにして私と視線を合わせた。
「Merry Christmas・・・I love you to bits.」
私が手を伸ばすのと、リョーマ君が私の腕を掴むのは同時だった。
お互いがお互いの体を強く強く抱きしめあう。
リョーマ君の香り、リョーマ君の温もり。
リョーマ君、リョーマ君、リョーマ君
私の中はリョーマ君で一杯になる。
耳元にキス、額にキス、目元にキス、頬にキス。
そして、見つめ合って・・ゆっくりと唇にキス。
角度を変えて何度も繰り返されるキスに泣いてしまいそうになった時、
突然耳元でメールの着信音が響いた。
リョーマ君の手に握られていた私の携帯がなっている。
名残惜しげに唇を離したリョーマ君が音を立てて額にキスすると体を離して携帯を開いた。
その仕草をぼんやりとのぼせた頭で見てるしかない私。
「桃先輩・・・シツコイね。今、キスしてるとこ。邪魔しないでくれる?送信、と。」
え?一瞬で目が覚めた。
「待って、なに?今の桃城君に送ったの?嘘、」
「なに慌ててるの?だって本当のことじゃない。じゃ、続き・・」
「待って、続きって・・ダメよ。ここ、家の近くだし・・あの、それより桃城君のメール」
「相変わらず『待って』『ダメ』なんだね。それ、禁止って言ったでしょ?」
「でも、」
「でも、も禁止。」
「越前君!」
「リョーマ」
「あ、リョーマ君、あのね」
「どっかでタクシー拾おうよ。俺、ホテルとってあるから。」
ホテルですって?
このイブにホテルをとってるなんて、いつから帰国する計画が出来てたの?信じられない!
「待ってよ!ダメよ、そんな・・遅くなるなんて家にも言ってないし」
「遅くじゃないよ。泊まるに決まってるでしょ?俺、離さないよ。」
「そんなこと」
「今日さ、俺の誕生日。に拒否権はない。」
「リョーマ君・・・」
「ずっと傍にいて欲しい。ウンと言うまで、携帯・・・返さないから。」
リョーマ君は悪戯っぽい笑顔を浮かべると、顔の横で携帯を振ってみせる。
どうしよう・・・何て親に言い訳すればいいの?
そう考えている私は、もう既に答えを出している。
そんな気持ちを見透かしかのようにリョーマ君が携帯を開いて差し出してきた。
「早く家に電話しなよ。俺、もう待てないから。」
本当に身勝手で我儘な王子様。
だけど、全てを囚われてしまった私には拒む術がないの。
お願いよ。
ずっとずっと傍にいて。
Happy Birthday & Merry Christmas!
「年下の彼」番外編『ずっと傍にいて』
2006.12.24
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