朝、目覚めると。すぐに、隣を探してしまう。
わずかに残る、ぬくもりに。ほっと、息を吐いて・・・体を伸ばした。
今日も、新しい一日が始まる。
「つきせぬ想い」番外編 ささやかな幸せ
を取り戻してから。俺は、目覚めては彼女を探していた。
隣で眠る彼女を確認しないと落ち着かなかった。
いや。目覚めたときだけじゃない。
共にいる時、視界から彼女が消えただけで鼓動が速くなって、どうしようもなく焦る自分がいた。
一度など、街中で彼女を見失って。ほとんどパニックになりかかってた。
を見つけたとき。俺は、人前も忘れて・・・力いっぱい抱きしめたっけ。
は困った顔で。『ごめんね?』と、俺の背中を撫でてくれた。
仕事をしていても。朝に昼に夜にと電話する俺に、跡部は呆れていた。
けれど、の存在を常に確認してないと不安で、声を聞かずにいられなかった。
頭もとの時計を確認して、ゆっくりと身を起こす。
ドアの向こう。僅かにテレビの音が聞こえていた。
は、朝食の準備をしているのだろう。
彼女が傍にいる。それが、当たり前の日常。
パジャマのままリビングに顔を出せば。
「おはよう」 「おはっ!ぱーぱ。」
の笑顔と。舌ったらずの声が出迎えてくれる。
「おっ。上手に言えたなぁ。ほら、おいで。」
ソファに座って手を差し出せば、幼い我が子が膝によじ登ってくる。
はしゃぐ子供の。その柔らかい体をふんわりと抱きしめて、頬にキスをする。
くすぐったそうな仕草が、また可愛らしくて。
もっと、キスしてやろうとするのに。
「あっ!」と声をあげると。ささっと腕の中からすり抜けて。
体操のお兄さんと共に、テレビの前で踊り始める。
「おいおい。パパより体操のお兄さんかいっ」
「ふふ。好きなのよ。体操のお兄さん。」
「なんやて?許せんっ」
カフェオレを俺に差し出しながら、が母親らしい優しい顔で微笑む。
本当に。穏やかに笑うようになった。
そう、学生服を着ていた・・・あの頃みたいに。
の本当の笑顔を奪ったのは俺。そして、その笑顔を取り戻したのも俺。
時間はかかった。は、いっぱい傷ついて・・・泣いた。
共に暮らし始めても。お互いが傷を抱えていて。
大切な人を・・・いつ失ってしまうんだろう?と、怯えてばかりだった。
でも。だからこそ。
今は、ささやかなことにも幸せを感じられる。
例えば。目の前でおしりを振ってる子供が笑えるとか。
今朝のカフェオレも美味しいとか。
が、隣で笑っているとか。
「なあ?」
「ん?」
「なんや、幸せやなぁ。」
「ええ?」
一瞬、が不思議そうに俺を見た。けれど、すぐに目が柔らかく細められていく。
「うん。幸せだね。」
朝の陽射しが差し込んでて。の笑顔が、めちゃ綺麗だった。
ああ・・・幸せや。
に手を伸ばすと。綺麗な微笑のまま、俺の腕におさまった。
「好きや。。」
「ん。知ってる。」
クスクスと笑いあって。
が、そっと俺のメガネを外すから。それを合図に、キスをする。
元気な体操のお兄さんの掛け声と陽気な音楽が流れる中。
俺たちはささやかな幸せを抱きしめて。
何度も、何度も。キスをした。
「つきせぬ想い 番外編 〜ささやかな幸せ〜」
2004.12.21
つきせぬ想い。これにて完結です。ああ・・・シアワセ。
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