道草の時間

職場に勤務していた頃は、万歩計で測ると、特に運動をしなくても、往復の歩数も含めて1日1万歩以上を歩いていたのであるが、退職後は歩くことがめっきり少なくなった。そこで、運動不足を補うために、ウォーキングを始めたのであるが、やがて道端の植物が気になるようになり、立ち止まって眺めている時間のほうが、ちゃんと歩いている時間より長くなってしまった。私の住んでいる守谷市は、東京への通勤圏にあるが、自然環境がほどよく保たれて、野原を歩けば、四季折々にいろいろな植物に出会うことができる。道草の時間は四季を学ぶ時間である。



ツルウメモドキ

ツルウメモドキ
Celastrus orbiculatus Thunb.

晩秋の夕日の中に、ツルウメモドキを見つけた。葉の黄色、果皮の黄色、種子を包む仮種皮の朱色がくっきりと美しい。ツルウメモドキ属は東アジア、南アジア、北アメリカ、オーストラリアに分布するそうだが、ツルウメモドキは東アジアのもので、とりわけ日本の風景にはよく似合う。




ノブドウ



ノブドウ
Ampelopsis brevipedunculata (Maxim.) Trautv.

秋は実のりの季節で、私の散歩道にも草や木にいろいろな実を見つけることができる。林のへりには、ノブドウのつるがなにげなくぶらさがっているが、ふと見ると、その実は、深い空の色を思わせる美しさである。ただし実にはしばしばブドウタマバエや、ブドウトガリバチの幼虫が入っているので、食べない方がよさそうである。





セイタカアワダチソウ

セイタカアワダチソウ
Solidago altissima L.

北米原産のセイタカアワダチソウは、戦後、急激に増え始め、昭和30−40年代には、先住の雑草を制圧して、空地を占領してしまった。原色の泡立つような花色に覆われた平地は、戦前生まれの人達には、それまで日本では見たことのない異様な風景だった。21世紀の今では、忌地現象によって、あの頃のすさまじさはなくなり、他の雑草とも共存するようになり、日本の秋を彩る植物の一つのようにさえ思えるようになった。



ナキリスゲ

ナキリスゲ
Carex lenta D.Don ex Spreng.

道草しながら散歩を続けていると、普通は人目につかない植物でもよく見えてくるようになる。スゲもそんな植物である。スゲ類の多くは、春から初夏にかけての比較的限定された期間に花が咲くが、ナキリスゲは秋に長い穂を出し、花を咲かせる。林のへりなど、日かげの場所に、かなり大きな株をつくっている。穂は枝分かれして、1ないし3つの小穂を着ける。小穂の先に雄花、下部に雌花が着く。ススキみたいに派手ではないが、ほっそりした姿が秋を感じさせる。






シロダモ

シロダモ
Neolitsea sericea Koidzumi

11月はシロダモの花と実を同時に見ることができる。雌雄異株で、雌株に咲いた花から、1年かかって実が成熟する。木の高さは10メートル位あり、雌株は、低い枝から高い枝まで赤い実をたくさん付けているので、よく目立ち、なかなか立派である。辞書や図鑑などのシロダモの項には、果実から木蝋を生産すると付記されている。しかし、高級な和蝋燭の原料である木蝋は通常ハゼの実から作られる。シロダモの実は現在でも利用されているのか、知りたいところである。


ツルマメ

ツルマメ
Glycine Soja Sieb. et Zucc.

旺盛なつる草で、特に、湿地や休耕田にはびこっている。ぐるぐる巻きつかれて、さすがのセイタカアワダチソウもお手上げの様子である。秋には、枝豆のミニチュアみたいな実がたくさんついている。小さすぎて、茹でても、ビールのつまみにはならない。見かけから想像されるように、ツルマメはダイズ(Glycine Max Merrill)の祖先種と考えられている。ツルマメをダイズにまで育成したのは、古代中国の人々であろうか。ともあれ、ツルマメがなかったならば、ダイズもなく、味噌も醤油も納豆も豆腐もなかったであろう。


アメリカアサガオ

アメリカアサガオ
Ipomoea hederacea Jacq.

アメリカアサガオはアサガオやヒルガオより花期が長く、7月から10月半ばまで咲いている。スケッチの花は10月初旬に見つけたもの。 米田芳秋博士によれば、アサガオに最も近縁の植物で、熱帯アメリカ起源であり,今では世界各地に広がっていて、日本には明治時代に導入されたが,第2次大戦後の食料難の時にアメリカからの穀物援助と共に入ってきて帰化が一層進んだとのことである (http://taxa.soken.ac.jp/Asagao/j/menu.html)。現在では各地に定着している。この辺ではあまり多くは見かけないが、私の住んでいる住宅地の裏の道端では毎年花をみることができる。




モチノキ

モチノキ
Ilex integra Thunb.

11月の末、近所の公園でモチノキを見つけた。モチノキは雌雄異株だが、これは実をつけているので、もちろん雌株である。しかし、通常モチノキは大きな木で、雌の木は枝にたくさんの実をつける。手入れの行き届いた庭園で、赤い実を沢山つけているモチノキは、美しいものである。しかし、この木は、大きくないし、わずかしか実をつけていない。もともと花が少なかったのか、雄株が近くになくて、花の時期に虫が花粉をあまり運んでこなかったのか、それとも、このあたりのヒヨドリがついばんでしまったのか、理由はわからない。わずかに残っている実は、それでも赤くて、まるくて、心地よい大きさであった。