小さな庭に ー 晩秋(2006)



ツユクサ青

ツユクサ(Commelina communis L.)

ツユクサはおなじみの雑草。わが家では南側の庭のツユクサは普通の青い花、北側の垣根の下のツユクサは毎年白い花を咲かせる。雑草だからあまり増えては困るのでよく抜くが、翌年は同じところに同じ位生えてくる。貝殻みたいな苞葉の中に2〜3個のつぼみができる。がく片3枚、花弁3枚のうち、青いのは大きな花弁2枚だけ、雄しべは6つだが、触角のように伸びた2本の雄しべのみが花粉を生じる。雌しべは1本、柱頭が長く突き出している。もともと中国や日本など東アジアに野生していた種であるが、北米で野生化しているようである。ヨーロッパでは園芸種として栽培されているが、たまに野生化しているそうである。種名のcommunisは「普通の」の意味。東アジアの野生種にリンネがなぜ「普通の」と名付けたのか不思議に思っていたが、北村四郎先生の著書に、「学名のCommelina communis Linnaeusはアメリカに野生したものにつけた名である」とあった。リンネは、ツユクサはアメリカ原産と思っていたらしい。

S.leucantha

サルビア レウカンサ (Salvia leucantha Cav.)

近頃よく見かける園芸植物。わが家の庭には数年前にやってきた。ご近所からいただいた切花を花瓶に挿したのち、茎を捨てないで挿木にしたものが根付いたので、庭に移植したところ、2〜3年で大きな株になり、沢山の花を咲かせるようになった。花は夏から咲き始め、11月末まで咲く。花の期間はまことに長い。冬になると地上の茎は枯れてしまい、春には地下に残っている茎から新芽が出てくる。ところが残念なことに、今年の冬(2006)が寒すぎたのか、枯死したらしく、春になっても芽を吹かなかった。だから今はわが家の庭にはいない。園芸店では、アメジストセージとかメキシカンセージとかいう名で売っている。



P.capitata

ヒメツルソバ (Persicaris capitata (Buch.-Ham. ex D.Don) H.Gross)

園芸種であるが、道端などにもよく見かける。ヒマラヤ原産というが、わが国のように夏暑いところでも、元気に育つ。家の庭には一カ所に植えておいたのであるが、近頃は、勝手気ままに好きな場所に棲んでいる。春から秋まで花をつけるが、晩秋は特に花盛りである。小さな花が集まって頭状花序をつくっている。写真は実体顕微鏡で拡大した花。こうしてみると大変美しい。訪れる小さな昆虫には、豪華な花に見えるだろう。



吉祥草

キチジョウソウ (Reineckia carnea (Andr) Kunth) 

昨年の12月、1本の赤い実をつけた小さな植物を見つけた。隣の庭から地下茎によって柵の下をくぐって、わが家の庭で花を咲かせ、実をつけたのである。しかし、今年の春、これが生えていたあたりを掘りかえしたせいか、いつのまにか消えてしまった。広辞苑に、吉祥とは、めでたいきざし、よい前兆とある。また吉祥天は、福徳を与える美しい女神である。吉祥天というと、浄瑠璃寺の吉祥天像を思い出す。九体の阿弥陀像と阿弥陀堂と庭園とが美しく調和した寺であるが、吉祥天像は、そこに華やかさを添えているように感じられて懐かしい。吉祥草はその名の通り、縁起のいい植物なので、もう少し大事にすればよかったと思っている。地下茎がよく発達する植物だから、もう一度隣の庭から入ってくるのを期待している。


コンギク (Aster ageratoides Turcz. subsp. ovatus (Fr. et Sav.) var. hortensis Kitamura)


紺菊

庭の花が少なくなった頃、晩秋から初冬にかけて咲くのがコンギクである。ノコンギクの栽培品種で、舌状花が濃紫色で大きいが、葉や茎はノコンギクとほとんど変わらず、野生味を残している。北村先生の著書によれば、ノコンギクやヨメナは奈良時代から観賞用に栽培されていたらしい。長い時代を経て、今のきれいなコンギクができたのであろうが、花のやさしさとは裏腹に、地下茎を旺盛に張り、陣取りに余念がなく、たくましい生命力を示す。花は見かけによらぬものである。






ハナキリン (Euphorbia milii Des Moulin var. splendens Ursch et Leandri)

ハナキリン

茎がとげだらけの植物である。「朝日百科 世界の植物」には、日本で栽培されているハナキリンは、マダガスカルの首都タナナリブ郊外の岩上に野生している植物とある。花はかわいらしい。といっても、赤い花のように見えるのは、花でなく苞葉である。一対の苞葉の付け根に小さな花があり、がくは緑色、花弁は黄色である。中に雄しべと雌しべがある。わが家のハナキリンはご近所からいただいたもので、鉢植えにして、冬は室内に入れるが、とげには注意する。四季咲きと言われる花はたくさんあるが、大抵はどの季節かで休んでいる。休まないのは、このハナキリン。冬も花で部屋を飾っている。



ヘブンリーブルー

ソライロアサガオ (Ipomoea tricolor Cav. )

よく普及している品種ヘブンリー・ブルーである。原産はアメリカ大陸。多年草だそうだか、熱帯産のものなので、耐寒性はないようである。今年、種を買ってきて、アサガオと同じ日に播いてみた。花のかたちはアサガオ(Ipomoea nil. (L.) Roth)に似ているが、感じはかなり違う。アサガオは8月も半ばになると、花はほとんど終わってしまったが、ヘブンリー・ブルーの方はそれからが大変である。僅か1平方メートル位の場所に3本植えておいたのであるが、10月に入ると、毎日50〜90の花を咲かせる。アサガオは午前中に花がしぼんでしまうが、ヘブンリー・ブルーは夕方まで花が開いていることが多い。あまりのにぎやかさに少し飽きて来たが、今、11月半ばになって、花の数は1つ、2つとなり、終わりはいかにもさびしい。




シュウカイドウ

シュウカイドウ (Begonia evansiana Andr.)

秋海棠、その名の通り小春という月にふさわしい花である。日本的な小景に似合うが、原産は中国で、江戸時代寛永年間にわが国に渡来したそうである。4年前に植えた塊茎から出てきた植物にできたむかごを庭のあちこちに播いておいたところ、適所に発芽した植物がよく育ち、今秋もあちこちにたくさんのピンクの花を咲かせていた。半日陰の湿度の高い場所によく育つのだそうで、わが家の庭の縁はそのような、シュウカイドウが好む環境のようである。大きなハート型の葉も個性的な花序や花によく調和して、目を楽しませてくれる。古来、画家達がこの植物を好む所以であろう。花のあとは、3枚の翼をもつ朔果が房になって垂れ下がり、その様子もまた独特の風情がある。


ジャノヒゲ

ジャノヒゲ(Ophiopogon japonicus (L.f.) Ker-Gawler)

12月も半ばになると、わが庭には花も実も見当たらない。この時期は、枯れた芝と露出した土の上に借景の一部となっている街路樹から舞い込んだ落ち葉が散在するさびしい庭になっている。ふと思い当ったのがジャノヒゲの実。垣根の陰で大きな株になったジャノヒゲの実は葉に隠されて見えないが、葉をかきわけて根元を探ったら、青い実がまばゆそうに現われた。このジャノヒゲは、日陰で大きな株になっているし、葉は30−40cmと長いので、本当はナガバジャノヒゲ (var. umbrosus Maxim.)ではないかと思う。青い実と書いたが、これは果実でなく、種子が露出しているのである。青い種皮を剥くと、中から半透明の白っぽい球体が出てくる。この球体は、大部分が胚乳で、弾力性があり、地面に落とすとよく弾む。子どもの頃、弾ませて遊んだことを思い出す。青臭さも懐かしい。ジャノヒゲが正式の和名であるが、リュウノヒゲという名の方が好きである。



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