小さな庭に ー 春から初夏へ (2007)


スイートピー

スイートピー (Lathyrus adoratus L.)

朝日百科「世界の植物」には、春咲きスイートピーは1948年、アメリカでカスパートンによって夏咲き種と冬咲き種との交配によってつくられたもので、現在は営利的にも趣味的にもほとんどこの系統が使われているとあり、わが家のスイートピーもこのカスパートン系であろう。5月頃開花すると記述されているが、早くも4月上旬から咲き始めた。スイートピーのあの色とりどりな、ひらひらした花が好きである。一年草なので、毎年秋に種を買って播く。品種は特に決めていない。だから、花の色彩は年ごとにまちまちである。どんな花が咲くか、それも毎年の楽しみの一つである。



プリムラ

プリムラ・ポリアンサ (Primura polyantha Mill.)

数年前に近所の方からいただいたポリアンサである。ポリアンサは鉢物として、寒いうちから園芸店の店頭に置かれていて、早春の花のようであるが、庭では桜の咲く頃に合わせて花を開く。私もだんだんポリアンサは四月という季節感をもつようになった。咲き始めの黄色いポリアンサは、うららかな春を楽しんでいるように見える。



ムシクサ タチイヌノフグリ


タチイヌノフグリムシクサ(Veronica arvensis L. and Veronica peregrina L.)

両種とも春の庭の雑草で、草取りの対象である。オオイヌノフグリと同様、Veronicaの仲間であるが、花は小さくて目立たない。タチイヌノフグリはヨーロッパ、アジア、あるいはアフリカからの、ムシクサは北アメリカからの帰化植物で、よく繁殖し、庭にも侵入してくる。しかし、雑草としては、やっかいなものではないので、残っていてもかまわない。



アネモネ

アネモネ (Anemone coronaria L.)

秋に植えるときは、チューリップやヒアシンスの堂々とした球根とは対照的に、なんとも貧相な球根であるが、春は美しく変身するところがおもしろい。アネモネの花は、単純に美しい。陽気でにぎやかであるが気取ったところがない。そんなところが好きである。ちょっと意外に思えるが、わが国のひっそりと咲くイチリンソウやニリンソウと同属である。いろとりどりに美しくみえるのは花弁ではなく、がく片である。



キンギョソウ

キンギョソウ (Antirrhinum majus L.)

キンギョソウといえば、1980年代の終りから1990年代の初頭にかけて、花の形成に関与する遺伝子研究のための実験植物として、植物分子生物学の分野で脚光を浴びた植物である。それらの遺伝子研究は、ほとんど同時に進行したシロイヌナズナの相同遺伝子の研究との協力で、花形成に関するABCモデルという成果を生んだ。それはそうと、キンギョソウという名については、スケッチしてみてよく実感できた。金魚のリュウキンの尾びれである。スケッチは簡単そうで、なかなか難しい花である。



シレネ



シレネ・カロラータ (Silene colorata Poiret)

品種はピンクピルエット(タキイ種苗)である。一年草なので毎年たねを播いて育てている。主役ではないが、ピンクの花が群れて咲くので、何株かを庭の一隅に植えておくとにぎやかである。以前、ピンクピルエットとワスレナグサとセラスチウムを一カ所に植えたところ、ピンクと青と白が混じり合って、チャーミングな一角ができた。シレネ・カロラータは、北部を除くヨーロッパに自生しているようである。


オニタビラコ



オニタビラコ(Youngia japonica DC)

庭にどんどん侵入してくる。厚かましいというか、人なつこいというか。しかも春先から晩秋まで咲いている。いくら抜いても、いつもどこかで咲いている花である。ロゼットから茎が長く伸びて、頭状花はその先端の方に群がり、風にゆれている。花が終わると、冠毛のついた種子はふわふわと散らばってゆく。早く抜いたほうが近所迷惑にならないと思うのだけれども。



カタバミ

カタバミ (Oxalis corniculata L.)

葉や茎の緑のものと、スケッチのように赤紫のものがあるが、両方ともO. corniculataである。和名では区別して、後者をアカカタバミとよぶこともある。葉や花の姿、形、色は雑草の中でも端正で、捨てたものではないのだが、芝生に入り込んで勢力を拡大すると、駆除しにくい厄介者になる。なるべく芝生の外に住んでもらいたいものである。



モッコウバラ

モッコウバラ (Rosa banksiae R.Br. )

今、あちこちの家の玄関先や庭に黄色のモッコウバラが咲いているのが見られる。大きな株になって、アーチなどに巻付いているのは見応えがある。庭にスペースのないわが家では、大きくなるのを恐れて、植木鉢に植えて、枝もあまり伸ばさないようにしている。それでも毎年この季節には、小さいなりに花をあふれる位咲かせてくれる。いささか頭でっかちになって、強風で鉢ごと吹き倒されることもあり、気の毒ではある。



シロヤマブキ

シロヤマブキ (Rhodotypos scandens (Thunberg) Makino )

黄色い花のヤマブキとは別種で、ヤマブキの葉が互生であるのに対し、シロヤマブキは対生である。また花のがく片と花弁は、ヤマブキが5、シロヤマブキが4である。わが庭にはヤマブキもあるが、こちらの方はもう花が終わっている。シロヤマブキの花は今(4月下旬)が盛りである。賑やかで華やかな植物が多いバラ科の植物だが、これは静かに咲く地味な花である。


ハルジオン


ハルジオン (Erigeron philadelphicus L. )

ハルジオンが庭に咲いている。わが家の庭の手入れがいかなるものか推察がつくであろう。北米原産で、日本には大正期に入ったようだが、もはや気にならないほど沢山、道端に花をさかせている。姿はいかにも雑草らしく、がさつな感じであるが、花をよくみると意外にきれいである。特に細い舌状花はみごとな円形を画いて頭状花をとりまいている。なかなか繊細なところがある。この花が終わる頃は、ヒメジョオンがあとを継ぎ、暑い夏がやってくる。


タツナミソウ

タツナミソウ (Scutellaria indica L.)

庭のタツナミソウは野生種か、園芸品種か分からない。近所の林の中でも、タツナミソウを見かけることがよくある。これも野生種なのか、エスケープした園芸品種なのか分からない。庭には紫の花と白い花のものが咲いていて、それらの姿は目に優しい。わが家の庭が気に入ったのか、年々増えて、居場所を広げつつある。もとはヒメツルソバの居場所であったところも、いつの間にかタツナミソウが占拠している。小さな庭の中で、植物達は熾烈な競争をしていることが分かる。



ワスレナグサ

ワスレナグサ(Myosotis scorpioides L.)

四月のわが家の庭の常連である。こぼれ種でよく増えるが、雑草と一緒に抜いてしまうことが多いので、採種して秋に播いている。Vergiss-mein-nichtというドイツ語名が、英語のforgive-me-notや日本語の勿忘草という名のもとになったようであるが、花物語のように、ドナウの川辺には今でもワスレナグサが自生しているのであろうか。接写してみると、花冠の形も、またその空色もこの上なく美しい。



ドイツスズラン


ドイツスズラン(Convallaria majalis L.)

スズランといえば、北海道の原野に自生する可憐な花を想像する。ドイツスズランは形態は似たようなものであるが、まったく印象が違う。こちらは、lily of the valley、すなわち谷間の百合である。日本では園芸種で随分昔からおなじみである。わが庭には、3年ほど前にやってきた。その後移植したので、まだあまり増えていないが、季節を感じさせる花の一つである。



コデマリ


コデマリ(Spiraea cantoniensis Lour.)

遠目にはさほどではないが、近づいてみると実に美しい花である。枝先の散房花序を構成する花は見事な半球に配列されている。図鑑には中国中部の原産で日本では江戸初期から栽培されているとある。その整った清楚な感じは日本人好みなのだろう。茎が叢生する性質が強いが、わが庭のは茎が数本。しかし、毎年それなりに花を咲かせてくれる。この花を見て、五月に入ったことを感じる。



キャットミント


キャットミント(Nepeta spp.)

キャットミントで学名を調べると二、三あって一致しない。あるいは種間の交雑種かもしれない。いずれにせよ園芸品種、かなり強い匂いがするハーブである。料理に添えたりポプリにするそうだが、私にはあまりいい匂いとは思えない。猫が好きな匂いだともいう。庭のキャットミントにも、ごくたまに近所の猫がくることがある。葉にほっぺたをつけているのをみたこともある。猫が好きな匂いであることは一応信じている。



シラン



シラン(Bletilla striata Reichb. f.)

もとは野生種であるが、野生のものは少なく、むしろ庭でよく育つ植物である。あまりどこにでもあるので、もてはやされることはないが、やはりランの種類だけあって、花は複雑な形をしており、近づいて見るとたいへんきれいである。わが家では、軒下の砂利で覆った通路がシランの場所であるが、こんな堅い土でも毎年元気よく生長し、花をつける。こんなに手間のかからない植物は多くない。



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