小さな庭に ー 秋 (2007)



ナツズイセン

ナツズイセン (Lycoris squamigera Maxim.)

ナツズイセンというが、わが家の庭では、9月はじめに咲くから秋の花である。花が咲く時期には花茎のみが地上に出て、葉は見られない。同じLycoris属のヒガンバナに似ており、スイセンという感じではない。花色は淡紅色とされているが、淡青紫色も入って、微妙な色合いである。ナツズイセンの花というと、どれもみな、このような色合いのように思うが、色違いの品種はあるのだろうか。



ゲンノショウコ


ゲンノショウコ (Geranium thunbergii Sieb.et Zucc.)

このあたりに野生するゲンノショウコの花はみな白色であるが、わが家のものはどういうわけか紅紫色である。東日本には白色が多く、西日本には紅紫色が普通だそうだ。この紅紫色のゲンノショウコは毎年庭のどこかに生える。あまり多く生えている年は雑草として抜いているが、抜きすぎて、わが家の絶滅危惧種にならないように気をつけている。



ダンドボロギク

ダンドボロギク(Erechtites hieracifolia (L.) Raf.)

北米原産の比較的大きなキク科の雑草で、荒れ地に生える。この近くではあまり見かけなかった植物だが、昨年近所に生えているのを見かけ、今年は数本がわが家の庭に生えた。しばらく観察するつもりでそのままにしておいたところ、ちょうど花が咲き始めたところに台風9号(9月7日)がきてみんな倒れてしまった。ダンドボロギクは一ヶ所に居座らない植物で、数年でその場所から消えてしまうそうだ。変な習性をもつ植物である。



サンショウ

サンショウ(Zanthoxylem piperitum (L.) DC.)

サンショウは雌雄異株で、庭のものは雌株。春には、若々しい葉を煮物に添えたり、すまし汁に浮かしたりして、爽やかな香りを楽しむ。木の芽和えや佃煮をおかずに、二杯目のごはんが進むことも。今は実がみのり、果皮が裂けて、中からつやのある真黒な種子が現われる。地味だが、美しい。とげがあるけれども気にならない、なつかしい植物である。



シロバナマンジュシャゲ

シロバナマンジュシャゲ(Lycoris ×albiflora Koidzmi)

シロバナヒガンバナとしている図鑑もあるが、シロバナマンジュシャゲの方が標準和名のようである。シロバナマンジュシャゲは、ヒガンバナとショウキズイセン (L. aurea Herb.)との自然交雑種だそうで、ヒガンバナの突然変異体ではないようだ。ヒガンバナは中国にもあるが、シロバナマンジュシャゲの方は日本の固有種らしい。それにしても、日本のヒガンバナは通常3倍種(中国のものは2倍種)で、通常は種子ができないのに、なぜショウキズイセンとの交雑で種子ができたのだろうか。母親はヒガンバナだったのか、ショウキズイセンだったのか、いろいろな疑問がわく。ヒガンバナの花は赤、ショウキズイセンは黄で、シロバナマンジュシャゲは白ないしクリーム色である。花色の遺伝子はどのように制御されているのだろうか。疑問は続く。ヒガンバナもシロバナマンジュシャゲも秋の彼岸会近く、まるで申し合わせたように咲く。数々の疑問を離れて、今は花を楽しもう。



コムラサキ

コムラサキ(Callicarpa dichotoma K. Koch)

今、ムラサキシキブの美しいむらさきの実を林のかげによく見かける。しかし、庭で同じような美しい実をつけているのは、コムラサキである。野生では、ムラサキシキブよりずっと少ないコムラサキのほうが園芸種にとり入れられた。もしかすると、ムラサキシキブは、妹のコムラサキのほうがあちこちの庭園で可愛がれているのを知って、いささか妬んでいるかも知れない。そんなに目立つわけではないが、上品な姿で秋を表現する。



ハナタデ

ハナタデ

ハナタデ(Polygonum yokusaianum Mak.)

数年前、林のかげにハナタデを見つけ、種子を少しばかり採って庭の木陰にばらまいておいたところ、発芽して、翌年は数本が花を咲かせ、その後こぼれだねで順調に増えた。どうやらこの場所が気に入ったらしい。ハナタデの葉は、タデ類によく現われる紫褐色の斑紋がかなりはっきり出る。この斑紋は何のためにあるのだろうか。いつも疑問に思う。ハナタデのように、ほっそりした姿で小さい花をつける植物は、私の腕では、写真を撮っても、スケッチしてもさまにならない。実際はとても風情のある秋の花である。



タマスダレ


タマスダレ(Zephyranthes candido Herb.)

タマスダレはペルー原産で、日本では園芸種として、庭や公園の花壇にしばしば見かける。大抵は花いっぱいという感じである。ところが情けないことに、わが家では、毎年毎年、玄関先に1輪か2輪咲くだけで、さっぱり増える気配がない。今年も1輪だけ咲いた。こういう花は群生しているところを撮るのがいちばんだけれど、1輪ではどうにもならないので、クローズアップしたみた。



トラデスカンティア シラモンタナ


トラデスカンティア シラモンタナ
(Tradescantia sillamontana Matuda)

メキシコを原産地とする園芸植物で、ツユクサの仲間。春は葉が白い毛に覆われ、きれいだったが、秋の長雨で、葉上の毛は固まって、葉の表面にへばりついてしまい、みすぼらしくなった。こういう植物は、涼しくて、雨のあたらないところで育てればよいのだが、少しおっくうがると、こういう結果になる。しかし、ピンクの花が咲き始めると、植物に生気が出てきて、鑑賞にたえるようになってきた。



ホトトギス

ホトトギス
(Tricyrtis spp.)

林のへりなど、半日陰の場所に咲く10月の花だが、近頃はめったに見られないのは寂しい。わが家の庭のは園芸品種かも知れないが、野生のホトトギス (Tricyrtis hirta (Thunb.) Hook.)とさして変わりないように見える。ホトトギスは2〜3年前、かなり大きな株に成長したところで、ひどいモザイク病の症状が出てきた (ホトトギスのモザイク病については、キュウリモザイクウイルスによるものの記録がある)。しかたなく、抜いてしまったが、根茎が残っていたのであろうか、今年は復活して花を咲かせた。ウイルスは潜在している可能性はあるが、モザイクが出ている様子はなかった。現在は、かなり情けない状態だが、花は前と変わらず美しい。



イロハモミジ

イロハモミジ
(Acer palmatum Thunb.)

わが家の庭に生えているということだけがとりえの、なんの変哲もないモミジだが、12月の初旬になって、きれいに紅葉した。このモミジがどのようにしてわが庭にあるのか、記憶がない。勤務の関係で10年ほど家をあけて、岡山に住んでいたが、帰ってみて、あまり恰好のよくないモミジが1本あることに気がついたのである。モミジを植えた覚えはないので、多分、実生の苗が成長したのだろうと思っている。恰好はよくなくても、この季節、花のなくなった庭を明るくしてくれる存在である。



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