ネギま脇役列伝 瀬流彦の受難

 

僕の名前は瀬流彦。麻帆良学園で魔法教師をしている一人だ。

魔法教師とは魔法使いの教師のことだよ。ひねりがなくてごめんなさい。

実はこの世にはみんなが住んでいる世界のほかに、魔法使いの国があるのですよ。詳しくは語らないけど、NGO団体『悠久の風』という組織があって、魔法使いがいっぱいいる組織なんだ。もちろん、一般人にも知られている組織なんだよ。

さて僕は学園長に呼ばれて、学園長室に来ています。学園長室は学園の至る場所にあり、僕がいるのは女子中等部の学園長室なのである。なんとなくヨーロッパに似ている装飾品が多いのは、やはり魔法使いの本場がヨーロッパだからなのかは、不明です。

呼ばれた理由は修学旅行のことである。僕は京都・奈良班を任せられているのだ。他にも学園広域生活指導員の新田先生と、源しずな先生も同行する。

問題なのは今年の4月から正式教員となったネギ・スプリングフィールド先生だ。彼の父親は魔法使いでは知らぬといわれる凄腕の魔法使い『サウザンドマスター』こと、ナギ・スプリングフィールドの息子なのである。もっともサウザンドマスターはネギ先生が生まれる前に死去したらしい。らしいというのは実際は遺体を確かめたわけでなく、魔法使いたちの捜索にもかかわらず、痕跡を残していないことから、1993年、公式に死亡とされている。

さて学園長のほかに高畑先生も一緒だった。高畑先生は学園広域指導員だが、実際は本国でも1、2を争う実力者なのだ。もっとも高畑先生はなぜか生まれつきで呪文詠唱ができない。そのため立派な魔法使いではないのだ。ただし、高畑先生はサウザンドマスターたちとパーティを組んだことがあり、その実力は学園長を抜かせば最強の実力の持ち主なのである。

「うむ、瀬流彦先生。待っておったぞ」

学園長の話はこうだ。修学旅行での京都入りに、関西呪術協会が難色を示したのである。理由は簡単、今年はネギ先生という魔法先生がいるからだ。学園長はネギ先生に特使として、親書を渡すよう依頼した。

ちなみに学園長は関東魔法協会の理事を務めている。関西呪術協会と関東魔法協会は昔から仲が悪い。関東の人間が西洋魔術に染まったことも原因のひとつだが、20年前に大戦があり、サウザンドマスターは数々の活躍から、その名を呼ばれるようになった。それと同時に多くの魔法使いたちも戦死した。関西が関東を憎み、怨むのもそのひとつだ。

ネギ先生はサウザンドマスターの息子だ。当時の戦で親を、子供を亡くした魔法使いは大勢いる。サウザンドマスターがもっと手際よくやれば、もっと人を救えたのではないかと、見当違いの逆恨みを抱く人間がいてもおかしくない。

「それに今回の修学旅行では、木乃香を狙う輩がおるかもしれん・・・。そちらのほうはネギくんにまかせ、瀬流彦くんは他のクラスの子を守って欲しいのじゃ」

木乃香とは学園長の孫娘、近衛木乃香のことだ。実は関西呪術協会の長は、彼女の父親近衛詠春氏で、かつて高畑先生同様サウザンドマスターとパーティを組んでいたのだ。ちなみに詠春氏は京都神鳴流剣士で、正式な魔法使いではない。しかし、彼女の魔力は桁外れで、サウザンドマスターをも凌ぐ魔力の持ち主なのだ。まああくまで魔力は桁外れだが魔法を使えなきゃ、宝の持ち腐れである。

「ネギ先生だけに任せてよいのですか?」

「うむ。3学期ではネギくんは最終課題を見事合格し、2−Aを見事学年一位に導いた。他の生徒たちの助力のおかげでもあるがの。じゃが、ネギくんにはこれから立派な魔法使いとして必要なものを学ぶ必要がある」

「学ぶもの・・・、ですか?」

「それはパートナーじゃよ」

パートナーとは、魔法使いの従者のことである。魔法使いは呪文詠唱中、完全に無防備になり、攻撃を受ければ呪文は完成できない。そこを盾となり、剣となって守護するのが従者なのだ。今では恋人探しの口実になっているが、3−Aの闇の福音と呼ばれる魔法使い、エヴァンジェリン・AK・マクダウェルには、絡繰茶々丸というパートナーがいる。驚くべきことに彼女はロボットだ。同じクラスの葉加瀬聡美と超鈴音のふたりによって生み出されたのである。

「ナギは魔法剣士でのう、従者を頼らぬ力を持っておった。ネギくんもナギ譲りの強大な魔力を持っておるが、所詮ネギくんはナギにはなれん。ナギはナギ、ネギくんはネギくんでしかないのじゃ」

「だけどネギくんはナギさんを目指している。話でしか聞いたことのない父親を追い求めてね・・・」

「つまり、ネギ先生に挫折を味合わせろと・・・」

「まあ、そんなところじゃな。ナギとて順風満帆な人生を送ったわけではないからのう・・・」

「だからといって油断は禁物だからね。頼みますよ瀬流彦先生」

正直、高畑先生についてきてほしいが、初めから強い人に守られてはネギ先生もそれに依存してしまう。

「今回は刹那くんにも話をつけておるがのう・・・」

学園長がくぐもった。刹那とは、3−Aの生徒である桜咲刹那のことである。彼女は近衛木乃香の幼馴染で、中学1年生のときに転校してきたのだが、彼女にそっけない態度を取っているのだ。桜咲刹那は実は人間と烏族のハーフで、西の長に拾われたのである。

彼女は普段隠れているが、背中には白い翼が生えてある。ただ烏族の間では白い翼はタブーとされ、遠ざけられたそうだ。教育者としていじめは許しがたいが、こういう閉鎖的な集落での差別はかなり根が深い。第3者が偉そうに口を挟める問題でもなし、ましてや傷を負った本人の気持ちなどわかるわけでなし。

刹那くんは西の長の命令で、このかくんの護衛についたといってるそうだが、実際は西の長の個人的なお願いなのだ。学園長も刹那くんとこのかくんが仲良くしてくれればと、嘆いていたことがある。

刹那くんは僕の正体を知らない。まあ知ったところでどうなるわけでなし、ただ見守るだけだ。

 

修学旅行当日、僕らは京都行きの新幹線に乗った。ネギ先生は初めての京都旅行に舞い上がってる。3−Aの生徒たちと一緒にはしゃいでおり、このときだけは10歳の子供だなと思う。

ネギ先生はしずな先生と一緒に生徒の前で挨拶した。途中後から車内販売のカーゴにぶつかり、こけてしまう。それを見た生徒たちがけらけら笑っていた。

そのうちしずな先生が戻ってきた。

「どうですか?ネギ先生は?」

聞いたのは新田先生だ。生徒からは鬼の新田と怖れられているが、根は優しい先生である。

「うふふ、生徒たちと一緒に舞い上がってますわ。本当は遊びたい盛りなんですけどね」

「そうでしょうなぁ。あっはっは」

新田先生は笑っている。まさか立派な魔法使いになるためにはるばる先生をやりにきたなど、想像の範囲外だろう。ネギ先生が先生でいられるのは、麻帆良学園だけだ。

「そういえばエヴァンジェリンと絡繰は来ませんでしたな。あの二人は仲がよいのか、悪いのか判断に悩みますな」

新田先生が缶ジュースを飲みながら言った。

「不思議にエヴァンジェリンはもう何十年も同じクラスで勉強している気がするんですよ。高畑くんとは妙に仲がよいしね。あっはっは」

新田先生、気のせいではなく、本当にエヴァンジェリンは15年近くあの教室で勉強してるんです。修学旅行に来られないのは、かつてサウザンドマスターがかけた登校地獄の呪いのせいなんです。まあ、他の魔法先生たちは「トラブルの種がいなくて、せいせいしますね」といわれた。闇の福音は評判が悪い。まあ15年前まで600万ドルの賞金首だったのだ。そう悪評判が払拭できるわけがない。

「さて、お茶でも飲みますか・・・」

そういって、しずな先生はステンレスポットの蓋を開いた。

げこぉ。

カエルである。

ポットの中からもろもろとカエルが湧き出たのである。いや、ポットだけではない、お菓子の箱だの、バスケットだの、カエルが大量発生しはじめたのだ。

3−Aの古菲くん、綾瀬夕映くんが必死にカエルを回収している。しずな先生はとっくに気絶してしまい、保健委員の和泉亜子くんも気絶していた。

このカエルに魔力を感じる。たぶん、魔法で作られたカエルだろう。幸い3−A以外に被害はない。敵はネギ先生の担任クラスだけ狙っていたのか?ネギ先生は学園長から託された親書をツバメみたいなのに持っていかれ、追いかけていった。

ごめんね、ネギ先生。僕は他の生徒たちの警護が最優先なんだ。

 

修学旅行2日目。朝食が始まった。昨日はネギ先生は大変だったようだ。地主神社ではクラス委員長の雪広あやかくんと佐々木まき絵くんが落とし穴にはまったし、音羽の滝ではなぜか数名の生徒たちが眠りこけていたのだ。酒の匂いがしたから、たぶん彼女らは酒を飲まされたのかもしれない。ネギ先生は必死に甘酒を飲みすぎたとごまかしていた。

ほとんど3−Aだけ狙われていたから、敵の狙いはネギ先生のクラスだけと見てまず間違いないだろう。もちろん油断はできない。他の生徒たちの護衛も大切だ。

「先生、瀬流彦先生。ちょっとイイネ?」

後から声をかけられた。超鈴音くんである。隣には葉加瀬くんも立っており、手にはノートパソコンを手にしていた。

「昨日、敵が襲撃してきたネ。敵はこのかをさらおうとしたネ」

「な・・・」

「安心するヨロシ。ネギ先生と明日菜と桜咲さんが救ったヨ」

「私の開発した偵察機で調べました。敵は符術使いと二刀流の神鳴流剣士の二人だけ来ました。残りはたぶん2、3人くらいでしょうね」

「そうなんだ・・・、って、きみたち!魔法関係に首を突っ込んだりしちゃ、だめじゃないか!!」

二人は魔法先生では問題児扱いされているのだ。超くんは天才で勉強・スポーツ・お料理なんでもござれの完璧超人なのだが、だからといって人格とは関係ない。それにこの子は入学する2年前の情報がさっぱりわからないのだ。僕ら魔法先生の力をもってしても。だから同僚のガンドルフィーニ先生は彼女を危険視しているのだ。

「だけど、10歳のネギ坊主にすべてをまかせるのも、どうかと思うヨ。サウザンドマスターの息子だから、なんでもできると思っているのかネ」

「そうですねぇ、幼少時の過大な期待は、多大なストレスを背負う可能性が高いですからねぇ。無茶をする可能性は高いですよ〜」

超くんと葉加瀬くんは皮肉っぽく口調で言った。

「昨日失敗したから、今日の晩は来ないと思うネ。でも、ネギ坊主と生徒のほうががんばってるのは、ちと問題あると思うネ」

「あ、あのねぇ!超くん、きみは2度も警告されているんだよ?今度警告されたら、記憶を消されちゃうかもしれないんだよ!!というかネギ先生を坊主と呼んじゃあだめだって」

僕らの仕事は生徒たちを守ることで、罰則者を作りたいわけではない。彼女が何もしなければそれでいいのだ。

「ご心配なく。何かするとしたら、来年の学園祭までやらないネ」

「そうなんだ・・・、いや!来年でもだめだって!!」

だが彼女らはすでにこの場を立ち去っていた。僕はどうも生徒になめられやすいので困る。

 

2日目の晩は騒がしかった。昨日は大半が寝込んでいたので静かだったが、昨日の不満を爆発させるかのように騒ぎまくっていた。明石くんたちをはじめとする運動部は枕投げで盛り上がり、まほらチアリーディングの子達は怪談だの猥談などで盛り上がっていた。

もちろん新田先生の雷が落ちたのはいうまでもない。

夕方では朝倉くんがネギ先生を露天風呂に連れ込んで、裸で迫ったとかで、いろいろあった。

さてその朝倉くんが何かイベントを企画したらしく、新田先生がネギ先生にとび蹴りを喰らったとか、ネギ先生を初めとした11人の生徒たちが正座する羽目になったとかでいろいろあった。一応敵は来なかったので、安心していた。

3−Aの生徒たちが宮崎のどかの周りに集まっていた。昨日の晩のイベントの豪華商品とやらをうらやましそうに見つめていた。それは一枚のカードであった。そのカードには宮崎くんの絵が書いてあった。僕はそのカードに見覚えがあった。あれは・・・。

「あれって、仮契約カードですよねぇ」

「あ、春日くん」

3−Aの生徒、春日美空が話しかけてきた。実は彼女は魔法生徒の一人なのだ。もっともまだ修行中なので、この件には関わっていない。ちなみに彼女も仮契約している。誰かは内緒だ。誰も春日くんが魔法生徒とは知らない。

「仮契約なんて面倒なだけなのに、よく本屋のやつ、あんなものもらう気になったよねぇ」

「あんなものって・・・」

どうも彼女は親の意向で魔法使いになったせいか、いまいち使命感が薄い。趣味は鳴滝姉妹といたずらだし、神父の説教も右から左に通り抜ける始末。彼女の師匠であるシスター・シャークティも悩んでいるそうだ。

「そうそう、春日くん。君の仕事は、なにかあったらすぐ僕に知らせること。勝手に自分で判断しないこと、いいね?」

「はぁい。もちろんでーす!」

返事だけはいいが、彼女はまったく仕事をする気はなさそうだ。

「だからといって、遊びほうけないようにね。シスター・シャークティにも言われているからね」

「ふぁあい・・・」

釘を刺されると、春日くんはやる気なさそうに答えた。彼女は1班の双子を誘っていた。たぶんネギ先生は今日あたり本山へ行くはずだ。その間に生徒たちに危害が及ばぬよう、警護をつけないと。

 

夜の旅館、ほとんどの生徒たちが帰ってきた。みんな自由行動で思い思いの場所を楽しんできたのだろう。実際修学旅行が学業の一環なのだが、硬いことをいうつもりはない。その中でネギ先生と5班の様子がどこかおかしい。目がうつろなのだ。ネギ先生と明日菜くんが仲良く手を取り、あははと笑っている。チアの3人はひそひそ話をしていた。

ぷるるるる。

僕の携帯が鳴り出した。誰だろう?

『初めまして瀬流彦先生。私は近衛木乃香の父です』

このかくんの父親ということは、関西呪術協会の長のことだ。そして、かつてサウザンドマスターとパーティを組んだことのある人だ。僕は緊張してしまった。

『ははは、そう構えないでください。私はこのかの父親なのですから』

西の長は笑いながら言った。そのおかげか少し緊張がほぐれた。

『ネギ先生と3−Aの生徒たちは本山にいます。今は身代わりの式神を送りましたので、安心してください』

なるほど、あれは式神だったのか。式神ゆえに簡単な動作しかできないのだ。

『しかし、明日菜ちゃんがあんなに明るい女の子に成長するとは・・・』

「え?西の長、近衛さんのお父さんは神楽坂さんを知っているのですか?」

『え、ええ。昔、ちょっとね・・・』

西の長は歯切れが悪そうだ。何か隠しているみたいだが、西の長が隠そうとしているくらいだ、とても、重要なことなのだろう。僕はそれ以上触れないことにした。

僕は携帯を切ると、ポケットの中にしまう。

西の長から聞いたが、ネギ先生は本山に向かう途中、敵と戦闘したそうだ。戦ったのは狗族の少年で、なんとか勝てたそうだ。その際明日菜くんと後をついてきた宮崎くんも巻き込まれたそうだ。

あと刹那くんも本山に来たそうだ。彼女の話によればシネマ村で敵と遭遇したそうだ。1日目に旅館を襲撃してきた符術使いと神鳴流剣士が大暴れしたそうだ。その時刹那くんは肩を矢で撃たれたそうだが、このかくんが力を開放し傷を治したという。なんでも発現のきっかけはネギ先生がこのかくんとの仮契約とのことらしい。

だがネギ先生も他の生徒たちも無事でよかった。僕のほうも他のクラスの生徒たちは無事だった。敵の目的は親書とこのかくんだけだったのだ。あとは明日、ネギ先生たちが帰ってくるのを待つだけである。

 

僕は風呂に入り、コーヒー牛乳を飲んだ。まだまだ油断はできないが、一風呂あびて気合を入れなくちゃね。

ぷるるるる。

僕が着替えようとすると、背広に入れた携帯電話が鳴っていた。

はて、誰だろう。着信は学園長であった。

「はい、もしも・・・」

『瀬流彦くん!生徒たちは無事かね!!』

学園長が声を荒げていた。かなり慌てている。どうしたのだろう?

『今、ネギくんから緊急連絡が入ってのう!今、本山は何者かに襲撃され、西の長は石にされ、このかもさらわれたのじゃ!!』

それは非常事態ではないか!!しかし、本山があっさり襲撃され、西の長が石にされるとは・・・。石に?

「待ってください、石にされたということは、石化魔法をかけられたのですか?」

石化魔法は高等魔法のひとつで、簡単には扱えない魔法だ。本山のほとんどの人間があっという間に石像に変えられてしまったのだという。

『わしはこれからエヴァをそちらへ送る。瀬流彦先生は旅館にいる生徒たちの警護を頼んじゃぞ!!』

「それはもちろんですが、闇の福音は呪いで学園内から出られないのでは?」

『そこはわしがなんとかする!とにかく頼んじゃぞ!!』

電話が切れた。エヴァンジェリンを送る方法を探っているのだろう。自分にできるのは旅館にいる生徒たちを守ることだけだ。

僕は急いで着替えた。すると超くんと葉加瀬くんが待ち受けていた。

「うふふ、瀬流彦先生。ネギ坊主のことなら心配ないヨ」

「はい、長瀬さん、くーさん、龍宮さんが綾瀬さんから呼ばれていきましたよ〜。かなり切羽詰ってました〜」

葉加瀬くんはなにやらノートパソコンにマイクみたいなものを持っていた。もしかしたら盗聴器みたいなものかもしれない。たぶん、気のせいと思いたい。

長瀬くんと古菲くんはともかく、龍宮くんは刹那くんと一緒に仕事をするから、安心できる。

「まったく学園長の見通しが甘いからネギ坊主が苦労するネ」

「そうですね〜。やはりサウザンドマスターの息子だから過度に期待しているんですよね〜」

超くんと葉加瀬くんの痛烈な皮肉が身にしみる。

「旅館の周りには私の偵察機が上空から見張っているから安心するネ。瀬流彦先生は何もしなくていいヨ」

「一応、形だけの警護はしたほうがいいですよ〜。では〜」

僕は何も言い返せなかった。

「瀬流彦先生、肉まんをどうぞ」

僕の横にさっちゃんこと、四葉五月くんがいた。両手には肉まんがいっぱいのせいろを持っていた。

「疲労回復の特製肉まんです。サービスです」

ありがとう。今はさっちゃんの優しさが身にしみた。超くんたちの皮肉が身にしみたあとだから、余計そう感じる。

そして、すべてが終わったのは夜があけてからであった。

 

エヴァンジェリンがすべてを解決してくれた。なんとか呪いをごまかしたそうだが、その代償は学園長が5秒に一回、書類にハンコを押すはめになったそうだ。その間エヴァンジェリンは京都観光を満喫しているのだ。意外に闇の福音は古都めぐりが好きなようだ。

また魔法先生たちが裏で愚痴をこぼすんだろうなぁ。特にガンドルフィーニ先生は。

さて闇の福音からもたらされた情報は意外なものであった。

まず関西呪術協会を襲撃したのは、フェイト・アーウェルンクスで、一ヶ月前からイスタンブール魔法協会から日本に研修として派遣されたそうだ。もちろん偽称だろう。

主犯は天ケ崎千草という符術使いで、かつてサウザンドマスターと西の長が封印したリョウメンスクナノカミをこのかくんの魔力を使って復活させたそうだ。彼女はその力で東の西洋魔術師たちを一蹴するつもりだったそうだが、そのために西洋魔術師と手を組むのは矛盾していると思う。話によればフェイトという少年は天ヶ崎千草より強いのではとのことだ。この事件はなにやら裏があるかもしれない。しかし、僕にはどうにもならないのだ。あとは関西呪術協会にまかせるしかない。

情けない話だが、結局大事なところは子供たちに任せ、大人たちは役立たずであった。

帰りの新幹線ではほとんどの生徒たちは寝てしまった。よほど疲れたのだろう。

ネギ先生も明日菜くんに寄り添うように眠っていた。

これからも彼は立派な魔法使いになるためにがんばるだろう。今は少しでも休んでもらいたいと願うだけだ。

 

おまけ

 

古菲は超と葉加瀬に尋問されていた。彼女が昨夜、こっそり旅館を出ていたのを知られたのである。

「昨日はどこ行ってたネ?さ、吐くヨロシ」

(本当は知ってるけど、くーの性格からして絶対に口を割らないネ。思う存分肉まん君Zの実験体になってもらうネ!!)

超は心の中で悪魔の笑みを浮かべていた。案の定、古菲は口を割らない。そこで葉加瀬は肉まん君Zを取り出す。せいろに手足がついており、一見おもちゃに見える。

くえ、くえー!

肉まん君Zはせいろの中からあつあつの肉まんを取り出すと、古菲の口に突っ込み始めた。

「しゃべるまで肉まんをほおばって頂きますよぉーー!!」

葉加瀬はもちろん真相を知ってるから、古菲を使って肉まん君Zのデータをとる算段だ。古菲はしゃべろうとしない。

(口に肉まん詰まってたらしゃべれないんじゃ・・・)

横で春日は彼女らのやり取りを眺めていた。もっともな突っ込みを入れていた。

(しかし、ネギくん大変だったよね〜。私はごめんこうむりたいな〜)

春日も一応魔法使いの見習いだから、エヴァンジェリンを知っている。しかし、自分は関わらずにすんだので、どうでもよいと思っているのだ。面倒ごとなどごめんなのが彼女の信条である。その分シスター・シャークティに叱られるのが難点だが。

横で長瀬楓が四葉五月から肉まんをもらっている。

「この肉まん、ホントに美味しいでござる」

「皮の厚みに秘訣が・・・」

四葉は説明しているが、この肉まんには疲労回復に漢方薬も混ぜた特別製なのだ。

(昨日はご苦労様です・・・)

「ありがとうでござる」

肉まんを食べながら、楓は感謝の言葉を述べた。

 

終わり

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あとがき

 

今回は瀬流彦先生の一人称で進行しております。修学旅行では出番が少なかった、超や春日を登場させてます。

4〜6巻の修学旅行編を瀬流彦先生の視点で進めたのですが、どうしても江保場の欠点で、

戦闘描写が一切ないことです。

もっと迫力のあるバトルを読みたい人が多いと思うのですよ。ネギまファンは戦闘が好きな人が多いので。

私はあえて戦闘にこだわらないことにしました。正直、私は戦闘が苦手というか、嫌いなんです。魔人小説書きとしてかなり致命的だと思いますね。よほど気分が乗らない限り戦闘には力が入りません。

私の作風はあくまでのんびりと、ほのぼのとした作風が似合うと思うのですよ。

 

2006年3月24日