九龍三分クッキング〜・リ・チャージ編。

 

「というわけで、今日は新メニューを発表したいと思います」

「ひゅ〜ひゅ〜♪」

シェフの格好をした葉佩九龍に、八千穂明日香がぱちぱちと拍手を送った。

ここはマミーズ天香学園店。九龍は店長に頼んで厨房を借りているのだ。

今は朝の5時。生徒たちはまだ眠っている時刻。その時間帯なら使用していいと許可をもらったのである。さらに九龍の作ったメニューをマミーズで出したいと言われた。

「では、さっそく・・・」

「ちょっとまてよ・・・」

厨房には皆守甲太郎もいた。彼は布団で簀巻きにされて、床に転がっていた。

「どうしたの、甲太郎?」

「どうしたも、こうしたもないだろう・・・。なんでオレはこんなところにいる?なんでオレはこんな姿でいるんだ?」

「もちろん、甲太郎には味見をしてもらわなきゃ。それに九龍三分クッキングでは甲太郎はツッコミ役だからね」

「そんな理由でオレをここに連れてきたのか!?いつもの時間ならベッドの上でまどろんでいるところだ!!」

皆守は不機嫌であった。

「それにお前の出す料理はわかってるんだよッ!どうせリ・チャージで出てきた料理を出すつもりなんだろ!?いまさらって感じだぜ」

「どうして、知っているの?」

「題名にリ・チャージ編と書いてあるだろうが!!」

「そういう世界観を破壊するツッコミはよくないと思うな・・・」

「この小説自体が、世界観を破壊しているだろうが!!さっさと縄を解け!!そしてオレを寝かせろ!!」

皆守はますます不機嫌になった。九龍はやれやれと首を振る。

「そっかぁ・・・。甲太郎には新作のカレーを味見してもらおうと思ったのになぁ・・・」

ぴくり。

今、皆守が小さく反応した。

カレー。

しかも、新作だと言った。

「九龍。そういうことは先に言ってくれ」

「皆守君?」

「カレーの試食ならまかせてくれ」

 

 

皆守の前に二つのカレーが置かれた。

「まずは甲太郎が大好きなアロマカレーだよ」

「アロマカレーだと?」

目の前に出されたカレーは、ルーが紫色であった。かすかにラベンダーの香りがする。ライスはターメリックライスであった。

「カレーライスに温室で手に入れたラベンダーを加えたんだ。美味しい?」

「うーん、カレーとアロマがケンカしている感じだな。なんというかあらゆる状態異常が治りそうな味だ」

皆守は新作のカレーを食べられて、ご満悦のようだ。あっという間にカレーを平らげた。

「次はヨーグルトカレーだよ。カレーライスにヨーグルトを加えたんだ。ヨーグルトは女子寮からパチッ・・・、いや、もらったんだ」

「そっか〜。最近女子寮でヨーグルトが無くなるな〜と思ってたら、九龍君の仕業だったんだ〜。白岐さんも最近温室からラベンダーとブルーベリーが無くなってるって聞いてたしね〜」

皆守は思った。生徒会が転校生を目の仇にするのは、こいつが備品泥棒だからだ。しかし、生徒会の目的はトレジャーハンターという名を借りた墓荒らしを、墓地の中で殺すこと。それが墓守である生徒会の役目である。まぁ、今こんな話をしても関係ないのだが。

皆守はアロマカレーを平らげたあとだが、平気でヨーグルトカレーを食べた。

「うむ・・・、コクが出ていてうまいな。ただ、問題なのはさっきのアロマカレーも含めて、元のカレーライスがレトルトカレーを温めて作った点がマイナスだな」

「大丈夫だよ。九龍スペシャルDVDでロゼッタちゃんとハントくんの1分クッキングでも、レトルトカレーをかけただけのカレーライスも料理だと言ってたよ」

「お前な・・・。DVD観てない人がいたら、ネタバレになってるぞ」

 

 

「さて甲太郎が飢えて飢えて仕方がない新作のカレーはおしまい。今度はデザートを紹介するよ」

「いやらしい言い方だな。俺がカレー以外食べていないみたいじゃないか」

「じゃあ、たまにカレー以外の物を食べたいと思う?」

皆守は顎に指を当てて考える。

「・・・思わないな」

「でしょう?さて次は女の子が大好きなデザートの紹介だよ。八千穂さん」

「は〜い♪」

九龍に指示されて、八千穂がテーブルの上に掛かっていたシーツを取った。テーブルの上には色とりどりのデザートが並んであった。

「まずはゴールデンソーダ。こいつは炭酸飲料と金のアラザンを混ぜたものなんだ」

「きんの・・・、あらざん?あらざんてなんだ?」

「フランス語で「銀」を意味する製菓材だよ。これは金色だけどね」

「金の銀かよ。意味がわからんな」

「金のアラザンは教員の家でパチッたんだ」

「少しはオブラートに包めよ。ストレートにパチッたなんて言うな」

「次はさっき使ったヨーグルトを使ったデザートだよ」

マンゴーをトッピングした完熟ヨーグルト。非時香果を入れた初恋パフェ。イチゴを入れたイチゴヨーグルトが置かれていた。どれもヨーグルトを使ったデザートである。

「・・・なあ、聞いていいか?」

「なぁに、甲太郎?」

「非時香果は化人を倒して手に入れたと思うが、マンゴーやイチゴはどこから手に入れたんだ?」

「なぁんだ。甲太郎はマンゴーとイチゴも化人を倒して手に入れたと思っているんだね。違うよ。これらの果物はクエストのお礼でもらったんだ」

「なるほど、もらい物か。これなら安心して食べられるな。俺は食べないが」

皆守は安堵したようだ。しかし、次の九龍の言葉がいけなかった。

「マンゴーやイチゴは貴重品だからね。青色細胞で増やしたよ」

「青色細胞?」

聞きなれない単語に、皆守は嫌な予感がした。

「青色細胞はね。アイテムを増やすんだ。こいつは素粒子爆弾や、黄金弾薬も倍に増やしてくれるんだよ」

「・・・」

「青色細胞はダゴン教団からプレゼントされたけど、蝶の迷宮でも手に入るんだよ」

「・・・」

「どうしたの、甲太郎?」

皆守は黙ったままだ。まるで火山が噴火する一歩手前といった感じだが、九龍は気付いていない。

「おっ、お前・・・、お前は・・・」

「何?」

「爆弾や弾薬を増やす怪しげなもので、食べ物を増やしたのか!!?しかもわけのわからない宗教団体からもらったもので!!」

皆守が爆発した。九龍と八千穂はきょとんとしていた。

「何言ってるの?僕はちゃんと増やした食材を食べたけど、平気だったよ。八千穂さんも平気だったし」

「そうだよ〜。皆守君は神経質すぎるよ〜」

「お前らの胃袋を基準にするな!!文化祭のことを忘れたとは言わせないぞ!!」

二人がのんきそうに話していると、皆守が怒鳴った。

「忘れてないよ。あとは豆乳を使った豆乳イチゴと豆乳杏仁。チョコレートに英国風菓子を加えたチョコスコーンとかあるんだよ。どれも校内で手に入るものがほとんどだから、安心して食べられると思うけど・・・」

「マミーズに出すなら、お前の基準で図るのは止めろ!!」

 

 

「どうでもいいけど、甲太郎は月草カレーや地上最強カレーが好きだよね。あとカレー定食も」

「なんだよ、唐突に」

ちなみに月草カレーは、月草を載せたカレーで、地上最強カレーはトリュフを入れたカレーだ。カレー定食はカレーライスにカレー麺のセット物だ。どれもレトルトカレーを使用している。

「八千穂さんもただのハンバーガーより、チーズバーガーが好きだよね」

「うん。チーズバーガー、大好きだよ」

チーズバーガーの作り方は簡単だ。カミムスビの霜降り肉と、ウネメの桜肉で挽肉を作る。それにカワホリのラードを加えるとハンバーグが完成する。それに購買部で買ったコッペパンを挟み、バーで手に入れたチーズを加えればチーズバーガーの完成だ。チーズの代わりに月草を加えれば月草バーガーになる。こいつを食べれば知性があがるのだが、八千穂はハンバーガー並みの価値しか持っていないのだ。いっぱい食べれば頭がよくなると思うのに残念である。

「でも、酢だこや酢の物は嫌いだよね?」

ふと八千穂の顔が曇った。

「・・・うん。アタシ酸っぱい物が嫌いなんだ・・・」

皆守は意外だと思った。八千穂は好き嫌いがないと思っていたからだ。

「ちなみに甲太郎はレトルトカレーとプリンカレーが嫌い。プリンカレーはともかく、甲太郎はレトルトカレーを温める時間すら惜しむ無精者だからね」

「いやらしい言い方するな!カレーを温める時間くらい待っていられるに決まってるだろ!?」

「あれ?この間夜中にレトルトカレーをあげたら、怒り出したよね?あれはどうゆうことなの?」

「どうせカレーをくれるなら温かいカレーを食べたいだろうが!!」

皆守はカンカンに怒っている。

「今の聞いた八千穂さん。やっぱり温かいカレーが食べたいって・・・」

「レトルトカレーを温める時間を惜しむなんて、男子寮のレトルトカレーは何のためにとってあるんだろ?」

九龍と八千穂がひそひそと話をしている。皆守の沸点も限界まで達しそうだ。

「白岐さんはサラダ関係が好きだけど、肉類は全部アウト。夕薙君はビフテキ関係の料理は大好きだけど、アメリカ出身なのか納豆が大嫌い。夷澤君はミルクは好きだけどチーズ関係はダメ。真里野くんはおにぎりや白米は好きだけど、天丼やカツ丼といったどんぶり物が嫌い。人には好き嫌いがあるんだよね・・・」

急に九龍は関係のない話を始めた。皆守は面を食らった。九龍は何を言いたいのだろうか?

「まぁな。でもそれは人それぞれって奴だろ?よく小学校で給食を残す奴がいるだろう?それで関係ない奴がそいつを囲んで、食え食えと命令するんだよな。あれはむかつくな」

「そうだよね。あれって一種のいじめだよね〜。まあ、アタシも酢の物は嫌いだから、強くはいえないけど、それがどうしたの?」

九龍がくっくっくと笑い出した。

「僕には秘密兵器があるんだ。はい!!」

そういって九龍が皆守たちの目の前に出したもの。それは一枚の金属板であった。なんとなく冷気が漂っている気がする。

「これは超低温パネルといってね。海底から発見された地球上には存在しない金属で作られたパネルなんだ。前にクエストでFBIからお礼としてもらったんだよ」

今さらっと重要なことを言った気もするが、皆守は無視することにした。こいつにツッコンでいては身が持たないからだ。八千穂はひたすら能天気に褒めていた。

「すごいね〜。で、このパネルを使って何をするの?」

「うっふっふ。良くぞ聞いてくれました。では!!」

九龍はポケットからラベンダーとブルーベリーを取り出した。そして、パネルの上に乗せる。

「この二つは調合したらアロマエッセンスが作れるんだ。でも、このパネルの上で調合すれば!!」

ラベンダースモーク。

ラベンダーの香り漂うアイスになった。

「・・・なんだこれは?」

皆守が力なく尋ねた。

「これはマジックアイスと言ってね。超低温パネルがあってこそ、作れるアイスなんだ。普通果物を凍らせたら水分も凍るから、瑞々しさがなくなるよね?でもマジックアイスなら果物の瑞々しさを壊さないんだ。はい。甲太郎にプレゼント」

九龍は皆守にマジックアイスを渡した。ラベンダーとブルーベリーだけだったのに、なぜアイスができたのかは、つっこまない。言うだけ無駄だからだ。正直、自分がアロマを、特にラベンダーを好むからといって、なんでもかんでも食べ物にラベンダーを加えるのはいただけない。

皆守はカレー以外の物はあまり食べたくないのだが、このマジックアイスとやらは何か魔性のものを感じるのだ。皆守は恐る恐るマジックアイスを食べてみた。

「・・・うまい」

皆守がぼそりと答えた。

「うまい」

単純でわかりやすい答えであった。カレー以外のものを食べたがらない皆守がマジックアイスを食べたのである。

「本当だね〜。おいし〜♪」

八千穂もマジックアイスを食べている。しかし、皆守の食べているラベンダースモークではなかった。ゴールデンソーダを作る素材を使ったアイス、トレジャーハンターであった。

「他に初恋パフェの材料でジュヴナイルレッドが作れるんだ。さっきの二つは九龍のイベント用に作られた限定品で、マジックアイスには置いてないんだよ。

ストロベリーフィールドに杏仁中華。ハワイアンパラダイスはメニューにあるから食べに行くと良いよ」

「お前の台詞。ちょっとやばい気がするぞ。勝手にマジックアイスの宣伝をしたら、訴えられるんじゃないか?」

「大丈夫。リ・チャージ本編に出ているものだけ紹介しているから」

「そういう問題じゃないだろう・・・。ところでこのマジックアイスがなんだっていうんだ?」

皆守が訊いた。九龍は待っていましたといわんばかりに胸を張った。

「僕はね。このマジックアイスで天香学園にブームを巻き起こすのだ!!」

「はぁ?」

皆守は聞き返した。目が点になっている。

「僕はマジックアイスで天下を取るんだ!!」

「ひゅ〜、ひゅ〜♪九龍君かっこい〜」

九龍はガッツポーズを取った。八千穂はぱちぱちと拍手をしている。

「・・・お前はこの学園に何しに来たんだよ・・・」

遺跡に眠る秘宝を手に入れるために転校してきたんじゃないのか、皆守は心の中でつっこんだ。どうせ、こんなわけのわからないアイスなど流行るはずがない。

皆守はそう思った。

 

 

マミーズは大繁盛であった。九龍の作るマジックアイスは売れに売れていた。生徒も教師もマジックアイスを買っていた。みんなおいしそうに食べている。季節はもう冬なのにだ。

「・・・」

皆守は呆然としていた。

「もともとマジックアイスは誰に上げても好感度アップだからね」

八千穂はサクッと問題発言をした。彼女もマジックアイスを食べていた。

「不思議ですわ〜。リカは豆乳杏仁嫌いですなのに、この杏仁中華はおいしいですわ〜」

「確かにそうだな。私は完熟ヨーグルトなど好きではないが、このハワイアンパラダイスは最高だな」

椎名リカと劉瑞麗もマジックアイスを食べていた。どれも二人の嫌いなもので作ったはずなのに、二人はおいしそうに食べていた。

「はぁ・・・。別にどうでもいいけどな・・・」

「坊ちゃま。私はイチゴが嫌いなのですが、このストロベリーフィールドはおいしいですな」

「うむ。俺も炭酸飲料は嫌いだが、このトレジャーハンターはなかなかの味だ。さすがは転校生といったところか」

千貫厳十郎と阿門帝等もマジックアイスを食べていた。ちなみに双樹咲重と神鳳充、夷澤凍也も食べていた。マジックアイスの威力は生徒会の内部を蝕んでいたのである。

「でも結構まともなオチだよね。もう少し弾けたほうがよかったかも」

「いや、十分弾けているだろ」

皆守はラベンダースモークを食べながら、力なく答えた。

 

終わり


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九龍3分クッキング:リ・チャージ編です。

今回はリ・チャージの設定を忠実に守っているので、あまり面白くないかもしれません。

元からある設定でギャグを作るか、はたまた、自分のオリジナルでギャグを作るか、難しいところです。

私は元からある設定でギャグを作るのは好きなんですが、中にはそれが気に食わない人がいますからね。私はそういった抗議メールはもらってませんが、世の中にはそういう人もいるかもしれないと、認識しております。

 

2007年7月5日