ネギまVS魔人学園その7

 

「あの〜、ゲオルグ先生・・・」

宮崎のどかが教師の一人に話しかける。ゲオルグとは中等部の教師でドイツ人である。30代後半でドイツ人特有の鷲鼻だが、どことなく暗い感じがする。半年前から赴任しているが、女子生徒たちにはあまり好かれていない。おじ様大好きの明日菜ですら、敬遠するくらいだ。

「何かね?」

「い、いえ、やっぱりいいです〜」

のどかは奇妙な本を開きながらたずねると、顔を赤くしてその場を立ち去ってしまった。ゲオルグもそんな彼女には慣れっこであったが、吐き捨てるようにつぶやいた。

彼は校舎の外を見ていたが、何を思ったのかにやりと笑った。

 

「今日の授業はこれで終わりです・・・。もうじき実習期間が終わりますが、短い間みなさんと触れ合えていい勉強になりました。ありがとうございます」

美里はどこか影がある。窓の外を視線を向けるとため息をついた。クラスのみんなもそんな美里に不安になったのか、ひそひそ話し合ってる。もうすぐ自分たちと別れることが寂しいんだと思ったものがほとんどだが、明日菜たちのように事情を知っている者には、深刻な事態だと気づいているのだ。今まで鬼や魔物が美里を襲おうとしたのだ、そして自分や生徒たちを人質に取ったりと、かなり落ち込んでいる。

「先生!最終日にはお別れパーティを盛大にやるからねー!」

椎名桜子が手を上げて、楽しそうに声を上げてる。それに同意してクラス中が沸いた。みんなお祭り騒ぎが大好きなのだ。

「それならワタシと五月の特製中華料理を振舞うネ」

「まかせてください、腕によりをかけますから」

出席番号19番超鈴音(ちゃお りんしぇん)と出席番号30番四葉五月が言った。彼女たちはよく手製の肉まんを教室で売っている。文化祭前夜でも屋台を出しており、彼女らの料理にファンが多い。それを聞いた彼女たちは歓声を上げた。

後ろの席の出席番号31番ザジ・レイニーディが両手を握ると、ぽんと鳩を出した。手品である。彼女も場を盛り上げようとしているようだ。

「じゃあ、私も賛美歌を歌います」

こちらは出席番号9番春日美空である。彼女はボーイッシュな雰囲気だが、時折修道服を着ているのだ。それを仲良しの鳴滝風香、史伽の姉妹が囃し立てる。

すると呼び出しの放送がかかった。

きんこんかんこーん。

『美里先生、美里先生。学園長がお呼びです、至急学園長室へお越しください。繰り返します、美里先生・・・』

はてな、なんであろうか。美里はみんなに挨拶すると、学園長室へ向かった。その後ろを不安そうに見る明日菜。のどかもどことなく不安であった。

 

「おお、来たようじゃな」

美里は学園長室に入った。だが美里は中に入って驚いた。学園長は自分の机に座っていたが、来客用のソファーには懐かしい顔が座っていたのだ。黒いコートにサングラスをかけた男、壬生紅葉であった。出会った頃から彼の体から近寄りがたいオーラがにじみ出ていたが、5年の歳月は彼をますます闇の住人へと近づけたように思えた。まるで抜き身を背中になでられるような、冷たい感覚がした。

「壬生くん・・・?どうしてここに」

「ひさしぶりだね。美里さん」

壬生はさらりと挨拶した。彼は無愛想というより、人との付き合いが苦手なだけなのだが、壬生なりの挨拶だろう。

「実は今日ここへ来たのは他でもない。美里さんのことで来たのですよ」

「私のことで?」

「そう、今まで君を襲った鬼たちのことさ」

壬生がここへ来た以上、用件はそれであろう。しかし、なぜ彼がここへ来たのだろうか?彼も魔法の関係者なのであろうか?

「近衛学園長は拳武館ではなく、今所属している組織繋がりで関係しているんだ。M+M機関、魔女の鉄槌という対妖魔組織に僕は所属している」

その組織は歴史が古いそうだ。なぜ彼がそんな組織に所属しているのかは、不明だが。

「壬生くんには近いうちに襲撃してくるかもしれん、組織に対抗するために呼んだのじゃよ」

「組織・・・、ですか?」

「確か美里先生も知っていると思うがのう、薔薇十字財団というものじゃ」

薔薇十字財団?聞いたことのない名前だ。

「ドイツ語でローゼンクロイツ。これならわかるはずだよ」

美里は青くなった。ローゼンクロイツは高校時代、自分を誘拐した組織だ。その上超能力戦士を作るために何百人もの子供たちを犠牲にした忌まわしき組織。今美里家に養女となってるマリィ・クレアもローゼンクロイツで人体実験を受けていたのだ。実年齢は16歳なのに、成長抑止剤で10歳の子供のままに成長を止められていた。そして火走りの超能力を開花させられたのである。

壬生は美里に説明した。今まで襲ってきた鬼はローゼンクロイツが生体兵器だという。彼らははじめは小さな存在だが、学園中に広がっている陰の気を回収することによって、その体を成長させるのである。そして遺伝子プログラムにより、美里を捕獲、そして当時の仲間たちを殺害する命令を受けていたのである。美里の性格を反映し人質を取ることにより、ことを速やかに行う予定だったのである。

「ローゼンクロイツでは5年前のジル・ローゼスの研究成果を引き継いだ男がいる。そいつが君の力を狙っているのさ。そのために麻帆良学園に何度も魔物を送ってきたが、ことごとく失敗して、業を煮やして近い将来ここへ襲撃する手はずのようだ」

「そんな・・・、また私の力がみんなに迷惑をかけるなんて・・・」

美里は気分が重くなった。また自分が人に迷惑をかける、そんな自分が許せないのだ。

すると学園長がこほんと咳払いした。

「実はのう、美里くん。君がここへ教育実習生として来たのは偶然ではないのじゃよ。以前からローゼンクロイツが君を狙っていると知ってな、安全のためにここへ実習生として迎えたわけじゃよ」

知らなかった。自分は人に守られていたのだ。彼女は守られるより、誰かを守りたい。大切な何かを守るためにこの力を使いたいのだ。それなのに自分の知らないところで、ことが進んでいる。それが悲しかった。

「今だから言うけど、君だけじゃない、当時の仲間たちも狙われていたんだよ?ローゼンクロイツは彼らの家族を殺害し、そしてそれを緋勇くんのせいにする。そして彼を孤独にしてじわじわと弱める計画だったのさ。自宅に爆弾を仕掛けて、仲間の一人が家を出た瞬間家族を爆破させる。それから家族を一人づつ誘拐し、身代金を要求して支払われても返さずに殺す。子供なら自分たちの実験材料にするなど下衆な計画が実行されようとしたのさ」

だが、それらはすべて失敗に終わった。拳武館と御門家が協力したので大事に至らずにすんだ。式神が仕掛けた爆弾をこっそり外し、それをローゼンクロイツのエージェントの車に仕掛け、殺害するのである。あとは式神で作った家族を誘拐させ、一味のアジトを一網打尽にする戦法をとったのである。それを聞いた美里は小刻みに震えていた。

「そんな・・・、じゃああなたたちはローゼンクロイツの人たちを殺したの?」

彼女にとってはどんな理由があるにしても、人を殺すことは許せないのだ。拳武館は本来暗殺組織だ、実を言うと彼らが人を殺すのは最終手段で、基本的には社会的抹殺が主なのである。壬生は指折り数えると、ぼそりとつぶやいた。

「確か、殺したエージェントは50人くらいだね」

ぱちぃん!

「あなたという人は!」

美里の目から涙がこぼれた。壬生は叩かれた頬に手をやっている。

「人を殺して解決するなんて!どんな人でも殺していい理由などないわ!それを・・・」

「だけどね、僕らが動かなければ、君の家族、仲間の家族の命がなかったんだ。まあ、勝手にやったことだし感謝してくれなんていわないけどね。君の言っていることはきれいごとさ、自分では手を汚さないのに、横から口を出す。僕はしばらく学園に滞在する予定だ。それじゃあ」

壬生はサングラスをかけなおすと、部屋を出て行った。

「美里君、安心なさい。わしらも学園が血で汚れるのは避けねばならん。ローゼンクロイツが襲撃しても、彼らを殺すことはないじゃろう」

学園長が慰めた。美里はかつての仲間の衝撃的な事実に、戸惑いを隠せなかった。

(くっくっく、人を殺さないか。なんたる甘いことよ・・・)

廊下でゲオルグが耳にやったイヤホンを手で押さえながら、ニヤニヤ笑っていた。

「あの〜、ゲオルグ先生・・・」

彼の後ろにのどかが立っていた。なにやら分厚い本を手にしている。

「!?な、何かね?」

「・・・いえ、あの、なにか楽しそうに見えたので・・・」

「そ、そう見えたかな?はっはっは、ただの思い出し笑いだよ」

ゲオルグはそういうとその場を立ち去った。こころなしか、歩き方が乱暴に見える。のどかは持っていた本を開くと、真っ青になった。一体何が書かれていたのだろうか?

 

ついに美里の教育実習が終わる日が来た。クラスでは美里のために花束が用意され、美里はそれを受け取った。

「みんな、ありがとう、短い間だったけど、とても楽しい毎日でした。みなさんのことは忘れません」

美里はこぼれる涙を拭いた。横にいるネギが彼女に代わり挨拶する。

「美里先生は短い間ながらも、みなさんに勉強以外にもいろいろなことを教わったと思います。実は僕も大人の美里先生に教えてもらうことがあったので感謝してます。美里先生ありがとうございました!!」

最後の挨拶はこれで終わりだ。あとは広場でお別れパーティを開くだけである。

「あ、先生。このドリンク飲むといいネ。五月と一緒に開発した疲れが吹っ飛ぶ特製ドリンクヨ」

超が美里に小瓶を渡した。美里は彼女の心遣いに感謝した。

美里は職員室で挨拶を済ませ、一度着替えるため職員寮へ戻った。そしてドリンクを飲み、着替えを始めた。するとなにやら爆音が聞こえた。ヘリコプターの音だ。それもただの減りではなく、軍用の大勢乗れるタイプであった。それはグラウンドに次々と着地し始めた。そして中から武装した兵士たちが数人出てきたのである。それを見た生徒たちがなんだなんだとヘリの周りを囲んでいた。すると武装兵士とは違う、真っ白なスーツを着た男が降り立った。歳は五十代ほどで口に葉巻をくわえていた。顔は老けているが、体格はプロレスラー並で、にっしっしと下品そうに笑っていた。

「にっしっし、我輩はローゼンクロイツのルドルフ!名声の狼という意味があるのだよ」

男はまるで映画俳優のように、帽子をとり、挨拶した。だがどことなく下品そうに見える。

「フリードリヒ!兵士たちの指揮はまかせたぞ」

「我々ははレリック・ドーンだ。今回は共同することになったが、ローゼンクロイツのあんたに命令される筋合いはない」

武装して顔は分からないが、フリードリヒという男は、ルドルフとは仲がよいわけではないようだ。兵士たちはローゼンクロイツとは違う、レリック・ドーンと呼ばれる組織から借りてきたようである。

「よし、さっさと放送室を占拠しろ。美里葵なら人質を取ればすぐに出てくる。あとゲオルグの報告にあった魔法先生や魔法生徒も広場に集めろ、奴らは今後の我々の活躍には邪魔だ。それと学園の電力も切っておけよ?学園を陸の孤島にするためにな」

ヘリには一人の青年が座っていた。金髪で体格のよい青年であった。まるでドイツ軍人のような軍服を着ている。

「アーダルベルト、オマエにも見せてやるぞ。ジル・ローゼスの残した強化戦士の研究成果をな。にっしっし」

アーダルベルトと呼ばれた青年は答えもせず、こくんとうなづいただけであった。

「さあ、パーティの始まりだ!!」

 

ローゼンクロイツの襲撃により、各学校が占拠された。実際のところは麻帆良学園は広すぎる、一番置くにある女子校エリアのみを占拠したのである。ただ明日は休日なので、ほとんどの生徒は実家に帰ってしまった後なので、生徒たちの数は少なかった。

『え〜、テステス。我々はローゼンクロイツ+レリックドーンである。我々の要求はただひとつ、美里葵の出頭である。今すぐヘリが止まっているグラウンドへ向かうこと。5分以内にこないと一分過ぎることに生徒をひとりづつ殺しま〜す』

ルドルフの声だ。とても流暢な日本語である。話し方はコミカルだが脅し文句は最悪である。

『え〜、後は近衛学園長、高畑・T・タカミチ、ネギ・スプリングフィールド・・・』

あとは聞いたことのない教師や生徒の名前が挙げられた。

『あと壬生紅葉くんも一緒で〜す、この人たちも5分以内に世界樹広場に集まってくださ〜い。時間以内にこないと同じくひとりづつ殺しま〜す』

美里はその放送を聞くと、いてもたってもいられず、ヘリが降りたグラウンドへ走り出した。だが、その後姿を見ているひとつの影があった。

 

「来ました。私が美里葵です」

ヘリが集まってるグラウンドに美里はやってきた。物々しい装備を抱えている兵士たちは彼女を囲むと、リーダー格らしき男が彼女の前に立った。

「写真と同じだな。私の名前はフリードリヒ。レリックドーンの特殊部隊の隊長だ」

「え?ローゼンクロイツではないのですか?」

放送でも聴いたが、レリックドーンとはどういう組織なのだろうか?

「秘宝の夜明けという意味がある。宝探しの組織だよ。この学園には様々な魔法関係の秘宝がある、我々はそれを回収するためにここへ来たのだよ。ローゼンクロイツとは利害が一致したから協力しているだけだ」

フリードリヒは淡々と説明してくれた。顔を見ることはできないが、どことなく不気味な感じがする。

「ところで学園長たちはどうなるのですか?なぜネギ先生まで・・・」

「説明は受けてないからわからない。早くヘリに乗ってもらおうか?」

フリードリヒは美里を銃でこづくと、彼女をヘリへ乗せた。アーダルベルトが一緒のヘリである。美里はヘリに乗ると空へ飛び立った。

 

「さぁて、集まりましたね?魔法先生に、魔法生徒の諸君?」

ルドルフはニヤニヤ笑いながら、ポーズを決めながら指を指した。。広場には学園長やネギのほかに魔法先生や魔法生徒たちが集まっていた。もちろん壬生もいるが、彼らの周りを兵士たちが囲んでいる。全員、銃口を向けていた。

「あなたたちの目的はなんですか!どうしてこんなひどいをことをするんですか!!」

「あ〜ん?だ〜れ〜、そんな生意気な口を利く悪い子ちゃんは〜?」

げすぅ!!

ルドルフはネギを蹴り飛ばした。軽く吹っ飛ぶネギ。げほげほと苦しそうにせきをしている。ルドルフは指をぱちんと鳴らすと小柄な兵士が現れた。全員で12人ほど、ほとんどがネギくらいの身長であった。

「こいつらはね〜、かつてジル・ローゼスという学者がいてねぇ〜、彼は超能力を人工的に開花させる研究を5年前に完成させていたのだよ。こいつらはその超能力が使えちゃうわけさ〜。もうこいつらを一人前にするために莫大な資金と餓鬼どもが湯水の如く消えちゃったんだよね〜、にっしっし」

ルドルフは下品そうに笑っている。ネギたちは銃を向けられているため、手出しが出来ない。ぷるると何か音がした。ルドルフは懐から携帯電話を取り出すと、なにやら話している。話しの内容を聞いてにやりと会心の笑みを浮かべていた。

「よ〜し、目的の美里葵は手に入った。あとはお前らには死んじゃってもらおうかな〜」

全員顔が青くなった。

「正直君たちはおいしい研究材料ですが、年寄りはいりませ〜ん。子供は我々がもらいま〜す」

特に体格のよい兵士ふたりがネギを含む魔法生徒たちを輪から引っ張り出した。そして学園長や壬生に銃を向ける。

「あ、魔法で反撃してはいけませ〜ん。もし逆らったら女子中等部の生徒は皆殺しで〜す。わかったら黙って殺されてくださ〜い。はい、さような〜ら」

ルドルフが手を上げ、それを振り下ろすと兵士たちが一斉に銃を発射した。

 

その頃美里を乗せたヘリは湖の上を飛んでいた。

「降りろ・・・」

アーダルベルトがつぶやくように言った。美里はその言葉の意味がわからなかった。

「ヘリから降りてもらおう。すぐドアを開いてこいつを落としてくれ」

アーダルベルトはパイロットに命じ、ヘリのドアが開くとアーダルベルトは美里を突き落とした。彼女の体は哀れ湖の藻屑となったのである。いや、どうも様子がおかしい、落下中に彼女が爆発したのである。

「い、一体どういうことで・・・?」

パイロットには何がなんだかわからなかった。なぜ上司がせっかく手に入れた美里葵をヘリから放り投げたのか、そして、なぜ爆発したのだろうか?

「あれはロボットだ。精密なロボットだよ」

アーダルベルトが何気なく言った。

「あのまま乗せていれば爆発するに違いない。なかなか素晴らしい技術を持っているようだな、そして、今頃はルドルフも・・・」

 

広場では阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた、と思う読者もいるだろうが、実はそうにはならなかった。銃に撃たれた学園長らは血を流さず、そのまま消えた。その場には一枚の紙切れだけが残った。その上兵士に捕まった魔法生徒たちも次々と紙切れとなったのである。

「な、なんだと!こいつは一体どういうことだ!!」

ルドルフは目の前の現実が信じられなかった。撃ち殺したと思ったのに、彼らはみんな紙切れとなったのである!!

「陰陽師の身代わりの式神だよ。はじめからお前らのたくらみなどお見通しだ」

体格のいい兵士がマスクを外した。彼らは醍醐雄矢と紫暮兵庫であった。彼らはいつの間にか麻帆良に来て、いつの間にか兵士に化けていたのである。

「言っておくが、学校を占拠している兵士たちは全員捕らえてある。お前らが集めたと思った魔法先生たちによってな」

醍醐たちはそういうと今日能力兵士たちに突っ込んだ。軽々しく兵士たちの体が宙に舞った。壬生はローゼンクロイツの襲撃する日を予測していたのだ。この日のために醍醐たちを呼んだのである。式神は御門晴明の特製だ。以前御門が来たのはこの日のための式神を用意するためだったのである。

「はは、ふはははは!!」

ルドルフは狂人のように笑い出した。劣勢な状況でどうして余裕があるのだろうか?

「お、お前らは、学校側にスパイがいることを全然知らない様だな!学校には大量の爆弾を仕掛けてある!そして起爆装置はここにあるのだ、そう、校舎に残った生徒たちもろとも破壊するのは私の気分次第なのだよ!!」

ルドルフは懐からリモコンのようなものを取り出した。

「さぁて、抵抗はやめてもらいたいなぁ。ほんの少しでも私がむかつくことをすれば、すぐリモコンのスイッチを押しちゃうかんね。にっしっし」

げひた笑いであった。醍醐たちはどうすることもできない。兵士の一人が醍醐の足を銃で撃った。赤い血がだくだくと流れる。

「ぐぅ!!」

「にひゃははは!いい気味だ、いい気味だなぁ!!でも・・・」

醍醐は足を押さえると、ルドルフは唇を尖らせ、醍醐たちをちらちら見ている。

「私、とってもむかついてるから、押しちゃお。えい」

ルドルフは満天の笑みを浮かべながら、スイッチを押した。

しーん。

どこからも爆発音が聞こえなかった。ルドルフの顔が青くなった。何度も何度もスイッチを押し捲った。だが結果は同じである、ルドルフは目の前の現実がまったく信じられなかった。

「あれ、あれ?あれぇぇ!?」

「爆弾はすでに解除したよ。お前らが襲撃する前にね」

醍醐を撃った兵士が言った。彼はマスクを取り外す。そこには醍醐の知っている顔であった。

「ひ、緋勇龍麻!?」

ルドルフはその男を知っていた。もっとも危険な要注意人物、緋勇龍麻であった。彼もいつの間にか入れ替わっていたのである。

「おい、お前らマスクを外してやれ。こいつを驚かせてやれ」

立っている兵士たちがマスクを外した。そこには蓬莱寺、雨紋、如月、アラン、霧島などの懐かしの顔であった。しかも醍醐は立ち上がった。撃たれたのになんで?実は緋勇が撃ったのはペイント弾だったのだ。

「どうして、なんで!?」

ルドルフにとって、まるで悪夢を見ているようであった。どうしてこんなことになったのか?それは数時間前に遡る。

 

学園長はすでにゲオルグがスパイだと知っていた。だがあくまで彼らに罠をはめるために、何も知らないふりをしたのである。この計画には緋勇もすでに参加していた。明日菜たちと接触し、色々情報を集めていた。その中で宮崎のどかにはアーティファクトというアイテムがあり、人の心理を文章にする絵日記。ただし、相手が考えていることしか文章に出来ないのだ。緋勇はのどかに頼み、ゲオルグの表面心理を読み続けたのである。

そして、襲撃2時間前にゲオルグを捕らえた。そして、緋勇は彼を尋問したのである。

「お前、なんか隠しだまを持っているだろう、言ったらどうだ?」

だがゲオルグは口を閉じたままだ。彼もプロ、簡単に口を割るわけがない。

「言わないか・・・、宮崎さん、どうだ?」

その場にはなぜかのどかもいた。ゲオルグは彼女がいつも持っている本の正体を知らない。緋勇は言葉巧みに質問を繰り返した。のどかは本を開いており、ぶるぶると震えていた。

「せ、せんせぇ〜」

のどかは情けない声を出している。今にも泣きそうな顔だ。

「が、学校に爆弾が仕掛けられていますぅ、全部で10個ですぅ」

それを聞いたゲオルグは真っ青になった。なぜ彼女がそれを知っているのか!?

緋勇はのどかの本を読みながらうなづいた。

「詳しい設置場所が書かれているな。もう、こいつに用はないね」

がすぅ!!緋勇はゲオルグの腹を蹴った。ゲオルグは気絶した。

「あの〜、大丈夫ですか〜」

「ああ、こいつの声はもう真似できる。こいつの通信機をもらって嘘のデータを送ればいい。ある程度は本当の情報を混ぜれば、本物と区別がつかなくなるのさ」

「す、すごいです・・・」

だが問題は爆弾の解除だ。緋勇はその手の知識はない。だが緋勇には強い味方がいるのだ。

「緋勇さん、ワタシたちにまかせるネ」

「はい、爆弾解除なら任せてください〜」

3−A、いや、学園の大天才、超と葉加瀬聡美である。緋勇はなぜか彼女たちも味方につけたのである。

「武力による世界征服なんて許せないネ。もっとスマートにやるよろし」

「まったくです〜。今どきそんなの流行らないです、やっぱり誰にも知られないように洗脳して、気づかないうちにするのが理想です〜」

彼女たちもなかなかの危険思想の持ち主だが、この際保留にする。

「さて、例のものはできてるかな?」

「はい、完成しましたよ〜。傑作です〜」

のどかには何の話なのかわからなかった。実は緋勇は美里の身代わりとなるロボットの製作を依頼したのである。

「美里先生に睡眠薬を飲ませるネ、そのあとロボットと入れ替わるようにしておくヨ」

超はにこりと笑った。教室で美里に渡したのは睡眠薬入りだった、そうヘリに乗ったのは美里の偽者だったのだ。それを即座に見破るアーダルベルトもなかなかのものである。

 

だがルドルフはまだ諦めていなかった。ローゼンクロイツとレリックドーンが共同開発した新兵器がある。奴らの頭にはそれが欠けているはずだ、と思った。

「言っておくが、お前らの作った化け物たちはすでに処分してあるよ」

魔物たちはあらかじめ山の中に待機してあった。こいつらは指揮する兵士に引きつられ、命令があれば学園中を荒らす予定であった。ところがそれをすべて緋勇に発見されていた。こちらは織部姉妹にマリィ、高見沢、藤咲が先回りしていたのである。さらにエヴァンジェリンも復活していた。彼女には登校地獄という呪いがかけられているが、学園の結界にも関わっており、停電になれば彼女の魔力は復活するのである。ゲオルグは彼女のことは知っていたが、まさか、停電になると魔力が復活するとは夢にも思っていなかったのだ。

「ふはははは!!リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!!」

エヴァは魔物に対して氷の魔法を使った。魔物たちは次々と氷付けになっていく。ちなみに今の彼女はプロポーション抜群の美女だ。幻術でそう見えるのである。ただし、実際に触ってみても、見た目どおりの感触がする。彼女は日頃の鬱憤を晴らすべく、暴れまくっていた。

「うわぁ、あの人すごいなぁ・・・」

マリィは素直に感心していた。彼女も火走りの力で、凍りついた魔物たちを焼き尽くした。それを見た兵士はエヴァに向かって発砲した。

ちゅいん!!

彼女の腕に傷が出来た。

「ほう、退魔用の特製弾丸か。茶々丸!!」

「はい、マスター」

メイド服に着替えた茶々丸が兵士に向かって突進してきた。兵士も格闘技の心得があるのか、茶々丸と互角に戦っていた。しかし、兵士は分が悪いと見ると、煙幕を投げて逃げ出した。

「・・・?この煙浄化の作用を持っているのか。あの兵士私に対して賢い判断だな」

ばきゅううん!!

エヴァの背中が撃たれた。兵士が3人ほど隠れていたのである。

「ひゃはははは、なめんじゃねぇぞお!てめえなんか撃ち殺してやるよ、ひゃはははは!!」

どうも彼らは品が悪い。明らかに幼児に向かって平気で発砲している。兵士たちはエヴァをマシンガンで蜂の巣にしてしまった。しかし、彼女の体が蝙蝠になって分解されると、兵士たちの後ろに立っていた。

「私は不死の魔法使いなんだよ、知らなかったのか?」

そして彼女の腕に光った。

「雷の斧!!」

これは上位古代語魔法である。彼女は雷系の魔法は得意ではないが、使えないわけではない。兵士たちは一瞬で感電してしまったのだ。

「こいつらの質は悪そうだな・・・」

エヴァは吐き捨てるように言った。

 

もうルドルフには打つ手がなかった。彼は縛り上げられ、あとは国際警察に引き渡すだけであった。ところがヘリがルドルフの頭上を飛んでいた。ヘリから煙幕弾が投げられると、すばやくヘリからフックつきの縄が降りてきて、ルドルフを引っ掛けた。そして、ヘリはそのまま飛びだったのである。ルドルフは勝ち誇ったように笑い声を上げていた。

「逃げられたね・・・」

壬生がつぶやいた。彼にしてみれば、ルドルフは処刑すべき人間であったが、美里と学園長の命令により、人を殺すことが出来ないのだ。レリックドーンの兵士たちは72人捕らえてある。それとゲオルグたちは記憶を消し、国際警察へ引き渡す予定であった。あと超能力戦士たちの対処が困った。彼らをここで引き取るか、否か・・・。

「その心配はないさ、ほらよ」

緋勇が懐から一枚の紙を取り出した。それは小切手で1000万ドル記入されていた。

「あの餓鬼たちの生活費はこれで賄える。学園長に渡しておこう」

だがその小切手は誰がくれたのか?壬生にはわかっていた、そして緋勇が今回どういった役割を果たしていたのか・・・。

 

「いや〜、すまんなぁ、アーダルベルト。お前は将来出世できるぞ」

「いえ・・・」

ルドルフは縛られた縄を解こうとしていた。アーダルベルトはルドルフに振り向きもせず答える。

「しかし美里葵捕獲にも失敗したか・・・。くそぅ、我々ローゼンクロイツを馬鹿にしおって。今度はミサイルを使って学園を火の海にしてくれるわ。にっしっし」

相手がいないのをいいことに、言いたい放題である。典型的な悪人だ。だがアーダルベルトは冷淡に答える。

「馬鹿にされたのはローゼンクロイツではなく、あなたですよ。ルドルフ殿」

「なんだと?」

「もう財団は強化戦士計画を破棄します。第一今回の作戦で失敗したではないですか。まあ遺伝子操作生物兵器の研究は継続させてもらいますよ」

ルドルフははじめ何を言われたのかわからなかった。だが、言葉の真意を知ると顔を見る見る赤くして怒り出した。

「貴様!若造の癖に偉そうにするな!ジル・ローゼスの残した研究を無駄にするつもりか!!」

アーダルベルトはどこ吹く風のように答える。

「そもそも、その計画はあなたが横取りしたものでしょう?あの呆け老人の研究なんて財団には必要ないのですよ。それを幹部の息子というだけで続けていたのです・第一実験にされた子供たちが怨まないと思っているのですか?今後我々はエリートを育成します。そしてあらゆる分野に社会に浸透させ、世界征服を行うつもりです。第一あなたは親の七光りで幹部になったようなものではないですか。ローゼンクロイツの崇高な意思を理解せず、自分に従順な子供だけ可愛がり、有能な子供は気に入らなければ殺す。もう、あなたは用なしなのですよ」

「き、貴様ぁ!!」

生意気な若造に意見されて切れるルドルフ。しかし、まだ手足は自由ではない。

どがん、どがぁん!!
「べべ!!」

アーダルベルトはすばやくワルサーP38を取り出すと、ルドルフの頭に撃ち込んだ。なすすべなくルドルフは絶命した。ヘリは防弾仕様なので、傷は付かなかったが。

「あんたは名声の狼じゃない」

アーダルベルトは銃を懐へしまうと、物言わぬ骸となったルドルフを、冷たい眼差しで見下ろしながら言った。

「ただの年老いた野良犬だ」

目の前に設置されているテレビ電話が鳴った。アーダルベルトは電話を取ると、それはフリードリヒであった。マスクは取られ、素顔が晒されている。銀髪の美しい女性であった。モデルといわれても納得できるであろう。なんとフリードリヒは女性だったのである!!戦闘服が女性特有のラインを隠していたのだ。

「やあ、フリードリヒさん。結果はいかがでしたか?」

「ええ、上場よ。兵士たちの振るい落としができてよかったわ」

振るい落としとはどういう意味であろうか?アーダルベルトとフリードリヒの会話は続く。

「対魔物関係に対応できる兵士の育成、それがレリックドーン、シュミット閣下の望んだこと。麻帆良学園はその訓練場に相応しい場所ですから・・・」

そうだったのか。兵士たちはそれと知らずに襲撃作戦に参加していたのである。100人中無事に戻ったのは28名だけであった。だがレリックドーンにして見れば彼らの命など蚊の目玉ほどの軽さだ。彼らは宝探し屋が苦労して入手した秘宝を横取りするのが主だが、だからといって相手をなめてかかって、逆に殺される兵士もいる。それに彼ら自身も宝探しをする。今回はそんな兵士たちの育成、テストを兼ねていたのだ。

「秘宝は手に入りましたか?」

「残念ですが、あの学園は危険すぎます。当面は関わることはないでしょう、関わるのなら・・・。新宿の天香学園ですね。もっとも来年になりますが」

「あなたが指揮を執るのですか?」

「いえ、マッケンゼンが指揮をする予定です。私はあの男は好きではありませんね。それよりあなたも目的を達成できてよかったですね」

「ええ、強化戦士計画は時代遅れです。武力制裁でことを進めれば必ず反発されるのに、彼はそれが理解できない。しかも彼は子供嫌いでね、少しでも反発するものは才能があってもすぐ処分する始末。今回の作戦はルドルフを失脚させ、処刑する口実が欲しかったのですよ」

アーダルベルトは唇で笑った。なんとなく冷たい感じがする。フリードリヒは何気なく質問した。

「超能力戦士たちはどうするつもりですか?」

「その件は大丈夫です。迷惑料を支払いましたから」

ヘリはそのまま夕暮れの太陽へ向かって、飛び続けた。彼の頭には新兵器の強化スーツの研究で頭がいっぱいであった。

 

「お前、最初から奴らと手を組んでいたんだろう?」

広場には緋勇とエヴァ、茶々丸だけが残っていた。他の人たちはこれを避難訓練と偽るために走り回っている。レリックドーンの兵士たちの記憶を消す作業に追われているのだ。超能力戦士たちは学園が世話をすることとなった。

「随分ことが簡単に運びすぎている、スパイにしろ、魔物にしろお前の指示通りに向かえば、その通りに敵と遭遇する。都合よくな」

「・・・」

緋勇は黙っている。しゃがんで煙草を吸っている。

「大方あの財団がむかつく親父を失脚させるために仕組んだのだろうな。それとレリックドーンの兵士たち、これは選別だろうな。現場に即座に対応できる兵士を選ぶための試験なのだろう」

エヴァは見抜いていた。実のところ緋勇は事前からアーダルベルトに依頼されたのである。彼はジル・ローゼスのことなどどうでもよかった。そもそもあの老人は財団でももてあまし気味で、極東の日本へ追い出したくらいである。当時の研究資金は鬼道衆が提供してくれたから、ジルが財団に見捨てられたのもわかる。

ルドルフも財団では不要の存在で、今回の失敗を口実に彼を処刑するつもりであった。ゲオルグはルドルフの部下であることも、教えてもらった。つまり知らぬはルドルフとゲオルグだけであった。1000万ドルの小切手は麻帆良に対する慰謝料と、生活費を含めたものなのだ。ルドルフは1000万ドルで売られたといってもいい。

「まあ、私にはどうでもいい話だ。じゃあな」

エヴァは去った。茶々丸も礼儀正しくお辞儀をすると彼女についていった。

緋勇は何も答えず、ただ煙草を吸っているだけであった。彼が見つめる先には沈み行く赤い夕焼けだけであった。

 

続く

 

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あとがき

 

今回はオリジナルキャラが多いです。全員ドイツ語の名前で、一人一人意味があります。

ゲオルグ:ギリシャ語で農夫。

ルドルフ:古高地ドイツ語で名声の狼。

アーダルベルト:ゲルマン語で輝かしい血統。

フリードリヒ:平和と支配。

ネギまより、魔人サイドに近い話になりました。それにレリックドーンも特別出演してますし。ただ魔人キャラやネギまの生徒たちを無理やり登場させているのが、ちょっとあれでした。アーダルベルトのモデルは九龍妖魔学園記で、クエストに出てくる薔薇十字財団の人がモデルです。ルドルフは老いたマッケンゼンに似てますね。フリードリヒが実は女なのは、あんまり意味がない気がしました。今回はワルサーP38など小物などに凝ったつもりです。次回はお別れパーティで、最終回です。期待してください。では。