ネギま外伝その5

 

「ところで刹那さん。緋勇って人どれくらいすごいの?」

明日菜が質問してきた。5年前に一度会ったきりだからよくわからないのだ。

「確かロゼッタ協会で一番の宝探し屋、スペンサー・ロックフォードのバディを勤め、レリック・ドーン率いるテロリストを粉砕したと聞きます。さらにM+M機関の異端審問官すら躊躇する魔物も倒したというつわものですよ」

「・・・」

明日菜もネギも聞いたことのない単語を並べられてもピンとこない。刹那にしてみればそれだけで緋勇が大物だと思ったのだろう。そこへ真名が横から口を出した。

「緋勇龍麻は1998年、東京を中心に鬼道衆や柳生宗嵩と戦い勝利した魔人さ。刹那、忘れたのか?」

「あ・・・」

鬼道衆だの柳生だの言われても、やはり明日菜たちはピンと来ない。業界人にしかわからない、業界用語なのだろう。

「美里先生もそうだが、以前お前が戦った蓬莱寺という剣士も緋勇と一緒に闘ったことがあるのだぞ?私と一緒に来た織部さんたちもそうだ」

真名の説明によれば、御門晴明、芙蓉、村雨祇光、コスモレンジャー、霧島諸羽、舞園さやか、雨紋雷人、藤咲亜里沙もそうだという。

「そういえば長瀬も図書館島の地下で自分と同じにおいのする男と出会ったと言っていたな。おそらく緋勇さんの仲間の一人だろう、以前学園長が言っていたし」

「へぇ〜、緋勇さんは顔が広いのですね」

ネギは素直に感心している。

「うう・・・」

刹那はなぜか顔を赤くしてうつむいてしまった。自分があまりにも緋勇について知らなかったことが恥ずかしいのである。

「まあ当時はまだ刹那は京都にいたし、ここに来てからは大好きな木乃香お嬢様の警護で頭がいっぱいだったからな」

「た、龍宮!!」

刹那は真名に食って掛かった。それを見て明日菜たちは笑った。

 

さて当日緋勇は秘密の場所で仲間たちを集めた。裏密ミサという女性の魔法で生徒たちを眠らせ、御門が用意した式神と入れ替えるのである。すでにスパイは判明している。あとは敵が襲撃するのを待つだけである。

明日菜たちは裏山で待機していた。敵がくるならここからだろうと、緋勇があたりをつけたのである。

場に待機しているのは明日菜、ネギ、刹那、真名、古菲、楓の麻帆良チーム。

小太郎は以前洋服をびしょぬれにしたために、那波千鶴にまっすぐ帰宅するよう言われているので、参加していない。のどかと夕映、和美に木乃香は別の方へ待機している。特にのどかはスパイを調べるために連れて行った。

一緒にいる緋勇の仲間は以前会った織部姉妹、藤咲。

あとは二人ほど知らない顔がいた。ピンク色の看護服を着た女性に、金髪の少女。多分緋勇の仲間だから特殊な力を持っているのだろう。

「うひゃあ、粒ぞろいばっかしだ!緋勇って人相当な女たらしなんすかねぇ!?」

ネギの右肩に真っ白なオコジョが乗っていた。オコジョ妖精のアルベール・カモミール。通称カモである。よく下着などを盗むので明日菜にはエロガモと呼ばれている。

「あたしは〜、高見沢舞子だよ〜ん。えへ♪」

「私はマリィ・クレアと申します」

「も〜、マリィちゃんたら日本語達者になっちゃった〜」

「それはもう、あれから5年経ってますから・・・」

ふたりは自己紹介した。精神年齢は金髪の少女が高い。

「ちなみにマリィ様は葵様の妹君であらせます」

「もちろん、義理だけどな」

織部姉妹が言った。

「確かローゼンクロイツはマリィと一番縁が深いんだよね」

「そうなんですか?」

「こう見えてもマリィはあたしらより2歳年下なんだよね」

藤咲が言った。ネギは驚いている。マリィは実際は21歳だが、5年前、とある実験により身体の成長を止められたのである。彼女は超能力開発の実験を受けており、薬物投与やなんやらを受けていた。

「もっとも私の力は幼少時からありました。学院の実験でそれが強化されたのです」

彼女の力は火走り。あらゆるものを燃やし尽くす力。

「葵姉さんの危機に私が立ち上がらなければなりませんから・・・」

彼女の瞳にも固い決意の炎が見える。

他にも緋勇の仲間たちは学園のあちこちに配置されている。緋勇は男性陣とともにローゼンクロイツを迎え撃つという。エヴァはぎりぎりまで出さない。美里はすでに眠らせ、身代わりのロボットを待機させている。なぜロボット?なんでも緋勇が葉加瀬という女性とに頼んで作ってもらったという。

「葉加瀬さんに頼んだのですか・・・。何か見返りを要求されなかったのでしょうか?」

「さあな。私は自分の仕事をこなすだけさ」

刹那は不安そうだが、真名はマイペースだ。

「でもどうして緋勇さんは私たちに魔物退治させるのかしら?」

「それは僕が魔法使いだからでしょうか?」

明日菜とネギは不思議がっている。

「というかさぁ、ネギの兄貴も姐さんも鬼や悪魔を相手にした事はあっても、人間相手はないだろう?それで配置したんじゃないのか?」

ネギの肩の上にいたカモが言った。確かに彼女らは人間を相手にした事はない。修学旅行時には符術使いの女性と対峙したことはあるが、ほとんどは召喚された鬼などを相手にしていた。それに旅行から帰った後もヘルマン伯爵という老紳士と対立したが、彼の正体は悪魔であった。実際に人間を相手にしたことはないのである。

「人間の悪意は怖いぞ?女子供でも平気で殺せる人間は世界じゃごろごろしている。私たちには魔物退治が関の山さ」

真名が言った。さすが戦場での経験が豊富な彼女の言葉には説得力がある。ただ中学生が言う台詞ではないと、織部たちは思った。

 

ばらばらばらばらばら。

ヘリコプターの音がする。軍用のヘリだ。ヘリは中等部のグラウンドへ着陸し、中から武装兵士が数十人降りてきた。学園に設置したビデオカメラから撮影された映像を明日菜たちが見ている。兵士の格好を見て、真名が驚いた。

「驚いたな、まさかレリック・ドーンが一緒とは・・・」

「レリック・ドーン?」

「別名秘宝の夜明け。古代の秘宝を付け狙い、世界制服を狙う組織だ。はっきり言えば関西呪術協会よりたちの悪い連中さ。ロゼッタ協会の宝探し屋がよく狙われているよ」

「でも龍宮さん、よく知ってますね」

ネギは感心している。

「まあね。2年前に一度連中とやり合ったことがあるからね」

「そ、そうですか・・・」

ネギは真名の人生に旋律した。きっと人一人は殺してるに違いないと思った。

ざざー。

手にした小型テレビの映像がいきなり砂嵐に変わった。どうやら敵が妨害電波を流したに違いない。

ぐるぅぅぅ!!

森の影からずしん、ずしぃんと地面が響く音がする。地震のように揺れる。そしてそこから5メートルほどの鬼が現れた。全身赤茶色の肌で、股間を虎柄のパンツを履いていた。一体でも見上げるのに苦労するが、全部で13体。ずらりと横に並ぶ様は鬼の肉の壁であった。その横におまけのように武装兵士が3人ほどいた。彼らの手にはソーコムが握られている。

『なんだぁ?こんなところに餓鬼とアマが群れてるとはなぁ?』

男の声であった。だがドイツ語なので彼女らは理解できなかった。

「死にたくなければ家に帰りな。もうじきここは戦場になるんだぜ?」

今度は流暢な日本語であった。初めから彼女らを相手にするつもりはないようである。だが彼女らは黙ってはいられない。すぐさま行動を開始した。

明日菜のはりせんが鬼に炸裂した。しかし、鬼はにやりと笑いながら叩かれた部分をなでている。あまり効いていない様子だ。彼女のはりせんは召喚された魔物には効くが、物理的存在には効果が薄いようであった。

ネギの魔法、刹那の剣、真名の銃撃、くーの八極拳が炸裂する。もちろん織部たちも負けてはいない。鬼たちは一体、2体と減っていき、どろどろに溶けていった。ついには兵士3人だけになってしまった。

「ふぅ、やったよ!あたしらって強いじゃない!!」

「明日菜さん大丈夫ですか?怪我はないですか?」

「あたしよりあんたはどうなのよ!ほら、腕怪我しているじゃない!!」

くっ、くくく・・・。

兵士が笑っている。リーダー格のようで、横にいる2人の兵士は怯えているようだ。

「いいねぇ、実にいい!!こんな極東の地に、しかも平和ボケしたがきんちょが鬼共を倒しちまうなんてよぉ・・・」

男は面白くてたまらない感じだ。鬼たちを屠った彼女らに恐怖どころか、恍惚の笑みを浮かべている。マスクを被っているが、雰囲気でなんとなくわかる。

「おっと、自己紹介が遅れたなぁ。俺の名前はヴィクトル・ヴィルヘルム。レリック・ドーンの戦闘班長さ。今日は薔薇十字財団から借りたこいつらのお守りとしてきたが、こんな面白いことに出会えるとは・・・、来る途中道に落ちていた空き缶拾ったおかげかな?」

男はマスクを外した。年は40代くらいで、唇が厚く、無精ひげを生やしており、不男の類に入る顔だが、体中にあふれ出す殺気、そして狂気に満ちていた。そして本人はそれを隠そうともしない。しかも人様から借りたものを平気で壊されるのを黙ってみていたから、あまりいい家庭環境で育ったことが分かる。

ヴィクトルはにやりと笑った。どことなく愛嬌があり、言い知れぬ不気味さがあった。

「ヴィクトル・ヴィルヘルム・・・。レリック・ドーンでは戦闘狂いと呼ばれ、持て余され気味の男か・・・」

真名がつぶやいた。

「それってそんなに危ないんですか?」

「ああ、奴一人で100人近い人間を殺戮したとの話さ。しかも全員銃を持って、奴は素手。文字通りのマッドドッグさ」

ネギたちは背筋が凍った。目の前に立っている男は自分たちの知らない世界から来た人間なのだ。

「もっともそのせいで宝探し屋を逃がしたり、秘宝をおじゃんにしたりするから、悪い方に評価されているがね」

それじゃあだめじゃん。ネギたちは心の中で思った。

「でも渋くて素敵かも。危ない雰囲気がまた・・・」

「こらこら!!」

おじ様好きの明日菜にはヒットしたようだ。全員明日菜に突っ込む。

「そうそう、こことは別に化け物どもはまだ待機しているぜ?確かここから東の場所だ、そいつらを潰さなくていいのか?」

「・・・、なぜそんなことを教える?」

真名が聞いた。わざわざ自分たちが不利になることをいうのが不可解なのだ。だがヴィクトルはにやりと笑った。

「構うものか、どうせあれは薔薇十字のものだ、俺には関係ない。俺は自分が楽しければいいんだよ」

この男は根っからの戦闘マニアだ。真名はそう感じた。逆にこの男が信用できると踏んだのである。

「織部さんたちは魔物を追ってください。ここは私たちがやります」

真名がモデルガンを両手に持ち、構える。

「任せてよろしいのですね?」

雛乃が聞いた。

「任せてください」

雛乃はこくんとうなずくと、マリィと藤咲を連れて行った。後に残るはネギと教え子たちのみとなった。

「いいのか?大人を外しても?」

「あの人たちは強い、それより3対6だが大丈夫なのかな?」

「あん?1対6だろう?」

ヴィクトルが言った。

「せっかくのお楽しみをこいつらに分けるなんてもったいねぇ。お前らの相手は俺一人だけだ」

「そ、そんな・・・」

「班長、フリードリヒ隊長に怒られますよ?」

兵士ふたりは恐る恐る答える。

「いいんだよ。どうせ今回の演習は俺らのようなくずを振るい落とすためのものだ。いまさら何をやったって構うものか」

「大した自信だな。1対6で勝てる見込みがあるのか?」

するとヴィクトルは腕を組みながら、悩みだした。

「どうだろうか、もしかしたらお前らの方が圧倒的に有利かもしれないなぁ」

この男、どこまで本気で言っているのかわからない。だからこそ戦場経験豊富な真名はこの男の身にまとう不気味な何かを感じているのだ。

「それでも我々と戦うというのか?負けるかもしれないのだぞ?」

「それでも男が一度決めたことを変える気はない。おい、ケルシュ、クヴァーク!絶対手を出すなよ、出したら即殺すからな!!」

その瞬間ヴィクトルがくーふぇの間合いに入った。一瞬であった。ヴィクトルの右拳が彼女の顔に決まろうとした。

ぎゅるり。

くーふぇは左手で払い、身体を捻ると、回転するように右腕を振るった。

八極拳、転身胯打である。相手の初歩を誘ってのカウンターである。中国拳法ではカウンターは得意中の得意なのだ。無論実戦経験がなければできない技だ。

あとは拳と拳のぶつかり合いであった。真名は援護しようにも動きが鋭く、狙いがつかない。

「しゃあ」

くーふぇの腹部にヴィクトルの突きが決まった。くの字に曲がって、くーふぇは倒れる。

「くーふぇさん!!」

ネギたちが彼女へ駆け寄った。彼女は気絶しているが、命には別状がないようである。

「なかなかのクンフーだったぜ。正直本気を出さなきゃ負けるところだった」

「・・・」

「だがお前ら、数人がかりで来たっていいんだぜ?これは試合じゃねえ、一対一の見栄などいらん。敵を確実に倒す、殺す。それが戦いってもんだぜ?」

「くーが一生懸命だったのでな、つい見入ってしまったよ」

そういうと真名は手にした銃でヴィクトルを撃った。マシンガンのように撃ち込む。だがヴィクトルはことごとくかわしていく。その横を明日菜と刹那が武器を持って襲い掛かった。横からの攻撃に一時休止かと思われたが、ヴィクトルはそれらをあっさりと受け止めてしまった。特に明日菜は軽く吹っ飛んでしまったのだ。

「ほう、魔法使いの従者のアーティファクトか。魔物相手なら十分だが、俺には通用しないぜ?」

ひゅん!!

ヴィクトルは右腕を振るうと刹那を吹っ飛ばした。

「ま、魔法使いの従者を知っているなんて・・・」

ネギは驚いた。明日菜を魔法使いの従者、パートナーを見抜いたのであるから。

「思うにマギステル・マギはそこの餓鬼だな。大抵パートナーは異性を選ぶもんだ。まあ闇の福音は別だがな」

ますます驚いた。レリック・ドーンというのはただのテロ集団でないと認識した。

「よし、ラス・テル マ・スキル マギステル!!」

ネギは詠唱呪文を唱える。

「風の精霊17!! 集い来たりて‥‥     魔法の射手(サギタ・マギカ) 連弾(セリエス)・雷の17矢(フルグラーリス)!!

魔法の射手で、電撃属性の「雷の矢」を放つことができる。これを一般人がくらえばかなりのダメージを期待できる。だが。

「風の精霊を17人召喚か、なかなかやる」

ヴィクトルは何やら呪文を唱え始めた。雷の矢はヴィクトルに必中したが、なんとこの男それに耐え切ったのである!!

「戦いの歌!!」

自分の体術に魔力を供給する魔法である。この男も魔法使いだったのか!!

「俺は落ちこぼれよ。ドイツのブロッケン魔法学校を中退した後レリック・ドーンに拾われたのさ!!」

ひゅう!!

ヴィクトルの右突きで、大木が2本折れた。とんでもない威力だ、当たれば、いや、触れるだけでもタダではすまない。この男は魔法剣士スタイルのようだ。従者も必要としないタイプであろう。

「ニンニン♪」

楓も自慢の分身の術を屈指し、対応するが、ヴィクトルの戦闘力は桁違いである。分身ごと殴りつけるし、真名も銃を撃つが、手甲で弾いてしまう。モデルガンなので実弾とは程遠いが、弾丸には特殊効果を施してあるので当たれば人を眠らせる効力がある。数人がかりでもまったく歯が立たないのである。

「ちょ、ちょっと、こいつ強すぎ〜」

明日菜は弱音を吐いてしまう。あまりにも目の前に立つこの男は別世界の魔物だと思った。すでに息が上がっており、息をするのも楽ではなかった。

「・・・あなた元魔法使いなのでしょう?どうして悪い人たちの仲間になっているのですか?」

ネギが聞いた。立派な魔法使いを目指すネギにとって、ヴィクトルは同じ魔法使いであり、裏切り者でもあるのだ。

「あん?決まっているだろう、強い奴と戦うためさ」 

まるで小太郎のような男だ。きっと強くなることに喜びを感じるのであろう。

「うちの組織はひとりの宝探し屋に10人がかりで襲撃するのが普通だが、中にはひとりで複数相手にする奴はざらさ。今までやりあった奴はロックフォードやサウザンドマスター・・・」

「サウザンドマスター!?あなたはお父さんと戦ったことがあるのですか!!」

ヴィクトルの口から意外な名前が飛び出し、ネギは驚いた。それを見てヴィクトルはにやりと笑った。

「お前名前は?」

「ネギ、ネギ・スプリングフィールドです」

「なるほどな、奴の息子かよ。薔薇十字から10歳の餓鬼が教師をやっていると聞いたが・・・。落ちこぼれの奴にしてはずいぶん利口なことだな、学校の教師をやっているんだからな」

「・・・あなたはお父さんを知っているのですか?」

「ああ、知っているよ。なにせ11年前奴を殺したのは・・・」

ネギの顔が青くなった。ヴィクトルはそんなネギを見て、唇で薄く笑った。

「俺さ」

その瞬間ネギの中で何かが弾けた音がした。

ネギがヴィクトルの懐に入った。いつ動いたのか、近くにいた明日菜にすらわからなかった。

どん!!

ヴィクトルの身体が浮いた。ネギの突きが決まったのだ。魔力がこもっているからその威力もすごい。さらにネギは追い討ちをかけ、ヴィクトルの腹部を乱打した。

肘打ち、左蹴りが決まる。

魔力の暴走。

ネギの魔力は膨大だ。それがあるきっかけで一気に解放されれば、絶大な威力を誇る。

だが周りは見えていないし、決め手もない。ただ目の前の敵に言い知れぬ殺意のみを抱いている。

狂戦士。敵も味方も関係ない。さらに自分の身体も省みない。

魔力はドンドン溢れ出し、さらに暴走を始めた。ヘルマン伯爵の戦いと同じ状況となった。あの時は犬上小太郎が止めたが、彼はここにいない。がんがんに石炭を焚いた暴走機関車だ、衝突するまで止まることはないだろう。

「ね、ネギ!!」

明日菜の言葉もネギの耳には届かない。

「せ、先生はあの男の嘘に騙されています!明日菜さん、早くネギ先生を止めないと取り返しがつかないことに!!」

刹那がいう。身体はぼろぼろで、愛刀の夕凪を杖代わりにしている。ヴィクトルの嘘とは何だろうか?

「真名!長瀬さん!!奴の気をそらせてください!!私はその隙にネギ先生を止めます!!」

「止められるでござるか?ネギ坊主を」

「止められなきゃだめなのですよ!行きますよ明日菜さん!!」

刹那は勝算があるわけではなかった。だがネギを止めねばならない、その意志だけが彼女を動かしているのだ。

ヴィクトルはネギと戦っている。一見不利に見えるがヴィクトルは余裕があるようだ。魔力が供給されていてもネギはまだ10歳だ。それにヴィクトル自身も魔法使いだ、彼の方が有利なのは変わりはない。

ばきゅうん!!

ヴィクトルの頬に銃弾が掠った。一瞬だけだがヴィクトルに隙が出来た。その隙に明日菜のはりせんがネギの頭に決まった。正気に戻るネギ。

「あ、明日菜さん?」

「このバカネギ!!またあんた暴走したでしょ!!教師の癖にキレすぎよ!!」

ぎゅう。

明日菜はネギを抱きしめた。優しく愛おしくネギを抱く。

「あんたに何かあったら誰が悲しむと思っているのよ・・・」

「・・・」

「お姉さんに幼馴染のアーニャって子、それに私たちが悲しいじゃない・・・」

「明日菜さん・・・」

ネギはきゅっと明日菜の腕を握った。そこへ刹那が口を出した。

「ネギ先生。確か先生のお父さんサウザンドマスターは10年前に行方不明になったと言われてますよね?」

「え?は、はい」

「あの男は11年前と言いました。その当時先生はまだ生まれてないはずですよ。もちろん年代からしてお母さんのお腹にも・・・」

刹那は赤くなった。保健体育で習ったことを言っただけだが、恥ずかしいのである。

「ちぇ。ばれたか。もう少し楽しめると思ったのによぉ」

ヴィクトルは両腕を後ろに汲みながら、ふてくされていた。

「子供相手に本気を出すのは大人気ないと思うが?」

真名が言った。

「面白いことには全力で取り組む、それが俺の信条でな」

ヴィクトルはくるりと後ろを向くと、すたすたと歩き出した。その後を付いてくる兵士二人。

「班長、こいつらをどうしますか?」

「・・・興が削がれた。やる気が起きん。やりたきゃお前らでやれ」

「やれと言われましても・・・」

ふたりは班長とやりあった彼女らと戦う気がしないのだ。こちらはソーコムとコンバットナイフを所持しているが、たいしたハンデにはならないと思った。

「アウフヴィーダーゼーエン」

「ま、待ってください〜」

ヴィクトルは森の中へ消えた。兵士ふたりも彼の後へついていった。

ネギたちはへなへなと座り込んだ。戦いの緊張の糸が切れたのである。同じ人間、しかも魔法剣士との戦いは精神に大いに負担をかけた。立っているのは真名と楓くらいであるが、彼女らもあまり余裕があるとは思えなかった。

「あの男最後になんと言ったでござるか?舶来語は難しいでござるよ」

「ドイツ語でさようならと言ったのさ」

 

「あ、雛乃さん」

「まあ、真名様ご無事でしたか?」

1時間後、彼女らは合流した。織部たちも魔物と戦ったがエヴァンジェリンのおかげで何とか勝てた。緋勇たちもローゼンクロイツのスパイが仕掛けた爆弾を解除したりと、なんとか退けることが出来た。残るはローゼンクロイツの超能力戦士たちと、レリック・ドーンの兵士たち約72人。ローゼンクロイツの幹部、ルドルフはヘリに連れ去られてしまったが、緋勇は問題ないと断言している。超能力戦士たちはほとんどが子供で、彼らは学園が保護することとなった。

「・・・緋勇さんはなぜ魔物が来ることを知っていたんだろうな?」

真名が刹那に言った。

「まあ、ちょっと出来すぎだと思ったが・・・」

ローゼンクロイツの人間が来ることはわかっていただろうが、なぜ魔物も一緒に連れてくることを知っていたのだろうか?確かに今まで魔物が学園を襲ってきたが、なぜ今回も連れてくることがわかっていたのだろうか?もっともレリック・ドーンは予想外だろうが。

「きっとあの人の勘は常人より鋭いのだろうな」

真名はそう言うと何も言わず歩き出した。刹那は彼女の言いたいことがわかったが、あえて口に出す気はなかった。

 

終わり

 

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あとがき

 

今回はネギたちとレリック・ドーンのバトルを中心に送りました。

実は今回その4のフォローのために書きました。でんじん様に刹那が緋勇を知っていても京一を知らないのはおかしいということで、フォローしました。

それを刹那が木乃香ラブなため、京一のことをすっかり忘れていたという豪腕展開でしたが。逆にフォローになってないかも。

魔人学園サイドの人間はおまけ程度で、九龍サイドに近いですね。

ちなみにオリジナルキャラのヴィクトル・ヴィルヘルムは夢枕獏の魔獣狩りに出てくる猿翁という老人と、九門鳳介を足して2で割ったキャラです。やはり今回も夢枕獏の色が強いです。

ヴィクトルはラテン語で勝利という意味があり、ヴィルヘルムは古高地ドイツ語で強い守護者という意味です。どちらもドイツ語です。

兵士ふたりの名前で、ケルシュはドイツのビールで、クヴァークはドイツのチーズです。

レリック・ドーンのメンバーはドイツ語つながりが多いですね。でもフルネームがあるのはヴィクトルだけですね。