月と太陽と巫女

 

荒川区にある私立ゆきみヶ原女子高等学校はお嬢様学校で有名である。

そしてここには名物生徒がいる。織部雪乃と雛乃の双子の姉妹だ。

姉の雪乃は明朗快活で元気いっぱい。長刀の師範代級の腕前を誇る。

妹の雛乃は清楚で控えめな少女だ。彼女は弓道部部長である。

いわゆる下級生は雪乃に対し宝塚みたいなイメージを抱いている。雪乃に男装させて、雛乃がヒロインになる話を妄想したりするのだ。

 

 

「なぁ、美里さん。女はおしとやかなほうがいいのかい?」

ある日美里葵は織部雪乃に呼ばれた。ラーメン屋であった。相談があるからと誘われたのである。雪乃はチャーシューメンを頼み、葵は塩ラーメンを頼んだ。もちろん雪乃のおごりである。

「雪乃さん。どうして私に聞くのかしら。小蒔に聞いたらどうかしら?」

美里が言った。これは自分よりも付き合いの長い小蒔に相談したほうがいいのではと言う意味だ。

「小蒔じゃだめなんだよ。付き合いの短い美里さんじゃないとだめなんだ」

雪乃はラーメンを食べながら言った。

「それが先ほどの言葉と関係があるの?」

「ああ、俺ってさあ、お嬢様学校に通っている割にはがさつだろう?自分でもわかっているけどどうにもならないんだ。みんな俺と雛をくらべるんだよ。妹と比べると品がないってね」

「そんなことはないと思うけど」

「まあ小蒔ならそういうと思うけどな。でも小蒔じゃ細かいことは気付かないだろう?あいつはいいやつだけど俺に似て大雑把だからな」

これは美里も同意した。

「それで雪乃さんはどう言われたいのかしら?女はおしとやかでなくてもいいと言われたいの?」

美里の問いに雪乃は答えられなかった。

「雪乃さんは安心したいのじゃないかしら。自分の望む答えを私に求めていると思うの。でも私に言わせれば雪乃さんは雪乃さんらしくしていいと思うわ」

「俺は俺らしく・・・」

「そうよ。他人の言葉に惑わされてはダメよ。雪乃さんにとって雛乃さんは大切な人なのでしょう」

「ああ、それは胸を張っていえる。俺は雛乃が大好きだ」

「なら、それでいいのよ。悩むのは雪乃さんらしくないわ」

雪乃の顔は晴れやかになった。ラーメンのどんぶりは空になっていた。

 

 

「あの美里様。女性はもう少し元気なほうがよろしいのでしょうか?」

雪乃の相談を受けた後、葵は織部雛乃に呼ばれた。喫茶店であった。雛乃はあんみつを頼み、葵はお汁粉を頼んだ。もちろん雛乃のおごりである。

「雛乃さん。どうして私に聞くのかしら。小蒔に聞いたらどうかしら?」

美里が言った。これは自分よりも付き合いの長い小蒔に相談したほうがいいのではと言う意味だ。

「小蒔様ではだめなのです。付き合いの短い美里様でないとだめなのです」

雛乃はあんみつを食べながら言った。

「それが先ほどの言葉と関係があるの?」

「はい。わたくしはお嬢様学校に通っておりますがあまり目立っているとは言えません。自分でもわかっておりますが、どうにもならないのです。みなさまはわたくしと姉さまをくらべるのです。姉と比べると地味すぎると」

「そんなことはないと思うけど」

「まあ小蒔様ならそうおっしゃると思います。でも小蒔様では細かい気配りはできません。小蒔様は天真爛漫ですが、大雑把なところがあるからです」

これは美里も同意した。

「それで雛乃さんはどう言われたいのかしら?女は少し元気なほうがいいと言われたいの?」

美里の問いに雛乃は答えられなかった。

「雛乃さんは安心したいのじゃないかしら。自分の望む答えを私に求めていると思うの。でも私に言わせれば雛乃さんは雛乃さんらしくしていいと思うわ」

「わたくしはわたくしらしく・・・」

「そうよ。他人の言葉に惑わされてはダメよ。雛乃さんにとって雪乃さんは大切な人なのでしょう」

「はい、それは胸を張っていえます。わたくしは姉さまが大好きです」

「なら、それでいいのよ。悩むのは雛乃さんらしくないわ」

雛乃の顔は晴れやかになった。あんみつのどんぶりは空になっていた。

 

 

「・・・ということがあったのよ」

ここは真神学園の教室である。葵は友人の小蒔に織部姉妹の話をしたのだ。

「そんなことがあったのか。雪乃も雛乃もぼくに相談すればいいのに!!僕のほう付き合い長いだよ!!」

薄情な友人達に小蒔は頬をふくらませて怒った。

「付き合いが長いからこそ、相談できなかったと思うわ。小蒔なら相談されても大丈夫としか言わないでしょう?」

「えへへ。たぶんね。葵の言うとおりだよ」

小蒔も自覚があるらしい。てへっと舌を出しておどけた。

「双子は生まれたときは一緒でも、あくまで個人。でも二人から同じ相談を受けたときは驚いたわ。二人とも互いに対したコンプレックスに悩んでいたもの」

「そうだねぇ」

小蒔は空を見上げながら言った。

 

 

「姉さま」

「なんだ雛乃」

ここは織部神社。二人とも巫女装束である。

「この間おひとりでどこかに出かけたようですが、どこへ出かけられたのですか?」

「そういうお前もどこかに出かけたようだけど、どこへ出かけたんだ?」

すると二人の口はもごもごと詰まってしまうのである。二人とも互いに言えない相談を葵にしていたからだ。

「まあ、どうでもいい話だ。俺たちは仲良し姉妹なのは間違いなしなんだからな」

「そうですわね。わたくしたちは本当に仲のよい姉妹ですわ」

二人は朗らかに笑った。外は暖かい日差しに包まれていた。

 

終り

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あとがき。

 

今回の題名は石井輝男監督の『花と嵐とギャング』をイメージしておりますが、題名だけです。中身は全く違います。

今回の話は山田風太郎先生ぽい作風にしました。双子の巫女織部姉妹が美里葵に同じ質問をし、一言一句同じ文章で話が進みます。

 

2009年5月8日