如月骨董品店大掃除

 

如月骨董品店の庭には大きな蔵がある。大正の関東大震災から、戦争の東京大空襲にも耐えた立派な蔵だ。その蔵の鍵は代々主が管理している。さらに蔵には特別な結界が張られており、泥棒が盗みに入っても幻を見てあっぷあっぷと溺れる夢を見る羽目になる。そして目が覚めるときは警察署の留置所となるわけだ。

その蔵の中を3人の男たちがいる。

蓬莱寺京一。

壬生紅葉。

村雨祇光。

珍しい組み合わせである。

実は彼らは店の主である如月翡翠と麻雀をして負けてしまい、その代償として蔵の整理を手伝っていたのだ。

「ちくしょー!なんで俺がこんな目にぃぃ!!」

京一は悪態をついていた。さきほどからわめいてばかりでちっとも作業は進んでいない。その横を壬生と村雨が黙々と作業を続けていた。

「おめぇらぁ!!なんで腹がたたねぇんだよぉ!!」

「腹を立てたところで賭けが消えるわけじゃない。今日丸一日手伝えば賭けはチャラだ。なんで真面目に働けないのか不思議でならないね」

壬生は振り向きもせず自分の仕事を続けている。

「くそー!!あんときあの牌を切らなきゃこんなことには・・・」

「負けた理由を反省するならともかく、すぎたことを愚痴ると幸運が逃げるぜ?」

村雨はそういいながら適当にあたりを物色していた。手には如月が用意したリストを持っていた。村雨は適当にあたりをつけると、そこには目的のものがあった。

「村雨ぇ・・・。お前の力は幸運なんだろう?なんで如月如きに負けるんだよ!!」

ちなみにトップは如月で、次は村雨と壬生。ビリは京一だが壬生との差は開きすぎている。壬生は麻雀は初めてだがすぐにルールを覚えた。そして堅実にゲームを進めていった。実のところ如月と村雨、壬生の得点の差は100点であった。ぎりぎりの戦いと言える。京一は物欲まみれであがられてばかりだった。

「俺の力は都合よく決まるわけじゃない。俺の運が相手を上回ると運を食らうどころか、消化不良を起こすのさ。かつて歌舞伎町で戦ったとき、俺は負けただろう?本当にツキをコントロールできたなら大切な人を危険に晒すことがあるものかい」

村雨はそれっきり口をつぐんだ。そして作業を続けている。京一もそれ以上質問をしなかった。

 

 

「さて問題の品はこれですか」

壬生はダンボールに入っている品を見た。そこには真っ白な花と曼荼羅図、水晶のような石に真っ白な手首が対に揃ってあった。

「どちらが装備品で、どちらかが道具だそうだよ」

「これを見るとどっちがどっちだかわからないな」

壬生と村雨は頭をひねる。京一は鼻をほじりながらぼうっとしていた。

「まずは白い花から始めましょう。どちらかが白蓮花で、どちらかが月草だそうですよ」

「よし蓬莱寺。お前この花を握れ」

村雨に勧められて京一は白い花を手にした。

「いくよ」

壬生は左足を高く上げた。京一はそれを黙ってみていた。そして足は京一の頭部に決まった。

「ほげぇ!!」

京一の両目がピンポン玉のように飛び出した。まるで70年代の千○真○出演の空手映画に出てくる悪人の最後みたいであった。

「確か白蓮花は防御力をあげる効果があるはず。これは月草のようですね」

「そのようだ。名札をつけておこう。蓬莱寺、月見酒で回復してやろう」

 

 

「てめぇら、いきなりなにしやがる!!」

京一は咆えた。しかし二人はどこ吹く風である。

「一応試したかっただけです。道具を使わずにね。それだったら装備して効果を確かめるべきだと思いますが」

壬生は淡々と答える。この冷静さが余計腹立たしい。

「じゃあ、今度は俺に試させろ」

京一は含み笑いをしながら箱の中から真っ白な手をふたつ取り出した。

「どちらかがファティマの手で、栄光の手だね。ファティマの手は石化に混乱、魅了と呪いの効果を防ぐ効果があるはずだよ」

京一と壬生は蔵の外に出た。

「へへっ、さっきのお返しだ、剣掌・鬼剄!!」

剣掌・鬼剄は気のほかに混乱の効果を生む技だ。壬生はそれをモロに受ける。しかし、壬生は膝をついただけで混乱している様子はない。どうやら当りを引いたようである。

「ちっ、面白くねぇ」

京一はふて腐れていた。

「じゃあ、今度は俺が試すぜ。俺はこいつを選ぶぜ」

そういって村雨が差し出したのは曼荼羅図であった。

「どちらかが大極図で魅了を治すらしい。もうひとつは金剛界曼荼羅と言って闇と呪いを防ぐそうだ」

「おう、壬生。がんばれよ」

京一はにやにや笑いながら壬生の肩を叩く。

「何言ってんだ。壬生はさっきためしたばかりだろう。今度はお前がやれ」

「なんだとぉ!!俺はさっき壬生に殺されかけたんだぞ!!だったらお前がやれ!!」

「やりたいのはやまやまだが、この曼荼羅図は俺しか試せないんだよ。俺は越後呪歌という花札を装備している。こいつは呪いの効果を生むんだ。石の場合だと陰陽石で魅了を防ぐ効果がある。魅了の力を持つものはここにはいないんだ。だから俺は呪いの効果を確かめられる曼荼羅図を選んだのさ」

「くそぉ、村雨のくせに小難しいことを並べやがって・・・」

「そんなに嫌なら替わりますが・・・」

壬生が交代を申し出たが、村雨は手を差し出して抑えた。

「こういうのは嫌がる奴にやらせたいのさ。特に蓬莱寺のマヌケ面は懲らしめてやりたくなるのさ」

「やらしい性格ですね、村雨さん」

このまま言い争っても時間だけが無駄にすぎる。ならばじゃんけんで決めよう。そういうことになった。

「じゃんけんぽん!!」

結果は京一の負けであった。何しろ京一は異常なまでに念を発していた。暗殺者である壬生が相手の気配を読めないわけがなかった。今の壬生には高校生が小学一年生のなぞなぞを解くのと同じであった。

「ちくしょー!!さっさとやりやがれ!!」

「よし、じゃあ牡丹・・・」

ところが発動したのは五光狂幻殺であった。光と混乱が京一を襲った。

ぎゃー!!

「これはどういうことでしょうか?」

壬生は首をかしげる。

「こりゃあ、蓬莱寺の運が悪いってことだな。普段なら力を抑えて役を選べるんだが、牡丹が五光になるとはねぇ」

村雨は顎鬚をさすりながら言った。

京一はすっかり混乱していた。

「あは、いひ、うふ、えへ、おほ・・・」

京一はふらふらとわけのわからないことをつぶやき、ゴリラのようにのっそのっそと歩き回っていた。京一の装備しているのは金剛界曼荼羅だったようだが、混乱の効果で京一の頭はすっかりぐちゃぐちゃになっていた。

「蓬莱寺さんはほうっておきましょう。愚痴を聞かされるより放置していたほうが作業がはかどります」

「それもそうだな」

壬生と村雨は混乱している京一を放置して蔵の中へ戻った。

「か〜ら〜す〜、なぜなくの〜?からすのかってでしょ〜、かぁかぁ」

京一は空を飛ぶ仕草をしながらげらげら笑い続けていた。

 

 

「なんだ、これは・・・」

如月は蔵の作業を見に来た。手にはあんパンとクリームパンがたくさん入ったビニール袋を提げていた。お茶を淹れた魔法瓶も持っている。外で京一が混乱しており、げらげら笑いながら庭を歩き回っていた。如月はこめかみに指を当て、しばし考える。

「あんまり歩き回られると迷惑だな。飛水影縫!!」

技が決まり、京一は麻痺した。京一は彫像のように固まった。某キャラメルのパッケージのイラストに似ていた。如月は一瞥すると蔵の中へ入っていった。京一の頭に鴉が一羽止まった。

「・・・おい!!なんで俺を麻痺にするんだ!!」

如月が蔵の入り口から顔を出した。

「君を自由にすると作業がはかどらないからね。後日、商品調達に付き合ってもらうから、今日は丸一日そこに立っていてくれ」

如月は首を引っ込めた。

「ちくしょーーー!!今日は朱日ちゃんを口説きたかったのにーー!!」

ぽいっ。

こん。

「イテッ」

それは如月が投げたコスモレンジャーの製作のコスモロボであった。それが京一の頭に当たったのである。

「ちくしょーーー!!コスモロボパンチは屈辱だ!!」

京一の叫び声だけがこだまするのであった。それに答えたのは鴉一羽だけであった。

 

終り

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あとがき

 

今日一日で書き上げました。

今回は京一が主役のスラップスティックスですね。京一、壬生、村雨と来たら、いじられキャラは京一で決まりです。京一なら違和感がないのです。

配役は朧綺譚の螺旋洞第48問から取りました。

装備品と道具ではデザインが同じものが多いです。装備品の靴も風火輪と同じデザインのがあるんですよ。確かヘルメスの靴だったかな?忘れたけど。

発売から11年経つというのにネタが途切れないのはすごいです。