『実録!!コスモレンジャー』

 

2005年、1月。天香学園内にあるファミリーレストランマミーズの店内である集まりがあった。それはあるテレビ番組をみんなで観るという他愛のない集まりであった。

そのうちの一人、皆守甲太郎はあくびをかみ殺していた。彼としてはベッドの上で寝ていたい時刻であったが、今日は特別である。学園は冬休みになっていた。地方から来ているものはひさしぶりに故郷に帰郷しているが、中には帰らない者もいる。皆守はそのひとりであった。

「なんで俺がテレビを見るために起きなきゃならないだか……」

皆守は愚痴をこぼした。

「いいじゃないの。みんなでワイワイテレビを観るのは楽しいよ。ねえ、白岐さん」

皆守の隣にいた八千穂明日香が、クラスメイトである白岐幽花に振った。元は八千穂がマミーズのウェイトレスである舞草奈々子に誘われたのである。マミーズがスポンサーとして参加しているから、観てみないかと。

宴が好きな八千穂はただひとりでテレビを観るのはもったいない。ぜひとも友達と一緒に観たいと言い出したのである。生徒会に許可を取りに行ったが、冬休みということで許可が下りた。

「わたし……、特撮を観るのは初めて……」

白岐はしどろもどろに答えた。その様子は決して嫌がっているわけではなく、大勢の人の中でテレビを観るという行為に胸を躍らせているようであった。

「しかし、なんだな。ガキのころに見かけたもんが、ブラウン管の中で拝めることになるとは

皆守はアロマを咥えながら言った。その爆弾発言に八千穂は驚いた。

「皆守くん、コスモレンジャーを知っているの?」

「まあな。中学じゃあ、そいつらを知らないやつはいないってくらい、評判だった。俺の同級生も熱烈なファンでな。しかも、そいつらの知り合いときてる

「ええっ!!皆守くんはコスモと顔見知りなの!!」

「一度紹介されたことがあった。暑苦しい連中だったぜ」

皆守にとってはどうでもいい話だが、八千穂は興奮を抑え切れなかった。

「すごいでしゅ!!ボクも北海道に住んでた頃からコスモのファンでしゅ!!」

「リカも〜、兵庫に住んでいた頃は〜、彼らの活躍を〜、風の噂で聞いたことがございますわ〜」

肥後太蔵と椎名リカである。年齢は皆守と同じだが、精神年齢は幼かった。しかし、肥後はパソコン関連に造詣が深く、リカは爆薬作りの名人であった。天香学園は性格に難があっても一芸に秀でた人間を日本各地から集めていた。

さて皆守たちのいうコスモレンジャーとはなんであろうか?時代は約7年前に遡る。

東京は練馬区にある高校があった。私立大宇宙学園といい、そこは生徒の個性を尊重するといって、入学試験は論文と面接のみとなっていた。

「世のため人のためになる人間を育てる」という理念を掲げているが、その判断基準はあくまで生徒に委ねていた。

その中で異質を放っていたのが大宇宙戦隊コスモレンジャーである。彼ら新宿花園神社でヒーローショーを行ったり、人命救助を行っていた。しかも、彼らは表彰などをすべて断っており、メディアの取材も断っていた。しかし、個人のファンがネットでファンクラブを作ることを規制しなかった。彼らの活動は1999年で終わっていた。高校を卒業したためである。活動は停止したが地元のファンなど未だに熱が冷めていなかった。インターネットという触媒で今もファンたちは交流を続けていた。

そのコスモレンジャーがテレビに出る。ファンとしては狂喜乱舞といったところか。

「確かコスモレンジャーのひとり、コスモブラックはサッカーで有名な黒崎隼人選手なんだよね。レッドはオリンピックの野球の代表選手に選ばれた紅井猛選手なんだよ」

八千穂は自慢げに薀蓄を話す。そこに白岐が相槌を打った。

「よく、知ってるわね

「もちろん、わたしもファンだもん。中学時代から毎週ネットでチェックしてたもんね」

「毎週?毎日ではないの?」

「当時は通信料が高かっただよ。今みたいに格安じゃなかったからね。お父さんと一緒に見ていいサイトかどうか見張られていたっけ

八千穂は懐かしそうに上を見上げる。

「もうそろそろ始まるようね」

 

 

『大宇宙戦隊コスモレンジャー』

出演。

紅武流『くれない・たける』コスモレッド。根岸祐二。

黒城十郎太『くろき・じゅうろうた』コスモブラック。高木八景。

桃園花音『ももぞの・かのん』コスモピンク。中村知香。

時任ゆかり『ときとう』。舞園さやか。

死体博士。雨紋雷人。

地獄女王。藤咲亜里沙。

毒蝮将軍。白虎マスク。

音楽・CROW.

監督・皮裂美登(かわさき・みのる)

 CM

『マミ〜ズ、マミ〜ズ、みんなのマミ〜ズ♪みんなの憩いの場所。ファミリーレストランマミーズは24時間営業で皆様をお待ちしております』

『骨董品なら、北区の如月骨董品店へ』

『御門グループは幅広い人材を求めております』

 

 

「……なんか豪華すぎないかな?」

八千穂はテロップに流れた人名を見て、目を剥いた。そして皆守は首を傾げた。

「豪華って、お前知っているのか?」

「知っているのかって……。舞園さやかの名前が出てるんだよ!!あの平成の歌姫である舞園さやかが!!ゴールデンディスク大賞を毎年もらっている実力者なんだよ!!」

八千穂は唾を飛ばしながら興奮していた。

「さらにCROWのギタリストである雨紋雷人。モデルでもあり、テレビドラマでひっぱりだこの藤咲亜里沙。さらに、プロレス界の新星白虎マスクまで出ているだよ!!こんなのゴールデンタイムのドラマでだって観られないだよ!!」

八千穂は興奮しているが、皆守には理解できなかった。

「でもでも、なんでこんなメンバーが?たかが深夜のマイナーな番組なのに!!」

そう、コスモレンジャーは深夜番組であった。普通この時間帯の番組は低予算が常なのでレベルが低い。八千穂にしてもコスモがテレビで観られると期待しているが、深夜番組なのであまり質を期待していなかった。それが芸能界でも豪華なメンバーを取り揃えているのだ。期待しないはずがない。

「そりゃあ、こいつらがコスモの知り合いだからだろうな」

皆守がそりと答えた。八千穂最初どんな意味かわからなかったが、意味を理解すると興奮し始めた。

「皆守くんてば、舞園さやかたちと知り合いなの!!」

八千穂は皆守の胸倉をつかむと、ぐいんぐいんと引っ張った。皆守は八千穂を落ち着かせると順を追って説明した。

「俺の中学時代の知り合いが、コスモの友達なんだよ。それでテレビに映っている連中も一緒に顔を合わせたことがあるだ。ただそれだけの関係さ」

「へぇ、すごいでしゅね〜。その中学生時代の知り合いどうしてしゅか?」

「確か、するめの学院てとこだったかな?」

「するめの?珍しい学校名でしゅね。しゃぶったらおいしそうでしゅ」

肥後はそれ以上聞かなかった。それより番組が始まったので、みんなテレビに集中し始めた。

 

 

「第一話!!決めろ紅井スペシャル!!」

練馬区に怪人蛇蜥蜴が現れた!!練馬の幼稚園のバスが狙われている!!コスモレンジャー出動だ!!練馬の平和を取り戻せ!!

「みんな!!練馬区で事件よ!!」

コスモレンジャーに指令を下すのは、喫茶龍閃(りゅうせん)の女店主時任ゆかりである。コスモの三人はこの店でコーヒーを飲みにきたのだが、財布を忘れた彼らはコーヒー代を稼ぐため、コスモレンジャーとして戦う羽目になったのだ!!

 レッドの武流は角刈りの野球青年であった。

ブラックはさわやかな知的そうな青年であった。レッドとブラックはいがみ合っており、いつも喧嘩していた。

 ピンクはそんなふたりを仲裁する役割であった。

「練馬の平和を護るため、コスモレンジャー出動よ!!」

ゆかりの号令によってコスモレンジャーは出動した。

 

 

練馬区というか、崖を切り開いた広い場所で、幼稚園のバスは囲まれていた。茶色と緑、青色の忍者装束を着た戦闘員であった。全員鬼の面を被っていた。そして一際大きな存在があった。上半身は人間だが、下半身は蛇であった。モヒカン刈りの蛇人間であった。

「なんか時代劇みたいだね。戦闘員が忍者だなんて。しかも、あの蛇蜥蜴ものすごくでかいね。着ぐるみにしてはすごく凝ってるね

八千穂が言った。それを白岐が否定する。

「八千穂さん。あの怪人は本物よ」

「本物?」

「ええ、あれは本物。着ぐるみなどではないわ」

白岐のとんでも発言に驚く八千穂。

「どうしてそんなことがわかるの?」

「わたしは美術部員。どれが作り物かはわかるわ。あの怪人はどう見ても作り物には見えない。そのままカメラで写しているだけよ」

目を剥く八千穂に今度は肥後が追い討ちをかけた。

「白岐しゃんのいうとおりでしゅ。ボクもCGとか詳しいでしゅがあれは紛れもない本物でしゅ」

「そうなんだ。でも、あれが本物だとしたらどうやって連れてきただろう。ふっしぎ〜」

八千穂は白岐と肥後のとんでも発言に驚いたが、それだけであった。

「本当ね。いったい監督はどこから連れてきたのかしら?」

「皮裂監督は業界では友達の多い人で有名でしゅ。たぶん、そっち関係で呼んだのだと思いましゅ」

白岐と肥後も自然に答えていた。もしかして化人で慣れた彼女らは非現実に対しての免疫ができているのかもしれない。

「なんで本物がテレビに出ても驚かないだか」

文句を言う皆守もまた非日常に慣れきった人間だといえよう。

 

 

コスモレンジャーたちは戦闘員と戦った。コスモたちはバットやサッカーボールや新体操のリボンで戦った。そして彼らが倒れると、ポンと煙を上げて服だけが残るのである。それも戦闘の最中に起きていた。

そして必殺ビッグバンアタックで怪人蛇蜥蜴を倒した。その際の効果音というか光が妙であった。CGとは思えない現実感があった。現在では昔の特撮番組のように爆発は許可されていないはずであった。

「あれは本物の爆発ですわ〜」

リカが答えた。

「爆発といっても科学的とは違う爆発です〜。なんというか、説明できないですが〜、そんな爆発なんです〜」

リカは爆弾作りの名人だ。生徒会執行委員として墓に近づく生徒は手製の爆弾で脅してきた。力のみならず、火薬だけでなく、あらゆる爆破に精通した人間である。そんな彼女が火薬による爆破か、CGによる爆破かを見破れないわけがなかった。

話はさらに進む。蛇蜥蜴は敗れた。そこに死体博士がやってきて、蛇蜥蜴を巨大化させた。コスモレンジャーはコスモロボを呼び出し、蛇蜥蜴と戦った。

「なんか、景色がおかしいね」

八千穂が言った。

「なんとなく、野暮ったいンだよね。コスモロボも着ぐるみなのはわかるけど、動きがおかしいというか」

 そうこうするうちにコスモロボは蛇蜥蜴を倒した。その消滅の仕方も奇妙であった。まるで溶け出すかのように消えてしまったのだ。そしてゆかりが自転車をこいでやってきた。

「よくやったわね、みんな。でも、本当の戦いはこれからよ!!はい、コーヒー」

ゆかりは魔法瓶に入れたコーヒーをコスモたちに振舞った。それを飲むコスモたち。ゆかりは右手を差し出した。

「はい、お代」

金を要求されるとは思わなかったコスモたち。マスク越しでもうろたえているのがわかる。

「じゃあ、コーヒー代を払うために、また戦ってね」

かくして武流と十郎太と花音はゆかりに脅迫されながら、コスモレンジャーとして戦うのであった。その後ろで犬のポチがあくびをしていた。

「なかなか面白かったね」

八千穂が満足げに言った。

「こりゃあ次回もチェックしないとね」

「つか、お前はあの番組に対して何か言うことはないのか」

皆守が尋ねたが、八千穂はきょとんとしていた。

「面白いからいいよね」

その一言で皆守はつっこむのをやめた。白岐も含め、今観た番組を疑問視する人間はいないらしい。

 

 

「しかし、最後のコスモロボは驚きましたね」

出演者の一人、武流役の根岸が感心していた。

「そうそう、まさか俺たちが小さくなるなんて夢にも思わなかったよ」

十郎太役の高木も鼻息を荒らしていた。花音役の中村も同じであった。

「ホントだよね〜。それで蛇蜥蜴がコスモロボと同じ大きさになって戦うだもの。すごいよね〜」

種明かしをすると、コスモロボは中に人が入っているわけではなかった。自力で動かしていたのだ。動かしていたのは新宿の魔女である裏密ミサであった。コスモの俳優たちを小さくしたのも彼女の魔法であった。

蛇蜥蜴や戦闘員は御門晴明が動かしていた。式神を操る要領で彼らを動かしていたのである。

「でもまさか根岸たちがさやかさんと同級生で、しかも力に目覚めていたとは驚きだな」

死体博士役の雨紋は紙コップのお茶を飲みながら言った。根岸たちが裏密や御門の繰り出す超現象を見ても驚かないのは、そのためであった。

「はい。力に目覚めたといっても微々たる物でして、戦いには参加できませんでした」

さやかが言った。今回コスモレンジャーが映像化すると聞いて、過去の仲間たちが協力に駆けつけたのである。もちろん、舞園さやかがマイナーな深夜の特撮番組に出るなどもってのほかの事務所に文句を言われたが、さやかは拝み倒し、出演にこぎつけたのである。他にも仲間たちが駆けつけ、すでに撮影は終わっていた。

「紫暮さんのドッペルゲンガーを見たときは、スタッフの方も驚いてましたね

「それを言うなら、醍醐やアラン、マリィに如月が変生したときも、腰を抜かしていたね。まだ変生できただとこっちも驚いたけどね」

こちらは藤咲である。悪の女王というか、過激な衣装に鞭を持つ姿は地獄女王であった。

お互い仕事が忙しくてなかなか会えなかったが、今回、コスモレンジャーの撮影のおかげで仲間たちを会うことができたのだ。

「ところで肝心のあいつらはどうしただろうな?」

 

 

「なんこれは!!なんでレッドが目立ってるんだよ!!」

ここは黒崎商店の居間。ちゃぶ台を囲み、コスモブラックこと黒崎隼人が、コスモレッドである紅井猛につかみかかっていた。

「レッドが目だって当然だろう!!戦隊者ではレッドがリーダーなんだよ!!」

「クールで知的な俺のほうがリーダーにふさわしいだろうが!!お前みたいな山猿にリーダーが務まるか!!」

「かっこつけのスカシ眼鏡と比べたら、ずっとマシだと思うけどな!!」

「なんだとこら!!」

「やるのかこら!!」

「はいはい。喧嘩はやめなさい。せっかく6年ぶりに再会できたのに」

仲裁したのはコスモピンクこと本郷桃香である。彼女は現在保育士として働いている。一応彼女がコスモレンジャーを解散したのだ。

ブラックは日本のJリーグで活躍した後、世界へ飛び立った。

レッドはプロ野球の道には進まず、実業団野球に入団した。あれから6年の歳月が過ぎた。再会したふたりはあいかわらず変わっていなかった。

「レッドはまだ野球を続けているだって?」

ピンクが聞くと、レッドは喧嘩をやめた。

「おうよ!!今年も優勝を狙うぜ!!」

「ブラックは海外チームで活躍しているでしょう?」

「ああ、そうだ。日本でも俺の活躍を楽しみにしてくれよ。俺の活躍を見て、元気のない日本に、元気を与えたいだ。これが今できる俺の正義さ」

「けっ、サッカーなん日本には合わないぜ。やっぱ日本人は野球だろう。大川の花火大会でもいうだろう?たまや〜って。天高く球が飛ぶことでみんなに正義のよさを教えてやるのさ」

「野球なんかもう流行らないよ。時代はサッカーさ。サッカーこそが日本人に夢を与えるだ」

「何を!!」

「なんだと!!」

レッドとブラックは再び喧嘩を始めた。それを見たピンクはほほえましく彼らを見つめた。

彼らは何も変わっていない。高校時代と同じだった。そして正義の心も。テレビ撮影に協力してくれたかつての仲間たちの友情に、涙がこぼれそうになった。

ピンクは、いや本郷桃香は明日幼稚園の子供たちに正義を教えるつもりだった。不動の正義の心、今も変わらぬ仲間たちの友情も教えてあげるのだ。

「でも、二人は成長してほしかったな」

喧嘩する二人を見てピンクはため息をついた。子供たちにはこのことも教えてあげねばならなかった。

 

終わり

戻る

タイトルへ戻る

あとがき。

 

コスモレンジャーをテレビ番組にしたらどうなるか?そう思って書いた作品です。

図らずも九龍のキャラとコラボになってますが、魔人サイドの人間を知らないものにとって、コスモとはどういった感想を抱いているかを示したかったのです。皆守は東京都出身なので、コスモと知り合いということにしました。

八千穂たちならテレビでの異常を気にせず、普通に観ると思います。

長い間暖めていたアイディアでしたが、やっと書けました。では。

 

2010年7月7日