──作品全体のコンセプトについてはどういう形で決まっていったんでしょうか。

石黒:最初に考えたアイデアって言うのは、この主人公たちが生活している所が宇宙船の中だったっていう事を、最後の最後まで分からないようにするという事が、一つのポイントでもあったんです。実は最初はね、ファンタジーの世界で作る予定だったんですよ。

──ほう!

石黒:訳のわかんないのがいっぱいいて、妖精がいたりとかこういった話を最初に作ったんです。それを会社の人間に見せたら、そっくりのSFがあるよって言われた。ハインラインの「宇宙の孤児」ってのがそっくりなんですよ(笑)。借りて読んだらビックリしちゃって、これで困っちゃってね。
宇宙船の中の世代が変わっていくジェネレーション・シップものというアイデアは昔からあるんですけど、それが何かの弾みで故障しちゃって、わけの分からない世界になっちゃった。というのが原作の一つのアイデアだったんです。ここの所は変えようもないと思って、その代わりもっと離れた方向に持っていこうと。ファンタジーとはもう全く正反対で、現在の東京にしちゃえというところで、今からすれば十数年前の東京ですけど、あれをそっくり中に作っちゃうんですよね。ですからそこに出てくる主人公たちっていうのが、つまり現実であって実は作られた、そういったバーチャルな現実の中に、そこにある種の錯覚...見てる者と中にいる者の世界の錯覚が実はあるんですけど、それに気がつかせないようにしようという事で、作ったつもりだったんです。ところが、そういうオチが見えちゃったらいくら現実的にもつともらしく作っても、迫力ないんじゃないかと思って一生懸命やったら、逆にそっちの薬が効きすぎちゃったのかな、なんかそういう、実は仮想現実だったんだよというオチが、どっかにすっ飛んでっちゃった感じだね(笑)。
たとえばこの続編以降の話なんかでは、そういつたところでの面白さっていうか、ある種のトリッキーな部分ていうのが影をひそめて、むしろ若者の青春ドラマの色合いが強まってましたよね。僕としては、もちろんそういう側面もあるんですけど、これはいわばコンピューターが作り出したほんとに気まぐれな、一時期の仮想現実であって、そこに生きてる人間は50年100年経つと生まれ変わる。でもコンピューターだけは永遠に変わらないっていう中で、例えば、それが現実の東京って設定だけど、これが100年前の東京でもフランスでもエジプトでもいいんですよ。
そういう設定ってのはコンピューターがやろうと思えばできる。というところを実はもうちょっと押したかったんです。その中であのバーチャルのアイドル、時祭イブだけがどの世界にもいる、という象徴的な存在にしたかったんです。だからかなりSFっぽい設定で面白かったんですけどね。


──そういう一つのアイデアで全部くくっていくというのはほんとにSF的な手法で、逆にいうと続編はそのオチがつけられないだけに辛かったんだと。


石黒:それはあります。最初そういうアイデアが色々あったし、これは作画的にもかなり頑張ったし、うちとしても初めて自主企画って事でかなり張り切ってやったし、おかげさまでビクターさんの方でも色々と頑張ってセールスしてくれた部分てのもあってかなり評判になったんですよね。また、オリジナルビデオって言うのが少なかった時代ですから。ほんとに評判はよかったんです。でも実は2というのは、僕は僕なりに考えていたんですよ、もっとSFっぽい感じで。1は話が終わってないんですね、現在の東京が戦争になっていくような所で...

──嵐の前って感じで終わっていきますよね。

石黒:そうそうそう。で、もろに嵐にしちゃおうかと。つまり、昭和初期に話を持っていっちゃおうと思ったんですよ。次のお話では。つまり設定がね、時間が遡っていくような、仕掛けにしようかと思ってたんですよ。面白いと思ったの。そういう趣向で2ができると思って。完全な軍事国家というよりも、青年将校あたりが闊歩するようなね。軍事国家風の世界にして。

──かなりもうSF作家的なアイデアですよね、その辺に関しては。

石黒:
それこそね、言いたかったのはつまり現在、マクドナルドが出てきたりとか、そういう今風のものがある中に、軍事政権的な要素が入ってきた時にそれをミックスしたらどうなるかということを考えるとね、それこそマクドナルドのところに兵隊募集のポスターが張ってあったりするみたいな。そのギャップの面白さというか怖さも狙えたかなと思ったんですよね。

──ビジュアル的なショックというか、アイデア的な所でいい時代の日本のSFの思考法に近いところでアイデアだされてますよね。

石黒:
そうですね。割とそういうのが好きなんでね。

──イブというか、コンピューターはもっと自分がコントロールし易いように戦時中の世界にずらしていくんでしょうね、世界を。

石黒:
そうなんですよ、その象徴としてこのイブというのが出てきて、この最後の方でもやってますけどね、戦争に行こうみたいな歌を歌っているようなところがもっと濃厚になってきて。

──アイデア的には凄く面白いですよね。敵側にはもう東京ローズよろしく、戦争止めましょうって放送出しているかもしれない。

石黒:
そうそう。だからそういうある種軍事国家のパロディにもなりうるし、色んな要素が出てて面白いものできるかなって思ったんです。1では僕の方でそういう狙いでやったけど、パート2は板野くんに預けちゃったので。

──石黒さんの幻のメガゾーン23・パート2のアイデアが存在していたっていうことですね。

石黒:
ええ。実際もう何枚か書いたんですけど、この確か悪いやつの象徴ででてくるB・Dってのがいましてね、3人娘でいたでしょ、大金持ちの娘が。

──夢叶 舞。


石黒:
この舞が政略結婚でB・Dの嫁になるとか。

──世界観は変えながら、前の設定はちゃんと生かしてという所で、どれだけ世界が変わっていけるかっていうところの。

石黒:
そうですね。あれは軍需産業のね、そのときの一番の軍人の権力に、彼女が人身御供となって行くという。絵に描いたようで面白いなって。

──それくらい後ろにドラマあるといいですね。あれだけ作った名前ですし。

石黒:
実はそういったところもあったんですけどね。話としては。

──その辺りで手をお離れになってもう、次に続くスタッフに譲ったんですね。

石黒:
そうなんです。自分の考えていたのとは少し違う方向に話が進んでいったという事はありましたね。これは仕方ないと思います。

 ──メガゾーン23DVD版スタッフインタビューより抜粋──
このインタビューを読むと、石黒氏は戦争を体験している世代だなあと思いますね。板野氏が創った物語が石黒氏が考えていた物語と違う方向に進んだのはある意味、戦争中の昭和10年代前半(昭和13年)に生まれた石黒氏と、「もはや戦後ではない」と言われた昭和30年代半ば(昭和34年)に生まれた板野氏とのジェネレーションギャップだったのかもしれません。