211. 「遥かなる旅路」と主題歌の変遷
1.8番目に登場した名曲
<遥かなる旅路 : EP>
Gメン75には、他の刑事ドラマには無い強みが幾つもある。
その一つがメンバー交替のたび主題歌が新しくなり、しかもそれらが、記憶に残る名曲であることである。 この事により各々の時代の印象が強く残り、当時のメンバーの面影が自然と思い浮かんでくる。
(全ての曲がメンバー交代と同時期ではないが)
「面影」 から始まった、Gメン主題歌の8曲目が 「遥かなる旅路」。
Gメン75の主題歌の中でも、人気の高い名曲である。
・作詞家/竜 真知子、 作曲家/ミッキー吉野、 編曲/川上 了
なお、「蜉蝣」 は4話、「漂泊」 は1話だけしか使われていないので、
メイン曲としては6曲目にあたり、1980年に流れた曲である。
80年度 54話のうち49話のエンディング曲として流れ、これは 「面影」 「追想」 よりは少ないが、3番目に多い。
<しまざき由理さんの「遥かなる旅路」>
本放送での 「遥かなる旅路」 は、ポプラが歌っているが、 「しまざき由理Gメン75を歌う」 (LPレコード、CDアルバム) の中でしまざき由理さんも、この曲を歌われている。 (ED曲として流れることはなかった)
また、同LPの中の 「レクイエム」 は、サラッと歌われていると感じるのに、
「遥かなる旅路」 は、同じ女性だからと意識されているのか? 情感をこめて歌おうと、力を込めているように感じている。
<劇伴>
劇伴に関しては番組改変期ごとに新しいものが付け加えられているが、吹雪刑事が登場したこの年度には、
「遥かなる旅路」 をアレンジして作られた曲が、幾つもあって鮮烈なものが多く、心に残っている。
2.吹雪刑事のテーマ曲のイメージ
「遥かなる旅路」 は、吹雪杏子刑事とのかかわりが強い。
他の主題曲にはない現象で、そのために吹雪刑事のテーマ曲のようなイメージがあり、
「DVDの解説書」 にも同様のことが書かれている。
Gメン75の主題歌で、特定メンバーの曲としてイメージするのは、この曲ぐらいだろう。
つまり主題歌 「○×△」 は、誰々の曲といえるほどの曲は、他にはないと思う。
これには、次の5つの理由が考えられる。
1)1980年に、吹雪刑事が唯1人で加入すると同時に、「遥かなる旅路」に変わった。
2)吹雪刑事の降板後は、同時に菊池俊輔氏の降板もあり、2度と使われなかった。
3)吹雪刑事の出演シーンで、使われることが多かった。
4)吹雪刑事のミステリアスなイメージと、この曲のイメージが似合っている。 (LPカバー裏面の写真の1つ)
5)レコードのジャケットや裏の数枚の写真も、吹雪刑事を中心に撮影されたものばかり。
(「Gメン歩き」と違う"順”で並んでいるのは、他の曲には見られず、「遥かなる旅路」の吹雪刑事だけである)
等々から、吹雪杏子刑事の "テーマ曲" という印象が強くなっていると思う。
3.「遥かなる旅路」を詠む
以下の文章は、Gメン75の先輩HPの管理人であり、音楽に造詣の深い速水涼子刑事さんから頂いたのものである。
私は音楽には全く素養がないので、このメッセージは実に貴重である。
<遥かなる旅路 : LP>
「 メジャーコードだった前年度の挿入歌『ウィング』。若き女性エリート・津川螢子警部補役を演じた夏木マリさんが、同じように現代を強く生きる女性へ贈るエールとして歌い、エンディング曲群に新鮮な風を送り込んだ。
しかしながらメジャーコードの曲は、劇中BGMとして使い回すのが難しかった為、マイナーコードで且つ時代の流れに乗った曲を探し求めた。
その結果辿り着いたのが『遥かなる旅路』である。歌い手に新進気鋭のジャズ歌手・ポプラを起用したことでも、スタッフサイドのスタンスがうかがえる。
淡々とした4ビートの、典型的なスタンダードジャズのピアノ伴奏に乗せて、ハスキーヴォイスで歌われる出だしは、お洒落な大人の女性の雰囲気を醸し出している。
歌詞そのものも、従来の主題歌では直接的な表現が多かったのに対し、この『遥かなる旅路』のそれは、若干婉曲的表現の傾向が見られる。
このような作風が、中島はるみさんが演じたこの時代の女性Gメン・吹雪杏子刑事の、ミステリアスで大人っぽい雰囲気にとても似合っていた。
それに加えて歌い手のポプラも、この曲と出合って一躍メジャーになった。その後アニメ主題歌のレコーディングやミュージカルの舞台に立つ等、その才能を発揮し続けているものの、メインのレパートリーはジャズ、とこちらも大人っぽさを売り物にしている。
佐藤純弥&菊池俊輔コンビの主題歌には「男性がイメージする、辛さを抱く女性像」が感じられるのに対して、『ウィング』『遥かなる旅路』には、「感情を自分の言葉で表現する女性」がある。この辺りは、当時の時代の流れ、即ち社会進出する女性の増加を反映したものに相違なかろう。
その一方で、『遥かなる旅路』は「ポスト『面影』」を思わせる曲でもある。ご承知の通り、Gメンの主題歌は圧倒的にマイナーコードの曲が多い。
その中で敢えて『面影』的と言える理由を述べていこう。シングルレコードをお持ちの方にはジャケット裏面の楽譜に書かれているコードに注目していただきたい(コードの耳コピーは得意、とおっしゃる向きは直接聴き比べたし)。歌い出しからサビの手前までのコード進行が極めて類似しているのである。
(Im→IVm→V7, Im→IVm→V7→Im) ジャズ調である分、『遥かなる旅路』の方がよりこまめに洒落たコード(VIIなど)
を加えてチェンジしているものの、大筋で伴奏部はほぼ同じ音の流れであると言えよう。
歌自体がかなりの部分で新たな冒険を試みている『遥かなる旅路』だけに、従来のGメンのイメージとの接点がどこかに必要であった。 それで、Gメンの看板主題歌『面影』とコード進行を似通わせ、前にも聞いたことがあるような安心感を抱かせ、時代の流れに乗せた、主題歌足り得たのである。 」
by 速水涼子刑事
4.余談−−酷似タイトルの映画「遥かなる走路」
「遥かなる旅路」に似たタイトルの映画がある。
1980年11月公開の「遥かなる走路」という映画である。(私は未見です)
映画のテーマも興味深い。
トヨタ自動車の創業者「豊田喜一郎氏」が、国産自動車を量産するにいたる、
凄まじい生き様をつづった映画との事。
ぜひ一度、見たい映画である。
Gメン75との関連としては
1)公開時期−−1980年11月 Gメン75に「遥かなる旅路」が流れ始めてから7ヶ月後。
2)映画監督−−佐藤純弥さんで、主題歌 「面影」 「追想」 ら、数多くのGメン主題歌の作詞家であるとともに、
かつGメン75の監修をされている。
3)出演俳優−−主役の1人が、当時のメンバーである川津祐介さん、 そして丹波哲郎さんも出演されている。
翌年にGメン入りされた谷村昌彦さん、 ゲスト常連の、蟹江敬三さん、 佐藤仁哉さん、
と何人も、Gメン75関連の人が出演されている。
4)音楽担当−−ミッキー吉野さんで、この方は 「遥かなる旅路」 の作曲家である。
サントラCDへ収録17曲のうち、15曲がミッキー吉野さんの作曲
等々から考えると、やはりGメン75の主題歌「遥かなる旅路」に影響されたタイトルではないかと思う。
5.主題歌の変遷
1)やはり看板主題歌の「面影」、そして「追想」が多く使われている。
2)試行錯誤の年と言われる79年度は、主題歌もかなりの試行錯誤がなされている。
しかし、時のメンバーが主題歌を歌うという、キイハンター・アイフル以来のことが実現した。
−−夏木マリさんの「蜉蝣」が1話、「ウイング」が14話で流れた。
3)「蜉蝣」の范文雀さんや、「漂泊」の江波杏子さんは、歌われた時はメンバーではなかったが、
81年度に同時にメンバー入りしている。
又、「道」の島かおりさんは、80年度からの黒谷町シリーズで計11話にゲスト出演することになる。
4)「遥かなる旅路」は、80年度に49話で流れ(4話はEDなし)主題歌としては3番目に多い。
80年度のトピックは204話を最後に使われなかった「面影」が、294話「香港の女カラテ編」で使われている。
−−−日本語・中国語混在で、しまざき由理さんではなかったと思う。
(愛知県の再放送では「遥かなる旅路」になっており、CS放送も同様だった)
年度 | 期 | 話 数 | 曲 名 | 歌 | 作 詞 | 作 曲 |
---|---|---|---|---|---|---|
75年 | 第1期 | 1〜33話 | 面 影 | しまざき由理 | 佐藤純弥 | 菊池俊輔 |
75-76年 | 第2期 | 34〜58話 | 面 影 | しまざき由理 | 佐藤純弥 | 菊池俊輔 |
59〜93話 | 追 想 | しまざき由理 | 佐藤純弥 | 菊池俊輔 | ||
94話 | 蜉 蝣 | 范文雀 | 佐藤純弥 | 菊池俊輔 | ||
95〜104話 | 追 想 | しまざき由理 | 佐藤純弥 | 菊池俊輔 | ||
77年 | 第3期 | 105〜144話 | 追 想 | しまざき由理 | 佐藤純弥 | 菊池俊輔 |
145〜159話 | 道 | 島かおり | 佐藤純弥 | 菊池俊輔 | ||
78年 | 160話 | 漂 泊 | 江波杏子 | 佐藤純弥 | 菊池俊輔 | |
161〜174話 | 道 | 島かおり | 佐藤純弥 | 菊池俊輔 | ||
175〜204話 | 面 影 | しまざき由理 | 佐藤純弥 | 菊池俊輔 | ||
202話のみ | Gメン75のテーマ | な し | −− | 菊池俊輔 | ||
79年 | 第4期 | 205〜213話 | レクイエム | ささきいさお | 佐藤純弥 | 菊池俊輔 |
214話 | 蜉 蝣 | 夏木マリ | 佐藤純弥 | 菊池俊輔 | ||
215〜226話 | レクイエム | ささきいさお | 佐藤純弥 | 菊池俊輔 | ||
227話 | (EDなし) | な し | −− | −− | ||
228話 | レクイエム編曲の劇伴アレンジ | な し | −− | 菊池俊輔 | ||
第5期 | 229話 | レクイエム | ささきいさお | 佐藤純弥 | 菊池俊輔 | |
230〜233話 | レクイエム | しまざき由理 | 佐藤純弥 | 菊池俊輔 | ||
234話 | ウイング | 夏木マリ | 伊達歩 | 都倉俊一 | ||
235話 | レクイエム | しまざき由理 | 佐藤純弥 | 菊池俊輔 | ||
236〜248話 | ウイング | 夏木マリ | 伊達歩 | 都倉俊一 | ||
249〜250話 | 蜉 蝣(唄なし) | な し | −− | 菊池俊輔 | ||
251〜252話 | レクイエム(唄なし) | な し | −− | 菊池俊輔 | ||
80年 | 第6期 | 253〜306話 | 遥かなる旅路 | |||
(253・267・292・293話 EDなし) | ポプラ | 竜真知子 | ミッキー吉野 | |||
(267話のOPで遥かなる旅路のメロオケ) | ||||||
294話のみ | 面 影(日本語、中国語混在) | ? | 佐藤純弥 | 菊池俊輔 | ||
81年 | 第7期 | 307〜330話 | アゲイン | しまざき由理 | 佐藤純弥 | ピエール・ポルト |
(307・319・328話 EDなし) | ||||||
第8期 | 331〜355話 | アゲイン | しまざき由理 | 佐藤純弥 | ピエール・ポルト |
(注1)80年度だけ色が違うのは、このHPのテーマ年度だからです。
(注2)上表のデータは、KAJITA巡査さんのHPを参照しました。
6.レコードの画像
当時発売されたレコードのEP盤・LP盤を収集しているので、その画像を掲載します。
各画像の左上の「話数」は、EDで使用された合計回数だが、歌手は別でも曲毎の話数を集計している。
(例えば、「蜉蝣」は計4話としているが、范文雀さん1話、夏木マリさん1話、唄なし2話の計である)
この画像ではわからないが、「遥かなる旅路」のジャケットや裏の写真が、他の曲のものに比べて
なぜなのか、抜群に鮮明で綺麗(EPもLP)なので、吹雪ファンとしては嬉しい。
<面影 : EP> <面影 : LP> <追想 : EP> <追想 : LP>
計88話 1975.7.1発売 計85話 1976.7.25発売
<蜉蝣 : EP> <道 : EP> <道 : LP> <漂泊 : EP>
計4話 1077.3.1発売 計29話 1978.4.1発売 計1話 1978.6.10発売
<レクイエム : EP> <ウイング : EP> <遥かなる旅路 : EP> <遥かなる旅路 : LP>
計30話 1979.6.10発売 計14話 計49話 1980.5.25発売
<アゲイン : EP> <アゲイン : LP> <心影 : LP>
計46話 1981.7.1発売
7.「蜉蝣」と「陽炎」
(どちらも読み方は 「かげろう」)
主題歌の「蜉蝣」の曲名は、"Gメン歩き”で近藤照男プロがこだわった「陽炎」に、ちなんだ名前だと思う。
レコードは、范文雀さんが発売されているが、エンディング曲としては、ニューカレドニアの後編(214話)で
夏木マリさんも歌われている −→ この「蜉蝣」も、情感がこもっていて実に素晴らしい。
「陽炎」とは、
春の天気のよい穏やかな日に、地面から炎のような揺らめきが立ちのぼる現象。
「蜉蝣」とは
昆虫でトンボの古名とも。成虫の寿命は数時間から一週間ぐらいで、短命ではかないもののたとえにされる。
"陽炎”のゆらめきを、思わせる飛び方をするところからの名といわれる。