260話 悪魔の結婚式

(注:ストーリーが判らないように解説していますが、ネタバレの内容は含んでいます)

<予告編のナレーション>

ハードボイルド Gメン75 次の活躍は。

女性Gメンを誘拐した女。
サラ金の社長を刺した凶悪強盗事件の犯人として、
服役中の夫の無実を信じる女の執念。

夫を拷問、自白させた刑事も撃たれた。
人質の女性Gメンに、刻々と迫るタイムリミット。
警察への恨みに燃える女の復讐。

次回は、「悪魔の結婚式」

    <監督:山口和彦、脚本:山村英司>

1.作品について

寒さがゆるみ、少し暖かくなってきた頃の朝、吹雪杏子の出勤シーン。
名曲「遥かなる旅路」が流れ、吹雪刑事がさっそうと歩いていく姿は実に美しい。
彼女の活躍を予感させる映像、
この冒頭シーンは、Gメン75の中でも屈指の美しいオープニングだと思う。

水原奈美という女は、婚約者を助けるため一世一代の大博打をうつ。
吹雪刑事にはこれまでピンチがなかったが、この8話目で初めてのピンチに陥る。
しかし、監禁にも動じない、吹雪杏子の美しく気丈な姿はカッコイイ。

  (この作品だけは、吹雪刑事が強い設定ではなく弱く描かれており、得意な
   はずの 「合気道」 を使う気配すらない)

黒木警視正らGメンたちは、僅かな情報から吹雪刑事の救出に全力を注ぐ。
果たして、彼らの懸命の捜査は功を奏するのか?
吹雪刑事を無事に救出できるのか?


この作品は、吹雪刑事のピンチが印象に残りやすい作品だと思うが、奈美の人間像が鮮やかに描かれるとともに、拉致されてからの気丈な吹雪刑事は見ごたえがあり、緊迫感のある作品に仕上がっている。


2.「奈美」という女

この作品の事件を引き起こすのは、"水原奈美(新藤恵美さん)”という女の執念。
婚約者の前川和夫(石田信之さん)を助けるためとはいえ、一世一代の大博打を実行する執念は凄まじい。

奈美は、本当の悪人ではないが、吹雪刑事の前で、激情と狂気にとらわれかける。 別の一面では、優しさも見せており両面を持っている事がわかる。
知的で冷静な犯人だが、少し怖いところを感じさせ、Gメンではいつもながら、犯人像がじつに鮮やかに描かれている。

計画は綿密かつ冷徹である。1)誰をどのように傷つけて 2)誰を残し 3)誰をどこでどうして誘拐利用するのか 4)逃走経路と手段 5)ナンバープレートの変更 6)電話の掛け方 等々を考えあげて実行している。

以前の作品で新藤恵美さんは、ニューカレドニア2部作で津川警部補を
誘拐し監禁している。 彼女は怨念を持った女、作戦をめぐらす女が似合うのか?
顔つき・目つき等から、"執念の強さ"と"知的"なところをあわせ持つ今回の役には、
実に上手いキャスティングだと思う。

「奈美」という名前
   後の作品だが、282話「肉体のない女が呼んでいる」の女と同じ名前。
   脚本はどちらも山村英司さんだから、この名前が気に入っておられるの
   かも知れない。 その作品での女の怨念は、凄まじく強烈である。

3.ゲスト:三角八郎

武藤哲夫刑事を演じるのは三角八郎さん。
怪しげな役をやる事にかけては、数あるゲストの中でも屈指の存在。
名ゲストの1人と呼んでいいと思う。

悪役俳優は出てくるだけで、怪しいと思ってしまうが、顔のアクの強さも抜群でこの人は本当に憎らしい。それだけいい俳優と言えるだろう。

但し右の画像では、刑事になり切っているような感じがする。さすが役者だ。


4.Gメンたちの活躍

1)黒木警視正らGメンたちは、僅かな情報から吹雪刑事の救出に全力を注ぐ。
  立花警部の捜査指揮は適確で、吹雪杏子を拉致した犯人を少しずつ追い
  詰めていく。 一方、本当に前川和夫は犯人なのか。という疑問に対する
  捜査も、ドラマではそのシーンはなかったが行なわれている。

2)見ていると勘違いしそうだが、立花警部は「和夫」を緊急逮捕しただけである。
  立花警部は、現場周辺で犯人の可能性有りとして緊急逮捕して署に連行しよ
  うとしたところであり、立花警部が取り調べたなら有罪にはならなかったと思う。

  取り調べて犯人として有罪にしたのは、所轄の警察署であり武藤刑事である。
  だから、奈美が立花警部を恨むのは筋違いも甚だしい。

3)そもそも、事件現場近くにいる挙動不審の人間を放免することはありえない。
  「202.80年度のメンバー毎の変化」にも書いたが、立花警部も79年までは
  意外にもミスが多かったが、80年度はミスが非常に少ない。

じつは奈美も、理性の上ではある程度は判っているが、感情が許さないのだろう。だから傷つける相手と、脅迫する相手を分けている。

4)立花警部以外のGメンたちも、全員が良く動き、事件解決のため懸命の捜査を
  しているが、中でも田口刑事が良く活躍している。


5.吹雪杏子刑事の活躍?

吹雪刑事の主役作品だが、残念ながらいわゆる活躍シーンはない。
杏子にしては珍しいが、ピンチに陥る作品だから仕方がない。

1)冒頭の吹雪杏子の出勤シーンの映像はじつに美しい。

  (1)通勤で杏子が歩くシーン。
  (2)ビルに入って警備員に声を明るくかける杏子。
  (3)エレベーターに駆け込んで来た人に、閉まりかけた扉を杏子が開けて
    笑顔で迎える。

 等々、気持ちの良い場面の連続である。
 Gメンでは珍しいほどの、美しいオープニングになっている。

2)吹雪杏子のピンチ

冒頭シーンの美しさは、吹雪杏子がそれから味わうことになる、苦闘への嵐の前の静けさか? 前奏曲だったのか。

彼女にはこれまでピンチがなかったが、この8話目で初めてピンチに陥る。
杏子は、奈美の罠にはまって失神してしまう。
吹雪杏子は拉致された上両手を手錠で縛られてしまい脱出は難しく、人家は近くにないため通行人もいない。
吹雪杏子にとって初めてのピンチだが、恐れることなく凛々しく立ち向かう。


3)この作品だけの設定

吹雪刑事の設定が本来と違っているところがある。杏子が強い設定ではなく弱く描かれており、得意なはずの"合気道”を使う気配すらない。

吹雪杏子の代名詞ともいうべき、"合気道"を使わず拉致されるのは、"ご都合主義”と言えるだろう。
本来の杏子なら、女の腕などは簡単にねじ上げるので、合気道を使うと勝負にならない。その為の設定変更というのは判るが、やはり違和感は否めない。

草野刑事の作品にも空手の一撃で倒せるというシーンで、全く空手を使わない
場面は幾つもあったくらいなので、連続ドラマの中では、このような作品がある
のも已むを得ないかも知れない。


4)拉致後の吹雪杏子

監禁されてからの吹雪刑事は見ごたえがある。 杏子にも大きな恐怖感があったと思うが、苦境にも恐れることなく毅然として立ち向かい、気丈に耐える姿はたくましい。 キリッとした美貌はますます冴えている。

さらに危機の状況にも諦めず、少しでも手掛りをと懸命の努力を続ける。
奈美にも毅然と対処し、あるときは説得し、又は親しみをこめて接する、吹雪刑事はSPとしても優秀であっただけに、縛られた状態でも様々な工夫を凝らしている。

<ところで>
このHPでは、内容への突っ込みはあまり書いていないが、吹雪刑事が
警察手帳で細工を行なう場面は成功率が極めて低いと思う。色々と解釈
できるシーンも多いが、あれは"神業”だろう。  (詳しくはネタバレのため省略)

吹雪杏子の印象的な言葉、 というより啖呵。
    「すぐに捕まって死刑だわ!」


5)上達した演技力

中島はるみは、最初の頃の"セリフの硬さ”は既になくなっており、演技はかなり慣れて来ている。
今回の啖呵を切るようなセリフも、堂に入ったものである。
これなどは、いくら熟練しても、"様(さま)”になるとは限らないものである。

状況に合わせた「表情」や「眼光」の変化は、256話で上手くなったと書いたが、
それだけではなく、セリフも上手くなり、抑揚のつけかたも良くなっている。


6.Gメンビルのエレベーター

Gメンビルとして映っているのは、東京海上火災のビルである。
下記3枚の画像は 「このビルの数年前の写真」 で、260話「悪魔の結婚式」に関連する場面である。

現在このビルは警備が厳しくなっていて、内部には関係者以外は入れない。同ビルに勤務する社員でも、社員カード無しでは入れないようになっている。

Gメン75の作品で、Gメンビルのエレベーターが出たのは、この時だけではないかと思っている。(見つかれば修正します)


   吹雪刑事が入ってきた入り口          エレベータ            吹雪刑事を拉致した車の出口


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