270話 香港カラテ殺人旅行

(注:ストーリーが判らないように解説していますが、ネタバレの内容は含んでいます)

この作品は台本と違って、格闘シーンで吹雪刑事や田口刑事が本来の実力を発揮していない。 これは、ある理由からだと思われる。 そこで、(1) 台本の格闘シーン (2) 本編を修正した理由 を 「7.吹雪刑事の活躍」 に書き加えたので参照して下さい。
                                                             (2010年11月28日)

<予告編のナレーション>

ハードボイルドGメン75 次の活躍は、

おなじみスナックの姉妹が、香港旅行でカメラに偶然とらえた
男の顔は指名手配中の銀行強盗。

難民街にひそむ犯人と顔にヘロイド症状がある女との謎の関係。

襲い掛かる香港カラテ殺し屋軍団。
Gメンや姉妹を助けるドラゴン。
香港の街に、Gメン対カラテギャング ドラゴン。三つ巴の決闘が展開する。 3人のカラテ使いと、睨みあう吹雪刑事
                   
次は、「80 香港カラテ ロケシリーズ
                 香港カラテ殺人旅行」

     <監督:鷹森立一、 脚本:高久 進、山村英司>

1.作品について

再び 「香港カラテシリーズ」 だが、1話完結作品。
吹雪刑事と田口刑事の2人主役。

おなじみの 「喫茶店柿ノ木」 の水上姉妹は、指名手配中の男 (佐藤仁哉) を
写真の中に発見し田口刑事に連絡することからドラマが始まる。

今回の作品は、他の香港カラテとは少し雰囲気が違う。
「殺人旅行」 というタイトルも、他が 「Gメン対香港カラテ」 のようになっているのと比べても、やはり異色。

ブルース・リーそっくりさんの、ドラゴンは今回も登場し、
ラストは中屋警部補・島谷刑事も駆けつけて、総力戦でカラテ使いとの決闘を展開する。


2.「柿の木」の水上姉妹

おなじみの「柿の木」の姉妹による、香港旅行で遭遇した事件。
それがGメンと香港ギャングを巻き込んだ、事件に発展していく。
そして水上亜子は、幾度目かのピンチに陥る。

この姉妹は8回も出演したセミレギュラーだが、今回で降板となる。
79年度の第1作 205話で、津川警部補・田口刑事・村井刑事らと同時に
デビューし、田口刑事とのコンビは、Gメンにまさしく新風を吹き込んだ。

従来のGメンと違う個性を発揮したこの姉妹は、ファンも多かったようである。
Gメン75そのもののイメージとは違うが、7年間の歴史ではやはり重要な存在だと思う。 79年度は6作品、80年度の2作目でついに姿を消した。

本編を見みた時は、水上姉妹が最終編なのは結果的にそうなったのかと思ったが、台本を読み直してみると、降板を前提にしたものになっている。

その降板の為に、恐らくは論功行賞的に香港ロケによるカラテ作品を1話完結で追加し、餞別作品として作られたのだと思う。
       (本格的な香港カラテシリーズでは、1話完結は初めて)
レギュラーでも降板編がないメンバーがいる中では、破格の待遇といえる。

内容も香港カラテシリーズとしては異色で、亜子のユーモアもあっていつもの雰囲気と違っている。
                                                  ドラゴンの服の背中には"竜”がいる
ところで本編では、亜子の"やきもち”がないなと思っていたが、
台本にはあった。なぜカットしたのだろうか?

<台本では>
  香港に来た、田口刑事と吹雪刑事の2人を出迎えた亜子が、
  「あら、新婚旅行。 お似合いよ」 などと言っている。
    (やはり亜子はもっと出演して、257話「大暴走!囚人護送車」のように、
     やきもちを、焼き続けて欲しかった)


  またカメラマンになりたいという亜子に、牧子は店は1人でやって
  いくからと言っている。

   (KAJITA巡査さんのHPにシナリオ検証があるので、参照して頂きたい)


3.銀行強盗犯と女( 眉村吾郎と遠山真理)

眉村吾郎は元警官だけに、根っからの悪者ではないが、責任を感じ必要に迫られると悪事を働いてしまう意志が弱い男。暗黒街に取り入り人生を転げ落ちていく。

眉村を演じた佐藤仁哉さんは、柿の木の姉妹の登場編にもゲスト出演しており、この降板編にゲストなのも、水上姉妹に対するお別れ会のような気がする。
また、1)悪役 2)元警官 3)田口刑事の元同僚 は205話と同じ設定であり意識したのではないかと思うほどである。(但し、名前は205話では「遊佐」)

遠山真理を演じた吉岡ひとみさんは悪役が多いが、この作品は違って悲劇の女性を演じている。
それにしても彼女の、"死に顔"は本当に上手い。
   (後の282話「肉体のない女が呼んでいる」では、臨場感に溢れた"死に顔”の役で
    ゲストの主役を演じたのもうなづける)



4.ドラゴン 竜 英傑

何宗道さんが演ずるドラゴンの3話目。
同氏の助っ人役この3作品だけ。 つまり今回の出演が最後となる。

2部作のラストではGメンへの協力を申し出ていただけに、今回は自ら助っ人に来てくれている。 しかし今回は幾度かの出番はあるが、前回のような細やかな人物描写はなく、アクションシーンだけの出演という感じ。

ブルース・リーに似ているのと、動きが流れるようでかつパワフルで好きなので、個人的には、ずっと出て欲しかった。


5.カラテ使いの殺し屋

この作品には、前回の3強は登場しない。
前の闘いで、強豪は全て"全滅した”という事だろう。
今回は、石橋雅史さんがボスの「黄 大東」になっている。
         (石橋雅史さんは、実際に剛柔流空手八段という実力者である)

ヤン・シーが登場しないのは、香港カラテシリーズらしくないが、やられた直後だけに まあ仕方がないかもしれない。

眉村が銀行強盗で取った金を、真理は「胡弓」の中に隠したが、殺し屋たちは
捜したが見つけられなかった。 その為にGメン、ドラゴンと対決することになる。


6.再び、Gメンの「総力戦」

267〜268話の2部作に続いて、Gメン4人によるが総力戦を行なわれた。
2部作より敵は小粒ではあるが、やはり総力戦は見ごたえがある。

1) 田口刑事

柿の木の姉妹との最後の競演。
亜子からの電話に、楽しそうに話した田口刑事はもう見られない。
GFの亜子を助けるために、田口刑事は懸命の格闘を展開する。

田口刑事はこの作品で三度の格闘があるが、最初と二度目はカラテ使いたちの前に不利になる。
しかし、三度目は総力戦により、カラテ使いたちをぶちのめしている。

右の画像は、格闘中の田口刑事の形相だが、あまりに凄まじいので掲載を
迷ったが、千葉裕さんが、 「いかに凄まじい殺気で、
格闘演技をしていたか」
を現わすには、これが良いと考えたので掲載することにした。

ところで田口刑事が笑うとき、口を右側に寄せる特徴があるのに気がついた。
                     (上から2枚目の画像)

2) 中屋・島谷の到着

吹雪刑事から田口刑事のことを伝えられると、黒木警視正はすぐに中屋警部補・島谷刑事の2人を応援に送った。
田口刑事が監禁場所から無事に脱出した後に2人は到着し、267・268話とほぼ同じメンバーがそろった。

身代金受け渡しで吹雪刑事が難局を切り抜けた後、最後の闘いには中屋警部補・島谷刑事・田口刑事の3人が、吹雪刑事のところに駆けつけ、
ドラゴンとともにGメンは総力戦で、殺し屋たちと決闘する。 −−格闘シーンは最下段に


7.吹雪刑事の活躍

吹雪刑事と田口刑事の2人主役。 通常なら香港へは、数人で飛ぶだろうが2人で派遣される。

吹雪刑事は、行方不明になった田口刑事を捜索に行く時は、敵はカラテ使いの殺し屋たちであり、気丈な杏子といえども、相当に不安を感じていただろう。

1) 香港へ

香港からの連絡で田口刑事が行き、同行するのは吹雪刑事。
                                               吹雪刑事は、カラテ使いから亜子を守る
「すぐ、吹雪君と香港へ飛べ。」
カラテ使いがいる香港へ同行するのは、通常なら女刑事にはならない。
にも拘わらず、杏子が行くのは、吹雪刑事の実戦能力を信頼する
黒木警視正の "判断" である。

2) 難民街への潜入

香港で田口刑事が行方不明になり、黒木警視正は中屋・島谷を派遣した。
しかし、吹雪刑事の性格からは、それまでじっと待つことは出来ない。
応援が来る前に、杏子の積極果敢な捜査活動は、今回も実行される。

台本では一度目は、吹雪刑事が1人だけで難民街へ潜入し捜査する活躍場面がある。 (この場面は本編では、カットされている)

吹雪刑事が水上姉妹と3人で難民街に潜入するのは、二度目の潜入である。
本当は、姉妹は足手まといだから、吹雪刑事1人だけのほうが良いのだが、
                                (実際その通りになった)
当地の地理がわかりにくいから、一緒に行くことにしたのだろうか?
変装する必要があったからとはいえ、獅子舞が急に出来るとは思えないが、
とにかく "獅子舞" に化けて潜入する。
   −−台本では 「獅子舞」 ではなく、 「泣き女」 だった。
       推測だが、「泣き女」は大声で泣きわめくので、3人が反対したのかも?
       それと、杏子がかぶっている面が、「泣き女」 なのかも知れない?


本筋には関係ないが、
田口刑事の救出に向かう吹雪刑事は、「部屋」から出る時と、「ホテル」から出る時とは、服装が違っている。 着替える場所は無いはずだが。


3) 格闘シーンの疑問

吹雪刑事の前にカラテ使い2人が現れ、彼女は水上姉妹を守るために果敢に闘うのだが、なぜか2部作のときと違い、得意の"投げ飛ばし"をしていない。
合気道が得意の杏子なら、簡単に投げ飛ばせる場面でも、全く投げようともしていない。

その為に、吹雪刑事は勝ち切れずに、逆転されて不利になってしまう。
これが疑問で、吹雪ファンとしては不満である。

1度目 腕をねじただけ、(右の画像)
2度目 カラテ使いを後ろから捕まえた時も、男を振り回しただけで、投げ
     飛ばしていない。
     −−この時は、簡単に叩きつけて勝てたはず。 (右下の画像)  杏子は、得意の "投げ飛ばし" をしなかった
         (カラテ使いは受身が出来ず、投げ飛ばしたらダメージが大きく、必ず勝てる)
3度目 吹雪刑事は有利になれず、投げ飛ばせるチャンスはなかった。


吹雪刑事は格闘が強いが、腕力では男に遥かに劣る。
実戦能力の高い杏子が、自分に不利な闘い方をするはずがない。

実力を発揮していないのは、田口刑事も同様で、カラテ使いに勝てずにピンチに陥り、ドラゴンの助けを借りることになる。
双方ともに2人ずつで、吹雪・田口の2人が不利になるのは、相手がカラテ使いとはいえ不自然すぎる。
このような闘い方になった理由は、台本を修正したことによると思われ、   ここでも杏子は、投げ飛ばし をしなかった
下記7) に記述した。


4) 身代金を持参する吹雪刑事

奴らは亜子を誘拐し、身代金と交換すること、それには女が持ってくる事を要求した。
−−−幸いにも、Gメン側には吹雪杏子がおり、その実行役となった。

カラテ軍団が指定した、九竜ステーションを、美しい吹雪刑事が、周囲の気配を確認しながら歩いていく。                    (右の画像)

どこから、殺し屋が襲ってくるか判らない状況。
相手は暴力的なうえに狡猾だ。 身代金を人質と交換せずに奪う計画だろう。 その上に、持参した杏子を叩きのめすか、殺すかも知れない。

最後の対決に向けて、たった1人で大金をもって緊張しながら、 そして彼女自らの身の危険をも予測しながら、吹雪杏子は堂々と闊歩していく。
このシーンは、緊迫感が高まる名場面の一つである。

敵は多いが、こちらは1人。吹雪刑事が頼れるのは自らの実戦能力のみ、、、果たして、、、
強い緊張を感じながらも、吹雪刑事の強靭な精神力は、心理的圧迫に耐えて、
カラテ使いとの対決に向かって、ただ1人で歩いていく。



5) 対 決

カラテ使いたちが、杏子を待っていた場所は、柱も何もない広場だった。
敵は4人。 これでは、周辺で息をひそめるGメンたちは近づけない。

カラテ使いは人質を後ろに残して、 2人が杏子に近づいてきた。 やはり奴らは、人質を解放せずに、杏子から身代金を奪うつもりだった。
果たして、、、吹雪刑事といえども、1人で大丈夫なのか?

しかし吹雪刑事は、 2人の殺し屋たちに、動じてはいなかった。
わざと鞄を開けて大金を見せて、、奴らにスキを生じさせた次の瞬間、、彼女は勝負に出た。                                   奴らは交換ではなく、身代金を奪いに来た

吹雪杏子は、闘争心を爆発させて先手を打ち、 カラテ使いたちを攻撃した。
合気道の技は使わなかったが、高い格闘能力を駆使して、2人をぶちのめした。


6) 人質奪還

吹雪刑事の、果敢な行動が功を奏して、カラテ使いたちがひるんだ時、3人のGメンが駆けつけた。
そのどさくさにまぎれて、杏子は亜子の救出に成功する。 しかも身代金を奪われずにである。 見事な連係プレーである。

杏子に出し抜かれたカラテ使いたちは怒ったが、 Gメンたちの登場と吹雪刑事の実力を警戒して、杏子に構えたがすぐには近づかない。

そこにドラゴンも登場し、Gメンとカラテ使いたちの激闘が始まった。
                                                身代金を奪われずに、亜子を救出した
もしも、、亜子を人質に取られたままだったら、 Gメンやドラゴンたちも手が
出せなかった。 吹雪刑事が人質を奪還した功績は大きかった。

8.台本では

台本では、「本編での格闘シーン」 とは違い、吹雪刑事が本来の実力を発揮している。 また、台本では珍しいシーンもあるので、ぜひこれを紹介したい。
さらに、"本編ではなぜ違ったのか" についての考察も記述した。

a)難民街での闘い (台本)
   難民街で吹雪刑事の前に現れたのは、2人のカラテ使い。
   吹雪刑事は、得意の合気道で果敢に立ち向かう。
   カラテ使いは2人にも拘わらず、 杏子の方が優勢となる。

   彼女に勝てないと思った2人は、卑怯にもナイフを抜いて杏子に迫る。
   さすがの杏子にも緊張感が走る。
   そこに脱出した田口刑事が来て、背後から蹴りを入れて2人を転がした。

       (つまり、台本ではドラゴンの手を借りず、登場すらしていない)


つまり、台本では吹雪刑事が一人で、カラテ使い2人に優勢になっている。
                   (267・268話で見せた実力なら当然である)
ところが全体の撮影では、ドラゴンの見せ場が一つ少なくなり、これが問題となったと思われる。

推測だが、ゲストのドラゴンの活躍場面は確保する必要があり、これを補完するために、ドラゴンの活躍シーンをここに持ってきたと思われる。

そして、吹雪刑事が台本通りに勝ってしまうと、ドラゴン登場の意味がない。
そのために、杏子が投げ飛ばせる場面でもそれをしないという、不自然な     2人相手でも、吹雪の方が強い (台本)
シーンになったのだろうと考えている。

b)杏子の特訓
   翌朝、吹雪刑事はカラテ軍団と、身代金受け渡しをすることになった。
   吹雪杏子は、今日のようにナイフで切り掛かられるとピンチになる。
   ドラゴンも心配し、杏子にヌンチャクの特訓を徹夜で指導する。
   杏子は、最初は体に打ちつけたが、次第に上手く扱えるようになる。


c)九竜ステーションの戦い
   身代金の受渡し現場へ、周囲に注意しながら歩いていく吹雪杏子。 

   吹雪刑事の前に立ったカラテ使いたちは、素手で闘おうとはしなかった。
              (台本では、奴らは杏子を殺すように指示を受けていた)    吹雪刑事が、カラテ使いをぶちのめす

   杏子の合気道を警戒する彼らは、最初からナイフで切りかかった。
   彼女は跳びすさり、隠し持っていたヌンチャクで顔面を打ち、もう1人の
   男の横顔もヌンチャクで殴って倒した。
   そして、杏子は誘拐されていた亜子を、救いだすことに成功する。
                   ↓
   中島はるみはヌンチャクを訓練して、一日でかなり修得して、スタッフ一同を驚かせたという。
   しかし、使いこなすのは難しいので、本編では "鞄" で殴ることに変更したのだろう。

   ヌンチャクを振るう吹雪刑事を見たかったが、この場面はカッコイイ吹雪刑事が描かれている。

台本での、 吹雪刑事は本来の強さだが、 本編ではドラゴンの活躍場面が減ったことに影響されて、
杏子の強さが、 中途半端にしか描かれなかったのは、 誠に残念である。

下の左の画像 → 中島はるみは腰が高い、いや足が長い。
  (男性も上げ底の靴を履いている様だし、杏子の靴の影響はないと思う)


    中屋 ・ 島谷が香港に到着     杏子は、大金を見せて油断させる        島谷刑事のファイト


    田口刑事のハイキック          杏子がカラテ使いと対決           ドラゴンの怒りが爆発


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