285話 満月の夜 女の血を吸う男
<予告編のナレーション>
ハードボイルドGメン75 次の活躍は、
鋭い手斧で、5人のOLを惨殺した恐ろしい凶悪犯が
仲間の囚人と2人、護送車を奪って逃走。
犯人に殺された刑事の妹、眼病で入院中の彼女にも魔の手が迫る。
犯人の1人の姉の手引きで逃走する殺人犯は、血に飢えた狼のように
惨劇を重ね、長野県黒部に追跡するGメンと凄絶な対決が迫る。
次は、「満月の夜 女の血を吸う男」
<監督:小松範任、 脚本:高久 進・小松範任>
1.作品について
黒谷町シリーズ4作目。
276話「夜囁く女の骸骨」の、実質的に後編と言える作品。
Gメン史上、最も凶悪と言われる望月源次が再び登場する。
この作品により、望月源次の名が不滅なものになったと思う。
冒頭から"赤く大きな月”が映る−−そして手斧。
タイトル通り、大きな満月を背景にした望月源次がもの凄く印象的。
最初の、望月源次の凶悪ぶりの映像にヒヤリとする。
注) 東映ビデオは 「Gメン75の人気投票」 を、2008年6〜8月の3ヶ月間かけて行なったが、
この作品は " 第37位 " に選ばれた。
数多い作品中での "37位" もかなりの上位であり、「黒谷町」 「望月源治」 の人気が高いことを現している。
2.望月源次
Gメンファンの間で永く語り継がれる、望月源次の物語。
黒谷町の魔物たちのなかで最も狡猾で、執念深く、人殺しを平常心で
出来る異常な男。
「蟹江敬三」 さんの見事な怪演技が、再び見られる。
1)赤い月
冒頭から、 「赤く大きな月」 が映し出される。
現実にはありえない赤く巨大な月。 これが実に印象的である。
月の色のイメージは「黄色」または「金色」で、「赤」と言えば太陽である。
しかし望月源治には血の色が似合う。赤い月に違和感が感じられない。
黒谷町では血の色のイメージとして、赤いスイカや柿が使われていたが、
今回は赤い月が使われており、 「スイカ」 も 「柿」 も出なかった。
(注)「赤い月」 −−月が低空で輝くときには、赤く ・ 大きく見えるとのこと。
理由は、低空の方が天頂よりも大気の厚みが大きく、赤色の波長が最も透過力が高いため赤く見えるとの事。
さらに、低空の方が月は大きく見えると言われる。(理由は諸説あるが不明とのこと)
あの映像は、確かに巨大すぎるが、低空の月にはその傾向があるらしい。
(夕陽も同様で、映画などで"巨大な夕陽”が映っていることが時々ある)
2)牙をむく野獣
敏捷な身のこなし、「高速」 で手斧を振り回して、襲い掛かる。
望月源次は、大きな牙をもった獣そのものである。
最初「獣」と呼ばれ、「魔物」 と呼ばれるようになって来るが、望月源治はやはり 「獣」 の方が似合っていると思う。
3)脱獄
脱走劇は、迫力のある映像だった。
橋から飛び降りるシーンは、たぶん人形だろうが、予告編と映像が違っているから、何度も取り直していることが判る。
望月源次は、演技・細工等、精一杯に頭を使って警察に対抗してくる。
4)「望月」という言葉
1)この作品の冒頭に満月が現われるが、辞書によると「望月」とは「満月」のことである。
それを強烈なイメージとして、印象付けるのが冒頭である。
2)地名:シリーズの舞台である「黒谷町」は長野県となっているが、「望月の里」が長野県にはある。
有名な地名でもあるらしいので、「望月源次」はそれを掛けているのではないかと思われる。
3.片桐ちぐさ
片桐ちぐさ(島かおりさん)は、全てのシーンで目に包帯をしたままの状態、という珍しい出演。
開けられた病室の窓に近づく片桐ちぐさ、そして窓の向こうに望月源次の顔。 じつに怖い場面である。
4.望月源次を愛した女
望月源次とともに脱獄した、松沼太一の姉"キクヨ”。
望月源次を愛する女"キクヨ”が登場して、作品に深みを与えている。
キクヨを演じる左時枝さんは、妖艶な人で望月源次と並んでも違和感がない、好キャストだと言えると思う。
キクヨは源次を守ろうとして、包丁を持って立花警部の前に立ち塞がる。
(下の右側)
5.大町刑事課長の活躍
これまでの黒谷町シリーズ4話全てにゲスト出演し、立花警部と共に3匹の魔物に相対して立花警部を助けた。
当初は、あまり意識していなかったが、黒谷町にとって貴重な登場人物。
しかしついに最終編となる。
これまでは登場シーンは多いとは言えないが、今回は何度も登場し活躍シーンも多い。
<執念の連続射撃>
逃亡した望月源次らに対し、橋の上から何発も何発も銃弾を浴びせ続ける姿は、相当にカッコイイ。
殺人鬼の望月源次を絶対に逃がしてはならない、という大町刑事課長の執念が込もった、連続射撃だった。
ところで、撃っているのはリボルバーだから、あれだけの連射は出来ない。
(注:吹雪杏子がSP時代に連射した時は、オートマチック拳銃だったから
10発以上でも可能なのだが)
大町刑事課長を演じた江角英さんは、273話、276話は江角英明、
281話・285話は江角英となっている。(芸名を変更されたのだろうか?)
6.立花警部の活躍
1)黒谷町へ
吹雪刑事がちぐさのことを尋ね、さらに黒木警視正から片桐ちぐさのもとに行くように、指示を受けたから良かったが、それが無ければ、いくら立花警部でも自らは行きにくいだろう。
2)車中シーン
黒谷町シリーズの定番となるシーンに、長野県に夜行列車で向かう車中シーンの立花警部がある。
立花警部の心中は穏やかでないのはわかっているのだが、なぜかいつも情緒を感じてしまう。
3)獣との対決
望月源次との2度目の対決。
1)ちぐさを病院に訪ねる立花警部。
2)吊り橋の上を渡る立花警部。
(もっとも、大勢の警察官が走っているので、見ていて少し怖く感じる)
3)源次の偽装工作に、疑問をもつ立花警部。
4)窓の開いた病室に、ちぐさを尋ねる立花警部。
いずれも印象に残るシーンである。
望月源治と対決するときの、立花警部の作戦は頭脳プレイが光る。
しかし、さすがの立花警部も望月の手斧に大苦戦する。満身創痍の傷を負いピンチに陥る。
7.吹雪刑事について
黒谷町シリーズは立花警部の主役のため、吹雪刑事の出番は少ない。
吹雪刑事は、立花警部と片桐ちぐさのことを知っているので、立花警部に心配して声をかけるという、Gメン部屋でのシーンのみ。
余談だが、吹雪ファンとしては、杏子にも得意の合気道で、片桐ちぐさの警護等に活躍して欲しかった。
いかに望月源治でも、吹雪刑事が片桐ちぐさの前に立ち塞がると、てこずるだろう。