286話 スカート切り裂き魔
<予告編のナレーション>
ハードボイルドGメン75 次の活躍は、
ラッシュアワーに出没するスカート切り裂き魔。
女性Gメンもやられて大憤慨。
だが事件は婦人警官殺しに発展。
おとり捜査も失敗、女性Gメンが負傷した。
発見された西洋カミソリから浮んだ容疑者。
美容師あがりの青年は、取調べ中、自殺を図った。
顔の醜さから悩む、その男のうちにコンプレックスがくすぶり続ける。
次は、「スカート切り裂き魔」
<監督:山口和彦、 脚本:西島 大>
1.作品について
主役は南雲警視だが、吹雪刑事の印象も強烈な作品。
事件は、カミソリを凶器とした殺人事件に発展。
婦人警官が殺されてしまう。
吹雪杏子は仇を討つため、今回も積極的な捜査に挑戦する。
得意の合気道で、切り裂き魔と1対1で対決する"おとり作戦”をする。
3日目 不審な気配を感じた杏子は、意識的に人気のない裏通りへ、
切り裂き魔を誘いこんでいくが、闇と迫る足音の恐怖は想像以上で、
吹雪刑事さえも、その緊張感は極限にまで高まっていく。
果たして、容疑者の男は、犯人なのか? 違うのか?
南雲警視らGメンの懸命の捜査が続く。
(吹雪杏子刑事が、またトレンチコートを着る季節になった)
2.切り裂き魔
"魔"がついているが、これは「スカート切り裂き魔」の"魔"。
しかし犯人は、見つけられた婦人警官を殺すなど普通の男ではなく、
かつ殺人未遂を幾度か犯す。
いわゆる連続殺人犯ではないが、いつ殺人を犯すか判らない危険な犯人。
3.容疑者 長尾 豊
ラジコンで捜査するプラモデルの船が趣味の男。
社会の中に、自分のいる場所がないのではないかと思い、自分の話を誰も
信じてくれないと、自暴自棄になっている青年。
青森県出身で、美容学校をでて資格を取り就職した。
しかし3ヶ月前に人間関係から、その羽田美容院を退職している。
自分の顔にコンプレックスを持ち、アラン・ドロンのポスターを部屋に飾る男。
コンプレックスを強く意識しすぎでもあるだろう。
長尾が高所から落ちる場面があるが、大した怪我もないのには驚いた。
あれがたとえ2階でも。落ちた時の状態からは軽症だったとは思えない。
まさに奇跡的である。
(注)なお個人的な意見だが、メーキャップにもよるとは思うが、273話「怪談 死霊の
棲む家」の川田には、この俳優の方が似合っているような気がする。
4.容疑者をとりまく人々
<美容院>
就職した美容院は、店長の羽田(小坂一也さん)をはじめ全員が、
いじめ常習のような嫌な奴。 あのような店に就職したのも運が悪い。
店長は、カミソリの件で南雲警視と2度聞き込みを受ける。
長尾も一応、手に職があるのなら、すぐに変わればとも思うが。
<警察官>
中野原警察署 中央派出所の警官も偏見が強すぎる。
下着泥棒が発生したときに、「お前が犯人に違いない」と決めつける。
その事件は果たして長尾が犯人だったのか?
<女ともだち>
長尾の唯一の心のよりどころだが、心を傷つけることを平気でいう。
ところがそのことは、長尾は全く気にしていないはずだと勝手に信じている。
周囲の人に恵まれなかったことは、この男の悲劇である。
5.南雲警視らGメンの活躍
秘書の小林ノリコを殺された南雲警視の心中はどうだったのか?
是が非でも、犯人を捕えたい気持ちだったろう。
そこへ吹雪刑事がおとり捜査を自ら志願。
杏子なら直接対決で逮捕できると、確信した南雲警視は了解し、
Gメンにおとり捜査を要請した。
−−(まさか、杏子が失敗するとは予想できなかった)
自分の秘書が殺され、吹雪刑事も負傷したためなのか、今回は南雲警視の捜査も持ち味である冷静さが少し薄れ、いつも以上に力が入りすぎているように思えた。
しかし鑑識が発見できなかった現場付近の物証を、杏子の話から凶器を発見し、大きな成果となる。
<Gメンの捜査>
吹雪刑事が負傷したこともあって、Gメンたちは自ら捜査に加わってくる。
彼らの活躍も多く、島谷刑事・田口刑事の、執拗な張り込みが何度も見られ、
取調べでは、田口刑事が厳しいセリフを容疑者に投げつける。
また、中屋警部補らの聞き込み捜査もあり、捜査の成果はあがってくる。
6.吹雪刑事の活躍
南雲警視の秘書が殺される事件が発生し、吹雪刑事は今回も積極的な
捜査に挑戦する。 しかし、、、
「おとり捜査」の3分間は、臨場感にあふれ、じつにリアリティである。
格闘は時間こそ短いが、犯人の素早い攻撃と、実戦能力に優れた吹雪刑事との、生死を賭けた命懸けの対決が描かれている。
ここでは、少し詳しく書きたいと思う。
1)通勤電車
通勤電車で、杏子もスカートを切られて大憤慨する。
最初は、スカート切りという程度の事件で幕があく。
2)おとり捜査
スカート切り裂き魔の居直りに、秘書を殺された南雲警視に、吹雪刑事は、
「同じ婦人警官として、どうしても犯人を捕まえたいんです」
と、強い意味込みで志願する。
そして危険を承知で行なう、おとり捜査が開始されることになる。
おとり捜査で逮捕する作戦だから、吹雪刑事が逃げることは計画にはない。
切り裂き魔が襲ってきたら、1人で闘って逮捕する−−これしかない。
(凶悪犯と、深夜に1人で対決するのは、私などは考えただけでゾッとする)
3)護衛なし
他の作品と同じく、今回も吹雪刑事のおとり捜査には護衛がつかない。
黒木警視正と南雲警視による、吹雪刑事の実戦能力を信頼しての判断だろう。
(注)284話でも記載したが、他の女刑事には護衛がつき、ピンチになると男性刑事が救出することになっている。
4)切り裂き魔の気配と、闇の恐怖
3日目。 緊張の連続だった杏子が、不審な気配を捉える。
吹雪刑事は、意識的に人気のない裏通りへ、切り裂き魔を誘いこんでいく。
しかし相手の姿が見えず、杏子も不安にかられて息を呑みこむシーンも。
それでも任務遂行のため、勇を決して歩き出していく。
歩きながら、暗闇と迫る足音の恐怖は想像以上で、吹雪刑事さえも、
その緊張感は極限にまで高まっていく。
(この当たりの演出は抜群で、撮影の下村和夫さんらの手腕だと思う)
5)対決へ
足音が近づいてくる恐怖が、吹雪刑事の心を襲ってくる。
にも拘わらず、吹雪杏子は対決のため、ついに立ち止まり振りかえる。
女性として、この勇気は驚嘆に値すると思う。
(以下、少し省略)
ある事で、吹雪刑事の緊張感が一気に緩む−−そこにスキが生じる。
6)襲 撃
犯人の攻撃はじつに鋭く、杏子を"殺意を込めた”高速で切りつける。
不意を衝かれた吹雪刑事は、バランスを崩しながらも、ギリギリのところで、
カミソリ攻撃を、右に左に何度もかわし続ける。−−さすが!
(プロフィールでも、書いているが、杏子は反射神経と動体視力に優れ、
パンチやナイフの攻撃をかわすのが上手い)
しかし犯人の攻撃は、非常に敏捷。
杏子はついに切られる。
7)逮捕への執念
切られた吹雪刑事が反撃に転じる。そのため犯人は逃走しようとする。
ここでも、杏子の強靭な精神力が彼女を救う。
−− でなければ、彼女は殺されているだろう。
<犯人の心境>
気が動転しただろう。女が襲撃をかわし、"切った”のに反撃して来た。
吹雪刑事の逮捕への執念は凄まじく、逃走しようする犯人の腰に組みつき捕えようとする。 しかし、負傷していたため犯人を取り逃がしてしまう。
犯人が逃走したあとで杏子は失神するが、逮捕できたならば、杏子は緊張感
から失神しなかったと思う。
犯人は撃退したが、目的は逮捕だったから、吹雪刑事は珍しく失敗した。
杏子は南雲警視に 「あの時、私が最後まで」 と言ったが、あそこで緊張感が緩むことがなければ、
吹雪刑事の実力なら、犯人を逮捕できたはずである。
8)吹雪杏子の心情
吹雪刑事はタフだが、決して"平然”と殺人犯との闘いに赴いてはいない。
彼女も不安で恐怖を感じ、勇気を奮い起こして対決に臨んでいる。
勿論、吹雪杏子が強靭な精神力をもっているからこそ、できる行動である。
これが3分間に圧縮されて、臨場感たっぷりに描かれた秀逸なシーンである。
9)おとり作戦の効果
杏子の頑張りで、犯人はあわてて逃げたために、凶器を落とすという致命的なミスを犯すことになった。 吹雪刑事は逮捕こそできなかったが、これは大きな成果となる。
10)病院から
病院から、杏子は南雲警視に電話を掛け、重要なことを連絡する。
「犯人は左利きでした」−−ここで南雲警視は容疑者に自信を持つ。
11)Gメン部屋
退院した吹雪刑事が、Gメン部屋に姿をみせる。
容疑者の写真をみた杏子はかつて接触があったことを思い出す。
吹雪刑事は普通に話しかけたのに、相手は気に障るということが起きてしまった。
なんでもない言葉が、人を傷つけてしまうとがあるという恐ろしさ。
12)最後の犯行現場
杏子は、犯人を捕えた男の怪我の血を止める手当てをする。
吹雪刑事の出番はそれほど多くはないが、強烈な印象を残す作品である。
捜査するGメンたち 襲撃の恐怖に耐え、夜の街を歩く 犯人は撃退したが