287話 手術台の上の悪魔

(注:ストーリーが判らないように解説していますが、ネタバレの内容は含んでいます)

<予告編のナレーション>

ハードボイルドGメン75 次の活躍は、

早朝の柔道稽古で、Gメンと知り合った少年の父が、強盗に殺された。

目撃者の少年は犯人は2人と証言。
だが自首した運転手は、頑強に単独犯行を主張するが、
脳腫瘍の発作で入院。

手術後、植物人間になる可能性を前に、共犯者の名前を吐かそうとする
Gメンと、医師の立場を守る女医師との論争。

次は、「手術台の上の悪魔」

     <監督:鷹森立一、 脚本:押川国秋>

1.作品について

単独犯行を主張する犯人と、矛盾する子供の証言の「謎」。

いわゆる捜査活動の場面は殆どなく、一種の舞台劇のような作品で、場所は、限られた「部屋」の中が殆ど。
橋本功さん、野際陽子さんらの好演によって重厚なドラマとなっている。

この作品の見どころは、事件の真相解明に執念を燃やす立花警部と、人命を助けることを最優先する女医の意見のぶつかり合い。

「駆け引き」とは、通常は虚々実々ものが多いが、今回は「実と実」、「正論と正論」とのぶつかりあいとなっており、このために非常に迫力のあるシーンになっている。

真理はひとつのはずだが、お互いが心底から正しいと信じているため、意見は激しく対立する。
それでも立花警部は、ギリギリの線で折り合えないか必死に苦闘する。

立花警部の数ある主役作品の中でも、屈指の作品ではないかと思う。


2.柔道を習う少年 井上勇

早朝の、Gメンたちが指導する柔道の稽古。
その中に運送会社 社長(平田守さん)の息子、井上勇(武田弘樹さん)がいた。

立花警部の投げ技や、吹雪刑事が中屋警部補を巴投げするシーン等で、
柔道の奥深さを垣間見る。

その夜、事件が発生する
勇少年が犯人の逃走を見たことにより、犯人への已むことのない追求が始まる。
 (犯人が逃走するシーンは、何の変哲もないシーンだが臨場感が溢れていた)


所轄の警察を信用できない少年は、事件から5日後にGメンの立花警部に助けを求める。


3.池谷幸三と、家族

犯罪は本当に、池谷幸三の単独犯行なのか?
少年がウソを言っているのか? この男がウソなのか? なぜ食い違うのか?
立花警部の追求にも、男は頑として口を割らない。

2人だとしたなら誰かをかばっているはずだが、それは誰なのか?

池谷幸三を演ずる橋本功さんは、顔つきからも重厚な作品が良く似合う。
また今回の作品は、眼光に感情をこめて変化させる演技が実に上手かった。

橋本功さんは、この前年の79年は「明日の刑事」のレギュラーで、佐藤刑事を演じられている。

妻のヤスエにも共犯に思い当たる者がなく、悩みながらも仕事を続けている。

妻の弟も、姉夫婦の事件に心配して駆けつける。


それにしても、
社長は、夜に現金を給与袋につめて翌日朝に渡しているが、犯行を誘発する行動だと思う。
無頓着の人はいるだろうが、事件原因の半分は、社長自らの不注意だと思う。


4.周囲の人々

少年の証言は正しいのか?
池谷幸三の供述が正しいのか?

事件は、謎を呼び、みんなを疑心暗鬼にさせていく。


<自首した男の周辺には>
近藤宏さんが演じる専務は、従業員のこともあり、心配のあまり池谷家を訪問する。
また、事故当日に、池谷と同じトラックに乗った男(林ゆたかさん)
はどうしているのか。


5.室井女医

室井女医を演じるのが野際陽子さんで、Gメン75でのゲスト出演は、今回が
最初で最後である。

立花警部との数度にわたる意見の対立は、この作品の大きな見せ場である。

事件がどうあろうと、医師としては患者の命を救うことが最優先という、室井女医の行動は好ましいものである。 また、他のことにも全く取り合わないわけではなく、警察の言葉にも一応、耳を傾ける"度量”もある女医。

感情的にならず、クールに信念に従って職務を遂行しようする姿はさすがである。

  (キイハンターとは違う雰囲気の役だが、この役も良く似合っている)


6.立花警部の活躍

1)柔道の早朝稽古

立花警部が田口刑事や島谷刑事に対して、柔道技を見せるシーンがある。
また、吹雪刑事に指示して中屋警部補を投げるシーンも。
これらに感動した勇少年に、厳しくも優しく指導する立花警部。

2)食い違う証言

事件への勇少年の証言は、所轄が調べたが裏付が取れず無視される。
立花警部は少年が正しいと考え、ここから事件解明への捜査が始まる。

いつも以上に、頭脳的で効果的な尋問や誘導で、事件解明に迫っていく。
しかしながら自首した池谷はしぶとい。 必死に口を閉ざし、そのうえ発病して入院してしまう。

3)女医との闘い

国家権力を背景にした警察官である立花警部の前に、室井女医の倫理感・責任感は頑強に立ち塞がる。

医師の立場を考えると、この女医が譲歩する気配はまったくない。
にも拘わらず、なおも立花警部は粘る−−そこには真相解明への執念のみがあった。

切り札とも言える、殺し文句を、池谷に・その妻に・女医に、それぞれに絶妙のタイミングで放ち、相手の心に食い込んでいく。
駆け引きの妙を駆使して、切り崩そうとする立花警部。

立花警部は最後まで、諦めずに共犯者を吐かせようとする。
しかしついに、、、女医がギリギリまで譲った時間も来てしまう。


 (今回は舞台劇の傾向があるが、Gメンにおける舞台劇のような作品には、80話「暗闇の密室殺人」がある。
  その作品も、メンバーになる前の若林豪さんがゲストで、実質の主役だった)


7.吹雪刑事の活躍

立花警部の主役であるため、吹雪刑事の活躍はあまりない。

1)早朝の柔道

吹雪刑事の 「合気道」 は道場でのシーンも以前もあったが、柔道のシーンを見るのは初めて。
立花警部の指示により、中屋警部補相手に"巴投げ”を見せる。
立ち会う前の吹雪刑事は、凛々しい。(右の画像)

吹雪刑事は黒帯を絞めており、有段者 (合気道) であることを表している。


2)Gメン部屋にて

夜、吹雪刑事がコーヒーを作っているシーン。
しかし杏子がGメン部屋で、メンバーにコーヒーを出している姿を見た記憶がない。

   後の作品になるが、土屋署長には杏子が出したことはあるが。
   来客の時だけ、吹雪刑事が出すのかな?


そのあとで吹雪刑事は、勇少年が語っていたことを黒木警視正らに話す。

3)病院にて

立花警部の懸命の頑張りにも拘らず、時間が切れかける。
と、その時、
吹雪刑事が勇少年を連れて、病室に入ってくる。

少年の必死の訴えに、池谷幸三の反応は??

例え、女医が部屋のそばにいても、親を殺された子供が必死に訴える姿には、
時間がまだ10分残っている段階では、中止しにくいだろう。

果たして、これが効を奏するのか?



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