299話 青い目の人形 バラバラ殺人事件
<予告編のナレーション>
ハードボイルドGメン75 次の活躍は、
青い目の人形を、人間の娘同様に可愛がる老人。
その人形が無残にも切り裂かれ、バラバラに壊された。
老人にとっては、娘が殺されたのと同じ大ショック。
刑事事件になろうはずもないが、
老人の心情を察したGメンが、容疑者の暴力中学生たちを補導した。
だが人形の復讐を決意した老人の怨念は、悲しい破局を招く。
次は、「青い目の人形 バラバラ殺人事件」
<監督:佐藤純弥、 脚本:高久 進>
1.作品について
正常人なのだが、「青い目の人形」に対して異常心理をもつ老人。
数十年前に端を発した「青い目の人形」に拘わる歴史が、現代に重くのしかかってくる。 その過去の「取り返せない歴史」に、当時の「荒れる中学生」の社会問題を、見事に融合させた見ごたえのある作品。
Gメンでは、「荒れる中学生」がテーマの作品が幾つか作られるが、これは
最初の作品である。
夕陽の影で、真っ黒にそびえたつ 「Gメンビル」 も、いつもと違って見える。
そして、立花警部のかつてないほどの怒り。
実に重々しく、見ごたえのある作品。
これほど素晴らしい 「ラストシーン」 は少ないと思う。
Gメン部屋でたった一人で、黒木警視正が「青い目の人形」を口ずさみ、
島田老人との思い出の墓地に、一人佇む立花警部のナレーション、
墓地の様々な風景と仏像が、この作品を見事に締めくくっている。
崇高な雰囲気さえ漂う、見事なラストシーンである。
2.島田老人
島田源一はお世話になった立花警部に、娘のナオミが亡くなった通知をする。
可愛がっていた人形が、バラバラにされて娘が死んだと同様に感じていた。
たった一つの、心の拠りどころを壊された老人の哀しみ。 そして怒り。
島田源一老人は、辰巳柳太郎さんが演じている。
この作品は、他の方ではマネのできない辰巳さんの強い個性と演技により、さらに重みが加わっている。
老人にも人形は人形であることは、良く判っているはずである。
しかし、かつて学生に軍国主義を吹き込み、特攻隊で何人も死んでいったこと。
そして日本に来ていた「青い目の人形」への軍の仕打ち。 これらへの罪滅ぼしと、
自身も子供がないことから、老人はナオミを可愛がるようになっていった。
島田老人は、壊された人形を燃やしているが、さながら荼毘にふしているかの
ようである。 (右下に画像あり)
−−この場面は、復讐に燃える望月亀造のイメージとダブってしまう。
島田老人は、若い頃に剣道を教えていたという設定だし、棒を使うのが上手い。
しかも辰巳さんは力が強いのか、少し太めの棒なのに、実に軽々と振り回しているのが凄い。
辰巳柳太郎さんは、若林豪さんの新国劇時代の師匠である。「徹子の部屋」 に若林さんが出演された時も、「辰巳先生」と言われていた。 この作品には若林さんが頼んで出演して貰ったとの事。
島田正吾さんに若林豪さんは 「辰巳は、顔を笑って腹で泣く。これが辰巳は出来た。上手かった。それをやれ」 とよく言われて困ったとの事。
(右の画像は、「徹子の部屋」での写真の映像で、この作品撮影中のものである)
3.青い目の人形
2月26日に娘のナオミの告別式を行なうという通知書を受け取った立花警部。
無残にも、「青い目の人形」は壊されていた。
島田老人の妻は、小学生の先生をしていたが、軍の命令に背いてナオミを隠していたと言うのに。
近藤照男さんや丹波哲郎さん、高久進さん?は、若い頃が戦争体験をしておられるので、若い人以上により切実な感情を持っておられるだろう。
<青い目の人形の歴史>
1)日本へ
宣教師のギューリック博士が雛祭りに感激して、アメリカ中に呼びかけると260万もの
人々が参加して手作りで、昭和2年に、12,739体の人形を日本に送った。
日本では少し前、大正10年に「青い目の人形」(作詞:野口雨情)という童謡が流行していたため、
これらの人形は「青い目の人形」と呼ばれ、 「青い目の親善大使」と言われた。 (右下の画像)
2)日本からの答礼人形
教師の給料の10倍もする高価な人形を各県毎に58体を作って、アメリカに送って
歓迎されたとのこと。(ミス香川、ミス広島などと、命名されたと言う)
3)戦争
日本では軍から敵国の手先とされ、その結果「人形を処刑せよ。壊せ・焼け」
と命令が下った。しかし命令に背き、密かに隠した人もおり、昭和48年に、
テレビで現存する人形が放映されてから次々と発見され、現在314体が確認
されているとのこと。 (少なくとも300人以上が、軍の命令に背いて隠した)
4)アメリカでは
日本からの人形にそのようなことはされず、今でも58体のうち41体が現存している。
4.教師:白石律子
不良5人の担任の教師は白石律子。 演じるのは早乙女愛さん。
(当時22歳で、中島はるみよりも1歳年上)
彼女のキリリとした目が美しく印象的。
先生としての務めを果たそうとするが、不良に対しては用心深さも必要だった。
早乙女愛さんは華やかで気丈に見えるが、その一方で悲劇的を呼び込んでしまいそうで、その運命に流されていく表情が似合う。
早乙女愛さんは目が魅力的であるが、中島はるみの力強い眼光や、夏木マリさんの鋭い眼光とは違っている。
5.中学生たち
番長の寒川を初めとして、5人のグループが特に悪ガキである。
<学校側の対応の悪さ>
軟弱で、事なかれ主義の学校は、時間が速く過ぎて卒業してくれるのだけを願っている。
安っぽい指導方針で、卒業までは問題を表面化させたくない。
そういった事に、非行少年は敏感で、簡単に察知するものである。
それを見越して彼らは、すき放題に暴れる。
教頭が現われるが、校長もPTAも同じ意見とのこと。
6.Gメンたちの活躍
1)立花警部
立花警部の人生にもあまりないであろう、島田老人との出会いは偶然だった。 島田老人の精神状態を医者に確認するが、この件以外は正常であると聞く。
(このシーンがないと、立花警部もおかしいと思ってしまうだろう)
釣りでまたも偶然に再会し、意気投合する立花警部は、不思議な事件に引き込まれていく。
その後、人形の死亡通知を受け取る立花警部。
心の拠りどころを壊された老人の痛みを感じとり、捜査をする立花警部とGメンたち。
不良中学生らの一件で、白石律子にあることを依頼したりする。
<怒りの鉄拳>
不良中学生らに対し、立花警部はかつてないほどの怒りをぶつける。
部下の前でさえ抑えられない、強烈な怒りだった。
2)黒木警視正
戦争の頃の「青い目の人形」の話には、リアリティが強く感じられ、重い歴史を感じた。
黒木警視正がラストで「青い目の人形」を、ただ一人でGメン部屋で口ずさむシーンは、カメラワークの良さも加わって、異様なまでの雰囲気を醸し出し、
実に秀逸な名場面となっている。 (右の画像)
7.吹雪刑事の活躍
立花警部の主役だが、吹雪刑事は何度も登場する。
吹雪杏子が生まれるずっと以前の出来事は、驚きとともに重い歴史として杏子にものしかかってくる。 しかし目の前には、中学生の暴行と言う現実もあり、立花警部らとともに立ち向かっていく。
ところで、 最近もトレンチコート姿は時々あったが、今回の吹雪杏子はトレンチコートをバッチリ決めていてカッコいい。
1)初めて知る歴史
黒木警視正からの「青い目の人形」にまつわる話を初めて聞き、当時の異常な行動と「青い目の人形」が辿った運命に、吹雪杏子は驚愕し憤りを感じる。
女性であるがゆえに、人形を壊された島田老人の気持ちを、立花警部の次に感じたのは吹雪刑事だろうと思う。
2)白石律子と
担任の白石律子先生への説明。学校に警察が来たことに驚いているが、
女刑事からの説明で立花警部に事情を打ち明ける気になったのだろうか?
私は早乙女愛さんも好きな1人なので、中島はるみと話すシーンがあった
ことは嬉しい。
しかし、早乙女愛さんは後の「新ハングマン」で好きになったが、この作品の本放送当時は印象がほとんどなかった。
3)立花警部の怒り
立花警部の怒りを見つめる杏子。
このとき吹雪杏子は、島田老人のことや、青い目の人形のことを思い出していたのだろうか?
4)余談だが
吹雪刑事がコーヒーを入れているが、ひょっとしたらGメンたちに入れるのは初めてではないかと思う。
師:白石律子も懸命だった 初めて知る歴史に愕然 真っ黒な、Gメンビルも印象的
島田老人の覚悟を知る立花 容疑者を発見 島田老人の哀しみ