403. SPとシークレット・サービス(大統領警護隊)


吹雪刑事が「SP」出身であり、SPの設立時にノーハウを取り入れた「シークレット・サービス」にも興味があったので、
この2つの組織の設立等をまとめて見ました。

1.SP組織とその選抜基準

1)SPとは、「セキュリティ ポリス」の略である。
2)SPの任務は、VIPを警護する為の専門部隊。
3)Gメン75との関連
      「吹雪刑事、津村警部補、村井刑事」の3人が、"SP出身”である。
4)組 織
   警視庁 警備部
       警備1課 国家的行事、マラソン・デモ等の行事の警備
       警備2課 教育訓練、研究開発、装備の充実
       警護課  VIPの身辺警護(いわゆるSP)

5)SPの発足
   従来からの日本の警護技術と、アメリカ合衆国のシークレット・サービスの警護ノーハウを合体させた。
   SPが日本で民間の前に姿を現わしたのは、昭和49年のアメリカのフォード大統領が来日した時の警護であり、
   つまり、Gメン75の放送開始の僅か1年前である。

6)SP隊員の選抜基準
    正式には、公表されていないとの事であるが、SP隊員の選抜は厳しい。
    SPを作った佐々氏によると、
       1)武術の有段者
       2)射撃が上級
       3)注意力・集中力に優れる
       4)忠誠心も秀でた者
    以上の基準で、警察官のなかから選抜されるとの事。

    拳銃操作は「25メートル先の直径10センチの的に、20秒間に4発以上命中させる上級者」とのこと。

7)SP隊員 吹雪杏子
    吹雪刑事は射撃の名手、かつ合気道が強いというだけではなく、1979年6月の東京サミットでは世界第1級の
    重要人物である、イギリスのサッチャー首相の護衛を任されている。

2.シークレット・サービスの、組織本来の目的

シークレット・サービスの元々の組織の目的は、通貨偽造を取り締まることであった。
しかし一般的には、「アメリカの大統領警護隊」 と認識されている。

その捜査官たちは、通貨偽造の悪の組織に潜入して捜査を行なうことから、「潜入捜査官」と呼ばれ、
このことから、「シークレット・サービス」 と呼ばれたとの事。

3.日本のSP設立

1963年に起きた、ケネディ大統領の暗殺事件がきっかけとなり、その翌年(昭和39年、1964年)には、東京オリンピックが開催され、各国からのVIPを警護するという重要課題を解決するため、日本でも警護レベルを上げるために、強力な専門部隊として設立された。

そこで、それまで大統領の暗殺を未然に防ぎ続け、かつ暗殺をキッカケに即座に改善されると予想される警護の先進国である、アメリカの大統領警護隊「シークレット・サービス」を調査してノーハウを吸収し、SP設立する事となった。

アメリカは日本からの調査依頼を、公式には拒否したが、実は裏では既に友好同盟国になっていたことと、翌年にオリンピックを控えているという特殊事情から、親切に日本からの調査団に極秘資料さえも見せてくれたとの事である。
かくして日本にSPが誕生したが、国民の目に触れることになったのは、先ほど書いた10年後の昭和49年である。

4.旧シークレット・サービス

アメリカには19世紀の南北戦争前から、現在の組織の前に「旧シークレット・サービス」があった。
陸軍に創設されており、南軍に入り込み諜報活動を行なった。
政府公認の組織だったが、国民は殆ど知らなかったようである。
メンバーの中で、特に能力が高かったのは「アラン・ピンカートン」で、ピンカートン探偵社の創設者でもあった。

5.リンカーン大統領の"偽札”との闘い

<偽札の氾濫>

アメリカでは、独立した1783年から1862年まで、州立銀行による紙幣印刷を認めていた。
しかし銀行は免状を受けた私企業に過ぎず、その免状は保釈中の詐欺師にも発行されたという。

全国で1,600以上の私設銀行が、5,000種類以上の紙幣を乱発していたが、
紙幣を発行した銀行が近くにないと、本物かどうかの確認すら出来ない。
そこでギャングたちは、銀行がどこにあるか判らないように設立して、偽札がバレないようにした。

リンカーン大統領が調査したところ、アメリカに流通している紙幣の半分以上が偽札であることが判明した。

ついにリンカーンは1862年、通貨は中央銀行が一括発行する事とし、州で勝手に発行することを止めさせた。
その結果、偽札は30%まで減ったが、あまり効果はなかった。
ギャングたちは、偽札を1種類だけつくれば良くなったからと言われる。


  注:誤った情報では、南北戦争のために偽札が出回ったという話もあるが       (リンカーン記念館)
    それは間違いである。

6.新シークレット・サービスの設立

1)リンカーン最後の仕事

財務長官マカロフは「偽造防止」の切り札として、1865年4月14日に「新シークレット・サービス」を設立して
取締りをする申請書を提出し、リンカーン大統領は、フォード劇場に行く直前にその書類にサインした。
その直後に、リンカーンは劇場で暗殺されてしまう。
大統領として最後の仕事は、「新シークレット・サービス設立」 の承認だった。

リンカーン大統領といえば、南北戦争や奴隷解放が有名だが、崩壊寸前だった通貨制度を立て直すことに尽力している。

2)財務省の管轄

警護隊であるシークレット・サービスが、警察やFBI等ではなく財務省に属しているのは、以上の理由による。
財務長官が、通貨偽造の取締りのため申請したために、財務省の管轄となった。

3)設 立

新シークレット・サービスは、1865年7月5日に財務省の一部局として設立された。
そしてこの時も、豊かな才能を認められていたピンカートン探偵社のアラン・ピンカートンが関与している。


7.リンカーンとボルチモア計画

<暗殺未遂事件>
元警察官のアラン・ピンカートンは探偵社を設立し、鉄道会社の警備をしていた。

そして、リンカーンは鉄道会社の弁護士をしており、ピンカートンと深い関わりを持つこととなる。
1861年4月 南部軍の支持者たちは、リンカーン次期大統領がワシントンへ行く際に、暗殺 (ボルチモア暗殺計画) を企てた。

しかし、事前に察知したピンカートンは、リンカーンの護衛役を務め、無事にワシントンに送り届けて事なきを得た。


8.ピンカートン探偵社

FBIが1908年に設立されるまでアメリカの各州では、公警察は存在したものの、組織的な力はほとんどなく、まして州を跨いでの捜査などはなかった。

その中で、ピンカートン探偵社の追求は凄まじく、州を越えてどこまでも犯人を追い詰め、悪党たちの資料ファイルを作り、死亡報告書で満足出来ない場合は、墓を掘り起こして死体の写真を撮ることさえもした。
まるで国家警察のような役割を、果たしていたとの事。

創業者アラン・ピンカートン(右の画像)は、 「目的のためなら手段を選ばず」 的で、おとり捜査を得意とし、各州に支部をもち、アメリカ中にネットワークを張り巡られて情報を重視し、徹底した捜査を行なう非情でかつ優秀な人物だった。その類まれな才能を見込まれて、旧及び新シークレット・サービスの設立に関わった。
                           (右上の画像で見る限り、彼こそがギャングの親玉のように見えてしまう)

当時のアメリカの政府には、警護等の専門部署はなく、ピンカートンが警護にも熟達していたため、
数多くの警護・捜査をしたらしい。

そして1908年に、ピンカートン探偵社を参考にして 「FBI」 が設立される、というよりその設立に、
この探偵社が深く関わったと言われている。 (但しこの時は、アラン本人は既に亡くなっている)


2)ジェシー・ジェームスとの闘い
  アラン・ピンカートンでもう1つ有名なのは、有名なギャング 「ジェシー・ジェームス」 との闘い。
  政府の機関では手に負えないために、ついに 「ピンカートン探偵社」 に依頼した。

  しかし派遣した探偵たちは殺され、ついにアラン・ピンカートン自身が乗り出した。
  この対決は、世紀の闘いと言われる知能合戦となったとの事である。


3)「マルタの鷹」 との関連
  ハードボイルド不朽の名作 「マルタの鷹」 を創作したダシール・ハメットは元探偵だったが、
  ハメットが勤めていたのは、ピンカートン探偵社だった。

4)シャーロック・ホームズの 「恐怖の谷」にも、この探偵社が登場するとの事である。

5)蝶々夫人にも 「ピンカートン」 という人物が登場するが、関係は全くないらしい?


9.シークレット・サービスの警護

"通貨偽造の取り締まり”以外は、後年付け加えられたものである。
それにしても大統領警護隊とは、イメージが違いすぎる思う。

しかし、実は1964年頃のアメリカでも既に、なぜシークレット・サービスが大統領警護を専門で担当することになったのかを、理解している人はいなかったらしい。
アラン・ピンカートンとの影響があったのでは?と推測するのみである。

1894年大統領夫人が警護をシークレット・サービスに警護を依頼した。これは非公認であったが、これ以降は徐々に大統領警護を受け持つようになって行ったらしいが、正式に大統領警護をするのは、マッキンレー大統領が暗殺された翌年の1902年からであり、さらに法律で警護を決めたのはずっと後年である。

諸外国でも、シークレット・サービスという名前が判りにくいので、「大統領警護隊」という言葉で呼ばれるらしいが、彼らの正式名称はシークレット・サービスである。


10.警護の対象者

彼らが警護するのは、「大統領と家族、副大統領と家族、大統領候補者、未就任副大統領、前大統領と家族(希望すれば)」だけである。
候補者を護衛するようになったのは、ロバート・ケネディ大統領候補(ジョンの実弟)が暗殺されて以後からである。
それ以前は待機しており、候補者全員に15人編成の護衛隊を待機させ、当選確実になると警護を開始する段取りになっていた。

<国賓の警護担当>
  他国の国王や大統領等の国賓に対する警護は、シークレット・サービスの担当外である。
  国賓の警護を担当するのは、国務省警備局である。
  この点は、日本の警護部隊SPとは違う。


11.人員

ホワイトハウスの警護だけで、100人程度は常駐しているらしい。
総人数は、今は3,000〜5,000人とも言われる。


12.シークレット・サービスの事前調査

彼らの事前調査は徹底している。
大統領当選後のパレードなら、その通路に住む人たち数万人の全員を身元調査し、数百件の建物も
全て実地調査して確認する。
そして通路のマンホールや、建物などの爆弾を仕込めそうな場所は、全て相当前から封鎖しておく。

大統領が参加する式典には、5,000人くらいの来場者がいるが、その全員の身元調査をする。
だから、招待客以外は絶対に入場できない。
偽物の 「招待状」 や 「チケット」 などは、捜査官たちは簡単に見抜いてしまう。
   −−なぜなら捜査官たちは、偽札を見抜くプロでもある、偽造の招待状を見抜くのは児戯に等しいとの事。

来場者だけではなく、コックやボーイも全員の身元調査が行ない、もし当日までに完了しない場合は、
その式典には参加させない。


13.放射能におびえるロシアのVIP

(余談だが)
最近、ロシアの元KGBのスパイが暗殺されたが、放射性物質が使われている。

この話を聞いて思い出したが、シークレット・サービスの捜査官によると、
昔から、ソ連のVIPの警護官たちは、ガイガーカウンターを使って、食べ物に「放射性物質」が混入していないかを、調査していたとのこと。
             (注:ガイガーカウンターとは放射能測定器)

その理由は、ソ連では昔から、"放射能による暗殺が行なわれている”からとの事である。


14.組織変更

長い間シークレット・サービスは財務省に属していたが、2001年の「9.11」のテロが起きた後、相当な組織変更があり、その際に財務省から、2003年3月1日付でシークレットサービスは国土安全保障省へと移管された。しかし、通貨偽造の撲滅は分離することなく、やはり従来同様この組織で行なわれている。
      (正式な業務開始は、2003年1月24日)


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