制作第8話の大阪ロケの際、3月23日には日本万国博覧会の会場跡に
そのまま残されていたEXPOランドでプレス向けのデモンストレーションとス チール撮影、そして本編の撮影が行なわれた。
藤岡弘、氏が変形前のサイクロン号で駈け上がった階段下方の踊り場では
仮面ライダーとカメレオン男との長剣を交えての決闘シーンの特写スチール が撮られたが、同じ場面を捉えていても講談社・大島カメラマンによるスチ ールと毎日放送の番宣スチールとではカラーとモノクロの違い以外にもアン グルやフレーム等、差異が際立っていて興味深い。
さらに本編の撮影が行なわれたダイダラザウルスのコース上やエキスポタ
ワーにおいても撮影現場の光景(所謂、メイキング)を含む多数のスチール が残されている。
万博跡で撮影された16mmのうち、実際に本編で使用されたのはBパート
のごく一部でしかない。
つまり、階段とダイダラザウルスのコース上、コース下の広場のようなスペ
ース、エキスポタワー、以上である。
藤岡弘、氏がダイダラザウルスのコース上に現れるシーンが撮影された現
場では、他のキャストもコース下の広場にいたらしく「藤岡さんはジェットコ ースターをずっと一人で上がっていったのよ」下から見守っていたというルリ 子さんは、そう仰っていた。
ルリ子さんが変形前のサイクロン号にミニスカートで跨がっていらっしゃる毎
日放送のスチールや死神カメレオンの単体スチールの一連が撮影された のは、この待ち時間の間だったと思われる。
これ以外のルリ子さんの単体カラースチールは制作第5話撮影時の講談
社による本編スチール(おばけマンションの階段)しか残されておらず、仮 面ライダーチップスRのヒロインカードの一枚として予定されていたのもそち らの図版だった。
大阪ロケを終えた折田組一行は東京へ帰る途中、琵琶湖へと立ち寄っ
た。
琵琶湖畔での本編の撮影と、さらにオープニング・フィルムを一部差し替え
るため(本編にも流用されているが)、湖岸道で仮面ライダーがサイクロン 号を走行させているシーンを撮影するためにである。
琵琶湖底に設定されたアジトから脱出するシーンでは、さすがに神田隆氏
(砂田辰夫役)を琵琶湖に潜らせる訳にはいかなかったようでスタンドイン が務めている。
無事に脱出したお二人に変形前のサイクロン号を届けに来たのはルリ子さ
んだが、どうして猛の居場所が判ったのか?などという質問をしてはいけな い(偶然、出会ったのである)。
サングラスを外しての笑顔は素敵だし、何よりヒロインにサイクロン号を運
転させるというアイディアが素晴らしい。仮面ライダー以外の者でサイクロン 号の操縦を許されたのはルリ子さんが唯一なのである(第14話の立花藤 兵衛の場合は自動操縦だった)。
平山亨先生に伺ってみると、やはり子供番組として細部に多少の辻褄が合
わない部分があったとしても、それが面白ければ物語が破綻する事はない のである。ナチスの秘宝と入れ替わっていた仮面ライダーだが、棺の上に 土を被せたのは誰か?などと考えてはいけないのである(笑)。
平山「まぁ、いろんな事があったけど、結論としてはね、(中略)だからといっ
て子供たちが見なくなったりはしなかった。これはぼくらの甘えかもしれない んだけど、どうしようもない絵もあったけど許してやろうとかね、面白いから 来週も見てやろうとか、視聴者の子供は許してくれたんだね」
Sムーン「当時は子供で見ていたら何も気になりませんでしたよ」
平山「だからね、ぼくら大人は子供に感謝しないといけないね。それにぼく
なんかは画面上の問題よりも精神みたいなのが大事だと思って、まあいい やって、やってしまうんだけど本当はそれではいけないのかもしれないね。 ほら、この前、真樹さんと観にいったガイアシンフォニーの映画でも、あんな 見事な映像を見せられてぼくは自分が恥ずかしかった。あれだけの絵を撮 って来ようと思ったら、雨が降ったり天気が悪かったり大変なことだと思うよ」
Sムーン「ただ、あの作品はドキュメンタリーですから、ある意味、自然が創
り出した映像ですよね」
平山「それにしてもドキュメンタリーだからって毎日毎日とっとこ撮れた訳じ
ゃないと思うしね、それをあれだけ見事な絵を揃えてあるからね、最高の絵 を揃えてあるじゃない、映像を作る者としてはやっぱりああじゃなくてはなら ないって思うのね、映像を作る者の良心みたいなね」
立花レーシングクラブ会報Amigo12号収録・平山亨先生インタヴューよ
り。
制作第9・10話が撮影されていた3月末、藤岡弘、氏の鶴川での事故が
あり現場は一時フリーズの状態となった。
が、すぐに撮影は再開され、横須賀沖(実際は2kmと離れていないのだ
が、)の東京湾に浮かぶ猿島でのロケが行なわれた。
この猿島へは本土側にある三笠公園の船着場から連絡船が出ているのだ
が、毎日放送の特写スチールを見ると大型の貨物船を背景にして仮面ライ ダー対コブラ男の決闘シーンの一連が撮影されており、毎日放送に対して は港湾施設で時間を割いてスチール撮影が行なわれたようである。
一方、何故か講談社・大島カメラマンによるスチールを見ると猿島に渡って
からのものしか残されておらず、もしかしたら猿島ロケには少なくとも2日間 が要されて、1日は毎日放送、もう1日には講談社が同行したのかもしれな い。
この時の仮面ライダーを演じたのは岡田勝氏、コブラ男を甘利健二氏が演
じている。
ところで、徳間書店のタウンムック増刊『仮面ライダー』のP.9に一枚のカラ
ースチールが掲載されている。
何処かの海岸で撮影された仮面ライダーのスチールなのだが、これは第1
0話「よみがえるコブラ男」撮影時の本編スチールであり、撮影場所は最終 決戦が行なわれた荒崎海岸。
おそらく毎日放送のカラースチールであろう。
まるで藤岡氏の事故によって番組に見切りをつけたかのごとく、講談社・
大島カメラマンは猿島ロケを最後に『仮面ライダー』の撮影現場を訪れる事 を止めてしまう。
大島氏が再び『仮面ライダー』の撮影現場に復帰したのは地獄サンダーか
らであり、当然の事ながら講談社のライブラリーにはその間の本編スチー ルも特写もない。
したがって毎日放送の番宣カメラマンによるスチールがより一層、その価値
を増すことになる訳だ。
もちろん他に、サボテグロンからキノコモルグへの移行期に朝日ソノラマと
石森プロ(グループナイン)による撮影会のスチールはあるが、本編スチー ルは本編の16mmの映像を補完する意味で欠かせない(欠いてほしくな い)ものである。
第11話「吸血怪人ゲバコンドル」では大井松田での最終決戦のスチール
がカラーとモノクロで記録されている。
この際、珍しい事にラテックス製のふたつのマスク(ピンク目と赤目)が併用
されており、何か使い分けの基準があったとも思えないのだが、気になるか と言われれば気になる。
しかし、ウェディング・ドレスのルリ子さんと立花のおやっさんと三人で手を
取り合う場面では、きっちりとFRP製のマスク(Aタイプ)が着用されていて 安堵した。
今回、富士山を望む原野に旧サイクロン号を走らせているのは大橋道然
(春雄)氏であるが、一部カットにFRP製のマスクを被ったままでの走行が 見受けられる。
大橋氏に伺った話では、大橋氏が「きれいなマスク(FRP製)」を被らせても
らった事は一度もなく、いつも「ボロボロのマスク(ラテックス)」を被っていら っしゃったそうなので、このFRP製のマスクを被ってサイクロン号を走らせて いるのが誰なのか、疑問が残るところである。
最後に、立花藤兵衛を置いてきぼりにしてクルマで帰ろうとするルリ子さん
だが、あのシーンでは実際に御自分で運転をなさったのだそうである。
公道ではない原野での走行であり、無免許でも構わない事は言うまでもな
い。
『仮面ライダー』の第3クール以降、番組の人気高騰に伴ってスチールの
需要も高まりを見せ、合同撮影会の開催もあって参加する出版社も増えて きた。
それまでの講談社、朝日ソノラマ、石森プロ(グループナイン)、週間テレビ
ガイド、以上に加えて、黒崎出版、近代映画社、秋田書店、カルビー製菓と いった新参が独自のスチールを調達するようになってくる。
しかし、第1クールの旧1号編に限ってみれば、毎日放送の番宣スチール、
講談社・大島カメラマンによるスチール、生田スタジオ・塚田助監督によるス チール、エキスプロダクション・八木氏によるスチール、以上という事になる だろう。
しかし、実際にはこれ以外のスチールもない訳ではなくて、それは『仮面ラ
イダー』に限った事ではないのだが、番組スタッフや出演者自身によるプラ イベートなスナップ写真である。
例えば平山亨先生が第13話撮影時時期に生田スタジオで撮影された仮
面ライダーや怪人の単体スチールは後にバンダイ製のプラモデルのパッケ ージ・イラスト(小松崎茂氏による)の資料として用いられている。
また、ルリ子さんも館山ロケの際、ご自身でカメラを持参されており、館山グ
ランドホテルの建物を背景にして拾ったばかりの仔犬のドブーヌを抱いたス ナップやロケバス車内でのメイク・シーン等、モノクロの紙焼きが残されてい る。
ところで『仮面ライダー』では劇中で何度か仮面ライダーや怪人のスチール
が使用されている場合がある。
例えば制作第7話で使用された仮面ライダーのスチールはおそらく制作第
4話撮影時のもので、生田の裏手でトランポリンを使用した撮影時の1枚だ が、他では見られないものである。
また、制作第30話で使用されているクラゲダールのスチールは他に本編ス
チールが皆無であるだけに貴重なものである(と言っても劇中でしか見るこ とは出来ないのだが、・・・)。
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