考証学61〜65

61



 折田至氏が監督したフィルムにはルリ子さんのアップが多い。
制作第2話でも3話でも、さらには死神カメレオンの前後編でもそうだった。
平山亨先生によると、「監督さんは誰でもそうだろうけど、好きな女優さんだ
とアップが多くなっちゃうんだね」(平山亨先生・談)

ルリ子さんによると、そのようなフレームから顔がはみ出していまうほどの
アップの撮影は、ほんとうに目の前にカメラがあって撮影が行なわれたそう
である。
それでは、旧1号編の13本の中でルリ子さんのアップのシーンのベストショ
ットを決めるとしたら、どのシーンだろうか?
大阪のCM71さんにも是非ご意見をうかがってみたいところだが、私は制
作第8話の琵琶湖畔で、本郷猛にサイクロン号を届けに来た緑川ルリ子が
サングラスを外すシーンなど大好きだ。

その他、第11話の教会での結婚式(メガネ)や第12話でのオートバイのシ
ーンも印象的だが、何といっても忘れ難いシーンが第2話にある。
蝙蝠男に背後から捕えられたルリ子さんは首筋に牙を突き立てられ、ヴィ
ールスを注入されてしまった。
ヴィールスに肉体が冒される様を顔面のメイクの変化で表現しているのだ
が、ルリ子さんの綺麗なお顔に赤い模様を描いたのは小山英夫氏である。

照明のブルーの光も非常に効果的で美しくさえ見えるのだが、ルリ子さん
御自身はさすがに嫌だったと、そうおっしゃっていた。

私は小山氏にも、あのメイクはやり過ぎではありませんでしたか?と伺って
みたのだが、小山氏は否定も肯定もなさらずに、笑っていらっしゃるだけだ
った。



62



 第2話「恐怖蝙蝠男」で注目すべきは、早くもBタイプのマスクが登場する
事である(Aパートでの変身シーン)。 
そもそも『仮面ライダー』の旧1号編で使用されたマスクは二つであり(ラテッ
クス製を加えると四つ)、最初に造られたものをAタイプ、もう一つをBタイプ
と呼ぶ。
その区別は覗き穴のアクリル板を固定するためのビスの数と位置が異なる
ため容易に判別が可能だが、昭和46年2月中旬のこの時期にBタイプの
マスクが出来上がっていたかというと、そうではなかったと思われる。
つまり、1カットだけ使用されているBタイプは後日改めて撮影されて編集
の際に加えられたか、差し替えられたものだろう。
また、この第2話で初めてFRP製のマスク+ラテックス製のクラッシャー(下
顎)という組み合わせが現れる。

同時期に撮影が行なわれていた制作第3話「人喰いサラセニアン」では再
びFRP製の下顎が使用されているカットがあるが、もしかしたら第2話に先
行して撮影されていたのかもしれない。
FRP製のBタイプのマスクはアップ用としてCアイを赤く発光させるギミック
を仕込み(Aタイプにも電飾は仕込まれているが、)変身シーン(正面から)
のバンク・フィルムの撮影で使用されたのが最初だと思われる。
これはエネルギーが充填されると目が赤く光るという設定を折田監督が映
像として具現化に腐心されたものである。

『仮面ライダー』旧1号編と言えば竹本弘一監督の2作品が際立って評価が
高いが、こうした折田至監督の功績にも大きく刮目をすべきだろう。
ところで、第2話には旧サイクロン号が登場しない。
これについてはカウルの下部を切除する改修が行なわれていたからだと、
しばしば、そのように説明される。
しかし改めて第2話を見なおしてみると、蝙蝠男と仮面ライダーの闘いは人
体実験場であるマンションから離れる訳にいかない。
また、2度ある変身シーンについても屋内ではバイクを使いたくても使えな
い。

つまり、もともとサイクロン号に出番はなかったのである。



63



 私は二十代の頃、都内の或る撮影スタジオで勤務していた事がある。 
スタジオ内でブツ撮りのアシスタントをする事もあればロケへ同行する事も
あるのだが、どんなにプロのカメラマンといえども失敗はあるもので、クライ
アントから撮影した全カットのポジを呈示するよう求められたりすると困り顔
をするカメラマンも時にはいたものだった。

『仮面ライダー』のスチールに関しても、そのような事はあっただろうと思わ
れる。
書籍に掲載されることのないスチールは、どこの出版社にもあった筈なの
だ。
手ぶれやピンぼけ、露出の不適正など要するに使えない写真という訳だ。
そうしたスチールは通常、撮影者自身や編集者など関係者以外の目に触
れる事はほとんどない。
しかし、こんな名シーンのスチールに限って、・・・・と溜息をついた事があ
る。
一例を挙げれば制作第4話「怪人さそり男」のラストシーン、即ち、本郷猛が
サイクロン号(変形前)に緑川ルリ子を乗せて帰途につくあのシーンであ
る。
館山ロケの際、昭和46年3月1日の朝に白浜海岸で撮影は行なわれ、ル
リ子さんもたいへんお好きなシーンだと仰っているのだが、残念ながらこの
シーンの本編スチールが書籍に掲載された事は一度もない。
サイクロン号に乗ったお二人は最初、砂浜の岩の向こうでスタンバイをして
いて走り出すのだが、フレームを横に構えて写されたカラースチールは微
妙にフォーカスが外れている。
これでは、どんな編集者でも使用をためらうだろう。
書籍等に使用されている図版の元は何もスチールに限らない。
『仮面ライダー』の本編は16mmで撮影されているのだが、スチールと同様
に多数のシネコマが出版に使用されている(30年ほど前に某出版社から
刊行された旧1号編の書籍には多数のシネコマが使用されているが、この
時35mmにブローアップしたと思われるデュープ多数が一部コレクターに
流出している)。
カットによってはスチールなのかシネコマなのか混同する場合もあるが、印
刷後の画質や色合いで判断する事は可能だ。
何よりDVDの静止画と比較してみれば確実だろう。
例えば、制作第14話の一文字隼人の改造シーンや吉見百穴でのライダー
対キノコモルグの対決シーンなど、一見シネコマかと見紛うスチールも少な
くない。
と言う訳でCM71様、考証学61の添付画像はスチールではなくてシネコマ
です(お察しの通りトリミングをして、画像処理を加えてあります)。

掲示板へのご丁寧な書き込み、有難うございました。

ルリ子さんの未公開スチールを1枚、ご紹介させて頂きます。



64



 『仮面ライダー』の第2話、「恐怖蝙蝠男」の撮影場所を整理しておく。

(1)川崎市麻生区栗平・・・造成途中の住宅地でオートレースのシーンが撮
影された。 

(2)マンション・ニューランド・・・生田スタジオから目と鼻の先にあるマンショ
ンで、モデルの山野美穂の住居として設定された。現在も当時のままにあ
る。

(3)長沢浄水場・・・川崎市多摩区にある東京都水道局の管理事務所。城
南大学生化学研究所として使用された。第1話で城北大学であったのが第
2話以降、城南大学とされた理由は不明。平山先生によると単純ミスだろう
との事。

(4)Amigo・・・立花藤兵衛が経営するスナックとして設定されているが、当
時、川崎インター近くに実際にあった店である。平山先生によると、誰かスタ
ッフの紹介等で使用したのではなく、たまたま適当な店があったので店先を
撮影に使わせてもらい、どうせならと実際の店名をそのまま劇中でも使用し
たそうである。因みに店名として設置されているAmigoの文字の書体は、
実際の店舗の外壁にある方が明らかに達筆である。

(5)生田スタジオ・第2ステージ前の階段・・・緑川ルリ子が立花藤兵衛を尾
行するシーンで使用。

(6)生田スタジオのセット・・・Amigo店内/Amigoの事務所(藤兵衛の住
居?)/城南大学生化学研究所の室内/マンション・ニューランドの室内/
マンション・ニューランドの屋上。

(8)東京お台場の造成地・・・ラストカット。サイクロン号(変形前)で爆走す
る本郷猛の雄姿。

マンション・ニューランド屋上での戦闘シーンや、制作第3話におけるサラセ
ニアンとの最終決戦の一部はスタジオ内にトランポリンを持ち込んで、暗幕
を張った壁を背景に撮影が行なわれた。
サラセニアンのジャンプ・シーンなどはメイキング・スチールが残されてい
る。



65



 制作第3話は放映第4話となった「人喰いサラセニアン」である。 
昭和46年2月中旬〜下旬にかけて、折田組による第2話との2本撮りとし
て撮影された。
『仮面ライダー』全98話中屈指の名作であり、平山亨プロデューサーが最
もお好きなエピソードだと仰るのも頷ける。
脚本は市川森一氏と島田真之氏の連名となっているが、阿部征司プロデュ
ーサーによると島田氏が執筆途中で行き詰まってしまったので市川氏に神
田の旅館で一泊していただき、一晩で書き上げてもらったのが「人喰いサラ
セニアン」なのだそうである。
準備稿ではタイトルが「植物人間サラセニアン」とされており、ストーリーも決
定稿とは大幅に異なるものだった。
サラセニアンはサラセニア人間とも呼ばれるが、高橋章氏によってデザイン
画が描かれた最初のショッカー怪人である。
その秀逸なデザインと造形が故・中村文弥氏の演技と一体化して、見事な
ほどリアルな存在感を呈示してみせている。
サラセニアンは鳴き声こそ発するものの、劇中では台詞を一言も話さない
のだ。
制作第3話では講談社・大島カメラマンによって百村の造成地(東京都稲城
市向陽台。
三栄土木とは別の場所である)でのロケと、生田スタジオ近辺(川崎市麻生
区)での夜間の戦闘シーンのスチール多数が撮影されているが、それだけ
である。
それ以外のシーンには大島カメラマンは同行しておらず、他に番宣等のス
チールも確認をしていない。

制作第3話では、カウルの改修も完了してようやく撮影に使用可能となった
旧サイクロン号が大活躍をしているが、不思議なことに何故か完成直後の
美麗な状態でのスチールが残されていない。
旧サイクロン号(完成タイプ)の特写が行なわれるのは次回制作第4話「怪
人さそり男」撮影時であり、毎日放送が生田スタジオで、講談社が館山で、
それぞれ素晴らしい特写スチールの一連を残している。

最後に、当時の新聞テレビ欄を見ると4月17日、24日と二週連続でサブタ
イトルが「人喰いサラセニアン」となっている。
これは単純なミステイクであり、「怪人さそり男」が急遽放映第3話として繰
り上がった訳ではない。
放映第1話〜第4話はストーリーの構成上(本郷猛と緑川ルリ子の関係の
変化において)、差し替えが許されないのである。




トップへ
トップへ
戻る
戻る