考証学66〜70

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 『仮面ライダー』の放送開始当時、大阪・毎日放送が番組の宣伝用に作製
した絵ハガキは『仮面ライダー』の宣材として初めてのものである。

このハガキは円形の図版の部分がシールとなっていて、「はがせばステッカ
ーになるよ」と記されていた。
その図版に使用されているスチールは旧サイクロン号に跨がっている旧1
号と蜘蛛男、蝙蝠男の3点である。
キャッチ・コピーは、どなたがお書きになったのか不明だが
「バツグンに強い!カッコいい!正義の味方仮面ライダーだどぉーッ!」
この図版の元となっているスチールは、制作第4話撮影時に生田スタジオ
で撮影された毎日放送による特写である。

絵ハガキのメイン・スチールで仮面ライダーはマスクを着用しているが、講
談社の『仮面ライダー大全集』表紙に使用されている方ではマスクが外され
ている(この一連ではマスクを外したスチールは他にもあるが、マスクを着
けているものは絵ハガキのものしか確認が出来ていない)。
撮影者不詳、撮影日時も確定はされていないが、こちらの方が館山ロケよ
りは前である。
何故なら藤岡弘、氏は制作第4話の撮影を前にして新調された仮面ライダ
ーの2着目の衣裳(ビニールレザー製)を着用していらっしゃるのだが、ブー
ツとグローブも真新しく塗装の剥がれ等一切見られない。
マスクもAタイプであるがリペイントされており、マフラーも細く短いものに替
えられている。
また、旧サイクロン号はもちろんカウルの下部を切除した完成タイプなのだ
が、制作第3話のお台場や百村ロケでの活躍を受けて、カウルには既に幾
つものキズがある。
さらに番宣絵ハガキには蜘蛛男と蝙蝠男の単体スチールも使用されている
のだが、このときサラセニアンの単体スチールも撮影されており、昭和46
年4月9日号の週刊TVガイドに掲載された番宣広告では、この一連からの
サラセニアンの単体スチールも使用されていた(さそり男のみ別にスタジオ
の外壁を背景に撮影されたものである)。
これら一連のスチールが撮影されたのはおそらく生田スタジオの第2ステー
ジ内であり、床は土の地面に直接ベニヤ板を敷いたもの、背景もホリゾント
のような立派なものではなく、おそらくベニヤ板を白く塗装したものである
(オリジナル・フレームで向って右端に見える汚れはフィルムの汚れではな
く壁の汚れ、と言うか、その部分は壁が塗り残されているのだ)。

これらのスチールにはカラーとモノクロの両方があるのだが、撮影者はサイ
クロン号の左前方の近い位置に三脚を立て、仰角から広角レンズでフレー
ムを一定にして撮っている。
照明はおそらく3灯、基本的なライティングである。
このサイクロン号のスチールを見ていて思うのだが、この特写の撮影者は
制作第8話の大阪ロケの際にMBSの千里放送センターでサイクロン号(と
本郷猛、緑川ルリ子)を撮影したカメラマンと同一人物である。

おそらく使用機材(カメラ、レンズ等)も同じものだろう。
もちろん、これは私の直感でしかないが、個人的には確信を持っている。


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 制作第4話「怪人さそり男」のラストシーンは館山・白浜海岸でロケが行な
われたが、本郷猛がサイクロン号のシートの後ろに緑川ルリ子を乗せたア
ップのカットは生田で撮影されたものである。 

おそらく毎日放送による番宣素材の特写が行なわれたのと同日、さらには
スタジオ裏手の草むらでの特写(仮面ライダー・本郷猛、緑川ルリ子、野原
ひろみ、さそり男)とスタジオ外壁を背景にしたさそり男の単体スチールの一
連も同日の撮影だろう。

つまり2月下旬(27日頃)のその日、生田スタジオでは『仮面ライダー』の放
送開始に向けて毎日放送による番組宣伝用素材としてのスチール撮影と
出演者への最初の取材(スタッフルームで藤岡弘、氏、真樹千恵子さん、島
田陽子さん)が行なわれていたのである。
この時のスタジオ裏手での特写には明確にストーリーを意識した演出が加
えられている。

それはおそらく竹本監督によるものではなく、制作第1話の階段での特写
(旧1号、緑川ルリ子、蜘蛛男)同様に当時まだ助監督だった塚田正煕氏に
よるものと思われる。

今回の草むらでのスチールはすべてモノクロでカラーは確認されていない
のだが少なくとも6カット以上あり、さそり男に襲われんとする緑川ルリ子と
野原ひろみを守らんとする本郷猛=仮面ライダー、そのような演出によって
作品の世界観が的確に表現されている。

興味深いのはこの時に撮影された旧1号の単体スチールで、両腕を左右に
拡げた仮面ライダーが草むらの中に一人立っているのだ。
私はすぐに小河内ダムでの旧1号の単体スチールを思い出したが、あの小
河内ダムでの一連のスチールの撮影者もやはり毎日放送の番宣スチール
のカメラマンだったのだろう。



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 昨年末に秋葉原で開催された講談社・大島カメラマンの写真展を御覧に
なった方ならばきっと、会場にあった館山での旧1号とサイクロン号の特写
スチールに目を奪われたことだろう。

会場に展示されてあったパネルの写真はオリジナル・ポジからの直接のプ
リントではなくデータ処理されたもののようだったが、この一連のオリジナ
ル・ポジはブローニーに6×6で撮影されていたものである。

これまで多くの書籍や5円ブロマイド等に繰り返し使用されており、旧1号と
サイクロン号のスチールとしては代表的な特写であるが、これまでに少なく
とも13枚を確認することが出来ている。
この一連のスチールは制作第4話「怪人さそり男」の館山ロケの際、昭和4
6年3月1日の昼に館山グランドホテルの裏手にあるサンドスキー場で撮影
されたものである。
仮面ライダーの演技者は岡田勝氏ではなく藤岡弘、氏であり(一部書籍に
岡田氏と記載されているが、誤りである)、ライダーの衣裳は新調されたビ
ニール・レザー製のものが着用されている。
マスクとブーツ、手袋もリペイントされ、細部を見ると触角アンテナは短くな
って先端に大きめの円盤があるタイプとなり、ベルトは風車に透明なカヴァ
ーが付けられている方である。
さらに、ベルト左右の電池ボックスは薄くなり、マフラーも細く短くなった

ところで、『仮面ライダー=本郷猛』(藤岡弘、著/扶桑社刊)のP.88に以
下のような記述がある。

さらに付け加えとおくと、パール粉は周囲の光を反射するので、晴天の日に
は青空の青を反映させてしまう。
このため第3話の館山ロケで撮影の合間に撮られた一連の写真では、非
常に天気がよかっため青みが強く映っている。
この一連の写真の使用頻度が高いことから、旧1号マスクに青っぽい印象
を持つ人が多い。
が、元々は緑色のバッタをイメージしているわけで、頭部はダークグリーン、
クラッシャーと下顎がそれよりも明るいグリーンであり、旧1号マスクには青
は使われていないのである。

仮面ライダー・スナックのカード・コレクターとして著名な堤哲哉氏の論考で
あるが、明確に誤りである。
そもそもパールとは、微細な雲母片の表面が或る種の物質でコーティング
処理された顔料の一種である。仮に酸化チタンでコーティングされたものな
らば、チタンコーティングの厚さを変えることによって特定の波長の光だけを
反射するようにすることは可能である。
しかし、38年前のエキス・プロダクションにおいて、チタニウム・マイカ系の
ようなFGパール顔料が使用されていただろうとは思えない。
旧1号のマスクに使用されていたのはおそらくホワイトタイプのMGパール
顔料であり、これは可視光線をすべて均等に反射する。
つまり、干渉も偏光もしない訳である。
要するに、ダークグリーンにパールを吹いたという塗装面が非常に天気が
よかったために青く映ったというような解説は間違いなのである。
この場合、問題はパールではなくフィルム特性であり、通常、撮影前にはフ
ィルムを生産ロットごとにテストして補正値を出し、フィルターで補正するの
である。
さらに現像後のポジを印刷原稿に使う場合、当然ながらシアン・マゼンタ・イ
エローのカラーバランスが適正でなければ正確な色は現れない。
逆に、青を強くすることも弱くすることも自在なのである。

では、本編の映像はどうなのか?
残念ながらスチール以上に正確な補正が行なわれていたとは思われない
(現行のDVDのマスターなど論外である)。
結局のところ現物を見なければ厳密に正確な色は解らないのだが、それに
してもそれが青なのか緑なのかが解らない筈はない。

「旧1号マスクには青は使われていない」のではないし、そもそも「グリーン」
とはシアンとイエローの混色なのである。



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 村枝賢一氏の『仮面ライダーをつくった男たち』第1話「泣き虫プロデュー
サー」は週刊少年マガジンの2006年10月11日号に掲載された。 

作品中には旧サイクロン号に跨がって振り返る旧1号のシルエットが印象
的に使用されたが、これはおそらく制作第7話撮影時の百村での講談社ス
チールが元となっている。
昭和46年の3月中旬、館山での特写同様に大島カメラマンによって多数の
スチールが撮られたが、館山とは逆にサイクロン号をリアから捉えたスチー
ルは抜群にカッコイイ。
しかし、この一連はスチール撮りのための特写ではなく本編撮影時のもの
であり、演技者は藤岡弘、氏。サイクロン号はこの後大阪へ運ばれて、MB
Sの千里放送センターでの特写に使用される事となる。



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 『仮面ライダー』の制作第8話「死神カメレオン 決斗! 万博跡」は、キー局
であったMBS毎日放送の招聘によって大阪ロケが行なわれた事で知られ
ている。

昭和46年3月22日〜23日と僅か一泊二日の過密スケジュールの内容
は、初日が千里丘放送センターでのプレス・コンファレンス、試写会、スチー
ル撮影。
二日目がEXPOランド(万博跡の遊園地)でのデモンストレーションと本編
の撮影、さらに東京への帰途に立ち寄った琵琶湖畔での本編とオープニン
グ用フィルムの撮影、となっている。
これに関して残されているスチールを検証してみたいのだが、私の知るか
ぎり毎日放送、毎日新聞、講談社、以上のものしか確認ができなかった。

週刊テレビガイドなどは、制作第7話の百村での撮影にはカメラマンを派遣
して非常に興味深いスチール(例えば、マスクを外して頭上へと持ち上げた
素顔の仮面ライダーのバスト・ショット、赤目のラテックス製マスクで変形前
のサイクロン号に乗っている仮面ライダー、他)を押さえているのに千里で
のスチールは見当たらない。
他にもっとたくさんのスチールがあったと思われるのだが、残念ながら見つ
からなかった。
ところで、エキスポランドでのプレス向けのデモンストレーションとして有名
なのが、藤岡弘、氏がサイクロン号(変形前)で階段を駈け上ったというエピ
ソードである。
平山亨先生もよく憶えていらっしゃって、扶桑社でのルリ子さんとの対談の
折りにも、この話題が出たのだが、

平山「あのときだよね、失礼な新聞記者がいてさ、」

藤岡「そうです。おまえ、オートバイに乗れるのかって言ってきて、」

平山「あっ、と思ったら藤岡くんがワーッとオートバイで走り出しちゃって、階
段を上り出しちゃったからびっくりしたよ。あのときはオートバイ担当たちが
みんなで追いかけて、上でうまく止まれたからよかったけど、落っこちてたら
大変なところだったよ」

すると、本編での階段走行シーンはその記者の無礼な一言がきっかけとな
って実現したことになる。

毎日放送の番宣スチール・カメラマンも講談社・大島カメラマンも階段途中
や上方にポジションを取って、このシーンではモノクロとカラー多数のスチー
ルが撮影された。





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