考証学86〜90

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 『仮面ライダー』旧1号編のオープニングを演出したのは折田至監督だ
が、フィルムはいくつかのシーンを編集したパッチワークとなっている。

大別すると、東京湾の埋立地での旧サイクロン号の走行シーン、トミナガオ
ートランドでの変形前サイクロン号の走行シーン、生田スタジオ・回転バック
前での変身シーンのバンク・フィルム、そして「ショッカー恐怖場面」である。
お台場での旧サイクロン号は所謂、第1NGタイプであり仮面ライダーを演じ
ているのは室町健三氏。
使用されているマスクはラテックス製のものだけである。
つづいてメインタイトルがクレジットされるアップのカットの仮面ライダーを演
じているのは藤岡弘、氏。
もちろん、実際に走行している訳ではない。
また、サイクロン号のフロントにある立花レーシング・クラブのエンブレムの
汚れ具合から、このサイクロン号は冒頭でお台場を走行した第1NGタイプ
ではない。
おそらくカウル改修後の、制作第3話のサラセニアン編撮影時のものだろ
う。

トミナガオートランドでのシーンに関しては、関連書籍に掲載されてあるこの
場面のスチールのキャプションに、しばしば「リハーサルのためベルトをして
いない」と書かれているが、本編の映像においてもそのままベルトは着けら
れていない。
こちらも演じているのは室町健三氏である。
回転バックの変身シーンの仮面ライダーは藤岡弘、氏。
グローブのアップのカットで左手の塗装がほとんど剥げ落ちているのに対
し、左足のブーツの塗装は非常に綺麗な状態のままである。
特にブーツの塗装(色)は明らかに第1話撮影時のものではない。
「ショッカー恐怖場面」は放映第5話から仮面ライダー・本郷猛・蝙蝠男・か
まきり男・さそり男・サラセニアンが登場する汎用カットに変更されたが、こ
れらは制作第7話制作時に撮影されたものである。

仮面ライダーのマスクはFRP製のBタイプであり、Cアイに赤いカヴァーが
付けられている。



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『仮面ライダー』の第1話「怪奇蜘蛛男」のAパートにおいて、マスクを装着し
た仮面ライダーが初めて登場するあの小高い山(丘?)は何処なのか?

その地形や植生から判断して小河内ダム近辺であることは間違いがなさそ
うだが、これまでに現地で具体的にどの山がそれであるとは特定がなされ
ていない。
つづくカットでマスクがアップになるのだが、このカットについての重要なヒ
ントが○昌マークの16枚綴りのメンコに使用された1枚のスチールに記録
されている。
16枚の左下角の旧1号のスチールは他では見られない貴重なものだが、
国道411号線の道路脇に立つ仮面ライダーはまさしくこの初登場シーンの
アップのカットを撮影中だと思われる。
おそらく本編の16mmのカメラがライダーの足元にあるのだろう。
マフラーが風に強く煽られているのは扇風機を使用しての演出だと思われ
る。
このマスクは言うまでもなくFRP製のAタイプである。
触角アンテナの先端はフレームから外れていて確認ができないが、小河内
ダムでの撮影開始当初では左右共にアンテナの先端には小さめの突起が
付いていた。
また、アンテナを挿し込むためにマスク本体に取り付けられたパイプの周囲
もこのカットでは非常に美麗な状態であり、これこそ旧1号のマスクの新品
状態を記録していると考えて間違いはないだろう。



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 ○昌マーク16枚綴りのメンコは『仮面ライダー』放映当時に駄菓子屋で1
枚10円で販売されていた。 
図案はこの1種類のみであり、制作第24話のムササビードルが含まれて
いる事から発売時期はそれ以後という事になる。

この16枚のメンコに使用されているスチールには毎日放送の珍しい番宣
スチールが含まれており、ファンにとっては極めて貴重なアイテムとなって
いる。簡単に解説を加えてみる。

(1)サイクロン号に跨がった旧1号・・・生田スタジオ入口付近のコンクリート
壁前での特写。サイクロン号は第2NGタイプである。このアップのカットは
最近は出版等でもまったく使用されなくなってしまった。

(2)旧2号対ムササビードル・・・北海道ロケにおける洞爺湖付近での毎日
放送スチール。

(3)カメレオン男・・・制作第8話の万博跡エキスポランドでの毎日放送スチ
ール。

(4)旧1号対蜘蛛男・・・第1話制作時に生田スタジオ外の階段で撮影され
た特写。撮影者は当時助監督だった塚田正煕氏。

(5)キノコモルグ・・・スーツの色がオリジナルであり本編撮影時の単体スチ
ールである。

(6)旧2号・・・伊豆サボテン公園の駐車場で撮影された毎日放送スチー  
   ル。このマスクは旧1号のAタイプのマスクをリペイントしたもの。

(7)カニバブラー・・・北海道ロケの毎日放送スチール。演じるは岡田勝氏。

(8)ムササビードル・・・北海道ロケの毎日放送スチール。演じるはこちらも
   岡田勝氏。

(9)旧2号・・・伊豆サボテン公園で撮影された旧2号の三面スチールの一
   枚。演じるは岡田勝氏。

(10)サボテグロン・・・伊豆サボテン公園で撮影されたオリジナルのサボテ
    グロン。毎日放送スチール。

(11)変形前のサイクロン号と旧1号。背後に見える建物が生田スタジオ。

(12)緑川ルリ子・・・万博跡エキスポランドでの毎日放送による特写。

(13)ヤモゲラス・・・劇場版『ゴーゴー仮面ライダー』公開の宣材としての東
   映宣伝部による特写とされる。同時にゲバコンドル、トカゲロンの単体
   スチールも撮影された。撮影場所は生田スタジオ裏手の空き地。

(14)一文字隼人・・・ピラザウルス編撮影時の毎日放送の特写。撮影場所
   は生田スタジオの壁の前。

(15)かまきり男・・・衣裳の右胸に大きな染みがあるこのかまきり男は制作
   第6話のオリジナルではなく第13話に再登場した際のもの。

(16)旧1号・・・考証学87参照。




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 6年前、正確な日付は忘れたが、私には御茶ノ水で故・小山英夫さんにお
会いする機会があった。 

あの日はキカイダー事務局長とキカイダー01横浜支部長もいっしょだった。
佐々木剛さんと大橋道然さん、真樹千恵子さんと、或る音楽家の演奏を聴
いたのだった。
ライブの後で近くの居酒屋へ入り、酒宴の席で私は初対面の小山さんに
様々に質問をした。

ショッカーのベレー帽戦闘員の顔のメイクはどんなふうにしていたのか?

蜂女は?

第2話で蝙蝠男の毒牙にかかった緑川ルリ子のメイクはやり過ぎではなか
ったか?

講談社・大島カメラマンのスチールに、小山さんの姿が映っているものが何
枚かある。
小山さんはロケバス車内で蜂女役の岩本良子氏のメイクしていたり、蝙蝠
男役の佐野房信氏の目元を塗っていたりする。
『仮面ライダー』のメイク担当が小山氏でなかったら、『仮面ライダー』は私た
ちが知っている『仮面ライダー』とは微妙に異なるものになっていたに違い
ない。

『仮面ライダー』で小山さんがなさったお仕事に心からの感謝と
敬意を込めて、謹んで御冥福をお祈りさせていただきたい。




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 一昨日、私はムスタング代表とKEI札幌支部長に同行して渋谷で開催さ
れているメディコム・トイの展示会を見てきた。

その後、近くのレストランで飲食しながら三人で話したが、小山英夫氏の訃
報に接したのはその日の夜だった。
メディコム・トイの展示会場にはショッカーの赤戦闘員も展示されていた。
顔のメイクは蜘蛛男の戦闘員のものだった。

そこにも小山さんのお仕事は遺されていた。

『仮面ライダー』の初期のベレー帽を被っている戦闘員が私は好きだが、な
かでも蜘蛛男や蜂女の戦闘員のメイクは格別だ。

朝早くから撮影現場やロケバス車内で、小山さんが役者さんたちにメイクを
施すのを真樹千恵子さんはいつも傍らにいて見ていらっしゃったそうだ。
小山さんが何の資料も見ることなく毎日同じメイクを反復して描かれるのを
見て、たいへんに驚かれたという。
小山さんのお仕事は繊細であり、丁寧だった。
ビリケン商会から蜂女のフィギュアが発売された際、私はそのペイントマス
ターを担当したので再確認させられたが、岩本良子氏の頬を三段に塗り境
界をぼかしてあるそのメイクは美しかった。

私はその蜂女のフィギュアを小山さんに見ていただきたいと思っていたが、
それも、もはや適わない。



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