TVシリーズ『仮面ライダー』のオープニングに「原作 石森章太郎(ぼくらマ
ガジン連載)」というクレジットが現れる。
これによってTVシリーズの『仮面ライダー』は石ノ森氏の漫画作品を実写テ
レビドラマ化したものと誤解される場合もあるが、実際には週間ぼくらマガジ ンでの漫画連載とTVシリーズの放送開始はほぼ同時期に始まっている(厳 密には、週間ぼくらマガジン1971年16号の発売の方が若干早い)。
しかし、TVシリーズ『仮面ライダー』のクランク・インは周知のとおり2月7日
であり、石森章太郎氏の漫画版の執筆開始に先行していたと思われる。
その具体的な証左のひとつが連載第2回に登場するサイクロン号である。
これはTV版第1話でアイキャッチャーとして使用された石ノ森氏のイラスト でもそうなのだが、わざわざ第2NGタイプのサイクロン号として描かれてい る。
つまり、カウル正面にあった口状のスリット下部を切除した状態で描かれて
いるのである。
これは正規のデザインではなく、東京湾岸の埋立地でオープニング・フィル
ムの撮影中に偶発的にスリット下部が破損した事による。
即ち、石ノ森氏の原稿執筆はその後であり、おそらく生田スタジオ入口付近
のコンクリート壁の前で撮影されたサイクロン号の特写スチールを資料とし て描かれたものと思われる(そもそもサイクロン号のデザインは変形前の常 用タイプも変形後のフルカウルのタイプもエキス・プロダクションの三上氏に よる)。
また、TVシリーズの放送開始以前に初めてメディアに露出したスチールも、
このコンクリート壁前の特写スチールだった(週間テレビガイドに掲載され た)のである。
その後、TV版サイクロン号のカウル改修に伴って、漫画版サイクロン号の
カウルも改修されるのである。
石森章太郎氏による漫画版『仮面ライダー』の第1話「怪奇くも男」とTV版
の第1話「怪奇蜘蛛男」は驚くほど類似している。
中にはショッカー首領のセリフなどTVとまったく同じセリフもあって、石森氏
はTV版第1話の試写を見てから描いたのではないか?
と思われるようなページも少なくない。
実際は、おそらくTVシリーズの台本を共有して描かれたのだろうが、それで
は何故、漫画版では最終決戦の地がダムではなく海なのか?
理由は簡単で、TV版の小河内ダムでの撮影の方が台本に従っていないか
らである。
また、漫画版では立花藤兵衛が本郷家の執事と設定されているのだが、そ
もそも平山亨先生による企画段階(クロスファイヤー)で藤兵衛にあたる人 物(藤堂権兵衛)は本郷家の家令として設定されていた。
漫画版『仮面ライダー』は第2話「空とぶ吸血魔人こうもり男」以降、除々にT
V版から乖離し始め、第4話「13人の仮面ライダー」ではほとんど漫画版オ リジナルとなっている。
しかし、この「13人の仮面ライダー」も先行するTVシリーズがなければ成立
しなかった。
何故なら、TVシリーズ第9・10話撮影時の藤岡氏の事故がなければ2号ラ
イダー=一文字隼人の登場は有り得なかった訳で、したがって漫画版「13 人の仮面ライダー」もTV版に準拠しているのである。
因みに、TV版で一文字隼人=佐々木剛氏が当初着ていたツナギの衣裳
は、漫画版では本郷猛が着用している。
また、「13人の仮面ライダー」の劇中で本郷ライダーに対し「きさまは13人
めの仮面ライダー」というセリフがあるが、これは本郷ライダーを威圧するた めのセリフであり、実際に本郷ライダーが「13人めの仮面ライダー」である 訳ではない。
漫画版においても本郷猛は第1番目の仮面ライダーであり、つづくセリフで
「われわれはきさまをほうむりさるためにきさまと同じ能力をもつ12人の超 人をつくったのだ!!」と語られる。
ただ、一文字ライダーが12人の中で何番目であったのかは定かではない。
月刊少年マガジン8月号から新連載として始まった村枝賢一先生の『新仮
面ライダーSPIRITS』を拝読させて頂いた。
随分と前の話だが、ムスタング代表と二人で村枝先生の仕事場へお邪魔し
たとき、いずれ『仮面ライダーSPIRITS』に緑川ルリ子を登場させると話して いらっしゃったのが、ようやくこうして実現になったという訳だ(尤、そのとき 村枝先生から伺った話では、ヨーロッパにいる緑川ルリ子から本郷猛に電 話がかかって来るという事だった)。
勿論、ルリ子さんも村枝先生がお描きになられた緑川ルリ子を楽しんで御
覧になっている。
以前の『仮面ライダーをつくった男たち』にも感心していらっしゃったのだ。
『新仮面ライダーSPIRITS』第1話は60ページの一挙掲載となっている。
TVシリーズ全98話をデコンストラクトして再構成してあるため、時間的には
旧1号編の放映第4話〜第11話を扱っていながら死神博士やアンチショッ カー同盟、そして一文字隼人が登場をする。
村枝先生はTVシリーズのミッシング・リンクを漫画に描こうとされているの
だろう。
今回は本郷猛と一文字隼人の邂逅が描かれた。私はいずれ村枝先生が、
本郷猛と緑川ルリ子の別離を描いてくださるのではないか、と密かに期待し ている。
平山先生も、きっとその事を楽しみにしていらっしゃるに違いない。
1985年7月30日に初版が発行された朝日ソノラマの宇宙船文庫『仮面
ライダー変身ヒーローの誕生』に平山亨先生による「二人ライダー・秘話」と いう短篇が収録されている。
これは藤岡弘、氏の鶴川街道での事故と事後処理を回想し、さらに短篇小
説の形式を採って本郷猛と緑川ルリ子の物語を完結させたものである(同 時に本郷猛と一文字隼人の出会いも描かれているのだが、村枝賢一先生 による新仮面ライダーSPIRITSとは設定が異なっている)。
この作品において、平山亨先生は次のように述べていらっしゃる。
「1話20数分しかない忙しいテレビの世界、ヨーロッパへ行った本郷とルリ
子はどうなったのか。
描くスペースのない悲しさでスイスからの帰還ということになったが、私の頭
の中には彼等の物語は漠然とではあるが、さまざまに去来していた。
それの概要を今ここで語らねばなるまい。」
平山亨先生は、ほんとうに本郷猛と緑川ルリ子のその後の物語を気にかけ
ていらっしゃった。
と言うよりは、藤岡弘、氏の事故による番組離脱に伴って降板を余儀なくさ
れた真樹千恵子さんのその後を気遣っていらっしゃったのである。
何しろルリ子さんの降板を決定したのは平山先生ご自身であった。
その後、30余年の歳月を経て、平山先生がルリ子さんとの再会をどれだけ
お喜びになられたかを私はよく知っている。
平山先生は桜島1号の横顔が表紙になっているその文庫本をルリ子さんに
お渡しになって、小説としてお書きになられた自らの想いをお伝えになられ たのである。
平山亨先生は「二人ライダー・秘話」のラストシーンで、ポルトガルのリスボ
ン、サン・ビセンチ岬を舞台にして本郷猛と緑川ルリ子の別離を描いてい る。
「本郷さん、私は貴方と・・・・」
「ルリ子さん、君はすばらしい人だ。でも、俺はひとりでもやって行ける」
これが平山亨先生のダンディズムである。
TV版『仮面ライダー』には、いくつか失われたエピソードがある。
全98話・1年10ヵ月という放映期間の中で当然、描かれて然るべきだった
にも拘らず描かれなかったストーリー上の欠損である。
まず第一に、本郷猛と一文字隼人の出会いと2号ライダーの誕生について
は、本来ならば描かれて然るべき重要なエピソードだったろう。
映像でこそ描かれることはなかったが、昭和46年4月28日の毎日放送東
京支社での打ち合せ会議を受けて記された平山亨先生のメモに、以下のよ うな注目すべき内容の記述が残されている。
ショッカーは一文字隼人を改造してより強力な仮面ライダー2号を造り、こ
れで仮面ライダー本郷猛を倒そうと計画したのです。
仮面ライダー本郷猛はその計画を探知してショッカー大基地に潜入し、仮
面ライダー2号の脳改造計画直前にこれを救出します。
(新仮面ライダーの設定について)
この部分は月刊誌HOBBY JAPANに連載中のS.I.C.のオフィシャル・スト
ーリーにおいて、その魅力的なダイオラマと小説という形式によって一度、 作品化されている。
そこに村枝賢一先生が『新仮面ライダーSPIRITS』の第2話以降でどのよう
な新しいアレンジを加味するか、楽しみだ。
何れにせよ、番組放映当時から仮面ライダー2号の誕生エピソードは明確
に設定がなされていたのである。
平山亨先生ほど『仮面ライダー』を考えていらっしゃる方は他にいない。
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