考証学追記 6〜10

考証学追記 6




 仮に藤岡弘、氏の鶴川での事故がなかったら、『仮面ライダー』という番組
は果たしてどのような結末を迎えていたか?
これはファンならば誰しもが抱く疑問だろう。
私もそう思い、以前、平山亨先生に伺ってみた事がある。
「藤岡さんの事故がもしなかったとして、平山先生は仮面ライダーをどのよう
に終らせるおつもりでしたか?」
その答えは驚くべきものだった。
平山先生は、まったく考えていなかった、そう仰られたのである。
事実、番組開始当初の資料を検証してみても『仮面ライダー』の結末を論じ
ているペーパーは一切ない。
東映サイドで制作された企画書でも『仮面ライダー』の放映期間を2クール
以上とし、物語の開巻エピソードこそ提示してあるものの終りについては触
れられていなかった。
その後、番組の人気高騰によって放映期間は延長に延長を重ね、石ノ森章
太郎氏の漫画連載が第6話(少年マガジンの連載としては第4話)「仮面の
世界(マスカー・ワールド)」(週間少年マガジン1971年53号)をもって終
了となった後も、1973年2月10日まで続いたのである。それでもやはり、
私は考えてみたくなる。

藤岡弘、氏の事故がなかったら『仮面ライダー』はどうなっていたのか?

「仮面とは顔を隠すものでありますから、当然その仮面の下にはどのような
顔が隠されているかという興味があり、(後略)」

これは平山亨先生によって執筆された『マスクマンK』の企画書に記されて
いる文章である。私はもう一点、先生にお訊ねしてみたことがある。
「仮面ライダーの正体が本郷猛だと緑川ルリ子に知られてしまう、そのよう
な展開を先生はお考えでしたか?」勿論、私はそうなると期待しての事であ
る。

しかし、平山先生は即座に否定なさったのだった。

『仮面ライダー THE FIRST』において仮面ライダーの正体はヒロインに知
られてしまう。
また、『新仮面ライダーSPIRITS』の第1話では一文字隼人が緑川ルリ子
にそれを示唆する。
このようなシナリオは明らかに平山亨先生と価値観を異にする。

或いは、恋愛観の相違とでも言うべきか、・・・



考証学追記 7



2003年に東京南青山のビリケン商会から発売された仮面ライダー旧1号
は、私には思い出が深い。

藤岡弘、氏が恵比寿で講演をなさった時に、ルリ子さんと藤岡弘、氏を控室
にお訪ねし、完成させたフィギュアをプレゼントさせて頂いたのだった。

このフィギュアは海外でも著名な造形作家であるハマハヤオ氏による原型
で、私はそのペイントマスターを担当させて頂いた。
ホビージャパンの2003年11月号に作例記事を載せてもらったが、実は後
悔もある。
第1話の小河内ダムでの毎日放送のスチールの中の1枚、腕組みをして立
っている旧1号を再現した造形であるにも拘らず、私は第1回目のリペイン
ト後、即ち制作第4話撮影時の色で塗っている。
理由のひとつは造形されたフィギュアにスーツの細かな皺のモールドがな
く、2着目のビニールレザーの衣裳のように見えるからと、単純にそちらの
色の方が私の好みだったからである。
しかし、これは腕組みポーズである以上、厳密に1話の色を再現するべきだ
った、と反省をしている。
既に6年も前の話だが、当時はまだこの毎日放送のスチールが一般のファ
ンには充分に認知されていなかった事もあり、腕組みをしているなんて仮面
ライダーらしくない、という意見も聞かれた。
そもそも仮面ライダーらしいポーズなどが確立される以前のスチールであ
り、私もこれ以外に腕組みをしている仮面ライダーを知らない。

それでもこのスチールの仮面ライダーは抜群に格好いいのである。

控室でフィギュアを御覧になった藤岡弘、氏が開口一番仰ったのは、

これはぼくだ、ぼくが入っている!



考証学追記 8



佐々木剛氏が主演する舞台『改造人間哀歌2〜星空の約束〜』を観劇させ
て頂いた。
現在も公演中なので物語の詳細については秘すが、劇中ではベルトを拒
絶する佐々木氏が、カーテンコールでは見事な本家・一文字隼人の変身を
披露してくださった。
仮面ライダー2号=一文字隼人がポーズによって変身する事になった一番
の理由は、当時の佐々木氏が二輪の免許を持っていなかった事による。
旧1号のときの本郷猛のようにサイクロン号を使っての変身が叶わなかっ
たのである。
そこで平山亨先生が殺陣師の高橋一俊氏に相談し、高橋氏からはポーズ
によっての変身が提案された。高橋氏による『澤村竜王の殺陣師一代』か
ら引用させて頂く。

高橋   平山さん、変身ポーズが出来ました、見て下さい。

平山プロ そう出来た! 早く見せてよ。

高橋   自分がやりますから、いいですか、まず両手を平行に右の肩と一
直線にします。そして平行に半径を描きながら顔の前を移動させ左に両手
を移動させる、移動が終わった所で左手だけ直角に曲げ、右手は関節を曲
げ胸に平行で左肩に、左右の手はこぶしを握る。この移動中、同時にライ
ダー変身と大きな声で言います。

平山プロ まるで、時代劇だね。とにかくそれで行こう。

高橋 明日から佐々木君にやってもらいます。

以来、今日まで、佐々木剛氏は一文字隼人として幾度となく変身ポーズを
取り続けていらっしゃった。
ひとりのファンとしては、あまり軽々しく「お見せ」なさらないで頂きたいという
思いもあるが、しかしまた、何度でも拝見したいのが変身ポーズである。

仮面ライダー2号=一文字隼人のファンならば、是非とも駒込まで足を運ん
で頂きたい。



考証学追記 9



添付画像は『仮面ライダー』放映当時の或るイベントの光景を記録したスチ
ールである。

昭和46年9月4・5日に東京青年会議所主催でチャリティー・バザールが
開かれて、佐々木剛、千葉治郎、山本リンダ、地獄サンダー、再生サラセニ
アン、他の皆さんが参加してサイン会が行なわれた。

このスチール自体貴重だが、私が注目したのはそこに小さく映り込んでいる
或る改造人間の写真についてである。
画像では判りずらいかもしれないが、そこに立っているサラセニアンと地獄
サンダーの間には椅子があり、パネルに仕立てられたようなゲバコンドル
のスチールが置かれている。

これが驚くべき事に羽根付きの本編撮影時の単体スチール!

大井松田の原野での最終決戦の際、クルマのルーフに上がって片膝をつ
いているシーンだと思われる。

おそらく毎日放送の番宣スチールの1枚だと推察するが、他では見たことの
ない貴重なスチールであり、その存在を確認することが出来ただけでも意
味がある。
おそらくイベントに参加した怪人を紹介するために用意されたのだろうが、
実際にこのイベントにゲバコンドルが参加していたかは確認がされていな
い。



考証学追記 10



 『仮面ライダー』の旧1号編にあって旧2号〜新1号編にないもの、それは
「物語のヒロイン」の存在だった。
もちろん、第14話以降も多数の女性キャストが登場し一般にライダーガー
ルズと呼ばれるが、その誰一人として「物語のヒロイン」に格上げされる事
はなかったのである。
つまり、第14話以降の『仮面ライダー』は「ヒロイン不在のヒーローもの」と
いう不自然な構造を強いられるようになってしまった。
その結果、「物語のヒロイン」に取って代わったのは「子役が演じる劇中の
子供たち」であり、『仮面ライダー』はあからさまな児童番組へと変質させら
れていったのである。

その変質は、少年仮面ライダー隊の発足によって決定的となり定着されて
しまった。
視聴者は新たな「物語のヒロイン」の登場を『仮面ライダーV3』まで待たされ
る事になる。

翻って考えてみると、旧1号編の『仮面ライダー』において緑川ルリ子は悪
の組織に父親を殺害された文字通り「悲劇のヒロイン」であり、シナリオを読
み返すまでもなく、そのドラマは悪の組織からヒロインを守る正義のヒーロ
ーの物語である。

ショッカーによって危機に陥った緑川ルリ子を本郷猛が仮面ライダーとなっ
て救い出す、そのようなストーリーが第1クールの大半を占めていた(放映
第1・2・3・6・7・8・11話)。『仮面ライダー』の本質は極めてオーソドックス
なのである。
そんなドラマを我らがヒロインはどのように思っていらっしゃったのだろう
か?
 いつもショッカーに捕まっていましたね、私の問いに、よく縛られた、とルリ
子さんは笑っていらっしゃった。




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