移行帯底生魚19

馴染み深いのに謎だらけ。淡水で育つのに深海魚。これほど奇妙なサカナは他にいないでしょう。私たちは普通に蒲焼食べてるのに卵が長い間見つかりませんでした。そして研究者の長年の努力によってついに天然の卵が発見されました。二〇〇九年のことです。場所はグアム島の西、マリアナ諸島、日本から二千qも離れた場所の直径1.6oの卵。見つからないわけですね。孵化後は北赤道海流に乗り西へと移動します。フィリピンが近づくと南へ流されないよう表層付近へ上がり黒潮に乗り換えます。日本沿岸に近づくにつれ葉形仔魚(Leptocephalus)はシラスウナギに形を変えやがてクロコとなって川を遡上します。私たちの胃袋に収まるのはこのシラスウナギから養殖されたウナギです。川で貪欲に育ち成熟した黄ウナギは川を下り、銀ウナギとなって大海原に旅立ちます。半年間何も食べずひたすら生まれ故郷を目指し海底山脈にたどり着きます。故郷を知る手がかりは嗅覚ではと考えられています。そして深海底で静かに「その時」を待ちます。イラストが普段見慣れているウナギと違うのにお気づきでしょうか。雌は卵で、雄は精巣でお腹はパンパンです。眼もギョロっと大きくなります。でも何も食べてないから消化管は萎縮しちゃってます。新月の数日前、満を持してヨッコラショと浮き上がります。イラストはその瞬間の想像図です。そして深さ一五〇〜二〇〇M付近でおそらくおびただしい数のウナギたちが連日一斉に産卵するのではと思われます。何千qも離れた日本で獲れるシラスウナギの量を考えると半端じゃない産卵数なんでしょうね。しかし近年の漁獲量はうなぎのぼりとはいかず急速なうなぎくだりの一途をたどっています。獲り過ぎや護岸工事が一因と言われています。ところでウナギは同じような体型のアナゴ、ウツボ、ハモとは縁遠く、深海性のシギウナギやノコバウナギ、フクロウナギ、フウセンウナギ、ヤバネウナギなどが近縁であることも分かりました。元来、外敵の少ない熱帯の深海で生活していて次第にエサの豊富な川や湖に進出するようになったのではと考えられています。かつてアリストテレスが見つからぬ卵にしびれを切らし「泥の中から自然発生する」と結論づけたウナギの生態は徐々に解明されてきています。それにしても日本だけでなく韓国や中国にもたどり着いているウナギ、世界一流れの強い黒潮をどうやって克服して里帰りしているんでしょうね。色んなことが分かってきました。でもやっぱり謎めいています。二〇一三年二月、環境省がニホンウナギを絶滅危惧TB類に指定しました。
1.ニホンウナギ
 Anguilla japonica
 100p(Lv.4p)












うなぎくだり