移行帯底生魚
/生物05

立ちはだかるブロックはクジラの骨です。肋骨にまとわりついているとろろ昆布みたいな赤いモノ、これはれっきとした生き物です。曼珠沙華(まんじゅしゃげ)のような可憐な花、実は二〇〇四年に発見されたばかりのゴカイの仲間なんですね。クジラの骨から見つかっているのでホネクイハナムシ、通称ゾンビワーム、学名のOsedaxは「骨をむさぼる者」と、どう呼ばれてもイメージアップにはなりません。骨の中は球根のようなルートと呼ばれる器官が根付いており、その中の共生細菌が骨の脂肪などからエネルギーを得て宿主を養っていると考えられています。近縁のチューブワームといい、ポンペイワームといい、オヨギゴカイといい深海のゴカイたちは実に奇妙奇天烈な生き物が多いですね。ゲイコツナメクジウオも常識破りでは負けていません。ナメクジウオは三十種くらいが知られているそうですが「浅く」「流れの速い」「清浄な」場所に棲息するという常識を覆し、ゲイコツナメクジウオは「深く」「流れの遅い」「腐敗した」場所を好む天邪鬼(あまのじゃく)な生き物です。分類ですが当然ナメクジでもウオでもありません。脊索(せきさく)動物門という大きなグループの中の頭索(とうさく)動物亜門というところに属しています。亜門には他に我々ヒトやサカナが所属する脊椎(せきつい)動物亜門とホヤやサルパなどの尾索(びさく)動物亜門があり、こんな姿をしていますがナメクジウオは脊椎動物に最も近い無脊椎動物ということになります。ピンときませんけどね。ちなみにクジラ一頭死して築かれたこの独自の生態系は鯨骨生物群集と呼ばれ、腐敗すると硫化水素が生じるので一部は化学合成生物群集に含まれます。イガイ科の二枚貝ヒラノマクラもクジラの骨がお好みでこうしてぎっしり身を寄せ合っています。そのせいで酸欠になるのか海中の酸素をできるだけ多く取り込もうと水管を長く伸ばしています。そしてエラに硫黄酸化型の細菌を共生させています。最後にロッククライミングに挑もうと見上げているのはオオコシオリエビ、以前実物に触れてあの長いハサミに指を挟まれましたが洗濯バサミのような感触でしたね。エビよりもヤドカリに近く食用になっています。
1.Osedax japonicus
 ホネクイハナムシ
 2p

2.Asymmetron inferum
 ゲイコツナメクジウオ
 1.5p

3.Cervimunida princeps
 オオコシオリエビ
 4p(背甲長)

4.Adipicola pacifica
 ヒラノマクラ
 2p












鯨骨生物群集