下部漸深層遊泳魚
/生物07

卵を育てるのはタコ。イカは産みっぱなし、と思っていました。しかし北太平洋に棲息するテカギイカは見事な卵塊を腕に抱いてこれを育てていました。腕を伸ばしたり縮めたりしながら深海の少ない酸素を懸命に送り込んでいます。吸盤に並ぶテカギ(手鉤)でわしづかみしたまま孵化まで六〜九ヶ月もの間、辛抱強く泳ぎ続けます。口がふさがっているので飲まず食わずなのです。やがて産まれる子供たちがひもじい思いをしないように消耗した体力をさらに振り絞り、危険を承知で海面近くまで浮上します。海上では海鳥たちが目ざとくこれを見つけ、いっせいにダイビングしてテカギイカの親をついばみ始めます。それでもわが子たちを離すことはありません。自らが犠牲になって守っているのです。やがて親イカは使命を全うしますが二重の膜に覆われた卵塊は無傷で孵化を迎え、二千〜三千の稚イカが大海原に旅立っていくのです。連綿と繰り返されてきた命を紡ぐ営み、アカカブトクラゲはじっと見守っていました。
1.Gonatus onyx
 テカギイカ
 80p

2.Lampocteis cruentiventer
 アカカブトクラゲ
 25p