こどもたちへ

大気中の蒸気はしだいに雨となって降り注ぐ。山中に生を受けた川は、仲間を集め勢いを増し谷を駆け下る。山から野へ。また右往左往しながらどんどん太く育っていく。そうしてしだいに流れを穏やかにし、ゆったりと海に注ぐ。
 このような川の一生を、人の成長に重ねてみた。生まれたばかりの純粋無垢な生命。いろいろな場所でいろいろなことを経験し、そのたびに一回り大きくなる。そして他人とは違うたったひとりの「自分」という人間に目覚める。この生命力こそが「聖域」である。
 なぜ自分がここにいるのか。何をすべきなのか。自分には何ができるのか・・・。悩み模索しながら、さらに成長は続く。その「何か」をつかみかけたとき、両足で力強く大地を踏みしめ、立ち上がり、社会という荒波の中へ初めての一歩を踏み出していくのだと思う。
 大海の水はやがて水蒸気となり、昇天していく。機が熟したとき、何らかの成果が得られるだろう。それが新しい雨水となり、次の代へ受け継がれていく。
 「大志を抱け−。」私たちはあなたたちを「聖域」として包み込み、見守りたい。

伊藤裕貴