S-004

交響組曲ドラゴンクエストW 導かれし者たち


 ドラゴンクエストはここから新章、「天空シリーズ」に入ります。そのためか、音楽の方もこれまでの雰囲気は保ちながら、がらりと趣を変えたものに仕上がっています。
 まず曲数が格段に増加しました。これは5章すべてのフィールドの音楽が異なること、ロード画面、カジノやコロシアム、馬車などの新曲がプラスされていることなどが挙げられます。全体に暗い印象が漂うのは気のせいでしょうか。主人公の章のフィールド音楽、馬車の音楽という、かなりの頻度で耳にする二つのナンバーが暗いので、そう感じるのかもしれません。「王宮のメヌエット」や「謎の城」も荘厳で厳粛だし、終曲も明るく華々しいエンディングとは無縁なので、やはり寒色系の色合いを持った一作と言えると思います。
 各曲の完成度もUの頃とは比べるべくもないし、個々に素晴らしい楽曲はたくさんありますが、全体的にそれほど好きな組曲ではありません。なぜと言われると非常に困りますが、シリーズの第1作目ということでイメージがまとまりきっていない気がするのです。だから一曲一曲は素晴らしいんだけど、全体が散漫な印象になり、緊密さに欠けます。
 ゲーム本編では様々な角度からいろいろな新しい試みを導入しており、意欲作です。交響組曲ももちろんそうです。しかしXやZのような耳あたりの良さはなく、むしろYに近いシリアスで硬質の肌触りです。・・・要するに私は、暗いものより明るいものが好きだと言っているだけなのかもしれません(笑)。

 
 1.序曲
 なんといっても最大のハイライトは、ファンファーレが一新されたこと! 有名な「G音ファンファーレ」(いや、命名は私ですが。笑)がトランペットによって吹かれる時、ドラゴンクエストの新たな歴史が始まったのだと実感します。この序奏の間、トランペットはひたすらG音を吹きまくるだけ。たった一つの音でメロディ(?)を書いてしまうのだから、やっぱりすぎやま氏は天才。和声的にはハ長調が主で、1回目のファンファーレを繰り返すときだけ変ホ長調に転調。この効果たるや絶大で、単純なファンファーレを意外性の和音で支えた、見事な手腕。
 以後、いつものあの序曲が帰ってきます。特に書くことはありませんが、他のシリーズのアレンジに比べて3連符が目立つところが、特徴と言えば特徴かな?

 2.王宮のメヌエット
 いきなり分厚い弦の合奏で始まる、重厚なメヌエット。相変わらずすぎやま氏の弦楽合奏のためのバロック風音楽は美しいです。私はすぎやま氏の「お城の音楽」に限っては、すべてが大好きです。
 A-B-A3部形式の楽曲ですが、CDではさらに短い中間部があり、彩りを添えます。Bは高音と低音の掛け合いがかわいらしく、面白い効果を出しています。

 3.勇者の仲間たち(間奏曲〜戦士はひとり征く〜おてんば姫の行進〜武器商人トルネコ〜ジプシー・ダンス〜ジプシーの旅〜間奏曲)
 巨大なメドレー形式。まずロード画面の音楽「間奏曲」に始まり、第1章から4章までのフィールド音楽が続けざまに演奏され、途中第4章の主人公、踊り子マーニャの「ジプシー・ダンス」も挿入され、最後にまた「間奏曲」がしめます。
 「間奏曲」は終始弦合奏のピチカート&トライアングル(らしきもの?)のみ。単純ながらしゃれのきいた、小気味良い楽曲。頻発する9度の和音や変化和音がコミカルさを表現しています。
 ここからメドレーの幕が上がり、第1章、戦士ライアンのフィールド音楽「戦士はひとり征く」。「ファー・ドーー、レー・ファー・ラーー」・・・という、シンプル極まりない旋律が、どうしてこうも広々とした世界を表現できるのか。作曲上はなんてことのない楽曲ですが、このおおらかさはライアンにぴったりです。限られた音数から何でも語ることの出来る人だなと思います。
 お次はアリーナ姫。Wのフィールド音楽では最も好きな「おてんば姫の行進」。総論の項でも書きましたが、半音階の面白い用法が光ります。序奏の4分音符の重奏がすでに半音階ですが、洞窟系の音楽で魅せた不気味さは皆無。続いて主部に入り、元気なメロディが歌いだされますが、油断してはいけません。伴奏の、しかも内声に半音階が隠されているのです。さらに中間部でもはっきりとした形で伴奏が半音階を奏します。半音階のアイデアを、ひょうきんな音楽で出した技ありの一曲。
 トルネコのフィールド音楽である「武器商人トルネコ」は一風変わっています。これもA-B-Aの3部形式ですが、Aでは低音(コントラバス)が、Bでは高音(オーボエ)がメロディを歌うのです。特にAの低弦(コントラバス)によるメロディはいかにも不恰好で鈍重で、トルネコが太った身体をゆっさゆっさと揺らして歩く描写にぴったり(褒め言葉ですよ。一応。笑)。
 ここで第4章のフィールド音楽といくはずが、ちょっと雰囲気を変えて「ジプシー・ダンス」。テンポは急激に跳ね上がり、エキゾチックなメロディを音階の上下とからめながら歌います。少々のストレスはすっとんでしまいそうな、爽快な楽曲。曲が終わった後のカデンツァ風のヴァイオリン・ソロもまた悩ましいです。
 そして真打ち、第4章のフィールド音楽「ジプシーの旅」。すずのリズムや増2度音程、装飾音などが東欧的な雰囲気をかもす、メロディの美しい曲です。
 最後に「間奏曲」が帰ってきて、この長大なメドレーは幕を閉じます。けれど情景の移り変わりがめまぐるしいので、長さを感じないはず?

 4.街でのひととき(街〜楽しいカジノ〜コロシアム〜街)
 今度は「街の中の音楽メドレー」。街のメインテーマを両端に、カジノとコロシアムの音楽をサンドイッチ。
 「街」は明るく軽い足取りの楽曲。犬のお散歩に出かけた街娘といったところでしょうか。耳あたりは良いように聴こえますが、実は臨時記号をたくさん使っているので、和声的には移り変わりが激しいです。
 そして最近のドラクエではおなじみになったカジノの音楽。実はWが初登場です。4分音符-8分音符の組み合わせの3連符は、はずむようなうきうきした心をそのまま音にしたようで、こちらまで楽しさが伝わってきます。後半になると半音階をからめた怒涛の臨時記号攻め。ちょっとお間抜けな感じの一曲です。
 一転、もやのかかったような荘厳な楽曲「コロシアム」。ドラムロールとファンファーレに導かれてやってくるは、不協和な弦のトレモロ。それに乗って歌われるメロディはこれまでのシリーズには見られなかった秀逸なものです。4分音符(1/1拍)、8分音符(1/2拍)、3連符(1/3拍)、16分音符(1/4拍)、つまり1〜4の数列を巧みに組み合わせることで構成された、非常に数学的なメロディなのです。もちろんそこに流れる感情は数学的な無味乾燥とは無縁ですが、音楽というものがそもそも数学的な要素で成り立っている(具体的に言えば、楽譜の最初にある「4/4拍子」という記号からしてすでに数学)わけで、これはその二つが無意識なりとも絶妙に融合した「メロディの傑作」と呼ぶにやぶさかでないものです。中間部は豪放磊落な行進曲になり、向かうところ敵なしとばかりに歩みを進めます。

 5.勇者の故郷〜馬車のマーチ
 Wで最もよく聴かれる曲のうちに入るでしょう。第5章のフィールド音楽と馬車の音楽です。方や憂愁、方や悲壮なこの楽曲があるために、私としてはW全体が暗い雰囲気を持っているように思えてなりません。
 まず「勇者の故郷」ですが・・・私自身の評価としては、「う〜む」です。A-B-A構成ですが、とにかくAの音楽がだらしない。美しいのですが、冗長極まりないのです。
 かつてNHKの「N響アワー」という番組で、司会であり作曲家の池辺晋一郎氏が「モーツァルトの40番の最初のメロディ、『♭ミレレー、♭ミレレー、♭ミレレー♭シ』は、どうして『♭ミレレー』のフレーズが3回しか出てこないかわかるかい? どうして4回じゃいけないかわかるかい?」みたいなことを同じく司会の若村麻由美さんに尋ね、「どうしてですか?」と返されたのに対し「それは、4回じゃ冗長だからだよ。ためしに歌ってごらん。そら、くどいだろう?」と答え、笑っておられました。
 同じことを「勇者の故郷」のA部分に当てはめれば、そのまま私の評価になります。はっきり言ってくどいのです(笑)。いえ、Bは非常に美しいですよ? ただ・・・ね。
 逆に「馬車のマーチ」は佳品だと思います。これにも途中「4回重複」のフレーズが登場しますが、これは「2拍4回」というより「4拍2回」の感じが強いので、気になりません。金管が吹くメインメロディにつける、弦の速い走句の合いの手がまた心憎いこと。こういう合いの手の巧さ、すぎやま氏は随所で披露します。メインメロディがシンプルであればあるほど・・・

 6.恐怖の洞窟〜呪われし塔
 細かい音形の序奏に続いて、オーボエが不気味な、それでいて甘い旋律を歌います。「恐怖の洞窟」はこの相反する2つの要素が絶妙に融合した、不思議な魅力のある音楽です。
 調性はあるようなないような・・・ト短調が基調なのでしょうが、主和音はちっともトニック的な扱いを受けません。そもそも主和音自体、登場の回数が少ないので、なんとも煮え切らないのです。しかし決して無調というわけではなく、和声的にも美しい一品です。
 対照的に、「呪われし塔」はかなり先鋭的な音と音のぶつかり合いがあります。冒頭主題は非常に特徴的ですが、「シー、ドー、ミー、ファー」という4音。最初の「シー、ドー」は長7度の音程差があり、それをそのまま完全5度下にずらして「ミー、ファー」とつなぎます。
 この長7度という音程ですが、実はひっくり返すと短2度。ピアノの白鍵と隣り合わせの黒鍵が同時になるというすさまじい不協和音です。この音は耳に「キーン!」という強烈な印象を残し、人によっては不快感があります。
 全体には、この長7度の音程の様々な展開という構成です。すぎやま氏はたいてい「塔」の音楽で先鋭的、実験的な試みをしますが、ここでもそういった意欲を感じ取ることができます。

 7.エレジー〜不思議のほこら
 憂いのある2曲を並べたメドレー。Wは曲数が多いので、メドレーが多くなっています。
 まず「エレジー」は、パーティが全滅した時の音楽。弦の悲壮な序奏に続いて、ここでもオーボエが主旋律の役目を負います。このようにオーボエはクラシック曲でもおいしい役回りをまかされることが多く、私も大好きな楽器です。ちょっと鼻にかかったような甘い音色がなんとも言えません。
 「不思議のほこら」は、ちょっとだけVのほこらの音楽と似ていますね。単純ですが、前曲と並んでメロディが美しく、2曲とも技法上特別なことはしていないのに、メロディの美しさだけで聴き手をメロメロにしてしまいます(笑)。

 8.のどかな熱気球のたび〜海図を広げて
 ここまでやや暗い色調の音楽が続くので、「のどかな熱気球のたび」が始まるといつもほっとしてしまいます。
 Vではラーミアの音楽が「空」を表現していましたが、今度の「空」は気球。前者の憂愁に比べて後者は「平穏」と、いかにも対照的です。まずフルートの先導で木管楽器が総動員。のんびりしてちょっぴり抜けたようなメロディが軽やかに流れます。
 ところが気流の乱れでしょうか、突然変拍子が始まり、よたよたと危なっかしい低空飛行。なんとか持ち直して再び主部に帰りますが、今度は短調で、空模様も少し怪しい感じ。いつの間にやら海に出て、また変拍子かと思ったら、意外にも空は晴れていました、ちゃんちゃん・・・なんて、勝手に想像してみましたが、いかがでしょう(笑)。でも、本当にその程度の想像には平気で耐えてしまうくらい情景描写に優れていて、この音楽だけで幾通りもの物語が書けてしまいそうです。
 そしてWよりイメージをがらりと変えた海の音楽、「海図を広げて」。割合に穏やかな海の描写のようですが、水平線を想像するに足る「広さ」も兼ね備えており、メロディも美しいものが目白押し。特にテンポ・ルバート(すぎやま氏のテンポ・ルバートは珍しいのでは?)の部分はメロディが変幻自在、即興的とも言える音楽に仕上がっていて、感情をこめればこめるほどに切に心に響きます。

 9.謎の城
 荘厳な弦の厚い響きに彩られた一曲。バロック的な語法でありながら、ロマン的なメロディも花を添えています。後になればなるほどメロディに動きが出てきて、やや熱っぽさも感じます。
 聴き所はヴァイオリン・ソロ。とにかく美しく、身も心もとろけそうです。音階を16分音符で駆け上がるあたりでは弦の音が非常に伸びやかで、弦楽器好きにはたまらないでしょう。これも私は弦楽四重奏で聴いてみたいですね。オケの演奏ではバスの動きが不鮮明なので。本当はバスの旋律も美しいんです。

 10.栄光の戦い(戦闘 - 生か死か - 〜邪悪なるもの〜悪の化身)
 戦闘の音楽を集めたこのメドレーは、人気、実力ともに申し分ない名品揃い。特にデスピサロ最終形態の音楽「悪の化身」は、シリーズ最高の「ボス音楽」かもしれません。
 「戦闘 - 生か死か - 」は、ドラクエの戦闘の音楽の中で最も人気があるのではないでしょうか。ハイ・テンポで駆け下りてくる分散和音の半音階は、それだけで戦闘に臨む者の危機感を高め、気を引き締めさせます。しかしそれ以上のハイライトは中間部、前触れもなく9/8拍子になってたたみかける部分でしょう。強烈なインパクトを持っているシーンなので、人気の高さもうなずけます。
 次にデスピサロの音楽「邪悪なるもの」。これは作曲技法的に非常にテクニカル。様々な音程の羅列のみによって作られていると言えばかわりやすいでしょうか。たとえば冒頭にはトロンボーンの野太いメロディが4小節ありますが、この後の5小節目1拍目と2拍目はオクターブ(8度)のみの上昇。3、4拍目の下降時はやや広がって短9度。6小節目の1、2拍の16分音符下降では長3度、3、4拍の16分音符上昇では完全4度。中間部直前の6連符上昇では短3度。さらに中間部の持続低音も1度としてしまえば、実に6種類もの音程の乱舞。それなのに曲調は一貫しているという、にわかには信じられないほど巧い音楽。
 トリは最終形態「悪の化身」。響きは完全に前衛ですが、すぎやま氏の「前衛」ほど聴きやすい音楽は、この世にはありません。断言します(笑)。これがヴェーベルンやらルトスワフスキあたりになると、どんなに聴いていて気持ち悪いか(笑)。・・・まあ二人とも、今となっては「現代の古典」ですが。
 それはともかく、この音楽も「音程の羅列」という意味では、前曲ほど徹底はしていないにせよ同一線上のものです。ぱっと聴いただけでもかなりの種類の音程があることに気づくはずです。ヴァイオリンの悲鳴のような高音、化け物の鈍重な足取りを物語るリズム、シロフォンの使い方など、ショスタコーヴィチを聴くようでぞくぞくします。
 すぎやま氏は戦闘系の音楽において、常に進化してきた気がします。TよりU、UよりVと。そしてこのWは一つの頂点を形作ったと思います。なぜならこれ以後戦闘の音楽は、不気味さを備えつつも少しずつ「先鋭」からは背を向け、叙情を取り入れ始めるので・・・

 11.導かれし者たち - 終曲 -
 間違いなく名曲です。技法も感情もこれまでで最高のものです。これ以上のフィナーレ音楽を探すとなるとY以外に考えることはできず、しかも両者はそれぞれ違った魅力を持っているので同列には置きがたく、したがってこの2曲を並べて終曲の頂点とすべきでしょう。
 序奏からしてすでにただならぬスケールの大きさです。これほど巨大な音楽がドラクエにおいて表現されたことは、かつてありませんでした。初めて聴いた時はびっくりしました。
 主部に入ると一転、非常に叙情的なメロディ。雄大な曲想やおどけた曲想なども交えながら、しかし全体に極大のスケールだけは失いません。これは一貫して音楽に底流するものです。
 圧巻はコーダのレント・マエストーゾ! 総論でも書きましたが、ここは復調多調の効果を取り入れながら上声下声を巧みに動かし、内声のトレモロも加えて巨大戦艦のごとき威容を誇ります。この最大のクライマックスは音楽的にも技法的にもこれまでに見られなかったものであり、またこれ以後も目立っては出てきません。スケールの大きさという点では、私はWが頂点だったのだなと感じています。
 それにしても、この音楽が流れるエンディングは感動的でした。私はプレステ版をプレイしましたが、最後に勇者が自分の村に戻ってきたところなどは・・・ちょっと涙ぐんでましたし(笑)。

2004.10.08.

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