耳鍼療法をご紹介いたします。
耳ツボ療法って?その起源は?中国?
全身に365カ所存在する経穴と呼ばれるツボに、鍼刺激を加えて体の不調を調え
る鍼治療は皆さんご存じと思います。その全身365カ所以外に、耳にも沢山のツボ
が存在し、その耳のツボを刺激して、全身の不調を調える治療法を耳介療法といい
体の不調ばかりでなく、食欲をコントロールして痩身をはかろうとする試みが、一
般に耳ツボ療法(ダイエット)と呼ばれるものです。
最近では、耳ツボダイエットとして身近になった耳介療法ですが、その発祥は中
国ではなくフランスの民間療法であるといわれます。民間療法として体系化される
ことなく継承されていたフランスの耳介療法を、現在の様な形に体系化したのは、
フランスの開業医ノジェ博士(Roger Nogier)の研究の賜と言えます。彼が耳介
療法を研究するきっかけとなったのは、彼の診療所に来ていた坐骨神経痛患者が、
近所に住む老婆に耳に焼きごてをあててもらう治療を受けたら、痛みが無くなって
しまったという話しに始まります。以前からその噂を耳にしていたノジェ博士は、
これに興味を持ち自分でも研究し始め、試行錯誤の末、体系化したのが現在の耳介
療法の始まりとされています。
耳ツボは何に効くの?
耳ツボが最も効果を上げるのが、痛みの治療です。そもそもフランスの耳介
療法や中国式の耳ツボ研究のきっかけが鎮痛目的(針刺麻酔)であったこと
からも当然のことでしょう。最近では、禁煙や薬物依存の治療に耳ツボを用い
て効果を上げた報告もあります。
また耳ツボは病気の治療ばかりでなく、体のどこかに病気があるとそのツ
ボが痛みに対して過敏となる、反応点として現れることがあり、病気発見の
手掛かりに使うこともあります。国内では広く知れ渡っている耳ツボダイエ
ットや肥満治療は、耳介療法を体系化したノジェ博士や中国の文献にも記載
は見あたらず、耳ツボダイエットブームは日本国内のみの現象のようです。
中国や韓国などの肥満治療専門の病院でも、肥満治療といえば、体針と低周
波鍼通電が本流のようで、耳鍼をダイエット目的に積極的に使って効果を上
げているのは日本国内のみの現象のようです。
私が耳ツボ刺激による肥満治療を始めたのは膝の痛みで悩む方を楽にしようと思い、研究し始めたのが最初です。
以前、病院外来で鍼治療を担当していた私は、変形性膝関節症の方の膝の痛みを取る事に心血を注いでいました。
膝の痛み治療の中で膝にかかる負担を軽減するため、体重の減量は必須課題だったのです。変形性膝関節痛で悩
む患者さんには太り気味の方が多いのですが、膝の痛みのために満足に運動が出来ず運動に頼らず体重を落とす
必要があったのです。
様々な減量法を探すうちに、自分の専門分野のツボ療法の中に耳ツボダイエットがあることを勤務先の看護士(婦)
から聞き、体重の減量に応用し始めたのが当院の肥満治療の始まりです。今思えば、私が担当していた患者さんの
多くは中高年〜高年者の方が殆どで、大きな副作用も無かったこと、他科で頂いた薬の効果を妨げるような症状も観
察されなかったことから、経過をシッカリ観察すれば、この減量方法はリバウンドが少なく、高年者にも安心して行える
治療法だと思われます。
耳ツボの刺激で、何故効果が出るのか?
素朴な疑問として、耳のツボ刺激で何故食欲が抑えられるのでしょうか?簡単に説明すると下図の通り、耳の知覚は
顔面神経と迷走神経の知覚枝を伝って脳幹に終末します。一方で、胃などの消化器の機能を主る迷走神経(副交感神
経)は、脳幹に始まり胸腹部内臓に分布(図1)するのです。さらに、満腹や飢餓感を感じる中枢は、脳の視床下部という
ところに存在するのですが、この視床下部は、脳幹から多くの神経線維が終末しているのです。つまり胃と耳へ分布す
る神経は同じ神経であることや、脳の解剖学的な関連から、これらには機能的な関連があり、耳ツボ刺激の効果が及ぶ
のではないかと考えられています。
耳鍼療法の効果に関する研究
近年、耳ツボ刺激による動物実験等により、耳ツボ刺激による科学的な検証も少しずつではありますが、行われて
います。単純性肥満ラット(食事を沢山とらせて太らせたネズミ)に耳ツボ刺激を行うと食欲感の減弱と満腹感の形成
・維持に機能するという報告1)など、これまで言われてきた痩身効果を支持する報告も寄せられ、今後のさらなる基
礎研究・効果の究明に期待が高まります。
実際の臨床では・・
私が扱った経験からは、人に対して耳ツボ刺激を行った場合、体重減少効果が見られるまで2〜3週間程度かか
り、目標体重(BMI標準体重を目標としています)に近づくまで、半年から1年程の期間を要します。実際の臨床で効果
的な体重減少が認められる方の共通点として、肥満の程度が軽度から中等度であり、肥満歴が短い。20代には肥満
ではなかった。等の共通点があるように感じます。
一方で、耳ツボ刺激によって急激な体重減少などが認められる場合(1カ月で3〜5Kg)に、眩暈や、悪心、嘔吐、全
身の脱力感といった“副作用”(この場合、生命に危険があるという意味ではなくて、好ましくない効果という意味で用い
ています)もあることを経験しており、慎重な経過観察と刺激量調節は必須です。テレビやマスコミ等で「楽に痩せる」
「食べて痩せる」などといった簡単なものではないことだけは明記しておきたいと思います。
私が耳鍼をすることになったきっかけ
当院の耳鍼(ツボ)療法は?
当院で行う耳鍼療法は、耳介のツボに皮内鍼と呼ばれる長さ0.3mmの小さな鍼を刺して入れておく方法と、粒鍼と
いって小さなツボ刺激専用の金属粒を貼っておく方法の2種類があります。また、耳ツボ療法で効果が不十分な方に
は、体鍼や吸い玉療法、ホットパックや超音波療法をもちいて、腕の後ろ側、お腹、モモの後ろ側の贅肉を落とす施術
をします。当院では、簡単な日常生活指導はしますが、「痩身は食べないのが基本」という信念のもと、怪しげなサプリ
メントや健康食品の販売や斡旋はしません。頂くのは施術料のみです。
痩身を志す方に必要なのは、「痩せるまで諦めない」という心構え一つです。
参考文献:1)小島孝昭ら「単純性肥満症モデルとしての食事性肥満ラ
ットに対する耳介鍼刺激による減量効果はエネルギー代謝改善に依る」
肥満研究9巻No1 2003