では、鍼灸師の仕事とはどのような仕事かと言えば、鍼灸治療を通じて「国民の
健康増進に寄与する」ことにあります。WHO(世界保健機構)の定義によれば、健康
とは病気や障害がない事だけに留まらず、精神的にも社会的にも良好な状態である
こととされているとおり、治療の対象は疾病に留まることなく、来院された方の心
身の健康増進と維持のため、鍼灸術を施します。その対象も近年では、スポーツ分
野でのコンディショニングやパフォーマンスの向上、美容分野、いつまでも若々し
く生きるための不老医学分野など、鍼灸医学に対する需要は益々拡大しています。
そもそも東洋医学の成り立ちは、先人達の経験の積み重ねにあります。学者が創り
上げた医術が西洋医学とすれば、先人の経験や、どうしたら治ったという経験や、
民間療法の集大成が東洋医学であり、鍼灸医学でなのです。人類の歴史とともに生
き抜いてきた東洋医学には、健康に生きるための智慧が凝縮されているのです。
我々鍼灸師の仕事は、臨床現場ばかりではなく、これら先人達の智慧を実践しより
良い形で後世に伝えることも大きな仕事の一つであると考えています。
表1:「はり師」「きゅう師」の試験科目
@医療概論 A衛生学・公衆衛生学 B関係法規 C解剖学 D生理学 E病理学概論 F臨
床医学総論 G臨床医学各論 Hリハビリテーション医学 I東洋医学概論 J経絡経穴学概
論 Kはり理論・きゅう理論 L東洋医学臨床論
 一方で「はり師」「きゅう師」は、医療資格であっても、他の医療従事者である
看護士やレントゲン技師などがその業務の全てにおいて医師の指示、監視のもとに
行われるのに対し、鍼灸師は鍼灸業務においてその行動や判断全てが、鍼灸師の判
断に委ねられていること、独立開業が出来ることが大きな違いとなっています。
また、医師のように「○○専門」や「○○科」と専門科目を標榜することが法律で
禁止されているために、多くの疾患を鑑別する技量が必要で、学校卒業後も臨床経
験を積むため、いわゆる「修行」的な期間を必要とする資格でもあります。
 このような資格の特殊性からも、他の医療資格と分けて考えられるのですが、現
代の鍼灸師は養成施設のカリキュラムで相当な時間を西洋医学の学習にあてており
卒業直後は自分の資格の特殊性を認識していないのが普通であると思われます。む
しろ、卒後の研修や臨床を経験する中で、それを痛感することが多いのです。
 行政の分野では、他の医療従事者と区別するためか我々は「施術者」として扱わ
れています。ときおり新聞などで、鍼灸師を「医療類似行為資格」と誤って記載し
ている記事を目にしますが、そもそも「類似行為」とは、法律用語で「禁止行為」
の総称であり、国が禁止行為に対して「免許」を与えるはずがありません。「医療
類似行為資格者」とは我々に対する侮蔑語といっても過言ではありません。我々の
身分法の中にも「医療類似行為資格」である旨の記載は一切なく、何故このように
言われるようになったのか不思議でなりません。
私個人の推測で言えば、法律の内容を知らずに西洋医学=医療のような考えから、
東洋医学に従事する我々は、その「まねごと」つまり「類似行為」であると日本語
的な解釈がされたためと考えられます。私達のアピール不足は否めませんが、まだ
まだ誤解の多い資格であることも事実です。
  
 さて、鍼灸師はどのような資格かと言えば、「はり師」「きゅう師」は医療資格
に位置付けられ、国家資格のなかでも資格を持たないものが行うことが出来ない「業
務独占資格」の1つです。鍼灸師の歴史は大変古くその名称は、平安時代から存在す
る名称がそのまま継承され、日本に鍼灸医学が伝えられてからも1500年近い歴史があ
る業なのです。
  一般に鍼灸師と呼ばれますが、法律上、鍼灸師の資格は「はり師」「きゅう師」に
分かれています。免許も別々の資格ですが、ツボを刺激するという基本概念や取穴技
術など共通手技が多いことから養成過程も同時に進められ、試験も同時の申請が可能
なので、鍼灸師と呼ばれる人達の殆どが「はり師」「きゅう師」両方の免許を持って
います。
 免許の取得には、高校卒業後、文部大臣か厚生大臣認定の養成施設で3年以上の教
育課程を経て卒業した者のみに国家試験の受験資格が与えられ、この国家試験に合格
したものに対し厚生大臣が「はり師」「きゅう師」の資格を与えます。試験科目は他
業種の国家資格の受験科目数に比べ、かなり多く現在13科目表1)について試験が行
われます。私が知る限りでも、13科目は圧倒的試験科目数であると思われ、在学中
は東洋医学に偏ることなく医療の幅広い分野について学びます。
 鍼灸師にとって学校卒業後、最大の難関は、学校に入学することよりも、良い臨
床現場を見つけることにあります。もともと徒弟制度の中で育まれてきた業だけに
卒後の臨床の場を見つけるのは、至難の技です。
 卒業後、大半は病院、診療所、接骨院などに勤務しますが、ここでの経験が後の
人生を大きく左右するので、卒業生にとっては一大事です。自分にあった臨床現場
を見つけるのには、運も必要であり、理解ある経営者と巡り逢う必要もあります。
 私の経験から言えば、良い臨床現場とは最低一日一回のカンファレンスがある。
定期的に勉強会や技術指導がある。経営者が率先して学会活動に参加している。現
場に臨床指導出来る鍼灸師が居て、空き時間に質問出来る環境にある。時々指導者
が台(練習台のこと)になってくれる等の共通点があり、勤務し始めのころは何も
出来ない卒業生を最低半年は雇わなければならない経済的余裕もある治療院である
ことも必要になります。また、卒業生も臨床現場は学校の延長ではないこと、教え
てもらうことは当たり前ではないことなどを肝に銘ずる必要があります。
 現在の鍼灸師は、社会的な身分保障も充分とは言えず、他の医療資格者の様に健
康保険を背景にした安定した収入を得られるわけでもありません。ところが、実際
の業務では、高い専門性が求められ、多くの鍼灸師はその技術習得のために自分の
休日を充てているのです。決して恵まれた職業ではないのですが、多くの若い人材
が今日も養成学校への入学を希望し、毎年数千人の卒業生が生まれているのです。
こんな私たち鍼灸師を支えるものは、「渇望・欲求」なのです。自分の周りの病気
で苦しむ人達を何とか救いたいというこの一念のみが、現在の鍼灸師を支えている
原動力となっているのです。

表2:国家資格とは

国家資格とは、国の法律に基づいて、各種分野における個人の能力、知識が判定され、特定の職業に
従事する資格。法律によって一定の社会的地位が保証されるので、社会からの信頼性は高い。

国家資格は、法律で設けられている規制の種類により、次のように分類できる。

1)業務独占資格:弁護士、公認会計士、司法書士のように、有資格者以外が携わることを禁じられて
いる業務を独占的に行うことができる資格。(有資格者以外に行うことが出来ない資格)

2)名称独占資格:保育士、中小企業診断士など、有資格者以外はその名称を名乗ることを認められて
いない資格。
(有資格者以外に名乗ることが出来ない資格)

3)設置義務資格:宅地建物取引主任者のように、特定の事業を行う際に法律で設置が義務づけられて
いる資格。

「鍼灸師」についてご説明致します
D鍼灸師の就職は?
@鍼灸師って
A日本の鍼灸医学の歴史は1500年!
B日本における鍼灸師の立場(誤解の多い資格)
C鍼灸師の仕事
E最後に・・
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