Prosaic notes - Ever17
 ゲーム感想 − Ever17

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Ever17 感想文

 ギャルゲー史上最大スケール叙述トリックのメタミステリィ。こんなものがギャルゲーで読めるとは思いもしませんでした。

 感想はこれだけで十分な気もしますが。多くの人のレビューらしき文章がwebに散見されますし。改めて書くこともない。


 さしあたりルートごとのクリア順に感想。9月の日記にも書いたけど。

 優。元気な人。忍者のハッキングがすごい。第三視点の解説。丁寧に、読ませるテキストがいいな、と思いました。ギャルゲーにしては情報量が多く、物語も面白い。オチがよくわからんが、最後にはどうにかなるんだろう、という感想だった。
 つぐみ。青葉様。キュレイのお話。倉成の自己犠牲。テロメアが復活するのはいいけど、例えば神経とかはテロメア関係ない細胞なわけだが。とか突っ込むのは良くないのでしょう。そういう突っ込みは極めて無粋。ファンタジーだからね。
 空。プレイヤーへのサービス。「あなたの視点がわたしをつくる」。自分以外の誰かが、自分を定義してくれるというのは素敵なことかもしれない。「我想う、故に彼女あり」とか言ってみたり。
 沙羅。忍者。妹だったですか。キャラは一番好き。
 ココ。こーゆーキャラはちょっと…といいつつ、物語のまとめ。へーふーんそうだったんだーすげー、と感心しつつ。たぬきのぬいぐるみはそういう話だったのかよ! と細部まで詰められていることに感心。ホクトと2017少年の声が同じってのは問題ないのかなとか混乱。


 その他雑感。

 このゲームのすごいところは、読者への情報の与え方の巧みさ。ギャルゲーの構造――プレイヤー視点=主人公の視点――を利用した、ミスディレクションがそれ。主人公の外見が画面上に現れないとか、優美清春香奈とかいう馬鹿げた名前であるとか。死ななかったりAIだったり。同じシチュエーションを2視点から見ているかのような物言いとか。それらココ以外のキャラクタのルートで手に入る情報が、最後のココ編でまとめられていきます。パズルのピースががぴたっとはまっていくような、圧倒的なカタルシスをもたらしてくれます。全ての(ある種不自然な)情報が、必然であったかのように思えてきますから。

 この作品は、いわゆるレビューサイトやギャルゲー系コミュニティにおいて絶大な支持を受けています。その理由は、得られるカタルシスにあるわけです。パラレル構造をメタ視点から収束させたゲームはいくつもありますが(例えばリフレインブルーやフロレアール)、ギャルゲー構造に由来する叙述トリックは、これまで見られなかった手法。そりゃ騙されもします。出来のよい手品のネタばらしは見る人にカタルシスをもたらしますが、見せ方によっては下品になるものです。Ever17では綺麗にギャルゲーとして物語を落としこみ、成功させています。

 この作品では、物語に感動することはそんなにありません(つぐみエンドは素敵だと思いましたが)。その構造とギミック、広げた風呂敷のたたみ方に感動することはあるでしょうけれど。もし、メタミステリに持っていかない、ココ以外の4人の物語だとしたら、この作品を他人に薦めようとは思わなかったでしょう。ギャルゲーとしての体裁を整え、それは成功しています。しかしながら、高評価の本質は、ギャルゲーではない部分に由来するのです。似たような例としては、ミステリ業界で森博嗣が人気になったこと。エロゲーで元長柾木が信者を生み出したこと。

 ステレオタイプから脱却したことは、もちろん評価されて当然だと思います。


 Appendix

 この作品の評価のされ方から、もう、萌えの全盛期は終わりに近いのかな、とも。To Heartに始まり、AIRで限界を呈した記号としての「萌え」は、その後バランス感覚の良い作り手により解体され再構成され、より細分化された形で成功しました。そして繰り返された縮小再生産は、自家中毒を起こした。プレイヤーにはエロゲースノビズムが蔓延した。そのスノビズムが、Ever17を高評価しているといってもいいような気もします。