脳に悪い習慣

脳への影響を考える

 授業をしていると、生徒たちから「疲れた」「大変だ」といった言葉が出てくることがあります。多くの場合、それらはさほど深刻な理由からではなく、軽い気持ちで言っているだけなのですが、これが脳にとっては思っている以上にマイナスの作用を及ぼすと言われています。今回は、脳神経外科医の林成之氏の著書「脳に悪い7つの習慣」から、気を付けるべき「悪い習慣」をいくつかご紹介します。

脳のパフォーマンスを落とす言動

 「疲れた」「やりたくない」「もう無理」などの否定的な言葉は、自分が言っても、周囲が言うのを聞いても、脳にとっては悪い影響しかありません。というのも、否定的な言葉に反応して、脳はマイナスのレッテルを貼ってしまうからです。脳には感情全般を司るA10神経群という部分があり、ここで「嫌い」というレッテルが貼られてしまうと、脳はその情報に関して積極的に働かなくなるそうです。だから、何気なく口にするちょっとした否定語が脳のパフォーマンスを落としているわけで、しかも否定語から何か新しい発想が生まれることはまずありません。とくに、仕事や勉強に取り掛かる前に愚痴を言うのは避けるべきです。
 また、仕事や勉強をしていて、まだ完全に終わっていないのに、「だいたいできた」と考えてほっとすると、途端に能率が下がったり、集中力が切れてしまったりするものです。実は、「完成した」「できた」「終わった」といった言葉は、脳にとっては否定語なのです。本当に終わったのならいいのですが、途中で「だいたいできた」と考えてしまうのは、脳に「止まれ」と言っているようなものです。脳の特性を考えると、90%のできた部分より、残り10%の「まだできていない部分」にこそこだわるべきであり、このような考え方ができるかどうかが、ものごとを達成する人とそうでない人の差なのだと思います。たとえば、試験を終えたあとに、「〇〇と〇〇の部分ができなかった」と具体的に言え、そこを気にしてこそ、勉強ができるようになるのです。

やらされているだけでは脳は活性化しない

 脳には、「自分でやりたい」という本能を生み出し、達成したときに脳がご褒美を感じるように働く「自己報酬神経群」というシステムがあるそうです。この部位の働きが活発になることで、やる気が起き、それが持続するといいます。ただし、そのためにはいくつか条件があります。
 まず一つ目は具体性です。脳を正しく働かせるためには、具体的に何をするか、いつまでにするか、今日は何をするか、などの目標を明確にする必要があります。根性論で「頑張ります」とだけ言っていても、脳は何を頑張ればいいのかわかりません。「頑張ります」は、脳にとっては意味不明な言葉なのです。また、頑張ること自体が目標になってしまうと、目指していた点数などに届かなくても、「頑張ったから」と納得してしまい、いつまでたっても達成できません。よく「頑張ります」「今日は頑張った」などと口にしている人は要注意です。
 二つ目は自主性です。自己報酬神経群は「自分からやる」という主体性をもって考えたり行動したりしないと機能しません。「先生に指示されたから」というだけの受け身の姿勢だと、物事に対して思考が働かないのです。少なくとも指示の意味や目的を理解し、納得した上で「自分からやる」という意識を持つことが大切です。この観点からすると、周囲にすぐ「どうすればいいですか」と質問ばかりしている人は要注意です。分からないことがあった時に自分で考えることをせず、その場限りの対処法を聞いて済ませていると、いつまでたっても自分の脳で解決策を考え出す力はつきません。

姿勢の重要性

 脳のためには正しい姿勢も重要です。姿勢が悪いことがなぜダメなのかというと、「空間認知脳」が働きにくくなってしまうからだそうです。空間認知脳とは、その名前のとおり、空間のなかで位置や形などを認識する知能です。「明日の10時」と言われたときに「翌日10時までの時間の長さをイメージする」といった、時空を把握する能力も空間認知脳によるものです。空間認知脳が低い人は、認識を誤ったり、記憶がなかなかできなかったりします。
 姿勢が正しく保たれていないと、目線が水平にならないなど、身体のバランスが崩れてしまい、空間認知脳は働きにくくなってしまいます。目線を水平にすることが大切なのは、目に入った情報が傾いていると、脳がそれを補正しなければならなくなるからです。超一流といわれる人、とくに運動選手で、姿勢が悪い人はいません。これは超一流だから姿勢がいいのではなく、姿勢がいいから超一流になれたのです。
 また、字を雑に書くことも、空間認知脳を低下させる悪い習慣です。特別に美しい字を書こうとする必要はありませんが、線の長さや隙間の幅など同じにすべきところをそろえる、角と角を合わせる、線と線の継ぎ目をつなげるなど、しっかり丁寧に書くことを心掛けると、空間認知脳の向上に有益です。