英国における地域環境政策の調査報告
文部科学省現代GP「『中大・八王子方式』による地域活性化支援プログラム2006.8.23〜8.30
調査の成果の詳細は入手した資料の整理と分析をした後、2007年3月に発行予定の冊子に掲載の予定である。それに先立ち以下は調査活動工程の記録だけを記述する。
8月24日 ロンドン原則(London Principles)について
市庁舎Guildhallは、Cityの一角にあり、英国銀行の博物館や王立証券取引所など歴史的な建造物に近接している。市庁舎自体もローマ時代の闘技場の遺跡の上に建設されており、隣接する博物館にその遺跡の一部が保存されている。
ロンドン市は2002年に策定したロンドン原則を実行に移すために多様なプロジェクトを現在実施している。そのなかでも、社会的な社会的責任投資など金融の機能を活用して持続可能な社会を目指す数々の自発的な取組が特徴的である。ロンドン原則の実行の責任者であるロンドン市(Corparation of London) の持続可能性局の責任者からこの取組の具体的な内容に関して説明を受けた。この質疑応答の中で、ボランタリーアプローチの有効性を確認するともに、多様なステークホルダーが持続可能な目標に向かって協力するためには、それを機能させる仕組みの工夫が議論の中心となった。ロンドン市はこれまでの実績のある取組みを評価しながら、新たな展開を目指しているが、社会的責任投資をその中核に据えている。その特徴は地方政府である市が規制の主体としてではなく、資金を提供するステークホルダーとしての役割を果たそうとすることにあるが、この政策は補助金とは異なる機能を発揮すると期待される。この仕組みには、十分な資金が民間から集まることが前提となっているが、これも、シティの伝統があるから可能であるが、逆に言えば、イギリスの伝統産業である金融が生き残るためには、日本のようにゼロ金利や銀行への公的資金の投入とは違う方を向かっていることは確かである。やはり、このことは持続可能な社会の実現は環境を含めたリスクへの感応性のある弾力的な対応という課題に社会全体で取組まなければならないことを意味している。私も、近年金融と環境問題の関係を解き明かそうと努力してきたが、なかなか明確な説明原理が見つからずに苦戦して来た。この理由が日本の金融機関の動きが特殊なケースにあることが理解できた。日本とロンドン市の取組みを対照することによって、全体像が明確になると感じて、展望が開けてきた。今後とも、地域ガバナンスに関して、ロンドン市との意見交換を定期的に実施することになった。
8月25日 バース市の地域政策
ロンドの市の東方約200kmに位置するバース市の地域活性化事業の調査と見学をした。紀元前1世紀に建設されたローマ浴場や18世紀に建設された市街の建造物が世界遺産に指定されて、今では人気の観光スポットとなっている。市役所も他の建造物と調和しているのが、印象的であった。イギリスの他の都市とも共通することであるが、市街地への車の流入は厳しく制限されていいて、パーク&ライドのシステムが整備されている。日本では、中心市街地の活性化が課題となっているが、観光資源があると話は別という感じがした。しかしながら、古い歴史的な街並みが維持されているのは、ある時期、南の海岸地帯に観光客を奪われて、市全体が衰退した歴史の痕跡でもあり、バース市は市全体が繁栄を継続することは容易でないことを教えてくれた。その意味でも、バース市は再活性化に成功した都市であるということができる。
8月26日 ミルトンキーンズ市訪問
ミルトンキーンズ市はロンドンから北西72kmに位置するニュータウンの代表的存在といて有名な都市である。市長との連絡がとれて親切な対応をしてもらったが、地域計画の担当者から視察の希望が多くて対応が大変であるとの話からも現在注目されている都市の一つであることが伺われる。ロンドンのユーストン駅からバーミンガム駅の途中にあり、特急で2つ目の停車駅であるミルトンキーンズ中央駅がその玄関口である。ミルトンキーンズ市は市政40年を経たばかりの英国のニュータウンのなかでも比較的に新しい都市である。今回の『中大・八王子方式』プロジェクトの対象地域が含まれる多摩ニュータウンと開発の時期が重なるなど共通点も多く、日英の比較によって、重要な分析結果が得られることが期待される。イギリスは日本と較べて人口は少ないが、人口は増え続けており、少子化対策が進んでいるという印象を受けた。特にこの街は子育てに適した条件を持っていると考える。これも、地域内に国内外の企業の積極的な進出があり、ニュータウンの理念である職住近接を実現しているせいではないかと感じた。中心地区はゆったりしたスペースに建物が計画的に配置されているが、それと分離された市街地は伝統的な英国式の街並みが保たれるように設計されている。ニュータウンの理想を実現することはすべての都市で実現することは困難であるが、ミルトンキーンズ市は現在も新たなローカルブランを策定して、発展を目指しているが、地域政策あるいは活性化一つの成功例を見ることが出来きる。
8月27日 産業革命以前の街並み
この日は日曜日であったことから、公的な機関への訪問が可能ではなかったので、ロンドン市における緑化対策を一日かけて調査した。市内には、ケンジントンバーク、ハイドパーク、グリーンパークなど大小多数のパークが点在していることで有名であるがそれらの公園の配置を確認した。特に中心部での公園は連続するように設計されており、動物の移動が可能であるなど生息環境上での利点があるが、市街地の街路が余り広くない点を考えると、子供、老人や身体障害者にとって重要な空間となっている。
8月28日
この日はあいにくBank holidayと呼ばれる国民の休日にあたるために、バスでロンドン北西200kmの丘陵地に広がるコッツウォルズの集落の見学に出かけた。ここには、クマのプーさんが現れそうな、17世紀の英国産業革命前の蜂蜜色煉瓦の街並みが保存されている。コッツウォルズ、バース、ロンドン、ミルトンキーンズとの街並みを比較すると英国の都市計画の思想が形成されていく過程が理解できる。ところで、コッツウォルズの古い建造物ではあっても、不動産の評価額はかなり高い。これが、イギリス人の伝統的な街並みに対す評価を表していると考えられる。