『生徒の社会性を育成する特別活動の取り組み』
― 特別活動における生徒指導機能に着目した「生きる力」の育成 ―
 
 
1 はじめに
 最近の報道によると,従来の日本社会ではあまりおきなかったような残虐な犯罪や,悲惨な事件が多発している。また,「家族の変化,孤立する子ども,情報環境の激変,アンバランスな性的成熟の四点から子どもの生育環境の激変」などから,キャリア教育などの新たな教育的手法の必要が求められている。
 これらの事実から,日本人としての倫理観の欠如,自己中心的な考え,非常識な行動などをとる人々が増えてきていると考えられる。社会のゆがみともいえるこのような状況は,家庭教育や地域教育などに影響を与え,結果として子どもたちの社会性に大きな影響を与えるだろうことは容易に想像がつく。
 学校教育はどのような手だてで子どもたちの社会性を高めることができるのだろうか。また,学校は子どもたちの保護者や地域社会に向けてどのような働きかけができるのだろうか。
 今回の取り組みでは,「子どもたちの社会性を高める」という大きな問題に,特別活動を通して迫ることが課題である。生徒会活動としての学級委員会活動,学級活動等の取り組みの実践を提案したい。
2 研究主題設定の理由
 (1) 生徒の実態から
1学期に教師が観察した本校第1学年の生徒の様子は,次のようである。

・ 時間を守れず,チャイムで行動することなどができない生徒がいる。
・ 教師や来校者へのあいさつができない生徒がいる。
・ 集中して話を聞けず,落ち着いて授業を受けられない生徒がいる。
・ 班などで協力して活動できない生徒がいる。
・ 正しいことを主張するなど公正な態度をとる生徒が少ない。
・ 粗暴な行動をとるなど,わがままを押し通そうとする生徒がいる。
・ 人間関係がうまくつくれず,孤立する生徒がいる。また,その生徒を援助しようとする生徒が少ない。

 このような状況から,この学年生徒集団には「社会性」が足りない生徒がいるのだろう,と判断した。したがって,様々な指導計画に,この「社会性」を高める取り組みを段階的に取り入れていく必要がある。
 ここでいう「社会性」とは「集団を作って生活しようとする人間本来の性質」のことであり,「他の人々とうまくつきあっていける性質」や「他の人や公共のことに奉仕できる力」のことである。
 したがって,人とコミュニケーションをしながら様々な人とうまくつきあう力や,他の人や公共のことに奉仕できる力を高める取り組みが必要だと考えた。


 (2) 「生きる力」の育成という視点から
 生徒は学校生活において様々な問題に直面する。例えば,授業中に集中できない生徒がいて迷惑だとか,清掃活動で班活動がきちんと行われないとかなど,日々たくさんの問題が生徒集団には発生している。学校ではこのような問題を教師が中心となって指導し,問題を収束することがある。問題行動をとる生徒に対して,直接教師が指導をし,問題行動をおこさないように働きかける等である。
 しかし,これらの問題に生徒自身が自分たちで解決するには,どのような生徒がどのように関わり,どのような行動をとるべきなのだろうか。
 これらの問題解決のために必要な考え方や方法を生徒に学習させることは,生徒の問題解決能力の育成につながるだろう。また,このような力を意図的,計画的に学習させるプロセスは,学級活動などの特別活動で学習することが適当である。
 学校生活での様々な問題解決能力を育成し,社会的に行動できる力を高めること,つまり「社会性」を養うことで,教科指導とは違った視点での「生きる力」を生徒全員に養うことができる,と考えた。
 以上の理由により,本研究主題を設定した。


3 取り組みの方針
 課題を解決する手段として,学級委員会活動と学級活動の活動プログラムを立案した。
 学級活動の授業は,性教育などの保健の内容や,生徒会担当からの委員会組織づくりなどを学年や学校で同じ趣旨の授業を展開していた。一方,多くの授業は,年間指導計画をもとにして各担任がそれぞれ実施していて,共通の指導案をもとに学年として組織的に授業を行うことは,あまり多くなかった。
 しかし,学級活動の効果的な生徒指導の機能を考えると,同じねらいで組織的,計画的に学級活動の授業を行うことの指導効果は大きいはずである。
 また,学級委員会などの生徒会活動や学年行事などの学校行事においても,生徒指導機能の重視という視点を明確にしておけば,活動の目的や実施計画の立案において,方向性が定まり,様々な取り組みが一貫して行われることになる。
 

4 活動の組織
 (1) 教師の組織
  第1学年担当教師が指導計画を立案し,指導に当たった。
 (2) 生徒の組織
 学級委員会
 各学級の学級委員を様々な取り組みの中心におき,企画,運営,評価等を行った。本校では,学校全体の学級委員会が組織されているが,それとは別に学年で独自に学級委員会活動を行った。
 

 班長会
 
各学級では,それぞれ生活班が組織されている。その班長を学級委員会の下部組織として,連絡,評価等の実行委員として活用した。必要に応じて,班長を全員集め,学年班長会を行った。また,学級活動の授業では,班での話し合いの中心となった。
 
 
5 具体的な活動内容@ 「まとめ集会」 7月,12月,3月
 各学期の終わりにまとめ集会を開いた。このまとめ集会は,後述する学級活動と関連して実施した。学級活動で話し合いを行い,その内容をもとに集会を行った。
 
学級委員会で企画を立て,話し合う内容,進行の方法等を生徒が考えて行った。1学期,2学期,3学期と同じ流れで集会を計画した。経験を積むごとに生徒は,話し合う内容が深まり,集団としての成長を見せた。
まとめ集会の概要
 目的
 ・ よりよい集団活動を通して,集団のよさや課題を発見し,今後の活動への意欲を高める。
 ・ 自治的な活動の取り組みにより,生徒自身が規範意識を身に付け,よりよい集団を形成する意欲を高める。


 活動内容
 ・ 各学級の学級目標の達成度をアンケートで調査し,次の学期の重点を考える。

 ・ 他のクラスの重点目標等をもとに,質問,意見を述べる。
 ・ その学期の学級委員会の取り組みを振り返り,その成果と課題を明らかにする。
6 具体的な活動内容A 「学級活動」
 学級活動は,学校の年間指導計画をもとに,学年の各学期ごとの指導計画を立案した。その学期が終わるごとに,次学期の行事等を考え,生徒に必要な力をつけるよう指導計画を立案した。その指導計画に基づいて,それぞれの担当が資料や指導案を学年に提案し,全学級が同じねらいで,授業を展開した。
 授業の内容は,健康・安全に関わること,学級の組織に関わることなど様々であるが,本テーマに大きく関わる内容は,次の3つである。
 ○ グループ・エンカウンター
 ○ まとめ集会に向けて
 ○ 進路学習

それぞれの概要は次の通りである。
 (1) 「グループ・エンカウンター」
 エクササイズを行い人間関係づくりを積極的に行う取り組み。学級活動だけではなく,道徳や学年集会等でもいつかのエクササイズを実施した。

題  材
実施日
内  容
「雪山で遭難」4月21日()雪山で遭難したと仮定して,持ち物の中で大切なものは何かを考え,班で話し合い,その後,振り返りを行う。

 (2) 「まとめ集会に向けて」
 集団を見直し,次の活動への目標をつくる活動である。前述のまとめ集会の予備的な話し合いを行った。

題  材
実施日
内  容
「まとめ集会に向けて」 6月25日()
7月7日()
7月14日()
各学期の終わりに,その学期のまとめと,他の学級の取り組みへの評価を行った。
12月1日()
12月8日()
12月15日()
3月4日()
3月9日()
3月22日()

  学期ごとに行われた3回の授業内容は次のようである。この内容を各学期ごとに3回実施した。

第1回学級目標の達成度アンケートをもとに,その学期の成果と次の学期の重点目標を考える。
第2回他の学級の成果と重点目標を見て,批評をし,質問をまとめる。質問者を決める。
第3回他の学級から指摘されたことや質問事項の答弁を考える。答弁者を決める。

 話し合いは,KJ法を応用した方法を活用し,効率よく全員の意見がまとめられるようにした。具体的な話し合いの手順は次のようである。

 @ 個人の意見をカードに書く。
 A 班で同じ意見のカードをまとめ,意見を集約する。
 B 班の意見を大きなカードに書き,黒板に張る。その際,他の班の意見と同じ内容はまとめる。
 C 黒板上で,学級委員が中心になって,各班からの意見を集約する。

 (3) 「進路学習」
 進路学習では,自分の生き方を考え,その具体的な方法を学習する。
 共通の指導案,資料を使って次のように進路学習を行った。また,11月には,社会体験チャレンジが実施された。その関連の学習等は,主に「総合的な学習の時間」に行った。

題  材
実施日
内  容
「自分を知る」6月2日()自分の特性を知り,自分のよさを伸ばそうという活動。
「将来の夢と希望」6月9日()自分の将来について考え,希望をまとめる。
「職業の適性について」10月1日()様々な職業と,その適性について考える。
「家庭学習のあり方」2月2日()計画的で,効果的な学習の取り組みについて考える。
「進路計画の必要性と立て方」2月16日()自分の将来について考え,その実現のためにはどのような進路があるかを考える。

7 具体的な活動内容B 「学級委員会の活動」
 学級委員会は,学級や学年の生徒の状況を把握し,必要に応じて活動を行った。
 (1) 「あいさつ運動」 5月6日()〜5月20()
 目的
  ・中学生としての礼儀を身につけられるようにする。
  ・ 学級全体で取り組むことにより,学級としてのまとまりを高める。
 方法
 1日に何回あいさつをしたかを数え,帰りの会で確認をした。あいさつの相手は教師や来客とした。学級委員は朝,帰りの会で呼びかけ,確認等を行った。

 集計方法
 帰りの会で次のどこに当てはまるかを手を挙げさせ,その人数を集計し,ポイント数を計算した。全員がB以上になることを目標とした。

A 11回以上, B 6〜10回, C 1〜5回, D 0回

 (2) 「チャイム着席運動」 5月27日()〜6月14日()
  目的
   ・ 時間を守ることを意識し,集団生活のけじめをつける。
   ・ 学級全体で取り組むことにより,学級としてのまとまりを高める。
  方法
   各班の班長がチャイムが鳴ったとき,着席している人の数を数え,集計した。


 (3) 「学年班長会議」 10月〜11月
 学級には,6〜8の生活班があり,それぞれに班長がいる。その班長と学級委員が集まり,その学級の問題点を話し合い,具体的な解決策を立案する会議を開いた。他の学級の現状などを聞きながら,自分の学級の問題解決を考えられ,学級独自で行う班長会よりも効果的であった。
 班長会で話し合われた学級の問題点
  ・チャイム着席ができない。
  ・授業中に立ち歩く。
  ・私語が多い。
  ・忘れ物をする。 等
 これらの問題点について,朝の会で学級委員が改善を呼びかけ,帰りの会でその日の状況を班長が学級に報告した。これを毎日繰り返し,週末に班長会でその状況を話し合った。


8 具体的な活動内容C 「保護者との連携」
 (1) 進路・学習通信の発行
 保護者への情報提供のために,進路・学習通信「生きる」を毎月発行した。内容は,学級活動の内容,学習に関する資料,行事の様子等である。写真やグラフなどを多用し,わかりやすいものを作成した。

「生きる」の掲載内容
・学習と生活に関するアンケート結果
・各教科の授業の様子
・進路学習について
・評価と評定って何?
・中学生社会体験チャレンジについて

・働くということ
・自主自立への取り組み       
           等


 (2) 保護者会
 各学期に1〜2回ほど保護者会を開催した。その時の状況により,子どもにつけさせる力について,学校と家庭でどのように働きかけていくかを話し合った。
 特に,2学期に行われた保護者会では,子どもにつける力として,次の2つを必要な力として提案した。(資料参照)

○ 人とコミュニケーションをする力(人間関係をつくる力)
あいさつをする,相手の話を聞く,相手を尊重する,自分の考えを話す,いくつかの意見をまとめる,相手を思いやる,人と協力して作業する等
○ 人のために働く力(奉仕能力)
共有場所を清掃する,学級の給食を準備する,学級や学校内の役割を果たす(委員会,係,日直等),学校周辺のゴミ拾いをする,ボランティア活動に参加する

9 生徒の変容
 1年間の取り組みを通して,生徒の変容を考えてみたい。
 1学期は,あいさつ運動やチャイム着席運動を学級対抗の形で行った。そのため,生徒はゲーム感覚で活動に取り組み,活動期間は成果を上げた。あいさつ運動などの活動をしたときはとてもよくできるが,活動期間が終わると,もとに戻る生徒もいて,継続して力がつかない生徒もいた。
 2学期は,班長会から学級生徒に働きかける場面が多かった。班長は,それまで大きな仕事は無かったが,この活動により班長は,リーダーとして活躍をした。初めは,うまく動けなかった班長は,活動が進むつれ,積極的に班員に関わり,リーダーとして活躍するようになった。
 3学期になると,多くの生徒がその場の状況を判断し,ふさわしい行動をとれるようになった。また,私語などをして,気がつかない生徒にまわりの生徒が声をかけて正そうとすることがよく見受けられた。清掃等の班活動に対する意識が少しずつ変わり,積極的に取り組もうとする生徒が増えてきた。3学期には,スキー林間学校があり,この宿泊学習を通しても,生徒の意識は向上をしたようだ。
 各学期ごとにまとめ集会を行った。1学期は始めてということもあり,学級活動でも集会でも議論はあまり深まらなかった。2・3学期は,他学級の目標の持ち方や,反省点などへの批判の目が育ち,同時に自分の学級の取り組みも,やや客観的に評価できるようになったようだ。
10 成果と課題
 教師へのアンケート結果より (自由記述)
 (1) 成果
・学級の枠を越えて,学年で対応できた。
・生徒同士で注意をしあう土台ができた。
・リーダーが育ちつつあり,学級などの話し合いをうまくリードできる生徒がでてきた。
・様々な話し合い活動を通して,生徒が自分の意見をまとめて話すことができるようになった。
・他の学級の目標や成果などのに対して,しっかりした批判をする目をもつことができた。

 (2) 課題
・様々な取り組みでついた力を定着させることができていない。
・リーダーをもっと育てる必要がある。
・差別意識が強い生徒がいて,人間関係づくりがなかなか進まない。
・保護者との連携が必要だが,それがなかなか困難である。

11 終わりに
 振り返ってみれば,学級活動などの特別活動を学年として同じねらいで行う,という点ではあたりまえの取り組みであったといえる。しかし,1年間を通して,一つのテーマで学級活動や委員会活動や学校行事をデザインすることは,あまり行われてこなかった。その意味で,今回の取り組みは成果があったと考えている。
 生徒に社会性をつける取り組みは,今年をスタートとして中学校では3年間継続して取り組むべき問題である。来年からも引き続き計画的に指導にあたっていくことが望ましいだろう。本年度の課題をもとに,来年度以降の指導計画を立案したい。
 生徒の社会性を高めるためには,教師自身の社会常識や人との関わる力なども求められるだろう。これからも生徒のよさをを育てると同時に,教師自身も人間性などの修養に努め,生徒と共に向上できるよう努力をしていきたい。

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