教師に関する課題
1 小学校と中学校の連携
郷土の音楽を指導計画をどのように作成するか,ということについて考えてみたい。考慮しなければならないのは,
小学校間の学習内容の違いや小・中学校間の学習内容の重複である。
たとえば,次のようなことが想定される。
例1
A小学校は,篠笛を生徒に購入させて郷土の音楽である祭囃子の演奏に取り組んでいた。また,B小学校は,合唱の取
り組みに力を入れていて祭囃子は取り扱わなかった。この二つの小学校が同じ中学校の学区にあった場合,中学校入学
時にすでにスタート地点が大きく違うことになる。
例2
C小学校は,和楽器の取り組みでお箏を中心に取り組んだ。一方,D小学校は,三味線を購入して段階的に学習した。
この二つの小学校は,同じ中学校に進学するが,その場合,中学校ではどのような内容を考えればよいのか。
例3
E小学校は,和楽器の取り組みとしてお箏の授業を実施した。そこで生徒が取り組んだ題材は「さくらさくら」であっ
た。生徒は意欲的に取り組み,発展的な変奏曲まで演奏できる生徒が学級に何人かいた。一方,中学校では,お箏の取り
組みを計画していて,準備していた題材はやはり「さくらさくら」だった。
このような課題を解決するためには,指導計画を立案する前に小学校と中学校の教師が充分に話し合いをし,教育課程
を調整しなければならない。
そのためには,教師が組織している研究会の機能を活用するとよい。
ほとんどの市町村には,教育研究会というような名称の組織がある。この研究会は,より発展的な教育実践を求めて,
教師の研修会の企画や学校内だけでは解決できない教育上の問題を教科,領域ごとの分科会を中心に話し合う場である。
音楽科では,研究会が主催する小・中学校共催の音楽会や教員のための研修会の企画などについて話し合うことが多い。
今,この会に求められるのは,学校間の教育課程の調整という機能である
郷土の音楽や日本の音楽,特に和楽器の取り組みをどう位置付けるかを話し合って,この会で方針を決める必要がある。
和楽器を学校間で貸し借りをしているところは,その時期や方法について話し合う必要があるだろう。また,教材となる
楽曲についても重複などを避けるため調整をする必要がある。
この話し合いの時期は,新年度が始まってからでは遅い。次年度の指導計画を4月までに立案することを考えると,前年
度の2学期終了までに話し合うのが適切である。話し合いが終わった後,それぞれの学校で次年度の年間指導計画の詳細案
を作成する,という手順になる。
この話し合いにはその年度の年間指導計画を持ち寄るとよいだろう。楽器の貸し借りなどその場で決定できないことも
あるので,このような話し合いを年に数回行う必要がある。始めの年は手間がかかるが,納得のできる案が決まれば次年
度からはその修正をする作業になるので,それほど時間をかけなくてもできるだろう。
郷土の音楽はそれぞれの地域によって内容が違う。したがって,既製の指導計画例は役に立たない。小学校と中学校の
教師が充分に話し合うことで,その地域独自の小中連携カリキュラムを立案してよいものをつくることが大切である。
2 和楽器の研修
授業で和楽器の取り組みが求められ,自分から研修に取り組んでいる教師が多いようだ。教師のよって専門とする分野
が異なり,必要となる研修内容は様々だろう。ここでは,日本音楽を学ぶのにどのような和楽器を,どのようなポイント
で研修したらよいかということについての一例を提案したい。
郷土の音楽など日本音楽で使う楽器は,笛などの管楽器,お箏などの弦楽器,太鼓などの打楽器の三種類である。この
中で教師は,どの楽器の研修に取り組めばよいのであろうか。
雅楽の演奏家は,自分が専門とする管楽器があり,打楽器と弦楽器は,それと併行して練習をする。また,生田流箏曲
では,お箏と共に三味線や尺八などの練習に取り組む。このように日本音楽では,複数種類の楽器に取り組むことで,音
楽の理解を深める。したがって,教師も管楽器と弦楽器など複数種類の楽器の研修に取り組むことが,日本音楽の理解に
つながる近道であろう。
それでは,楽器の種類別に研修のポイントを見てみよう。
ア 管楽器
日本の管楽器は,篳篥と笙以外は,リードを持たない無簧楽器である。無簧楽器の発音は中空円筒に息を吹き込み,そ
の空気流の振動による。同じ無簧楽器である篠笛,尺八,龍笛,能管などは発音原理が似ている。
つまり,これらの楽器の演奏技能は,一つの楽器ができれば他の楽器の発音に応用できるということである。
もちろんこれは発音のみであり,運指やメリ,カリ,打ち指など多種存在する演奏技法は,楽器ごとに大きく違う。し
かし,管楽器において発音は,重大な要素であり,これを克服できるとかなり広い範囲の音楽に取り組める。
それぞれの楽器はプラスティック管の安価な楽器が販売されているので,自分の好きなジャンルの楽器を一つ選び,練
習に取り組めば,発音の技能が他の楽器に応用できる。これらの楽器は,入門用に教則本など,いくつか出版されている。
雅楽の龍笛も,唱歌とセットになった入門テープなどが販売されている。
イ 弦楽器
弦楽器は,お箏と三味線の両方に取り組みたい。どちらも難しさはあるが,ギターなどの経験のある教師なら三味線に
は取り組みやすいだろう。
三味線音楽は多種に渡っているが,比較的取り組みやすいのは,沖縄の三線である。理由は発音が容易だからである。
発音に使うのが三線では爪という比較的小型のものである。また,ギターのピックを使っても問題はなく,実際の演奏家
でもギターのピックを使う人もいる。このため弦が切れにくい。また,現在,三線はブームでありインターネットなどを
使った通信販売も盛んに行われている。
三味線は,ばちを使う。このばちの大きさは,楽器操作に大きな影響を与える。自分の手の大きさにあったばちを選ぶ
のがよい。また,力の入り具合がわかりにくく,弦が切れやすい。弦のはり方は,三味線に取り組むときの必須技能であ
る。
三味線は,たくさんのジャンルがあり,それぞれ楽器が違う。初めてであれば,長唄三味線などの歌の伴奏を練習する
のが,取り組みやすいだろう。
いずれにしても,三味線系の楽器は三線でも三味線でも何かを基本として演奏できるとよい。
お箏は,生田流と山田流があるがどちらが取り組みやすいということはない。初心者にとってどちらの流派でも難しさ
は同じである。爪の形状と座る角度による発音の違いは,大きな問題ではなく,弾きやすさに大きな差はない。爪はサイ
ズが微妙に個人差がある。サイズが違うと力の加減がうまくいかないので,どちらの流派でも自分の爪を調整の上,購入
するとよい。
また,お箏では,調弦の手順と方法が最初に必要な技能なので身につけておくとよいだろう。
ウ 打楽器
打楽器は,音楽の種類によって技術が大きく違う。祭囃子の太鼓と,能の小鼓では演奏内容に大きな違いがある。打楽
器は目的とすべき音楽があるならその練習に取り組むというのが適当だろう。
最近,和太鼓サークルがたくさんできているが,和太鼓は最近つくられた音楽が多く,伝統音楽のジャンルに入らない
ものが多い。和太鼓に取り組むときは,そのことをよく理解してから取り組むとよい。
3 教師に求められているもの
現在,音楽科教師には次の三つのことが求められている。
○資質の変革
○集団から個人への視点の転換
○授業内容の情報公開
ア 資質の変革
日本音楽と西洋音楽は異なった資質を基盤としている。たとえば,西洋音楽のリズムと日本音楽の「間」は,音楽の時
間的なとらえ方に根本的な違いがある。頭声的発声をめざした従来の合唱の発声法と,能の謡や民謡の発声法では,授業
でめざすものも,評価する内容も大きく違う。
この両方の音楽性に取り組むことは,音楽科教育がバイミュージカル1な生徒の資質を育成することをめざしているとも
いえる。それを実現するためには,まず教師自身の音楽的資質が多様である必要がある。
教師が日本音楽や郷土の音楽の魅力を感じられなければ,授業も評価もできないだろう。教師には,世界の音楽や日本
の音楽を受け入れ,広く世界的な価値観を持つよう,研修に取り組むことが求められている。教員の組織する研究会や教
育センターなどが企画する研修会への参加は,その一つの方法であろう。しかし,教員自身の資質を変革するという視点
では,これらは充分な量の研修とはいえない。やはり,教員自身が自分から研修に取り組むべきだと考える。
具体的には,音楽科教師は,普段から日本音楽を聴いて楽しむなど,積極的に日本音楽にふれるべきである。また,世
界の民族音楽やポピュラー音楽の様々な情報を収集するべきである。そのために教師は,様々なジャンルのCDなどを取り
寄せたり,演奏会などの音楽が演奏されている現場にでかけるなどの努力を行うべきであろう。
今,教師には,音楽的資質の変革が求められている。大きな価値観の転換をするためには,毎日の努力が必要となるだ
ろう。
イ 集団から個人への視点の転換
音楽科の授業は,合唱や合奏など集団を視点としたものが多い。当然,教師は,集団全体の実力を向上させることに力
を注ぐことになる。
しかし,教師は,授業を展開しながら生徒一人一人を個別に見て評価をしなければならない。集団全体の評価と個人の
評価は全く別である。
絶対評価は,集団の中で生徒を比較するのではなく,固定された絶対的な価値観によってなされる。集団だけを見てい
ては,個人の評価はできない。
このため,教師は,集団の視点と個人の視点を切り替えられるよう新しい視点で授業をデザインしなければならない。
先に述べた二つの評価方法などをもとに,個人の力を適切に伸ばすような新しい授業づくりが求められている。
ウ 授業内容の情報公開
中学校学習指導要領に共通教材がなくなり,それぞれの教師の考えが授業の内容に大きな影響力を持つようになった。
このことは,その地方独自の授業内容を組めるなどの利点もあるが,教師の一方的な見方による授業が展開されることも
ありうる。
教師は,独善的な授業を展開しないためにも自分の授業について内容をできるだけ公開し,批判を受け入れるべきであ
る。授業公開などを積極的に行うことは,これまで以上に求められるだろう。
たとえば音楽科独自のシラバスや教科通信などを作成し,保護者や地域に授業内容や評価内容などを公開してはどうだ
ろうか。新しい単元のねらいや授業内容を配布し,授業後に生徒の取り組みを報告すれば,保護者の方の学校理解にもつ
ながるだろう。学校として,授業や評価に関する質問や意見を受け容れる窓口を決めておくことなども検討するとよいだ
ろう。
また,教師同士の研究会などで授業内容,評価方法を提案することは,直接様々な意見をもらえる機会である。積極的
に提案者となり,様々な意見や批判を受け入れたい。
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