卒業式全校合唱のつくり方
ー生徒の自主的な力を生かし,少ない時間で取り組むにはー

はじめに
 学校では多くの学校が卒業式で全校合唱に取り組んでいると思われる。この全校合唱は中学校では「合唱祭(コンクール)」と並んで,音楽科の大きな取り組みの一つである。したがって,卒業式合唱が成功するか否かは音楽科教師の力の見せ所である。その見せ所となるのは生徒が自分達でこの行事に取り組み,力を伸ばすことである。生徒が意欲的に取り組みやすい行事であるので,事前準備を綿密に行い,生徒の力が発揮しやすいよう下準備を充分に行っておくことが必要である。
 また,3学期の中学3年生は授業が2月いっぱいで終了する学校が多く,授業時数は実質6〜7時間程度しかない。この少ない授業を卒業式の準備のために割くことはもちろんできない。授業は行事の準備の時間ではないし,授業では鑑賞や,幅広い表現活動の授業を行い,少ない授業で全員の評価を公正に行わなければならないからである。
 そこで,筆者が数年前から実際に取り組んでいる授業を使わない取り組み方法を紹介する。

1 準備
 (1) 職員会議への提案
 全体の企画を作り,職員会議に提案する。卒業式は学校行事なので,音楽科と特別活動部で協議し原案を作成するとよいだろう。その際,目的が音楽科のものよりも特別活動のものの方がよい。筆者が提案している案の目的と方針は次のようである。


1 目的
○ 全校合唱の取り組みを通して,集団としての連帯感を育て,新しい生活への動機づけとする。
○ 集団の一員として,よりよい活動を行おうという自主的,実践的な態度を育てる。
2 方針
 ・ 生徒が企画に関わり,生徒が中心となって練習等に取り組む。(学級委員,指揮者,伴奏者,パートリーダー等)


 (2) 生徒の組織作りと意識づけ
 生徒の自主的な力を生かし少ない時間で取り組むには,事前の準備をきちんとすることが必要である。これを行わないと,実際の練習で生徒の自主性を生かせず,また,練習に時間がかかってしまう。

 @ 学級委員会の活用
 実質的な執行機関として,筆者は学級委員会を活用している。ここでは,全体の企画の立ち上げと,実際の練習の進行・評価等を行う。
 学級委員は,A以降の内容を学級に伝え,必要な審議を学級や学級委員会で行う。また,全校や学年練習時の司会,練習の目的発表,練習の評価等を行う。このため,すべての練習を確認し,役割分担をする。(1,2年生は1回程度,3年生は7〜8回程度)

 A 生徒による選曲
 歌う曲は学級委員会で原案を考え,それを学級で審議し,そこで出た意見を参考に学級委員会で決定する。「卒業式にふさわしい曲」というのが条件である。生徒からは様々な意見が出るが,だいたい妥当な曲で落ち着く。
 曲目については生徒の思い入れが強く,この行程をやらないと生徒の意識は低迷する。あくまでも生徒が決めた曲であることが重要である。

 B 指揮者,伴奏者の公募
 指揮者と伴奏者は3学年生徒から公募により選出する。選出方法は実技オーディションである。現在,オーディションは音楽科教師が中心に行っているが,将来的には学級委員会等生徒に行わせることも考えている。
 なお,指揮者,伴奏者の評価規準は次のようである。
指揮者 曲をよく理解し,それを指揮で表現できる,と同時に練習を進行できるリーダー性を持っている。
伴奏者 伴奏の技能に優れ,曲を解釈し表現することに意欲的である。

 C パートリーダーの決定
 授業で活躍している各学級のパートリーダーの中から学年代表のパートリーダーを決定する。学級のパートリーダーは学級の練習で,学年のパートリーダーは学年,または全校練習の時に活躍する。

2 事前練習の取り組み
 練習は学級で行う場面と学年・全校で行う場面があるが,練習は生徒が行うということを基本に置く。教師は必要に応じてアドバイスをするという姿勢を崩さないことがポイントである。したがって,中心となる生徒が自分の役割を認識し,リーダーシップを取ることが大切であり,そのためにこれまでの事前の取り組みが必要なのである。

 (1) 学級で
 帰りの学級活動などで10分程度の練習を1週間程度行う。これは曲を把握し,技能を高めることもあるが,むしろ生徒が自分達で練習に取り組む意識を定着させることを目的とする。そのため,学級担任には練習を見守り,積極的に指導に取り組まないことを確認しておく。うまく行かない学級もあるだろうが,学級委員会で確認し,その後の方針等を生徒に考えさせることが大切である。
 練習の流れ
 
 @ 学級委員が指示をして,各パートごとに集まる。
 A 伴奏テープを流し,パートリーダーが指示をしながら歌う。
 B 学級委員がその日の練習の評価を発表する。
 

 (2) 学年・全校で
 特別に設けられた時間を使って,体育館等で学年・全校練習が行われることと思われる。3学年は7〜8時間程度,1,2年生は1〜2時間程度実施されるだろう。
 準備の段階でどの時間にどのような練習をどのような段取りで行うか,また,誰がどのタイミングでどのようなことを行うのかを決めておく必要がある。これさえ決まっていれば,当日はその流れで練習を行うのみである。
 筆者は次のような流れを基本としている。
 
   初めの言葉
   今日の練習の目標発表
   指揮者からパートごとの練習場所等の説明
    パート練習 (例えばソプラノは柔道場,アルトは剣道場,男子は体育館など)
    全体練習 (体育館)
   練習の評価
   終わりの言葉

剣道場でのパート練習

 この練習ではマイクを持ち,指示するのはすべて生徒である。教師は周辺にいて様子を見守っていればよい。必要があれば,学級委員に耳打ちしたり,学級で生徒に話をしたりするというように,教師はアドバイスに徹することが重要である。
パートリーダーが指示を出し練習を進める
体育館内で向きを変え複数パートの練習を同時に行う

3 当日,その後
 事前練習が機能すれば,当日は何ら心配することはない。自分達で取り組んでいるという意識が強いので,当日は泣き出してしまう生徒が多く,練習ほど歌えないことが多いが,それは取り組みが成功したということである。むしろ,練習のように歌えたら生徒の気持ちの高揚が足りなかったかも知れないと反省する必要があるかも知れない。筆者の取り組みでは,予行の段階から多くの生徒が泣いてしまい,それ以前と比べると充分に歌えないことがよくあった。それはそれで成功であろう。

終わりに
 卒業式の全校合唱は音楽科教師が力を入れるあまり,まるでかつての体育祭マスゲームのように指導をする教師が時折見られる。全校生徒を体育館に集め,教師がマイクを持って叱咤激励しながら練習を進めていくという形式のことである。しかし,この方法ではせっかく生徒が力を発揮できるチャンスをつぶしている。残るのは教師の満足感である。
 このような方法は現在では「化石的指導」といってもよいだろう。生徒の意欲を高め,関心を集め,自ら行動する態度をお膳立てするのが教師であるはずだ。生徒は失敗するかもしれない。そこはまさに指導チャンスであり,そこで生徒は大きく成長できるだろう。
 大切なのは「生徒が充分満足した活動」であったか,ということである。教師が自己満足することではない。


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