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ハイ・テンション家族

「どりゃー! ただいまー 帰ったぞー」
「お帰りなさい、あなた! 帰るたびに、玄関をいちいち蹴らないでください」
「おう、すまん! 俺のあり余る熱い血潮が、優しく扉をあけることを許してくれないんだよ!」
「言ってる意味がさっぱりわかりません! でも、遅かったですねー」
「残業が長引いた! 部長の愚図野郎が、手抜き作業しやがったから、俺たち部下は大変だぜ! 一刻も早くお前の顔を見たかったのによー!」
「いつもみているじゃないの。まったく機嫌とってもなにもでませんよ! それより、お風呂にしますか? それともお食事にしますか?」
「それじゃ、セックスにしてくれ!」
「……では、たまには外でしますか?」
「うん、外で。テイクアウト。 ……って馬鹿! 冗談だよ!」
「おー、ナイスな、ノリツッコミね!」
「イエース! 絶好調! といいたいとこだが、腹がへったー。飯にしてくれ、もちろん、てんこ盛りで!」
「了解! 五分後、ふたひとまるまる時に予定しまーす!」
「ご苦労!! 二十一時ジャストに席に座る。俺は完璧に手を殺菌してくるぜー」

「到着! おう、悟志? もしかしてパパを待っていたのか!?」
「うん。パパ! お仕事ご苦労さま!」
「おおっ! 今日はホントに苦労したぜ。へい、悟志も小学3年になって、勉強は付いていけてるかー?」
「もちろん! 完璧だよ。完璧すぎて、うしろの席の、アホの由紀夫くん に、なんでこんなの出来ないんだよアホー、といいながら、いつも、いびりながら教えてやってるけど、あいつ、わかんないと逆切れするんだよ!」
「こらー!! 悟志、おまえは、なんてことをするんだ!!」
「ごめん、パパ!」
「アホにアホ言ったら、怒るのはあたりまえだー!」
「あー、そうか。さすがはパパ!」
「……あなた! 何を教えてるんですか! いびるとか、アホとか、とんでもないわ!」
「すまん!」
「まったく、逆切れされたら、されっぱなしじゃだめなのよ。それを上回るキレかたをするのよ! そうよ、名づけてクロスカウンターギレ!」
「……な、なるほど。ママは天才だな。よし悟志、相手が萎えるまで、120パーセントの力でキレるんだぞ!!」
「うん。僕、頑張るよ!」
「よし、パパといっしょに、うさぎ跳び、五十回だ!」
「ちょっと、二人とも待ったー! 食事が冷めちゃうから、あとにして!」
「はーい」
「では、いただきます! ……って、おい、ママ。この魚の煮つけ、紫色してるぞ! なんなんだこれは!!」
「それは、南プロヴァンス風、金目鯛の煮付けよ!」
「なんだって!? 南プロ……?」
「耳をかっぽじって、よく聞きなさい!」
「……ママ?」
「赤ワインがたっぷり入ってるのよ!」
「な、なるほど、赤ワインが…… ハハハ…… ちょっと、まった、ママ、そのワイン飲んだろ! なんか、さっきから言葉使いが急に悪くなってるぞ!」
「そんなことあるかい! ざけんなよ!」
「ざけんなよってなんだよ、酒癖悪すぎるぜ、おまえはよー」
「なにがセックスにしてくれだ! マスでもかいてろってんだ、ばーろー!」
「……」
「パパー、これ鯛だよー、マスじゃないよー」
「……悟志、ママは酔っ払っちゃったみたいなんだ。いってることは気にしなくていいからな」
「てやんでぇ、ちきしょうめぇ! 給料もっと稼げよー」
「うるせー! おまえこそ、まともなもん作れよー」
「お小遣いあげろー!」
「いや、悟志まで、スローガンみたいに叫ばなくていいから。ん、あれ、なんか焦げ臭くないか!?」
「はッ!? やべ! わたしの力作、シュウマイのチョコ煮込みがー!」
「……なんでも、煮るんじゃねーよ!」
「ママは料理の達人だね!」
「悟志、それはボケなのか、イヤミなのか?」
「ご飯はよく炊けてるよ!」
「誰でも炊飯器があれば炊けるからな」
「今日も、ご飯とお漬物だけだね、パパ!」
「おう、だから、給食はちゃんと食べるんだぞ!」
「パパも、社員食堂で栄養のバランス考えてね!」
「了解!」
「さあ、食べたら、うさぎ跳びだ!」
「了解!」



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