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女王さま

 わたしは女王だ。
 白き女王とも呼ばれ、偉大なる君主として権力を振るっている。
 それはともかく、今、わが広大な領土は危機にさらされていた。
 西の平原での会戦に敗れたために、領土の一部が奪われ、東方の新興勢力が力を増したのである。
 勇敢に戦った、わが忠実なる兵士も、度重なる会戦で傷つき、しばらくは防戦一方になるであろう。
 西平原会戦での敗北は、われわれの中から、内通したものが出たことが原因だった。
 わたしの6人の娘のうち、末のモリスが東方勢力の男と恋仲になり、情報を流していたのだ。
 断腸の思いではあるが、わたしはモリスを辺境へと追放した。
 女王たるもの、自分の娘とて容赦はできない。それが王者の姿勢であり、掟である。

「アントニオはいるか!」
「ははっ、女王陛下」
 アントニオは若くして政治の長に成り上がった有能な男である。わたしも頼りにしている。
「将軍を呼べ!」
「……さて、どの者を呼べばよろしいでしょうか」
「ふむ。ピートを」
「……ピートはたしか無断欠勤しております、冬は外に出るのが嫌だそうです」
「なにを馬鹿な、そんなやつはさっさと首にしろ。ならば、トロは!」
「トロは最近、アタマが痴呆気味で、わけのわからないことを呟くばかりで……」
「なんだって!? しかたない。では、マイケルは」
「それが、もうしわけございません、彼は先月、墜落死しました」
「――ええい、どいつもこいつも役たたずめ! ジェーンを昇格させろ、南から敵を奇襲するのだ」
「おお、それは機を見るに敏でございます。ジェーンは機動力に定評があります。必ずや」
「……もう私は疲れた。後宮に立ち寄ってから、宮殿へ戻る。あとは任せたぞ」
「ははっー」
 後宮は丘の上にあり、そこでは若い男どもが、私を待っていた。
 彼らをはべらせて気を紛らわせてから、宮殿へと戻ることにした。
 たまには戻って、ゆっくりと食事でもとりながら、旦那に会うとしようか。

                     ◇

「お、タマ、どこ行ってたんだ? メシか、まったく気まぐれなやつめ……」
 仕事帰りの男はネクタイを外しながら、笑顔で足元にじゃれる真っ白な猫をなでた。

 ニャー。



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