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ランプの魔神ちゃん

 ある日、燃えないゴミを出しに、ゴミステーションへ行くと、見慣れないランプがあった。
 古ぼけてはいるが、よく見ると、骨董的な価値がありそうだ。
 オレは、なんとなく興味がわいて、拾って帰ることにした。
 リビングのテーブルの上に置いてから、雑巾を絞って持ってくる。汚いのでふきはじめたら、突然、煙が噴出した。
 オレは咳き込みながら、あわてて窓をあけた。やがて煙がおさまると、高らかな笑い声と共に、ターバンを巻いた古めかしい中近東風の姿をした可愛い少女があらわれた。
「うぃーす! あたしランプの魔神ちゃんよー。どうぞよろしく!」
「お、お前は誰だ!」
「だ、か、ら、魔神ちゃんだって言ってるじゃない、まったく冴えないお兄さんねー」
「……冴えないとは失礼な」
「まあまあ、怒らないの。じゃ、さっそく願いごと、三つ言ってくれるかなー?」
「……まじ」
 魔神ちゃんは、満面の笑顔でうなずいた。
 オレはしばらく放心状態だったが、すぐに我にかえって、欲のもたげる音を頭の中で聞いた。人間の適応能力は凄いものだと我ながら感心した。
 唸りながら考え、おそるおそる言ってみた。
「……大金持ちとか、駄目かな」
「うーん、別に大丈夫よ。あたし的には、捻りのない願いごとでツマンナイけどね」
「まさか、金タライが落ちてくるとか、金属製の粗大ごみが降ってくるとか、そんなオチは勘弁だぜ」
「ふーん、お兄さんは面白いこと言うわねー。そんな月並みなことしないもん。あたしを誰だと思ってるのよ、魔神界ではミスファンタジックプリンセスと言われ、それはもうとにかく……」
 それから五分ほど魔神ちゃんの自慢話が続いたが、どうやらまともに叶えてくれるらしいことはわかった。
 オレは内心で狂喜した。
 これでサラリーマン生活とおさらばだ。
「さぁ、いくわよ! えーい!」
 プスンと、おならのような音がした。
 何かが起きたようだが、何も起きてない。
「……え? どうなったんだ。もう、オレは金持ちになったのか」
「ええと、とりあえず叶えたわよ」
「だから、どうなったんだよ! 銀行預金とか増やしたのか? それともどこかに財宝でも用意したのか」
「えっとねー、説明するとねー、お兄さんが、お金持ちになるためには、すごい数の障害があるのよねー。だからぁ、それを取り除いてやったのよ」
 オレは意味がわからず、頭をかいた。
「それは、つまり……これから金持ちになるイベントが待ってるってことなのかな。あれだ、宝くじが当たるとか、そういうことだろ? そうなんだろ? ……えーと、それじゃ、二つ目の願いに行こうかな」
「ダメダメ! もう三つ叶えたんだからぁ」
「……は? なんだって!? 三つって、いつ、何を!」
「だー、かー、らー、お兄さんが金持ちになるための、百八っつの障害のうち、最初の三つを取り除いたのよー。良かったね。お兄さん」
 魔神ちゃんは、そう言って、かわいらしくウィンクした。
 オレは魔神ちゃんが、じゃーねー、と言って消えるのを茫然としながら見ていた。



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