その日は私にとって、いつもと変わらない一日だと思っていた。
いつもと変わらない空。いつもと変わらない私。
そう、思っていた。
私は、故郷スペインにて親戚の結婚式に出席していた。
パパやママ、それに私にもとても良くしてくれた、今日の主役の親戚夫婦。
会う人々全ての顔が懐かしく感じて、それだけで嬉しかった。
・・・ママだけは、特別懐かしいとも感じなかったけど。
式場中が大勢の人で賑わう中、私は少し外れたところで沙慈とお話。
私の大切な彼氏だもん、毎日でも顔を見たい。もちろん浮気チェックも兼ねて。
沙慈はバイトの真っ最中で、必死になって働いているらしい。うんうん、感心感心。
浮気もする暇ないみたい。どうやら余計な心配だったようね。
「花嫁さんがすっごく美人でね!料理もいい感じだしぃ・・・」
私も、いつか沙慈とあんな風に・・・
そんなことを考えていると、突然通話が切れちゃった。
もう、一体どうなってんの!?沙慈のヤツ、配達が入ったからって勝手に切っちゃったの?!
それともまさか、本当に浮気・・・・!
・・・休み明けに真相を問い詰めよう。
何気なく空を見上げると、赤い光が三つ並んで飛んでいた。
「もしかして・・・・ガンダム!?すごい、初めて生で見た!」
ガンダム・・・戦争根絶を目的とした『ソレスタルビーイング』に所属するMS。
今世界中を騒がせている人たち。でも、戦争に無縁な私には関係ない。
その時見たガンダムも、間近で見るその迫力に圧倒された、ただそれだけの印象だった。
ガンダムのうちの一つが、こっちに近寄ってきた。
一体どうしたのかな?こっちの方角で戦争でも起こっているのかな?
式場にいる人たちも突然の闖入者に驚いていたようだった。
私たちが見つめる中、唐突に右腕・・と、そこに付いた武器らしきものをこっちに向けるガンダム。
そして次の瞬間、強い光が私の視界を覆った。
発した光の眩しさに、思わず目を瞑る私。
それから一秒と経たないうちに、私の間近でものすごく大きな音がした。
鼓膜が破れるかと思うくらい凄まじい爆発音。身体を引き裂くような突風。
目を開くことができたのは、それらが全て収まった後だった。
私の視界に入り込む、信じられない光景。
幸せに包まれた結婚式の雰囲気はどこにも無く、会場の真ん中にはあったはずの
噴水が跡形も無く消え去り、代わりに大きなクレーターのような穴が。
その周りに倒れている大勢の人。
ここまで来てやっと、ガンダムの攻撃が来たということを理解した。
そして、その標的が私たちだったことも。
でも、何で?私たちは戦争なんてしていない。
戦争を無くすためのガンダムが、何でこんなことを・・・。
そんな事を考える私の頭の中を、ふと別の考えががよぎる。
パパは?ママは?
確か二人は、あの噴水のあたりにいたはず・・・。
言いようの無い不安と恐怖に駆られた私は、嫌な考えを頭から追い出して走った。
しかしその直後、走り出した私の後ろで、再び大きな爆発音が響いた。
一度目よりももっと近くで起きた爆発に、私の身体は簡単に浮きあげられる。
そして地面に打ち付けられた私と一緒に、砕け散った瓦礫が圧し掛かる。
体中の至る所に走る激痛に悲鳴を上げる暇も無く、私の意識はそこで途絶えた。
次に目を覚ました私の目の前にあるのは、青空でも、そこに浮かぶガンダムでもない、真っ白な天井。
外の景色の広がる大きな窓と、風になびく白いカーテン。同じく白に彩られたベッドやシーツ。
ここが病室だとわかったのは、しばらくして看護婦さんが来た時だった。
そして、あの出来事で失われた数々の人の事も。
「生きてさえいれば、いつでも会える。」
いつだったか、沙慈のお隣さんとかいうアイツが言っていた言葉。
何故かこんな時に限って、アイツのその言葉が頭の中でむなしく響く。
そう、生きてさえいれば会える。
パパにも、ママにも、親戚やパパの知り合いの人にも・・・
でも、もう・・・・・
そんな時、部屋に突然、一人の男の人が入ってきた。沙慈だった。
私が事故に巻き込まれたと聞いて、学校を休んで会いに来てくれたらしい。
私が一番に会いたかった人物。その顔を見るだけで、僅かに気持ちが和らぐのがわかった。
でも、この時の私は、心の底から喜べなかった。いつもの笑顔になれなかった。
「そうだ、お見舞いってわけじゃないけど、これ。」
そう言いながら沙慈が取り出した小さな箱。その中には・・・
「これ・・・・」
そう、以前私が欲しいとねだったリング。
最近沙慈が必死にバイトをしていたのは、これを買うためだったみたい。
嬉しそうに語る沙慈から、小さいほうのリングを手に取る。
とても綺麗に輝いていた。お店で見たときより、ずっと。
少し頬を赤くしながら、沙慈が口を開いた。
「ルイス。僕・・・ルイスのこと・・・・・・」
その続きは予想できた。
私がずっと待っていた、ずっと聞きたかった言葉。だけど・・・
「ごめんね、沙慈。」
だけど、私はその言葉を拒んだ。
沙慈が私のために買ってくれたリング。
せっかく買ってもらったのに、こんなに綺麗なのに。
「もう・・・はめられないの・・・・。」
私は、沙慈に向き直り、左腕を出した。
だけど、腕から先は、もう、ない。
リングをはめる左手の薬指も、私にはもうないのだ。
あまりに唐突な事だったのか、沙慈は固まったように動かず、ただ私の左腕を見ていた。
その視線が腕の傷に突き刺さるようで痛くて、私はすぐに腕を隠した。
「ごめんね・・・・沙慈・・・・。」
次の瞬間には、私は堪え切れず涙を流していた。
沙慈の優しさが苦しくて。彼の想いを受け取れない私が情けなくて。
その後、お互いに言葉を交わす事もできず、沙慈は看護婦さんに促されるように部屋を後にした。
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