ヒューマンスキル研究センター 代表取締役 細川 政宏 |
表−1 グランデッドセオリーの手順
1 情報の圧縮(オープンコード化)
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具体的な記述を抽象的な概念に移し替えるために、膨大なインタビュー記録や観察記録をまず一度ばらばらにしてから、まとめる。このまとめられたものがカテゴリーである。
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2 因果関係の整理(軸足コード化)
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各カテゴリー間の関係を見いだすために、カテゴリーを、原因となる基本条件→行為(相互行為)→帰結という因果関係に結びつける。
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3 因果関係の取捨選択(選択コード化)
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分析を通して,原因となる基本条件→行為(相互行為)→帰結という因果関係を複数発見することがきる。当面のテーマにとって重要な因果関係に絞り、不要なものは切り捨てて記述する。つまり最終的な報告書作成のプロセスである。
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インタビューや観察などによって得られた具体的なデータをもとに、そのデータを圧縮し、理論を発見あるいは既存理論の精緻化を目指す方法である。
表-1のようにオープンコード化→軸足コード化→選択コード化の手順で進められる。社会学者バーニー・グレイザーとアンセルム・ストラウスによって開発され、一般的にグランデッドセオリーと呼ばれるが、現在では、社会学以外の他の領域で多く利用されている。
KJ法の手続きをさらに洗練させた手法ととらえられる。したがって、KJ法を併用することによって、より簡便な方法へと変身させることができる。
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1 基本テクニック
決まり切った考え方から脱却し、自分の知識や経験を有効に用いて深く分析し、斬新なアイディアを引き出すために、「疑う」「自問自答」「比較」という思考方法が強調される。
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表−2 基本テクニック
疑う(赤い旗を振る) |
インタビューや観察などの記録ノートに現れた「絶対に」「いつも」「あり得ない」「当然」「当たりまえ」といった言葉は要注意である。立ち止まってじっくりと考えることである。なぜなら、これらの言葉は「100%〜である」と表現している。本当だろうか? 一般意味論を知っていると役に立つ。一般意味論とは言葉の意味を対象とする学問である。いくつかの原則を次に示す。
- 地図が現実の土地でないのと同様に、言葉も描写する実体ではない。言葉と 実体を混同してはならない。
- 但し書きをつけることを怠ってはならない。「絶対に……だ」と言う場合、 その意味は「多くの場合……だ。但し、……でないこともある」である。
- 「……その他」を用いること。「山田は良い奴だ」と言う場合に、山田はただ「良い」だけの存在ではない。山田は「良く」、優しく、親切、その他なのだ。つまり山田には他の特長もあるのである。
- 物事に<レッテル>を貼らぬこと。技術屋、穏健主義者、国際人、カトリック教徒、ユダヤ人等は、人間にあてはめられる言葉であるが、人間というものは、けっしてどんなレッテルにも100%あてはまるということがない。
- 年代、日付けを明確にせよ。「山田は……と言っていた」という場合、その後、山田の主張は変化している可能性がある。
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自問自答 |
納得のいくまで5W1Hの質問を発し続けよう。「いったい何が起こっているのか?」「どんな状況になっているのか?」「いつからこの状況は続いているのか?」「彼は何をしようとしているのか?」「どのように行おうとしているのか?」「どういう意味があるのか?」「他に意味はないだろうか?」「彼のまわりの人間はどう見ているのか?」「いつまで続くのだろうか?」「何が起こるのだろうか?」といったプロセスについての質問が特に重要である。プロセスを重視した手法であるので、「なぜ」という自問自答は最後に行う。
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比較 |
新しい観点、発想で検討するために、最も重要なのは様々な比較である。具体的な比較方法を提示している。
- とんぼ返り比較
ものごとをひっくり返して反対側の視点で眺めてみるのである。上から見ていたのを下から覗いて見るがごとくである。例えば、「クレームの多い患者」について分析するときに、「クレームの少ない患者」と比較し、どこに違いがあるかを検討することである。
- 似たもの比較
双子の兄弟を見たときにどうするか? 似ているところよりも違うところを探そうとするであろう。それと同じである。一見類似したものごとを比較することによって、どこに違いがあるかを検討することである。例えば、「サービス開発」について分析するときに、「サービス改善」と比較する場合を想定して考えていただきたい。どこに相違点があるだろうか?
- でたらめ比較
一見どこにも共通性など無いと思いこんでいるものごとを敢えて比較して類似点を探すのである。比較する対象は何でもかまわない。できるだけ荒唐無稽と思えるものを選んで比較する。表面的な部分ではなく内面的な部分に目が向くようになる。例えば、看護活動について分析する場合、プロの役者と比較して類似点を探すのである。試してみていただきたい。
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2 情報の圧縮(オープンコード化)
具体的な記述を抽象的な概念に移し替えるために、膨大なインタビュー記録や観察記録をいきなりまとめるのではなく、まず一度ばらばらにしてから、まとめるという作業である。
ラベルつけ
記録ノートを一行ごとに分析し、問題、出来事、事件、事故、ハプニングなどを短い言葉に置き換えラベル(名前)をつける。ここで短い名前を付けることによって情報を圧縮(概念化)するわけである。KJ法と同様である。
カテゴリーづくり
ラベルを類似のもの、異なるものに分類し寄せ集め、寄せ集めたものに名前をつける。このまとめられたものがカテゴリーである。共通の概念を一つにし、さらに情報の圧縮を行うのである。この段階の「自問自答」で重要な問いは「何が起こっているのか?」である。この段階で原因→行為→結果という単純な図式でラベルをまとめてしまうと偏狭な思考に陥ってしまう。
多くの場合、このカテゴリーはさらに分類され、さらに抽象化されたカテゴリーにまとめられる。この場合に、まとめられる前の段階のカテゴリーをサブカテゴリーという。もうこれ以上まとめられないという段階まで繰り返す。
カテゴリーの精緻化
カテゴリーは、インタビュー記録ノートや観察記録ノートといった具体的データに基づいて作る。具体的データが不十分ならば、データを増やす必要がある。この新たなデータ収集をサンプリングという。また、カテゴリー化の作業を通じて、再度カテゴリー化をやり直す必要も出てくる。
カテゴリーができあがったら、カテゴリーの特性と次元という視点で各カテゴリーを再度検討する。この段階で「とんぼ返り比較」「似たもの比較「でたらめ比較」を使う。
@カテゴリーの特性
カテゴリーは、複数のサブカテゴリーで構成された条件、行為(相互行為)、帰結の記述となっている。そのカテゴリーは、特性(特徴)を表す複数のサブカテゴリーで説明される。その特性が網羅的にサブカテゴリーに見いだされる必要がある。不十分であれば、データを増やし、あるいは再度カテゴリー化を行う。
例えば、「患者のタイプ」を説明する特徴にはどんなものがあるのか? 「クレームを付ける患者のタイプ」というのがある。他の特徴はないか? などと考えて、必要があればデータ収集しカテゴリーを増やし、あるいはできあがったカテゴリーを見直す。
Aカテゴリーの次元
カテゴリーの特性であるサブカテゴリーには、頻度、範囲、程度、時間などを表す次元がある。特性を表すサブカテゴリーには、これら様々な次元を含んでいる必要がある。不十分であれば、データを増やし、あるいは再度カテゴリー化を行う。 例えば、「クレームを付ける患者のタイプ」の次元は頻度で表現される。「クレームの多い患者」という高頻度のサブカテゴリーはすでに見いだされているが、「クレームの少ない患者」という低頻度のサブカテゴリーは未だ見いだされていない。その場合には、再度データ収集して低頻度のサブカテゴリーをつくる必要がある。
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3 因果関係の整理(軸足コード化)
各カテゴリー間の関係を見いだすために、パラダイムモデルを使って分析する作業である。
パラダイムモデル
カテゴリーを、原因となる基本条件→行為(相互行為)→帰結
という因果関係に結びつける。
@原因となる基本条件
ある行為(相互行為)を導くような条件となるカテゴリーのことである。この基本条件を深く探ることが、この手法の最大の特徴である。「〜する時」「〜の間」「〜以来」「〜だから」「〜のために」「〜の理由で」というような表現でもとのデータの中には示されている。「原因として働く条件にはどんなものがあるか?」「時間的な条件は何か?」「場所的な条件は何か?」「条件のパターンは何か?」・・・改めてカテゴリーを見ながら自問自答することが重要である。
基本条件は、特性と次元のサブカテゴリーの組み合わせとして表現されることもある。
A行為(相互行為) ある条件における、処理、実行、反応についてのカテゴリーのこと。あるいは、一連の処理、実行、反応についてのカテゴリーのこと。「何をしているのか?(何を行っていないのか?)」「誰に対して行っているのか?」「どのように行っているのか?」「どのような目的があるのか?」・・・
行為(相互行為)も、特性と次元のサブカテゴリーの組み合わせとして表現されることもある。 ・連続したプロセスである。 ・意図的である(戦略をもっている)。
・不作為を含んでいる(この場合は戦略のみが見られる)。
B帰結
行為(相互行為)の結果として起こるカテゴリーのこと。「結果として何が起こったのか?」「失敗の結果起こったことは何か?」
帰結は、特性と次元のサブカテゴリーの組み合わせとして表現されることもある。この帰結は再び原因となる条件に組み込まれる。 |
4 因果関係の取捨選(択選択コード化)
これまでの分析をすると、その中には複数のパラダイム(因果関係)を発見することができる。当面、関心を持っているテーマにとって重要なパラダイムに絞り、不要なものは切り捨てて、カテゴリーを概念レベルで記述する作業である。つまり最終的な報告書作成のプロセスである。
@改めてテーマを決める 「・・・について」「・・・の問題解決策について」「・・・推進のための条件と手順について」というようにテーマを一言で表す。テーマは抽象的でなければならない。
A内容を短く要約する
B内容を図にして表示する |
5 データ分析支援コンピュータソフト
以上のように、仕事を通じて(インタビューや観察が多いが)収集した膨大な生のデータ(多くは文字情報)を圧縮し整理する手法について見てきた。データの圧縮・整理そのものをコンピュータにやらせることは考えない方がよい。コンピュータにもできるが、人間がやった方がはるかに速いし、斬新な発想を期待できる。しかし、コンピュータを使って省力化することは可能である。もとの記録(文字情報)をワープロでコンピュータ入力し、後は切り貼りしてコーディングを行い、階層を作っていくのである。アメリカには「ATLAS」「NUDIST」といった専用のソフトが開発されている。日本で同様の機能をもつソフトに古原伸介が開発した「アイデアツリー」がある。もとの記録に速やかに戻って該当個所を検索する機能がないという弱点はあるが、使い勝手は良い。 |
参考文献
B.グレイザー A.ストラウス(後藤隆・大出春江・水野節夫訳) 1996 データ対話型理論の発見 新曜社
アンセルム・ストラウス ジュリエット・コービン(南裕子監訳) 1999 質的研究の基礎 医学書院
Strauss,A.,&
Corbin,J.(1998).Basics of Qualitative Research:Techniques and Procedures for
Developing Grounded Theory(2nd ed),CA:Sage.
古原伸介 1999 アイデアツリー パソコン発想法 SCCライブラリーズ
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