講演 『住基ネット本格稼働−どうなる私たちのプライバシー』

講師奥津 茂樹さん

とき:2003年9月6日(土)

ところ:稲毛サティ文化ホール

主催:市民ネットワーク・千葉県


reported by マリオン
1.はじめに…住基ネットに関する議論のズレ
 講演する奥津茂樹さん| 赤いプャツを着ています|県や国に送られる情報は4情報(住所,氏名,生年月日,性別)ということで,「たかが4情報」という感覚が現場(自治体)の中にある。軽くとらえられている傾向がある。住民基本台帳法第11条で住民票の大量閲覧が可能で,コピーはできないが閲覧はできる。選挙人名簿の閲覧(公職選挙法第29条)も同様である。これが,市の理屈を補強している。
 住基ネットに反対している国立市の上原市長に対し,国は説得を行っていったが,そこで国側は「たかが4情報ですから」と説明している。4情報だけでも重要な情報です。
 また,4情報の入手を「業」とする者の存在がある。住民票の情報から選挙人名簿の情報を引くと前科者の情報になる。実際,保険会社等が入手している。ヤミ金,ストーカーも自治体の個人情報を狙っている。住基ネットとインターネットが物理的につながっている自治体が,千葉県下においても10自治体あることが6月の県議会において明らかになっている。
 個人情報の保護対策が万全なら住基ネットは問題ないのか。そうではない。個人情報提供は本人の同意を得るべきである。住基ネットをめぐる対応で,横浜市は本人同意をとりました。ただし,問題があります。「やだよ」といった人だけ,認めるというものです。

2.プライバシーとは何か
 @私生活のことを他人に知られたくない権利,A自分に関する情報をコントロールする権利(自己情報コントロール権),B自分のことを自分で決める権利(自己決定権)ということ。根拠は憲法13条の「個人の尊重」「幸福追求権」。
 今の社会では,個人のプライバシーは保障されていない。○○という住宅地図の会社がありますが,この住宅情報と年収や趣味などのオプション情報をマッチングすると,たちどころに該当者が地図上に表示されるシステムがある。

3.住基ネットの危うさ
 自治体にも市民にも自己決定の意識が欠落している。私があった自治体の職員の8割は,「よけいなものが入ってきた」と思っているが,「悪法も法なり」で嫌々やっている。市民の側でも,権力への「お任せ」で異様な静けさである。
 嫌なら嫌で,ささやかな抵抗をすればいい。それはできます。習志野市は,8月のICカード導入前に何にも記録できないプラスチックカードを導入した。仮に,本人確認が必要としてもこのプラスチックカードで十分なのです。

 また,住基ネットの危うさは,新たな国民総背番号制へ転化する危険をはらんでいる。現在のコンピューターはネットワーク型でホスト型は古くなっている。一つのところにデータを集中するのではなく,それぞれのところでデータを管理するシステムになっている。住民票コードをキーとして共有することで,必要とする情報を一瞬で引き出すことができるのです。兵庫県は県税滞納者の追跡に利用するための準備を進めている。千葉県でもニーズはある。住民票のデータはリアルタイムで更新されるため,住基ネットで追いかけられると,地獄の果てまで追いかけられることになる。
 第1段階で,法定事務が93から264に拡大された。警察や自衛隊や公安調査庁などが狙っている。現在,警察は住基コードを使えないが,要求としてはあるということを押さえておくことが大事。管理する側からすれば,個人情報を集めたがるもの。第2段階で,民間利用が考えられている。住基カードはオーバースペック状態で,これを解消するためにいろいろ考えられている。
 データマッチングの危険性は,差別や偏見を助長し,データだけでとらえられる人間像を生み出す。ぎすぎすした生きにくい社会になっていく。

 さらに,住基ネットの危うさは,本人確認情報の悪用です。その一つはストーカー加害者による悪用です。彼らは,「家族」だからと役所に迫ったり,また債務者の所在確認と偽り,ある時は職権(警察官や弁護士・司法書士など)を悪用し,ありとあらゆる手段で現住所をつかもうとしてきた。そんなストーカー加害者が住基ネットを利用しないはずがない。警察には捜査紹介権があるが,警察の名をかたり広域紹介で情報をとりよせるという悪用例がある。住民票を移さないで転居した場合でも,水道情報から所在を調べられるのである。数は少なくても,こういう人にあわせてシステムは構築すべきです。しかし,99.??%の人に合わせて問題ないといっている。悪用の二つ目は,悪意ある内部職員によって,漏洩しないという保障はないということです。

4.個人情報保護関連5法との関係
 住基ネットの安全確保に法制定は無関係である。ところが,行政は「保護法ができたから保護されている」としている。
 個人情報保護基本法は,メディアなど民間規制が中心で住基ネットと無関係である。行政機関個人情報保護法は,広範な行政裁量を認めており,刑罰規定は住基法と重複している。独立行政法人個人情報保護法は,地方自治情報センターは対象外とされている。
 また,関連5法は,民間利用への布石がうたれている。規制法でなく利用促進法としての理解が重要である。住基ネットの民間利用の妨げだった保護法制の不備が解消されている。
 といったことが語られました。

集会アピール

わたしたちは国と千棄県に対し、個人情報を危険にさらす
住民本台帳ネットワークシステムの中止を求めます。


 去る8月25日、住民基本台帳ネットワークシステムの第2次稼働がはじまりましたが多くの問題点があります。
 まず、住基ネットは805億円という膨大な初期投資、毎年200億という維持費に対して、市民に還元されるメリットはほとんどありません。正に新たな公共事業といえます。また、自治体にとっても莫大な負担を強いるばかりか、漏洩による賠償も負わされます。しかも自己情報コントロール権がない状況においては市民が責任の所在を明らかにすることも困難です。住基ネットそのものが巨大システムであるにも関わらずシステム全体を総合的に管理する責任主体が存在していないのです。
 改正住民基本台帳基本法も個人情報保護法(基本法・民間法、行政機関法)も自己情報コントロール権が守られているとはいえず、思想・信条、健康状態などセンシティブ情報の取り扱い禁止条項もなく目的外利用に対する罰則もないままであり世界的な流れである個人情報保護の観点からして時代遅れの制度です。
 また、インターネットに接続されている自治体は800近くにのぼり改善する予定のないところも多々あるというお粗末な状況にあります。長野県の本人確認情報保護審議会答申や一連のウィルス感染事件でも明らかなように、住基ネットおよび国の機関を含む各行政機関庁内LANのセキュリティ状況は、きわめて危険なレベルにあると言わざるを得ません。
 第二次稼動で交付が始まった住基カード、住民票コード、本人確認情報はプライバシー侵害につながる危険性の極めて強いものです。本来、行政のサーピスを受けるために行政に託していた個人情報ですが、こういった状況では市民が安心して情報を託すことはできません。
 国がセンシティブ情報も含む個人情報を管理すれば警察、自衛隊、国税局など国の権力が増し、人権を軽んじた監視社会へとつながります。すでに防衛庁で情報公開請求者のリストが庁内で利用され、自衛隊に適齢者リストが自治体から長年わたっている事実があります。国民背番号制と住基ICカードは世界一の管理国家を作っていくでしょう。金融業者をはじめ必ず民間での利用がすすみ、力を持たない個人は番号で切り売りされる商品となり選別・序列され、民主主義とは相容れぬ息苦しい社会となることは必至です。
 ひとりひとりがかけがえのない存在であるということを蹂躙しないよう、わたくしたちは国と千葉県に対し住民基本合帳ネットワークシステムの中止をするよう強く求めます。

                                      2003年9月6日
                                      市民ネットワーク・千葉県