茨城県サイクリング協会

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逆ネジの意味

左ペダルのクランクへの取付箇所は、左に回すと締まっていくネジになっている。『逆ネジ』だ。

左ペダルの付け根

もしかして、これを知らないで一生懸命、「ネジが緩まないよぉ。」って、格闘した人はいないかな?

右ペダルのネジは普通の右ネジなのに、何で自転車の部品の中で、左ペダルだけが逆ネジになっているんだろう。こんな事を考えた事はないだろうか。



荷重

ペダル軸には、いつも軸に対して真横に向かって力が掛かっている。

そして、クランクの回転と共に、そのクランクに対する相対方向は変化していき、1回転毎の周期を繰り返す。

このペダルに対して真横に掛かる力が、クランクの回転運動に変換され、各部を伝わり、最終的にタイヤが地面を後に蹴って、自転車の進む力となっている。

ペダル軸を押し込む力や、引き抜く力もわずかにはできるが、無視できる量だ。それに、真横以外に力を掛けるペダリングは、回転運動に変換しない無駄なエネルギーを消費している事であって、こうした力を多く掛ける人は、簡単に言うと『ヘタ』である。


運動

応力の回転変化

連続する変化を微積分の式など使わなくてもいいように、図-2-1.のA〜Hの8等分の位置で考えていこう。

すると、各位置に於ける力の量と方向は、図-2-2.と図-2-3.のようになる。

図-2-2.がバインディングペダルを使って丸くペダリングする一例、図-2-3.が極端な縦踏みペダリングだ。(体を左右に揺すりながら、エッチラ・オッチラ乗る人は、引き足の課程でも脚の自重がわずかに残っている。)

これを、クランクを座標軸として相対的に表せば、力の加わり方はそれぞれ図-2-4.と図-2-5.となる。

クランクに対しての理想荷重方向は C だから、縦踏みする人が随分と無駄な力を使っているのも解るだろう。C以外の方向の力は、C方向への角度での cos 値となって割引されてしまう。

丸く踏む人は、方向と量のブレはあっても、常に回転の力を与え続けていて、無駄が少ない。


ネジのガタ

ネジのガタ

雄ネジ(ボルト側)と雌ネジ(ナット側)は、直径がわずかに違うように作ってある。雄ネジの方が細い。ピッタリでは摩擦がありすぎて動かなくなってしまうからだ。

だから雄ネジと雌ネジの間には、かならず隙間がある。右図のBだ。(分かり易いように誇張して書いてある。)

高級部品はこの隙間が小さい。材質が良く、加工精度も良いので可能になる。しかし、隙間がゼロになる事は無い。

隙間があるままでは、ペダルはガタついてクランクに対して垂直を保てない。だからネジの基部にワッシャー状に拡がった平面を作っておき、隙間Aがゼロになるようにねじ込んで押しつける。更にねじ込むと、ネジ山同士も押し付け合って、隙間Bには間隔がゼロの螺旋状の接地面ができて、お互いの中心軸が重なる場所で安定する。

これが、雌ネジの中心軸と雄ネジの中心軸がピッタリと重なって垂直になる原理だ。多少加工精度が悪いネジでも、螺旋状に長い距離で接する事によって、平均値での噛み合わせとなり、組立後には垂直軸ができてくれる。


ネジの緩み

しっかりと噛み合ったネジ同士であれば、右ネジであろうが、逆ネジであろうが問題は無い。

しかしネジは緩む。締め込んだのと同じトルクを掛ければ緩める事ができるのが、ネジの良い所でもある。

ネジがすぐに緩まないのは、摩擦があるからに過ぎない。締め込む時にしても、お互いの上を滑り合って奥に入っていくのである。螺旋構造によって摩擦面を長大化した事と、力の掛かる方向とネジの緩む方向を90度近く異にする事によって力を逃がす、この二つの長所によって緩み難いだけなのである。

実際の角度は90度に満たない。だからネジを緩める回転方向にも、わずかではあるが力は変換されている。通常はネジ同士の摩擦力を越える事はあり得ないので、緩まない理屈になっている。


部品の加工精度には限界もあって、平滑面も拡大すれば凹凸であり、その重なりは点接触の集合でもある。

だから組み付けにはある程度のトルクを掛け、お互いの金属面を圧力で変形させて接触面を増やし、摩擦を増やす。ただし、これは絶対に破壊に至る強さであってはならず、メーカーから示される推奨トルクの範囲以内でなければならない。

しかし、推奨締め付けトルクというのは、一定値ではない。部品の組合せによって、材質が違ったり、精度が違ったり、設計曲面が違ったりするから、メーカーでも全ての組合せを調査できない。

よって、「鋼製ペダルシャフトがアルミのクランクを傷めない範囲できつくしっかりとねじ込む。」というような曖昧さのある表現なる。つまり、最適トルクを数値で規定できない。幅を持たせて、後はユーザーに任せる。ユーザーは自らの勘に頼る事になる。


ペダル軸は、常に振動を受け、ペダリングというねじりの力を受け続けるから、瞬間的に応力が設定値を超えたり、歪みの変形が生じたりして、通常は動じない摩擦面がズレる事も避けられず、緩みが発生するのはあり得るのである。


緩みがあると生じる器械運動

ネジは緩む。しかし緩んではガタが出て困る。何とか緩まないようにする方法はないだろうか?

その答えが『逆ネジ』だった。一般的な場所には利用できない方法だが、左ペダルの取付はこれで解決する。

そればかりか、逆ネジは『緩まないようにする』よりも凄い効果を持っている。自然に『締まっていく』不思議なネジなのだ。

その原理とは?


デフォルメ化

前図-3-1.に描いたペダル軸がクランクに刺さっている付け根の場所を、デフォルメして考えて行こう。こうすると動きが解りやすい。

右の図-4-1.の通り、雄ネジ側・雌ネジ側共に簡略化して円筒形とする。それぞれの直径を変えて隙間を作る。

荷重変形

このペダル軸に荷重が掛かると、お互いの直径が異なるので、図-4-2.の形になる。軸はクランク表面に対して垂直ではなくなり、斜交いに突っ張った状態になっている。極端な話、赤丸を付けた2箇所だけの点接触になる。

緩みが無い場合でも、これと同じ歪みの力が加わっている。赤丸の所に最大の力が加わり、そこから離れて行くに従って徐々に応力は減っていく。

スリコギ運動

もう一度上に戻ろう。図-2-5.を見直して欲しい。ペダリングに連れて、A〜Hまでネジの基部を横に押す力が、順序良く時間軸と共に右回りに方向変化しているのが判るだろう。

この力は、図-4-3.の運動を起こそうとしている。わずかでも緩みがあれば、このスリコギ運動が起きるのだ。(スリコギって、若い人たち知ってるかな? トンカツ屋さんで出てくる所もあるんだけど、、、。) A〜Eと応力が変化するのにともなって、ペダル軸とクランクの取付穴の接点も位置を変える。

ネジが緩んでいる時には明確にこの運動が生じる。ネジが緩んでいなくても、金属を『極めて堅いものではあるが弾性体である』と見れば、歪みの力によって、この運動は生じている。

回転の発生

図-4-4.に移ろう。スリコギ運動の接点のある面だけを取り出した。

ここまで来ると、この先は読まなくても大体の人はもう解ったんじゃないかな。

大きな円(桃色の内側)の中を、小さな円(緑色の外側)が移動して行くね。点で押しつけられているから、滑って移動して行くのではなくて、転がって移動して行くのが自然な力の働きだ。ギアが噛み合ったように動く。

黄色の矢印の向きに接点を移動して行くと、緑色の円は転がって行く訳だから、赤い矢印の向きに回転する。左向きだ! 逆ネジの締まっていく方向だ!


クランクの裏面にあたるもう一つの接点面も、全く同じ動きをする。だから力が打ち消される事は無くて、ペダル軸全体がこの動きをしようとするんだね。

ペダリングに連れて(つまり自転車に乗っていると)、左ペダルの軸はいつも左に回ろうとしているんだ。しかも、ネジがきつく締まっていようが無かろうが、回ろうとする事には変わらない。

一方ペダル本体側では、ペダル軸との接触はベアリングである為、この回転を阻止しようとする力は出し得無い。

だから、ここに左向きのネジを切っておけば、ペダル軸は自らの運動で締まり続け、緩む事が無いんだ。


逆ネジあれこれ

丸くペダリングする人の場合はどうなのかというと、図-2-4.から考える限り、スリコギ運動は起こっていても、スリコギ回転運動は起きていない。90度未満の範囲で往復しているようだ。

個人差はあっても、連続してペダル軸を回転させようとする力までは掛かっていないと思う。


逆ネジの仕組みが解った時は、「なぁるほどっ。」って思った。
「昔の人ってアッタマイー。」とも思った。

でも直ぐに、「右ネジで最初は作って見たんだけど、乗ってみたら取れちゃった。」ってのが事の始まりかも知れないなと思って、「何だ。大したこと無いカモ。」と思ったのは、これまた昔の話だ。


レガシースタイルのボトムブラケット右ワンも逆ネジだ。仕組みは左ペダルと同じだ。

車の(と言っても大型車の)左側車輪を止めているホイールナットも逆ネジだそうだ。こちらの原理は、最終的には同じだが、課程が違うね。


上に書いた左ペダルの運動を実験してみるのはたやすい。また、日常生活でも体験済みのことだろう。

『ベアリングの回転が、軸のコーンの回転と逆向きの力をカップに与える。』って説明を良く聞くけど、あれは違うと思いますぞ。


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2007.2.11

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今回はいつにも増して、
「知ってて何になるんだ!」
と言われそうなお話だ。

乗車テクニックにも、整備の腕にも、何の為にもならない。

当然サイクリングには、何の役にも立たない。

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それにしても、引き足の力を強く書き過ぎた。

信号停止からの漕ぎ出しが頭に浮かんでしまったようだ。

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