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荊姫

キュウゾウ×カンベエ、シチロージ×カンベエ、ゴロベエ×カンベエの要素もあり

『荊姫』、または『眠れる森の美女』のパロディです。

 

昔、ある王国に王様とお妃様がいました。ふたりは大変に子供を欲しがっていましたが、なかなか子供ができませんでした。そんなある日、お妃様が城中にある小さな池で水浴びをしていると、いつの間にか水辺に一匹のカエルがいました。そしてお妃様に向かって言いました。

「あなたの望みはかなえられる。あなたは、一年以内に息子を産むでしょう」

お妃様は驚きましたが、カエルの言った通り、お妃様はやがて玉のような男の子を産みました。

生まれた王子はカンベエと名付けられました。

カンベエがあまりに美しく可愛らしかったため、王様は大変に喜んで盛大な祝宴を催すことにしました。そしてこの祝宴に、友人や知人、そして王国の魔女たちを招きました。

王国には 13 人の魔女がいましたが、魔女の食事用の黄金の皿は 12 枚しかありません。 13 という数字は不吉ですし、それに 13 人目の魔女は 50 年以上姿を現しておらず、死んだか、魔法にかけられたと思われていたため 12 人の魔女だけを祝宴に招くことにしました。

祝宴は盛大に行われ、祝宴に呼ばれたお礼に魔女たちはそれぞれカンベエに贈り物をすることにしました。

 

1 番若い魔女は「カンベエ様は、世界で一番、美しくなるでしょう」という魔法をかけました。

1 番目は「カンベエ様は、誰からも愛されるようになるでしょう」という魔法をかけました。

3 人目の魔女は「カンベエ様は誰よりも優れた侍となるでしょう」という魔法をかけました。

 

魔女たちが次々に素晴らしい素質を贈っていたそのとき、突然、十三番目の魔女が祝宴の場に入ってきました。祝宴に招かれなかった魔女は、それを僻んで復讐に来たのです。

カンベエに近づかせまいとする騎士たちをなぎ倒して魔女はカンベエの側にくると、ゆりかごの中を覗き込み、屹度、顔を上げると大きな声で言いました。

 

「この王子は糸繰車の糸巻きの針に刺されて死ぬだろう!」

 

魔女はこれだけ言って帰っていきました。

皆が愕然としている中、まだ贈り物をしていない 12 番目の魔女が歩み出ました。

「わたくしはまだ贈り物をしておりません。もっとも魔女に呪いを消す力はありませんが魔法を弱めることはできます」

そういって 12 番目の魔女は呪いを弱める魔法をカンベエに贈りました。

「カンベエ様は亡くなられるのではなく、深い眠りに落ちるだけです。やがて時がたてば眠りから覚めるでしょう」

王様は愛するカンベエのために、国中の糸繰車をすべて焼却すべしとの命令を出しました。

 

 

月日が経ち、魔女たちの贈り物はすべて実現し、カンベエは美しく立派な侍となりました。

王国は豊かな土地をもっていたために、隣国に嫁いでいた姉は、豊かな国を継いだことに弟に嫉妬して王様を操り、野伏せりたちを使って国境付近の村を荒らしたり、女たちをさらったりしていました。

しかしカンベエとカンベエが集めた侍たちによって野伏せりはすべて討ち取られました。

さらにカンベエと侍達は隣国に攻め入り、征服してしまいました。おかげで王国は大きな王国となり、戦がなくなり平和になったことをみな喜び、カンベエと侍たちを讃えました。

 

戦が終わって数か月が経った、ある日のこと。王様はカンベエを呼び出しました。

「長い間、そなたを頼りにしまったが、戦も終わった。そなたも妃を迎えねばなるまい」

14 歳で初陣をしてから戦に駆け回り、カンベエも気づけば不惑となっていました。しかし、カンベエは堅苦しい城の生活が好きではありませんでした。

それに拍車をかけているのが、城にいる女官たちです。誰からも愛されるという魔女の贈り物によらずとも、カンベエは王国の跡取りです。女たちがほっておくはずもなく鬱陶しい限りでした。

適当なことをいって王様とお妃様を宥め、去ろうとする間際、カンベエは王様に呼び止められました。

「そうだ、カンベエ。もう少しカツシロウを構ってやらぬか? カツシロウは我が姉の子なれば、そなたはいとこ。近頃、ひとりでいることが多いようだ」

カツシロウは停戦の条件に王国に人質としてやってきた隣国の末の王子です。しかし王様もカンベエもカツシロウを人質とは扱わず、留学生として扱ってきました。カツシロウも侍に強く憧れていたため、己の国を攻めたカンベエを憎むことはせず、むしろ心酔するほどでした。勝手にカンベエに師事したつもりとなってカンベエを「先生」などと呼んでいたのです。しかし王国にやってきた頃にはうるさいほど纏わりついていたカツシロウは、最近は妙にカンベエに対して反抗的でした。

「カツシロウも年頃ですし、ひとりで考えることもあるのでしょう」

王様もカンベエもカツシロウが反抗期を迎えているのだと考え、そっとしておくことにしました。

 

「シマダ」

戦がなくなれば侍は用済みです。暇を持て余して何も考えずに城の中を歩いていたカンベエは、金髪の侍に呼び止められました。

戦が終わった後、カンベエは集めた侍達に金や領地を与えて部隊を解散していましたが、幾人かは護衛として側に残していました。そのひとりがキュウゾウです。キュウゾウはカンベエに匹敵する、いえ、カンベエよりも優れた剣技を持つ侍でした。無言でくいっ顎を上げるキュウゾウに、カンベエは小さく笑ってキュウゾウの後についていきました。

 

色づいた木々の間から木漏れ日が漏れる明るい森の中。微風に木々の葉が舞い踊り、木の実やどんぐりが枯葉の上に落ちる音が拍子となって、それに合わせて小鳥がさえずり、森は自然の音楽に溢れていました。

それらの音の中に、小さく、切羽詰まった、哀しげにも聞こえる人の声がありました。

「あっ!」

体を突き抜けるような快楽に、カンベエは目の前の大木に縋りながら仰け反り、高い嬌声を上げました。カンベエは、下だけを肌蹴て後ろからキュウゾウを受け入れていました。

「キュウゾっ・・・、もっ・・・」

カンベエの声に唇を舐めたキュウゾウは、激しく腰を使い、カンベエを追いつめていきます。上着に隠れて見えませんが、キュウゾウを受け入れている後ろも、前もカンベエのそこはすっかり濡れそぼっており、キュウゾウが腰を使うたびに粘着質な音をさせていました。

キュウゾウはカンベエとの立合いを条件に部隊に加わった侍でしたが、共に戦ううち通じるものがあって、いつしか二人は肌を合わせるようになっていました。

「あぁっ!・・・キュウゾウっ!」

「・・・っ、シマ・・ダッ!」

カンベエは喉をさらして後ろにいるキュウゾウの肩に頭を預け、キュウゾウの手を濡らしました。同時にキュウゾウもカンベエの首筋に鼻先を埋めながらカンベエの最奥を濡らしました。互いの名を呼びながらそれぞれに極め、崩れ落ちるカンベエをキュウゾウが大事なものを抱え込むようにするのを、茂みの中から見つめる充血した二つの目がありました。

 

暖かい日の下キュウゾウは日が当たる大木に背を預けながら、カンベエが寒くないようにしっかりと抱きしめていました。

カンベエはキュウゾウ胸に背を預けて目を閉じていましたが、眠ってはいません。キュウゾウは後ろから抱きこんだカンベエの顎をつまんで上げさせると、うっすらと誘うように開いた肉厚の唇に口づけました。

「首が痛い」

唇を話した途端、憎らしいことをいうカンベエにキュウゾウは口をとがらせました。しかしカンベエが体の起こして向きを変え、首を傾けて小さく笑うと、あまりに可愛らしいのでカンベエの背を抱き、強く口づけました。カンベエの手を取ると、指先が少し冷たくなっています。

秋の日は短く、すぐに日が落ちてしまいます。心なしか風に冷たいものを感じます。キュウゾウが無茶をしたため脱力してしまったカンベエですが、このままでは体を冷やしてしまいます。本当は城までカンベエを抱いていってやりたいのですが、カンベエとキュウゾウでは一回り以上体格が違いました。

「シマダ、立てるか?」

「・・・ん」

手を引かれて立ち上がったカンベエの手を引いて、キュウゾウはゆっくり歩きだしました。

「夜・・・、行く」

門番が見えるところでようやく手を放したキュウゾウは、カンベエの耳元に小さく呟くとすたすたと歩いて行きました。目を見開いたカンベエは仕様のないといった風に小さく息を吐くと、キュウゾウの後を追っていきました。

茂みの中から一部始終を見ていた目は、大きく見開かれてすっかり充血して滴をこぼしていました。

 

 

今日も今日とて王様に呼び出され、お妃様にお見合い写真をずらりと並べられたカンベエは、適当な言い訳をして逃れてきました。しかし、王様とお妃様の勢いではこのまま押し切られてしまいそうです。カンベエが毎日、王様とお妃様に呼び出されて、結婚を迫られていることはキュウゾウも知っていました。口下手なキュウゾウは何もいいませんが、カンベエが結婚してしまうことを悲しんでいることは肌を通じてカンベエに伝わっていました。そんなキュウゾウにカンベエも切なくなってしまい、このところの毎夜の秘め事は翌朝に響くほどでした。カンベエの体はキュウゾウに吸われた痕やら噛まれた痕がいたるところに散らばっています。

まだ少しだるさを覚えながらどうしたものかと考え事をしていたカンベエは、古い塔のあるところにやって来ました。

―――ん? 確か、この塔は・・・

塔はかって見張り台として使われていたところです。カンベエはまるで引き寄せられるように狭いらせん階段を上って、扉の前にたどりつきました。鍵がかかっていると思われた扉を押してみると、扉は何の苦も無く開きました。そこは小さな部屋になっており、誰もいないであろうという予想に反して、部屋の中央にひとりの老婆がいました。老婆は糸巻き棒をもってせっせと亜麻を紡いでいました。

「ご婦人。このようなところで何を?」

「さぁ、あたしはずっとここで糸紡ぎをしておりますよ」

「ほぉ、これが糸紡ぎか」

カンベエが生まれてすぐに王様が国中の糸繰車を焼却して、糸紡ぎをすることを禁止してしまったため、カンベエは糸紡ぎを見たのは生まれて初めてでした。

「王子様は糸紡ぎをご存じなさいませんのか」

「ふむ、初めて見た。それはなんだ?」

初めて見る糸紡ぎが珍しく、カンベエはつい糸巻きに触れました。

そのときです。呪いは実現してしまいました。

カンベエの指には針が刺さっており、カンベエが痛みを感じた瞬間、カンベエはそこに倒れてしまいました。

「せ・・・先生が悪いのです。先生が・・・、先生がキュウゾウ殿を誑かすようなことをするから・・・、だから私は・・・」

老婆は立ち上がり、頭を覆っていた布を取りました。現れたのはカツシロウでした。カツシロウはカンベエ以上の剣技を持つキュウゾウに淡い恋心を抱いていました。そのキュウゾウがカンベエの元に通っていることを知ったとき、カツシロウはカンベエがキュウゾウを誑かしたのだと思ったのです。

カンベエが生まれたときに魔女に呪いをかけられたことは知る人ぞ知ることでした。カツシロウは王国に人質としてやってくるときに、分解した糸繰車を持たせられ、いざというとき使うよういわれていたのです。しばらくカンベエを見つめていたカツシロウですが、屹度、カンベエから顔を離すと塔を降りていきました。

 

「シマダ! シマダ! 目を開けろ! シマダ!」

塔の中に見つかったカンベエの元に駆け付けたキュウゾウはカンベエを抱えて声の限りに叫びましたがカンベエは目覚めません。城中のさまざまな人たちが駆けつけてカンベエを目覚めさせようとしましたがやはりカンベエは目を覚ましませんでした。知らせを受けて塔に上がった王様は、部屋の中に糸繰車があるのを見つけて魔女の言葉を思い出し、恐ろしいことが起きたことを悟りました。

 

王様はカンベエを城で一番美しい部屋に運び、美しい刺繍が施された寝所に寝かせました。カンベエの肌理の細かい滑らかな頬も、ふっくらとした肉欲的な唇も、長い睫も今まで通り美しく、微かに聞こえる寝息にまるで今にも起きだしてきそうです。しかしカンベエは何をしても起きることはありませんでした。

カンベエが眠りについたのを悟った魔女達が遠国から城にやってきましたが、手の施しようがありません。そこで魔女はカンベエが起きたときに困らないように、王様に頼んでお金や料理を用意し、その上で城の別棟をすべて凍らせて眠らせることにしました。

王様は別棟に誰も近づいてはならぬという禁令を出しましたが、その必要はありませんでした。皆がカンベエに別れを告げて別棟を出ると、周り一面に絡み合った荊が伸びて、別棟を覆い隠そうとしていました。

その光景をひっそりと笑ってみていたカツシロウでしたが、風にように駆けるキュウゾウの姿を目にして叫びました。

「キュウゾウ殿!」

荊が別棟を覆い尽くそうとする一瞬、キュウゾウはその中に跳びこんでいきました。

「キュウゾウ殿! キュウゾウ殿が! 誰か! キュウゾウ殿が中に!」

カツシロウは荊をどけようとしましたが、棘で手が血だらけになるばかりでした。刀を取って荊を切ろうとしましたが、荊はまるで鉄でできたように、カツシロウの刀を受け付けません。そうしている間にも荊は育ち、絡まって、カンベエの眠る別棟は荊に覆われて、外からは全く中を覗うことができなくなりました。

「カンベエはキュウゾウを好ましく思っていた。キュウゾウもまたカンベエだけに忠誠を誓っていた。目覚めたとき、キュウゾウがいればカンベエも心強かろう」

「そんな・・・、そんなこと・・・」

―――それでは何のためにカンベエを眠らせたのかわからない・・・

王様の言葉にカツシロウはその場に泣き崩れました。

 

 

100 年の時が過ぎました。

カンベエが眠り落ちた後、後継ぎのいなくなった王家には内紛が起こり、戦も起こりました。そして王国はカンベエとは別の血筋の王家が治めていました。そのため城は打ち捨てられ、辺りは森に浸食されてしまいました。

城内にいた人達は、ある人は新しい王家につかえ、または城を去っていきました。城の周りに住んでいた人も迫りくる森に追い出されてしまい、荊の中に眠る侍のことは人々の間から忘れられていきました。

 

通っている女たちに適当な約束をしたため、約束が重なってしまって女達に詰め寄られたシチロージは、ほとぼりを覚ますために王都を抜け出しました。そしてどこともなく馬を走らせていくうちに深く茂った森の奥に入り込んでしまいました。森の中に建物のようなものを見つけて近づいてみると、そこは打ち捨てられた城でした。

「前の王家の城だったところか・・・。ん? 何だ、あれは?」

馬を降りて城内をしばらく歩くと、荊の山が見えました。低木の荊がこれほど大きいのを不審に思ったシチロージはところどころ階段が崩れた塔に登り上から荊の山を見下ろしました。すると、荊の隙間から、僅かに赤いものが見えます。

「あれは屋根のようだが・・・。中には建物があるのか?」

不思議に思ってシチロージが荊の山に近づきました。

「何だ、これは・・・」

絡み合った荊は並の硬さではなく、まるで鋼のようでした。荊の棘は剣先のごとくするどく、一刺しで人を殺すことがで、人を拒んでいるようです。

しかし拒まれれば拒まれるほど、シチロージは意地でも中に入りたくなりました。背負った紅い仕掛け槍を構えると、気を溜めて刃を振るいます。侍のみが使うことができる超振動の刃です。

「うーん・・・」

ところが荊を除くことはできませんでした。

確かにシチロージの仕掛け槍の一閃に辺りの荊は切り裂かれて建物の戸らしきものが見えたのですが、すぐに新しい荊が生えてきて、また建物を隠してしまうのです。

「これなら、どうだ!」

シチロージは超振動の刃を振るいながら、同時に駆けました。まるでシチロージを串刺しにしようとでもいうのか、襲ってくる荊を次々に切り捨てます。戸に辿り着いたシチロージは、超振動の刃で戸を壊して建物の中に飛び込み、床をごろごろと転がりました。すぐに荊が生えてきて、シチロージが砕いた戸を完全に塞いでしまいましたが、荊は建物の中には入ってこないようです。

建物の中は薄暗く、辺りを見回したシチロージは男が倒れているのを見つけました。首筋に手を当てると体温があり、ゆっくりとした脈が感じられます。穏やかな呼吸から寝ていると思われます。シチロージは男の胸倉をつかんで起こすと、顔を張りました。

それで起きる気配がないのを見ると、シチロージは男の両方の頬を何度も思いっきり張りました。

バシッ、バシッ、バシッ、バシッ、バシッ、バシッ、バシッ、バシッ、バシッ、バシッ

しかし何度頬を張っても男は起きる気配がありません。

「これは、ただ寝ているわけではないな・・・」

シチロージは男をおいて建物の中を探ることにしました。

建物は城の客間を別棟にしたところのようで、どの部屋も立派な部屋ばかりです。

シチロージは一番奥の部屋を開けました。そこは最も豪華な部屋で、美しい文様が描かれた敷物が敷かれていました。壁には華麗な織物がかけられ、彫刻が施された柱には金箔が貼られています。柄や鞘に豪華な装飾が施された刀が何本も飾られており、この部屋の調度品がとても素晴らしいものであることがわかります。さらに卓の上に置かれた宝石箱には、宝石が詰められ、卓の下にあった箱にはすべて金貨がぎっしり詰まっていました。

城は捨てられて苔に覆われ、あちこちが崩れているというのに、この建物の中はまるで時間が止まっているように、古くなっているところがまったくありませんでした。

 

シチロージは奥の部屋に続く扉を開けました。そこは寝室のようで、広い部屋の奥には天蓋付の大きな寝台がありました。垂れ絹の隙間から仰臥する人の姿が見えてシチロージは驚いて足を止めましたが、そろそろを寝台に近づき、垂れ絹を上げました。

寝台にいたのは、見たところ男盛りと思われる年の美しい男でした。薄暗い部屋の中でそこだけが淡い光に包まれているように明るく、シチロージは吸い寄せられるように寝台に腰掛けうっとりと男を眺めました。

シチロージは長く軍にいましたが、軍の男たちにありがちな衆道にはまることはなく、男に対して欲望はおろか興味を覚えたことはありませんでした。容姿の良さから女手練れでならしていて、常に複数の恋人たちがいたくらいです。

しかし、どうでしょう。

シチロージの胸の鼓動はうるさいくらいに脈打ち、同時に胸が締め付けられるような、甘い切なさが押し寄せてきて、仰臥する男から視線を外すことができません。男の顔は所々に繊細なところはありつつも、女性らしいところなどない凛々しい顔立ちです。ところがシチロージにはどれもが美しく、または可愛らしく思われました。シチロージは己がずっと求めていたものを見つけた心持で、強くこの男を手に入れたいと思いました。

シチロージは男の頬を撫でました。顎に髭を蓄えていますが、本当は髭が薄いのでしょう。肌理の細かい浅黒い肌はしっとりとしてすべらかです。唇に触れたときには、その柔らかさにシチロージは驚いて手を引いてしまいました。しかし次の瞬間には、その唇を味わいたくなって、唇を合わせていました。思った以上に唇は甘く、シチロージは夢中で吸いました。おかげで男の唇は赤く色づきましたが、それでも男は目覚めません。

シチロージは寝台に上がって男に覆いかぶさると、男の首筋の着物で隠れるか隠れないかといったところに赤い斑点があるのを見つけました。何かの病気かとぎょっとしたシチロージでしたが、襟元を広げて見たそれは、あきらかに吸われた痕でした。それがひとつでないことを見たシチロージは、掛け布団をめくり上げました。男の夜着は一度も寝返りをしたことがないように、まったく乱れたところがありません。シチロージはその夜着の帯を解き、着物を肌蹴ました。

現れたのは均整のとれた惚れ惚れとするような躰でした。胸に大きな傷跡がありましたが、男の美しさを損なうものではありません。眩しいものを見るように美しい裸体を見たシチロージでしたが、体中に散らばる赤い痕にカッと頭に血が上りました。恐る恐る下帯を解き、脚を持ち上げて開いた秘所には紛れもない蹂躙された痕がありました。際どいところにいくつも赤い斑点があるばかりか、柔らかい内股には噛まれた歯の痕まであります。それはけして女のしたことではありません。

シチロージはようやく出逢った唯一無二と思える恋人が汚されているように感じて、すっかり頭に血が上ってしまいました。体は猛り、その証拠が布を押し上げて形を現にしています。シチロージは凶暴な衝動に駆られて身に着けているものをすべて脱ぎ捨て、眠る男に覆いかぶさりました。

 

 

眠れる美人はシチロージの愛撫にまったく反応を示さず昏昏と眠っていましたが、シチロージが中に入ったときです。僅かに唇が綻び、シチロージは自身を包む肉襞がきゅっと締まりました。シチロージは男の様子を覗いながらゆっくりと腰を引きました。可憐だった小さな蕾はシチロージのものを含まされ可哀そうなほどに広げられています。しかしシチロージは男の張りのある肉付きの脚を抱え、腰を打ち付けてさらに狭くなっている男の最奥を犯しました。

気のせいではなく、その衝撃に確かに男の中は律動してシチロージを締め付け、男の喉が動きました。シチロージは男の声を聴き、その瞳の色が見たくて仕方がありません。

「ぁ・・・」

激しく男を揺さぶると声とも息ともつかない吐息が男から漏れ、睫が震えます。その様子にシチロージはますます激しく腰を使いました。

「ぁ・・・んっ、・・・・ぁ、・・・・あっ」

「くっ・・・・」

シチロージを包む肉襞の律動は確かなものになり、柔らかい肉壁にぎゅっと締め付けられる快感に、シチロージの我慢も限界を迎えました。

「ふーっ」

何度かにわたりたっぷりと奥まった場所を濡らして、長息を吐いたシチロージは、男の睫が開こうとするのも見ました。

魔法が解ける時間がきたのでした。

 

カンベエは目を覚まし、何度か瞬きをすると、初対面の男を見上げました。少したれ目ですが、役者のように、整った顔立ちの男が心配げに見詰めています。透き通るようなきれいな金髪であるのに、不思議な結い方をしており、それが少しおかしくてカンベエは小さく笑いました。

その美しい笑顔にシチロージはすっかり見惚れて、ついでに下半身に熱を溜めてしまいました。

「あっ!」

シチロージのものはまだカンベエの中にあり、変化は如実にカンベエに伝わります。その刺激にカンベエは現在の状況を考えました。カンベエも全裸なら、目の前の男も全裸で筋肉が盛り上がっている肩や胸には、汗が玉になって吹き出しています。そのたくましい腕にカンベエの脚は抱え上げられ大きく開かされているのでした。

「なっ!」

カンベエは男から逃れようとじたばたしましたが、長い間眠っていた躰はいまひとつ力が入りません。何より男に脚を抱えられ、力を取り戻した男のものを含んでいる状態で、抗ってみても男から離れることはできません。

「ちょっ・・・! そんなに刺激されたら・・・」

その言葉の通り、男のものはカンベエの中でさらに大きくなりました。

「あぁ・・・っ!」

再び腰を使いだしたシチロージに、カンベエは翻弄され、嬌声を上げるしかありませんでした。

 

「なるほど、世の中はそのように変わったのか・・・」

シチロージの話にカンベエは顎髭を撫でながら感心したように呟きました。今日はカンベエが糸繰車に刺されて眠った日でした。その日から数えて 100 年の年月が過ぎており、シチロージの語るその 100 年間の出来事にカンベエは驚愕するしかありません。

気が付けば 4 時間以上の時間が経っており、短い秋の日は、暮れかけていました。

寝台の横に正座をさせられていたシチロージは、とうとう足が痺れてひっくりかえりました。ひっくり返ったシチロージの右頬には、くっきり手を痕がついて腫れ上がっています。

カンベエに張られた痕です。カンベエに張られてこのくらいで済むわけはないのですが、シチロージの気が済むまで揺すられ続けたカンベエは腰砕けになってしまい、寝台から起き上がることができません。そのためその程度で済んだのでした。またシチロージの話はカンベエの張り手を 1 発で済ませるものでした。

「カンベエ様の魔法を解くためには、カンベエ様の中に精を注ぐ必要があると、ある老婆に言われたのです」

シチロージは眠っていたカンベエを犯した訳をそのように言いました。本当はカンベエは 100 年経てば自動的に目覚めることになっていたのですが、カンベエに変態扱いされないため咄嗟に思いついたシチロージの嘘は、カンベエの目覚めとシチロージの訪れが偶然にも一致したために、カンベエには真実のように思われたのでした。

足の痺れがまだ取れきれていない様子でシチロージはじりじりと寝台に近づくと、カンベエの手を取り、愛を誓いました。

「なんで人助けというだけでカンベエ様を抱けましょう。一目見たときからあたしはカンベエ様に夢中となったのです」

シチロージの瞳は淡い水色で、カンベエはその瞳に見惚れました。いつの間にかシチロージが寝台に上がっていて、再びカンベエを押し倒そうとするのも、シチロージの瞳に見惚れたカンベエは気付きません。

バン!

「シマダ!」

そのとき、大きな音を立てて寝所の戸が開きました。シチロージに押し倒されかけていたカンベエは、戸のところに立つ男を見て驚きました。

「・・・え? キュウゾウ・・・か? ・・・そなた、その顔はどうしたのだ?」

カンベエの寝室に飛び込んできたのはキュウゾウでした。カンベエの目覚めによって屋敷の中の時間も徐々に動き始め、キュウゾウも眠りから覚めたのでした。

しかし、カンベエが見間違うはず。細見であったはずのキュウゾウの顔はシチロージの張り手によって真っ赤に風船のように丸く膨らんでいました。

カンベエを見てキュウゾウの顔がゆるんだのも一瞬、カンベエにのしかかっている男を認めて、キュウゾウは刀を抜きシチロージに斬りかかってきました。シチロージも槍を取ってキュウゾウの刀を受けます。いきなり始まった立合いに唖然としたカンベエでしたが、二人の手練れ同士の立合いに、思わず魅入ってしまいました。カンベエの寝室は広く、壁際にある寝台は、立合いを見学するのにもってこいです。

 

二人が立ち会うこと 2 時間。

キュウゾウもシチロージも肩で息をしていました。二人とも肩や腕、足に致命傷にはならないまでも切傷を作り、そこからの流血で全身を朱に染めていました。

シチロージもキュウゾウもすでに限界であり、互いにこの一手と刀と槍を繰り出しました。しかし互いの体に刃が刺さる前にカンベエが投げた燭台によって妨げられました。そしてキュウゾウとシチロージは、緊張の糸が切れて同時に倒れました。

 

カンベエが目覚めてから、建物を覆っていた荊は 1 本、 1 本と枯れていき、今では部屋の中に太陽の光が入り込むようになっていました。シチロージは明るい部屋の中で見るカンベエにうっとりとしがならも、名残りを惜しんで暇乞いをしました。というのも、今後のカンベエの暮らしのためです。

カンベエは王国を継ぐことも、己が名乗り出て王家の諍いの元になることも望んでいませんでした。しかし、カンベエの目覚めと共に館を隠してくれていた荊はなくなってしまい、うっそうと茂っていた森も開けて明るくなったため、やがては屋敷を見つけられてしまうでしょう。また屋敷は暮らしていくのに不便でした。そのため、シチロージにカンベエのために王都内に屋敷を用意するつもりでした。

カンベエはキュウゾウと互角の腕を持つシすっかりチロージを気に入りました。己を目覚めさせるためという嘘八百を信じきっていたため、無茶をされたことにも、もう怒りませんでした。その横でキュウゾウは歯噛みして悔しがりました。しかしキュウゾウもシチロージの腕は認めないわけにはいきません。さらにカンベエが面食いでシチロージの顔を気に入っていることもわかり、こうなると事態を受け入れるしかありませんでした。

 

 

シチロージは王都に戻りました。

王国の侍であるシチロージですが、本来なら勝手に城を抜け出したのは咎められるところです。しかし、その理由はすでに噂が広がって承知されていましたし、侍の腕と下半身のだらしなさが比例していることも、日頃の行いの悪さも周囲に承知されていることもあって、どうせ隣町の売春宿にでも転がり込んでいたのだろうと思われて処分はありませんでした。

シチロージはカンベエのことを誰にも話しませんでしたが、身分を超えて付き合いのある王子ゴロベエにだけは事情を話しておきました。

 

ゴロベエとシチロージの二人を憎み、邪魔に思っていた王妃は、庭の片隅で親しくゴロベエとシチロージが話しているのを塔の上から見つけて冷たく眺めました。

王妃は王国を乗っ取る野心を持っていました。そのため腕のよい侍を求めて、シチロージに誘いをかけたのですが、シチロージは乗ってきませんでした。

また王妃は後妻のためゴロベエとは血のつながりがありません。そのため王妃はゴロベエを誘惑しようとしましたが、態度こそ丁寧でしたが、ゴロベエも王妃に見向きもしません。

自分の美貌が効かない二人に対して王妃は内心憎々しく思っていました。

その二人が近頃、城を抜け出すことを王妃は知っており、ゴロベエが身分不相応な恋人を持ったと考えていました。そしてそれを利用してなんとかゴロベエとそしてシチロージを城から追い出すことができないかと考えていました。

 

そんな状態でシチロージがカンベエに通うようになって 1 年が過ぎた頃です。王国と隣国との間で戦が起こり、王様はその戦で命を落としてしまいました。戦中、ゴロベエが王国を継ぐことになり、仕方なく王国の摂政を王太后に預けてゴロベエとシチロージは出陣しました。

ゴロベエとシチロージが出陣すると、王太后はゴロベエと腹違いの幼い王子や姫たちを森の中の別荘に追いやって、料理長に命令しました。

「明日の夕食には一番上の姫を食べさせておくれ」

恐ろしいことに王太后は幼い命が自分の美貌と若さを保ってくれると信じて人喰いをしていたのです。

料理長のヘイハチは震えあがりました。王太后に逆らえずに別荘に向かいましたが、幼い王子や姫を手にかけることはとてもできません。

そのとき、別荘の前でうろうろしていたヘイハチの肩をたたく者がいました。ヘイハチは跳びあがってびっくりしましたが、相手がずいぶん立派な侍達であるため、思わず見惚れてしまいました。

侍達はカンベエとキュウゾウと名乗ると、ヘイハチが悩んでいる事情を尋ねました。初対面だというのに、ヘイハチはあれこれと詳しく事情を話してしまいました。

すると、カンベエと名乗る侍が知恵を授けてくれました。

「姫の代わりに子羊の肉を与えるがよい。子羊の肉は柔らかいため、王太后は子供だと思うだろう。姫と王子たちは儂たちが森の奥の屋敷で預かっておこう」

カンベエに言われた通りヘイハチが子羊の肉を持っていくと、「おお、こんなに美味い肉は食べたことがない!」と、王太后は喜びました。その後もヘイハチは王太后が姫や王子を望むたびに子羊の肉を持っていき、カンベエの元に姫と王子を預けに行きました。

 

しかし、ある夜のこと、王太后が人肉を求めて城の中庭や裏庭をうろついている途中、厨房の灯りを認めました。ヘイハチが料理の下ごしらえをしているのだろうと王太后が中を覗くと、ヘイハチが羊を前に腕を組んで考え込んでいました。

「王子はもう 14 歳になっているから、子羊ではなく大人の羊を使った方がよいかしら。同じくらいの固さの肉を用意するのが大変だ」

 

王太后は王子や姫が生きていることに怒り狂って恐ろしい声で城中の者たちに命じていました。

「中庭の真ん中に大桶を持ってきて、その中をヒキガエルと毒蛇、大小の蛇で一杯にするのじゃ。そこにヘイハチを投げ込んでやれ!」

ヘイハチは捕えられて中庭に引き出されました。王太后の命令で、首斬り役人が彼らを桶の中に投げ込もうとします。

そのとき、カンベエとキュウゾウが中庭に駆け込んできて、首切り役人のほか、兵士たちすべてを倒してしまいました。いきなり現れたカンベエとキュウゾウのあまりの強さに兵士たちは遠回りに事態を見守るしかありません。

またこんなに早く戻るとは予想もしていなかったゴロベエとシチロージが、馬で中庭に駆け込んできました。

「この恐ろしい光景は、いったいどうしたことだ!」

みんな静まり返って、誰もゴロベエに説明しようとはしません。すると、事の成り行きに逆上した王太后が、自ら桶の中に身を躍らせたのです。

王太后は毒虫どもに噛み尽くされ、死んでしまいました。

 

ゴロベエは非道な行いとしたとはいえ、母親だった王太后の死を悲しみました。一方でゴロベエは弟や妹たちの無事と、カンベエとキュウゾウという侍を得たことを喜びました。

王国は稀代の侍達によりかってないほど繁栄しましたが、意中の恋人のためにゴロベエは生涯妻を迎えず、王位を弟に譲り没しました。

 

終わり

 

ドイツ『グリム童話』の『荊姫』と フランス『ペロー童話集』の『 眠れる森の美女 』を併せてごっちゃにしました。
もちろん、都合良くいろいろ変更しております。
相変わらず、カンベエが何ですが、ま、ウチのカンベエは常にこんな感じです。
カツシロウは・・・・
ま、いいや。とにかく前々からやりたかったことなのですっきり。

 

 

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