サムライ7 島田カンベエ、 ドリフターズ 信長・豊久・与一 ファンサイト

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黄泉路へと誘う時鳥鳴く夜の善き復寝

どうも話がいつも長くなってしまうので、数千字程度の短い話を書いてみようという試作。
やまなし、おちなし、いみなしの正しいやおい話です。
いい歳したおっさん同士がべたべたしています。
ウチのシチカンではデフォルトといえますが。
それでもよろしければどぞ。

 

ふいにカンベエは目を覚ました。

これはもう習い性というもので、すばやく周囲の様子を探る。刀は常に布団の端に置いてあり、それを意識しながら辺りを探った。

寝入ってからそう時は経っていないとカンベエの感覚は告げていた。

風のない夜で、辺りは静まり返っている。

周囲に気を放ったが、侍の超感覚に触れるものはなく、かわりに人の息を聞き咎めた。

深く寝入っているらしい安らかな呼吸。

その穏やかさにカンベエは張っていた気を散らした。気配に敏い男が異変にあって眠りこけているわけはない。すると単に目が覚めたというだけのようでカンベエは拍子抜けした。

しかし、あまりにはっきりと目覚めたのが不思議で、カンベエは薄闇の中、その理由を探すように部屋を見回した。

着物が無造作にかけられた衣桁に文机、隅の囲炉裏に、天井・・・。

やはり変わったことは何もなく、目覚めた理由がないことにカンベエはなんとはなしにがっかりした。

空が白ばむまでにまだ一刻以上はあるであろう、闇の色が濃い時間。二度寝をするしかないが、すっかり目が覚めてしまっているため、すぐに眠れそうもない。眠れないからといって火をおこすのも億劫である。まとまった眠りを得られなかった分は明日に響くだろうと思うと面白くなかった。

木々のざわめきも虫の声もない、珍しいといってよい静けさである。

 

 

その静けさに自然と息を顰めていたカンベエは、軋むような、何かが割れるような音に一瞬、体を緊張させた。そのまま息を顰めていると、しばらくしてまた乾いた音がした。家鳴りだった。

家鳴りは気温や湿度等の変動によって家の材木が膨張、または収縮などして起こる現象で、日中も鳴っているのだが、微かな音のため気が付かない。しかし静まり返ったこのような夜にはよく聞こえる。

家鳴りは地域によって鬼の仕業だとか、妖怪の仕業だとかいうところがあるが、話に共通しているのは時代も信憑性もまったくあやふやで、しかし妖怪や鬼の表現ばかりは詳しいということである。それは子供たちを早々に布団に入れるために都合よく、その手の話は大抵が口伝であることから、大人たちが改変したものであることが考えられる。

すでに家鳴りの正体を知っているカンベエが恐れるはずはないが、静寂の中で低く、または高く鳴る屋鳴りには不可思議な響きがあって、つい息を顰め、耳を澄ませた。

一際高い音が鳴り、思わずカンベエは体を起こしかけた。

しかし、「ん~~っ」と唸りながら覆いかぶさってきた体に阻まれる。寝返りをうったシチロージがカンベエの腰の腰を抱くようにして腕を回してきたのだった。

その拍子にシチロージの右肩から夜着がずれ落ち、カンベエは夜着を引き上げてシチロージの体にかけた。冬の訪れを聞く昨今、日が落ちると急激に冷え込むようになり、その寒さに古傷が疼きだす。左腕を肘上で切断して機械の腕をつけているシチロージはなおさらで冷えは禁物だった。

火の気のない庵の中は、ずいぶんと冷え込んでいてシチロージの夜着をなおしたカンベエも動物が巣穴に逃げ戻るようにして布団の中に戻った。

シチロージを引き離そうとしたカンベエだったが、深く寝入っているせいか、シチロージの体温は高く、温かい。その温かさにこの体勢を許そうとしたカンベエは、そこであることに気づいて眉を寄せた。

布団は離して並べていたはずである。シチロージはそんなにも転がってきたのかと見れば、ふたつの布団はぴたりとつけられていた。

「・・・・・・・・・」

 

 

肌の温かさに惹かれて、掴まれた腕を振り払うことなく、シチロージを深く迎え入れたのは寝入る前のこと。カンベエの体にはその感触がまだ色濃く残っている。始末をした後、心地のよい疲れにあっという間に眠りに落ちてしまったから、その後の仕業に違いない。

いそいそと布団を寄せるシチロージを想像することは易く、カンベエは小さく嘆息した。

シチロージとの出逢いは 十年以上さかのぼる。 大戦時、カンベエの中隊に補充兵としてやってきたのがシチロージだった。シチロージはあらゆる武具を使いこなしたが、中でも槍を得意として、さらに斬艦刀の操縦経験があった。

斬艦刀は、人の十数倍の身の丈を誇る機械の侍、雷電が持つ刀に推進装置を付けたものである。その頃、宙では斬艦刀を生身の侍を輸送に使うだけでなく、攻撃にも使用する戦法が編み出され、斬艦刀と侍が一体となった攻撃は、戦艦墜としすら可能とした。ただしそれには、斬艦刀の高度な操縦技術と超振動を使う類まれな侍が必要であり、何よりも斬艦刀の操縦士と侍が一体となることが求められたため誰もができる技ではなかった。

斬艦刀を扱ったことがあるとなれば、無条件に斬艦刀の訓練に参加させられる。シチロージもまた訓練を受けさせられたが、そこで優れた力を示したことで本格的に斬艦刀の操縦者となり、やがて部隊の中でも指折りの斬艦刀乗りとなって、カンベエを乗せるようになった。

カンベエとシチロージはまるで歯車がかみ合うようにして通じ、二人で墜とした戦艦の数は十を超える。

肌を合わせるようになったのは、シチロージがカンベエの専属となってからすぐの頃だった。

閉鎖空間の上、環境の厳しい宙では、女はもちろん、幼年の者すらおらず、そのため侍同士が情を交わすことは珍しくない。中には来世を誓うほどに深く結びつく者すらあった。

カンベエとシチロージが肌を合わせるようにもなったきっかけは、酒の上での事故的のようなものだったが、そのような宙の侍の性質が後押しとしてあったには違いない。

だが、肌を合わせてみると、あまりにしっくりきたために、今まで気が合えば誘われるままに体を開いていたカンベエはもとより、男との経験はなく、女手練れといわれるほどであったシチロージにはかなり戸惑うことだったようである。

その戸惑いの時間が過ぎると、カンベエとシチロージは溺れるといった表現が適当なほどに狂おしく求め合い、心身を確かめ合う度に繋がりを深めていき、やがて自他ともに認める一体不離と間柄となった。

 

 

しかし、終戦間際の戦で、二人は離れ離れになってしまった。

捕らえられた北軍の侍達の中にシチロージの姿はなく、カンベエ自身、命を拾ったことが奇跡といえる状況だったため、カンベエは長くシチロージはあの戦で命を落としたものと思っていたのである。それが 終戦から九年目、ふとしたことでシチロージが虹雅峡で生きていることを知った。

驚きも喜び大きかったが、カンベエはシチロージに会おうとはしなかった。

カンベエにシチロージとの再会を望ませなかったのは、世の中の移り変わりの激しさである。

商人の手によって大戦が終結したことによって、世は商人たちのものになった。

今までの価値観や考え方がひっくりかえされ、誰もが戸惑った。それでも町人や農民たちが次第に慣れていくのに対して、商人と地位が逆転して、今までの役割を取って代わられたばかりか、不要のものとまでなった侍は、時代が移り変わる波に翻弄されたといっていい。

姿美しく、高潔で知られた侍が落ちぶれて見る影もない姿となり、小心で知られていた侍が町人となって小金を持ち、金貸しとなって生活苦に喘ぐ侍たちに金を貸し、高慢横柄な態度で苛める、カンベエはそうした変節をいくつも見てきた。

シチロージは虹雅峡の色里で評判の店の女将といい仲であるという。

シチロージが時代の移り変わりに無縁であったとはずはない。器用な男であるし、侍をやめて温かな家庭を築くこともできよう、侍以外になることができない、それ以前に侍以外になろうとは思われない己に付き合わせることもないとカンベエは思った。

一目、元気で暮らしている姿を確かめようかと思ったのは、たまたま虹雅峡の近くを訪ねたためである。そうでなければ、シチロージの様子を確かめることを考えなかっただろう。

 

 

だが、何の仕業か。

虹雅峡でカンベエはカンナ村の農民たちと出会い、その農民たちに雇われて野伏せりと戦をすることになった。カンナ村を救うには、最低でも七人の侍が必要であり、虹雅峡の差配の息子ウキョウに追われ、シチロージを求めざるを得ない状況となり、 再会した。

カンベエには十年ぶり、救命艇で燃え堕ちる三の丸戦艦から脱出し、五年の間、救命艇で眠り続けていたというシチロージにとっては五年ぶりの再会である。

それだけの年月、離れていたことが嘘のように、カンベエとシチロージは水も漏らさぬ息の合い方で、ウキョウの手を逃れて虹雅峡を脱出し、野伏せりを退け、カンナ村を救った。カンナ村の女たちが都に連れ去られたと知り、都とも戦をすることになってしまったが、カンベエはその間中、生き残ることができたなら、シチロージを虹雅峡に返すつもりでいた。シチロージ求めに応じても、戦の間だけのことと考えていたのだった。

しかし、シチロージは戦後もカンベエと共に侍であることを望み、紆余曲折の末、それこそ険悪一歩手前の諍いなどもあって現在に至っている。

そしてカンベエは、心の片隅で疚しさを覚えつつもシチロージが傍らにいることにすっかり慣れてしまっているのだった。

十年は長く、何も昔と変わらぬと思うところもあれば、昔とは異なる部分もあり、カンベエもシチロージもそれを楽しむきらいがある。例えば、昔は 何かに急き立てられるようにして肌を合わせ、一気に燃え立ち、燃え尽きるような交情だったが、今は小さな火種を時間をかけてゆっくり大きくしていく風である。そして体の隅々まで熱を伝えながら、長く燃え続ける。その分、余韻も長く続き、ときにカンベエはその余韻にたゆたううちに寝入ってしまうこともあった。

カンベエが先日から滞在している庵は式杜人が用意してくれたもので、しばらく暮らすのに不自由がないよう家具や台所が整えられていた。布団も綿入りの敷物に夜着が用意されていたが、あいにく床は板敷きのため、今日のように冷える日には多少肌寒くもない。

いい歳をした男二人がひとつ布団で共寝はもちろん、布団を並べるなど戯れに過ぎるが、シチロージは温かく、その温かさは安らかな眠りに通じてとも思われる。

シチロージの寝息はどこまでも穏やかだった。戦場では酷薄、戦場以外ではいたずらっぽく光ることがある淡い水色の瞳は、今は閉じられ、それだけでずいぶんと印象が変わる。歳より若く見られる男だが、薄闇の中、整った鼻筋が濃い陰影を作っている今は年相応に見えた。

「・・・・・・・・・」

しばらくその顔を眺めていたカンベエは、寝返りをうってシチロージに体を寄せた。

「ん~~っ・・・・・・」

それを感じとったのか、シチロージはカンベエの匂いを求めるように胸に鼻先を埋めてきた。二人の対格差からカンベエがシチロージを抱き込む形となる。カンベエは夜着を引き寄せ、さらに深くシチロージを抱き込んだ。

やがて布団の中は心地よい温かさとなり、眠気を誘う。

カンベエはうとうとしながら鳥が鳴く声を聞いた。

 

 

夜行性の鳥ならいざ知らず、空が白ばむまで一時以上はあるであろうに、こんな時間に鳥が鳴くものかとカンベエは霞がかる意識の中で思った。しかし再び聞いた鳥の鳴き声に、カンベエはぼんやりとそれが時鳥のものだとわかった。

時鳥は早朝からよく鳴く。

しかし、夜中に目を覚ましてから半刻も経っていないはず・・・とカンベエは夢うつつの中で思う。その鳴き声はまるでカンベエを呼ぶようだった。

誘われるような響きにカンベエはふと、時鳥は不如帰ともいい、あの世とこの世を行き来する、死者からの声を伝える 鳥だということも思い出した。

深い眠りは安らかな死にも似ている。

ましてや、戦場で幾百、幾千の命を奪ってきたカンベエには死者から呼ばれる理由が十二分にあった。

--- このように温かく、心地のよい死であれば、悪くはない・・・

そう思い、眠りに落ちようとしたカンベエだったが、まるでカンベエの考えを感じ取ったように強く腰を抱かれた。

息苦しくなるほどの力強さにカンベエは苦笑する。ここでもシチロージの腕はカンベエを捕らえて離さない。

シチロージを抱き返そうとしたときには、カンベエはすでに眠りに囚われいた。

 

終わり

 

 

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